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kick 99・11・22 全日本キックボクシング連盟 "WAVE-XIII" 後楽園ホール

第5試合 全日本キック対世界 5vs5マッチ 次鋒戦 71kg契約/5回戦
全日本ミドル級1位
新田明臣
S.V.G.
3R 2分21秒
KO
WMTF世界スーパー・ウェルター級王者
キット・コープ
アイルランド/アメリカ・トディージム
×
※対戦予定であった金勲(キム・フン)が欠場のためカード変更。

“脱出”


 の試合も第1試合同様、当初新田の相手として予定されていた金勲が負傷欠場し、急遽マッチメークを組み直して行われた。
 キット・コープは年齢22歳、キャリアは15戦15勝無敗。若く、そして負けたことのない選手特有のムードというのが伝わってくる。要するに負けることの怖さを知らない、自分が負けるというシチュエーションを想像すらしない傲慢と隣り合わせのケレン味のなさが顕れているのだ。
 一方新田は今年白星がない。所属ジムの連盟復帰によりふたたび全日本のリングに上がることとなったが、その復帰試合で判定負け。「この5人の中で、僕の名前を覚えてもらえるようにしたい」という記者会見時の発言にはそうした自分の立場への危機感が伝わってくる。

 
Round 1
 コープは確かに自信を持つだけのものを持っている。ストレート、フック、アッパーと多彩なパンチ・コンビネーションを繰り出し、距離が詰まると膝、肘を飛ばし、とにかく攻撃の幅が多彩だ。
 しかも相手の制空権に踏み込んでいく危険にはまったく躊躇せず、相手を倒すことのみに集中しているため、一発一発が打ち抜くような破壊力を秘めている。
 新田は両腕で頭部をがっちりガードし冷静に動いているが、コープの畏れを知らない攻勢はそのガードすらこじ開けて次々と新田の顔面にヒットする。「相手ですか...?(強いかどうかは)判んないですね、いつもリングに上がると判らなくなっちゃうんで。いつもそうなんです、貰っちゃうんですよ。作戦ちゃんと立ててるんですけど、やられないと目覚めないっていう...。練習で出来ることがいつも試合で出来ないんで...。」


Round 2
 「サウスポーに構えるとミドル蹴りやすいのと、(相手に)やられないんで、距離取れるんで」、右脚を前に逆構えに構えた新田。ところが戦闘距離が2Rよりやや遠間になった途端、またまたコープの引き出しから新たな技が飛び出す。まるでまっすぐ針で刺すような鋭い前蹴りが両腕ガードのちょうどド真ん中を突き破って新田の顔面を襲いかかる。  顔面への前蹴りはまっすぐ押し込むような軌跡を描くため、回し蹴りに比べると脳を揺らす効果が薄く、必ずしもKOに繋がる率は高くないと言われる。しかしこれだけスピードがあって足先が伸びてくると、踏み込んだところにカウンターで入れば充分相手を倒すだけの力を持っている危険な技だ。
 新田の苦戦が続くかと思われたが、ラウンド後半に入ってコープが技術的な大穴を露呈する。パンチの雨霰をかいくぐってローを蹴りにいった新田に対し、コープのディフェンスが非常に未熟なのだ。
 ローに対してムエタイ選手が常用し、ディフェンスの基本ともいわれる膝ブロックは、膝関節と相手の脛がぶつかって双方にダメージをもたらす危険があるため、特に欧米の選手には嫌う者も少なくない。しかしそれならヒットの瞬間太股の角度を変えて衝撃を逃がすなど、それなりの代替技術を持っていなければならないが、コープは新田のローに対して下半身を引いて離れるか、脚を逃がそうとして逆に膝裏の鍛えることの出来ない腱の部分を相手のローに晒すという、もっともやってはいけないディフェンス方法を再三繰り返す。そうしてコープの白く細い脚に、真っ赤な痣が次々と刻印されていった。


Round 3
 新田がコープを中心に円を描くように左右への動きを見せ始めた。ハッキリとローを中心に組み立てていこうという意思表示だ。一方コープの方はローを怖れてR2までのようにガンガン前に出ていくことが出来ない。形勢逆転。既に多彩なコープの技も新田には見えるようになったようで、パンチの連打はブロックの上、あの顔面への前蹴りもスリッピングで空を切らせる。
 そして来るべくして時は来た。ロープ際に追い込まれたコープが新田のローで苦痛に顔を歪める。新田はローのラッシュ、ラッシュ。最後は左のローで、体ごと持って行かれるような状態でコープがダウン。
 立ち上がりはしたものの、既にコープに闘う体力は残されていない。勢いをつけて踏み込んできた新田に対し、おそらくローキックの追い打ちを予測していたのだろう、ガードがら空きのまま右ストレートを振り回して対抗しようとした。ところがここで新田は標的を一閃、右のハイキックに切り換えていた。タイミングはドンぴしゃ!コープの身体が崩れ落ちる。見事な逆転KOの瞬間だった。

 


 
 結果的には、勢いで出てくる相手をまずは凌いだ上で新田が料理した、といった展開になった。キックボクシングにおけるローの重要性というのはタイや日本では最早語るまでもない常識であるが、欧米系の選手には今でも時折下半身の強化に無頓着な選手が見受けられる。ファイトスタイルを見る限りキット・コープもその一人と言わざるを得ないだろう。
 しかし技術的な穴がハッキリ見えているということは、それを克服する可能性も大きいと考えることが出来る。1Rから2Rで見せたコープの攻撃力は非常に優れていただけに、弱点の克服に成功すれば一気にトップクラスの選手層に飛び込んでくる可能性を充分に持っている。

 「今日負けたら辞めようと思ってたんで、、、良かったです。」一年間勝ち星に恵まれなかった新田の口から出たのは、終始相手ではなく自分自身のファイトやスタイルに向けられた言葉だった。それだけ心理的にはかなり苦しいところまで追い込まれていたのだろう。長いトンネルを抜け出たところで新しいミレニアムを迎えられることは、苦しんできた新田にとって大きな僥倖となった。

(高田 敏洋)


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レポート:高田敏洋 カメラ:薮本直美 バックステージ:石渡知子

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