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(レポ&写真) [全日本キック] 4.26 後楽園:石川、肘で元気下す

全日本キックボクシング連盟 "Spring Storm"
2008年4月26日(土) 東京・後楽園ホール

  レポート:井原芳徳  写真:ひっとまん大場。  【→カード紹介記事】 【→掲示板スレッド】


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第8試合 59kg契約 3分5R
○石川直生(青春塾/全日本スーパーフェザー級王者)
×山本元気(DTS GYM/全日本スーパーフェザー級1位)
3R 2'37" TKO (ドクターストップ:右肘打ちによる頭部のカット)

 全日本キックのフェザー級トップ戦線は、真弘&元気のW山本の直後を、石川直生、前田尚紀の二人が追いかけるという構図がここ数年続いていた。元気は06年1月に全日本フェザー級王座を真弘から奪われ、ここ2年は勝ち星から遠ざかったものの、一撃必殺の右の拳を持つ彼の強さへの幻想は、決してかすむことは無かった。たとえ石川がスーパーフェザー級のタイトルを穫っても、元気と同じように強豪タイ人のワンロップと引き分けても、若手時代に石川に2連勝している元気が格上という評価は崩れず、それが石川の長年のコンプレックスとなっていた。

 石川は今回の元気戦が決まってから「この試合は自分の言葉で少しも汚(けが)したくない」と話し、元気戦についての考え等を聞かれても、どこか客観的な表現を押し通していた。それは裏を返せば、口でどうこう言おうと“結果が全て”というシビアな認識の現れだ。前日計量で石川は「試合がこんなに怖いのは久しぶり」「あと試合迄24時間、まだ自分を錬ることができる」とも話していたが、その徹底したシビアさが、最終的に元気の幻想を凌駕する力となった。

 試合はフィニッシュ直前まで、元気が右ローを当てプレッシャーをかけつつ、得意の右フックを当てて石川をぐらつかせ、優位に試合を運んでいたが、それはあくまでパッと見の範囲だった。石川は右のパンチでグラッとくるのも「全部あらかじめイメージできてました」といい、「調子がいい時(の元気)はローを連打してくるけど、単発で終わっているのがわかりました」と、全て見切っていたというのだ。敗れた元気も「体が重くて蹴りも出ないしチャンスにも行けない」「単発で終わって理詰めでいけなかった」と石川のコメントを裏付けるような発言をしている。
 そして石川の一発逆転にも見えた肘打ちも、完全に石川の計算通りだった。石川の長い足から繰り出される前蹴りをもらった元気が、パンチで突進したのに合わせての右肘。まるで水の溜まったビニール袋の端を切った時のように元気の頭部から大量の血が噴き出し、直後のドクターチェックでストップがかかった。

 試合後、マイクを握った石川は「チャンピオンになって、2年6ヶ月ぐらい経って、初めて胸を張れる最高の夜です。次は野良犬の夜に上がります」と話し、6月22日の小林聡GMプロデュース興行参戦を志願した。小林GMもこの試合の勝者をプロデュース興行に上げることを明言していたことから、石川の出場はほぼ確実だ。
 だが、敗れたものの、元気の再起の舞台に、この野良犬興行はどうだろう? 元気は試合後のインタビューで、「年齢も考えると辞めてもいいのかな」と引退を示唆した。それを事前に察した石川はリングを降りようとした元気に「辞めないでくれ」と話しかけたという。そんな石川は、リング上で勝利者賞を小林GMから受け取った際、「まだまだこんなもんじゃねえだろ?」と言われたという。その言葉は、石川を通じて元気にも届くべきメッセージではないだろうか?
 石川は4月18日で29歳になり、元気は8月で31歳になる。年齢では元気が上だ。しかしデビューは石川が1年早く、石川は38戦25勝(12KO)10敗3分、元気は28戦15勝(10KO)8敗5分と、試合数では石川が上だ。ここ数年の石川は、強豪タイ人との試合だけでなく、格下と見られた日本人相手にも恥をかきつつ、とことん自分をシビアに見つめた結果、心技体ともに鍛えられ、元気超えという悲願を達成した。逆に元気はタイ人との試合が多く、ここ10戦で日本人と戦ったのは今回の石川戦と王座を失った2年前の真弘戦だけ。元気は「俺はベルトは無いけど、日本人で一番強いと思ってた」とも話したが、自他ともに幻想が消えた今こそ、逆に思いっきり恥をかいて成長するチャンスではないだろうか? 6月の復帰は仮に無理だとしても、現役時代、徹底的に恥をかき、磨かれて来た小林GMなら、どういった恥を元気にかかせ、再生させるのだろう?

◆石川「途中、右のパンチをもらってグラッときたのも、少し位自分が優勢でも、あいつの顔が変わらないことも全部あらかじめイメージできてました。負けたら『チャンピオンのくせに』とか言われるのも全部覚悟して試合に臨んでいました。大げさかもしれないけど、第二の人生に持って行けるような勝利でした。ずっと片思いしていた相手にやっと振り向いてもらえて、ものにした感じです。実際勝ててうれしいですけど、手に入ってみると『こんなもんかぁ』っていう気持ちもありますね。
(最後の肘打ちについて)今日は前蹴りと左ミドルと掴む事だけにこだわってやりました。前蹴りで元気が嫌がっているのがわかったし、そうなると向こうは前に出るだろうから、そこで肘を行こうと思っていました。狙ったわけじゃなく、僕の肘はもう勝手に反応して出るようになってますね。元気は試合自体も日本人との試合も久々。調子がいい時はローを連打してくるけど、単発で終わっているのがわかりました。
(試合後、元気に何を話しかけた?)『辞めないでくれ』って。あいつは日本タイトルに興味が無い人間で、性格と年齢を考えればやめちゃう可能性があるけど、まだあいつと一緒に戦いたい。戦いたいってのは二つの意味があるのはわかりますよね?
(七番勝負の4戦目について)マスコミの皆さんご存知の通り、全日本キックは僕をイジることに関しては天才的なんで(笑)。まだ明確な話は聞いていません」

◆元気「最悪。体が動かなかった。悔しい。(ブランクの影響?)ですかね?体が重くて蹴りも出ないしチャンスにも行けない。練習とは違った。攻め疲れてガードが下がったところで(肘を)もらっちゃった。パンチを当ててたのは俺のほうだけど、一番いい距離で肘を振って来た。終わってから周りに言われたけど、攻撃が入って油断していた。単発で終わって理詰めでいけなかった。(切られた瞬間はわかった?)わかりました。『またか…』って。
(すぐ試合がしたい?)そうですね…。骨折した顎も大丈夫だし、練習もいっぱいしたし。ただ何だろな…、ずっと練習して、強いタイ人ともやったんで、年齢も考えると辞めてもいいのかな、って。ダラダラすんのは嫌なんで。
(石川はリング上で『やめないでくれ』と話しかけたそうだが?)あの人は勝ったらテンション上がるんで(苦笑)。これから何を目標にやればいいのか。俺はベルトは無いけど、日本人で一番強いと思ってた。勝った方が強いってことですから。(もう一回石川とやれば勝てる?)それは俺の口からは言えない。(石川の強さは?)たぶん、あきらめなかったことだと思う。(宮田興行部長が6月のM-1でゲーオに石川をぶつける考えだが?)石川君には頑張ってほしい。(元気選手がゲーオと戦う気は?)俺はゲーオに2回負けてるので言う資格は無いですよ」

第7試合 スーパーバンタム級 3分5R
○藤原あらし(S.V.G./全日本バンタム級王者)
×ロームラン・オー・ベンジャマー(タイ/バンタム級・元ルンピニーフライ級7位・元タイ国プロムエタイ協会フライ級4位)
2R 0'42" KO (左ローキック)

 ロームランはノーガードで構えつつ、前蹴りや左ハイを当てるが、あらしは落ち着いて左右のローをロームランの前足に集めると、ロームランの表情は1Rから変わるように。2R、あらしは左ローを効かせつつ、右ボディと左ローの連打であっさりとタイの古豪を料理した。
 マイクを持ったあらしは、「こんにちは!今日は手短に行きますよ。周りはK-1、K-1騒いでるけど、ムエタイ面白いでしょ?キックボクシング最高でしょ?よろしく!」と明るくアピールした。今大会でもK-1ルールの試合が2試合組まれ、フェザー級王者の山本真弘もK-1参戦に意欲を示しているが、あらしはこれまでどおりのムエタイ&キック路線を貫く事を改めて宣言した。

 大会2日後には、さっそくあらしの次戦が6月8日のM-1ムエタイチャレンジとなることが決定した。相手は未定だが、WBCムエタイのバンタム級世界ランカーとなる模様。同大会では既に前田尚紀、湟川満正、上杉武惟(武信改め)がWSR軍団と戦うことが決まっており、全日本キックのファンにとっては今回の後楽園大会と同じ位見逃せない大会となる。
 K-1にもM-1にも戦いの渦を広げる全日本キック。今年後半にかけ、その渦の中心となる全日本のリングにどういった嵐が巻き起こるのか非常に楽しみだ。

◆あらし「サウスポー同士なんで右ミドルを当てるつもりだったけど、たまたま左ミドルが入り、こういう不完全な展開になりました。もっと練習していた技を色々出して、パンチとロー中心の風潮を崩したかったんですけどね。
(試合後のマイクアピールについて)世の中ではK-1、K-1と言われているけど、『やっぱりK-1じゃないだろう。ムエタイの方が面白いだろう』ということを言いたかった。最近の全日本のジャッジは首相撲や肘で切り裂いたりとかを(ポイントに)取ってくれないので、もっと色んな技術を今日は見せたかった。
(K-1に無いムエタイの魅力とは?)肘と膝を使って、攻撃ばっかりじゃなく守りも一体化していて、それぞれのタイミングの良さが要求されるところ。3分3Rだとどうしてもパンチ中心になっちゃうけど、3分5Rだともっと違った技や戦略が見せられる。実際サムゴーが最初に全日本に上がった頃も、パンチじゃなく、左ミドルだけであそこまでお客さんを沸かせることができたんですから。
(今大会から掲げた『ムエタイ王座奪り路線』について)大会のパンフレットを見たら書いてあったのでビックリしました(苦笑)。上が何路線と決めてくれてもいいけど、それよりも自分の戦いを表現することが大事だと思っています」

第6試合 70kg契約 3分5R
×望月竜介(U.W.F.スネークピットジャパン/70's全日本キック中量級最強決定トーナメント王者・全日本スーパーウェルター級1位)
○江口真吾(AJジム/全日本ミドル級1位)
5R 0'16" TKO (ドクターストップ:左肘打ちによる左眉のカット)

 両者とも右ローを打ちつつ、望月は左右のストレート、右アッパー、左ミドル、江口は左ジャブ、左前蹴り、左膝蹴り等を当て、3Rまで均衡状態が続く。下馬評では70'sトーナメント優勝者の望月が上だったが、ミドル級から体重を落として来た江口のリーチの長さも影響してか、チャンスの糸口をつかめずにいるように見える。そして4R、望月の右アッパーに合わせ、江口がヌンサヤーム・トレーナー直伝の右肘を当てダウンを奪うことに成功する。
 腰から崩れた望月だが、立ち上がると右ストレートで反撃し、江口の左まぶたをカット。どちらに勝利が転んでもおかしくないスリリングな展開となったが、5Rの打ち合いで江口が左の縦肘で望月の左眉の上を縦に切り裂き、殊勲の白星を奪うことに成功した。
 「リングに上がるまで負けることしか思わなかった」という江口は、勝利の直後「ホラ見たかオラ!」と雄叫びをあげた。06年1月のゲンナロン戦まで負けが続いていたが、昨年4月の貴之WSR戦で復帰以降は、9月に新鋭の廣野祐(現J-NETスーパーウェルター級王者)を破り、今回は望月も下し3連勝と絶好調だ。しかも望月は江口も試合前に「K-1 MAXで優勝している奴よりも強い」と評したほどの強豪。今後については「スーパーウェルターのベルトは山ちゃん(=山内裕太郎)が持っているので、ミドルとどっちになるかはわからない」と話したが、両方の階級を股にかけてのさらなる活躍が期待できる。

第5試合 K-1ルール 60kg契約 サドンデスマッチ(3分3R+延長1R)
×ソルデティグレ・ヨースケ(U.W.F.スネークピットジャパン)
○上松大輔(チームドラゴン/全日本フェザー級2位)
判定0-3 (和田25-30/朝武25-30/勝本25-30)

 1R、上松が左ミドルと左のテンカオを効かせた後、パンチの打ち合いで右アッパーを当て、元プロボクサーのヨースケからダウンを奪う。2Rにも打ち合いで右フックを当て、左ハイでダウン奪取に成功。ヨースケも右アッパーを返し、上松の左ミドルに耐える等、好印象を残したものの、上松は巻き返しを許さず完勝。バックステージで上松は「K-1の60kgが本当にできるなら、70kgを喰ってやるくらいの勢いでやりたい」と話した。

第4試合 ライト級 サドンデスマッチ
○海戸 淳(S.V.G./2位)
×寺崎直樹(青春塾/6位)
1R 2'56" KO (3ダウン:ボディへの膝蹴り)

 テコンドーがベースの海戸が、右のバックスピンキックを綺麗に寺崎のレバーに叩き込んで動きを止めると、膝の連打、パンチの連打、ボディへの膝で立て続けに3ダウンを奪い完勝。連勝を4に伸ばし、増田博正の返上で空位となった全日本ライト級王座戦線の上位を守った。

第3試合 K-1ルール ヘビー級 サドンデスマッチ
○ベルナール・アッカ(コートジボアール/フリー/95.5kg)
×西脇恵一(チームドラゴン/100kg)
判定2-0 (和田30-29/豊永29-29/梅木30-28)

 アッカは左ジャブや左アッパーを的確に当て、西脇に大量の鼻血を出させる。しかしまだステップがぎこちなく、右ローを1R後半から浴びると、バックステップの時間が長くなる。2R終盤からは西脇が右フックをたびたび当て、3Rのアッカは下がって防戦一方に。西脇の出血が激しく、決定打が無かったこと救われ、判定でアッカに軍配。首の皮一枚つながったものの、K-1で活躍するには課題が山積みの内容だった。


第2試合 フェザー級 3分3R
×遠藤智久(スクランブル渋谷)
○九島 亮(AJジム)
判定0-3 (28-30/28-30/27-30)
※2R右フックで遠藤に1ダウン

第1試合 バンタム級 3分3R
×ハリィ永田(はまっこムエタイジム)
○原岡武志(STRUGGLE)
判定0-3 (26-29/26-29/26-29)
※2R左ハイキック、3Rパンチ連打で永田に各1ダウン

[オープニングファイト]

第3試合 バンタム級 3分3R
○水原浩章(光ジム)
×小野寺紘也(ドラゴンジム)
判定2-0 (29-28/28-28/29-28)

第2試合 58kg契約 3分3R
×石井振一朗(チャモアペット)
○小川雅也(チームドラゴン)
判定0-3 (28-29/28-29/28-30)

第1試合 ウェルター級 3分3R
×押田伸之(はまっこムエタイジム)
○布施一行(ドラゴンジム)
判定0-3 (25-30/25-30/24-30)

Last Update : 04/28 23:43

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