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(レポ&写真) [大道塾] 11.13 空道世界選手権:ロシア勢男女3階級制覇

大道塾 "2005北斗旗 第2回空道世界選手権大会"
2005年11月13日(日) 東京・国立代々木競技場第2体育館

  レポート:高田敏洋  写真:井田英登  【→カード紹介記事】 【→掲示板スレッド】

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■超重量級
優勝  藤松泰通(178cm85kg25歳 7年2段 総本部)
準優勝 五十嵐祐司(181cm88kg33歳 15年2段 三沢)
第3位 平塚洋二郎(178cm85kg23歳 7年2段 九州)
第4位 Larsanov Ibragin(ラルサノフ・イブラジン187cm90kg24歳 2年初段 グルジア)


[決勝] 
×五十嵐祐司
○藤松泰通
本戦引分 延長判定(0-5)


今大会最大の注目は、やはり前回世界王者(重量級)に輝いた藤松の“あの”組み手が、世界クラスの選手に通用するか? に尽きる。

怪我からの復帰以来、古武術的な発想を活用、相手の間合いを外す独特の新スタイルを開発。これまでの“正面突破”スタイルから、180度転換した組み手に賛否両論がわき起こったわけだが、2004年の無差別を制し、国内での“証明”を成されたことになる。今回の世界大会にあたって「体の大きい外国人にも通用するか試したい」という自身のコメントは、見守る我々にとっても共通のテーマであったと言えるだろう。

結果から言えば、藤松は、またもや“あの”組み手で、下馬評が苦しいとされていた超重量級を、ほぼ無傷で勝ち上がってきた。ただ、テーマの核心となる“海外大型選手との正面激突”シーンはほとんど見られなかった。この結果を「藤松流」の成果と見るかは微妙なところ。重量級における“W イワン”に匹敵する強打者が見当たらなかった事、あるいは、最大の難所と見られていたアンドレア・ストッパが、試合中の腕の負傷で棄権するなど“トーナメントの女神の恵み”も加味してみるべきではあろう。

一方「この大会で引退」の決意を持って試合場に望んだ五十嵐は、準決勝で10歳年齢差のある平塚洋二郎との撃ち合いを、5-0の判定で制して決勝に進出。ある意味、今大会での「藤松流」の正念場は、この日本人同士の決勝にあったのかもしれない。

藤松はこの試合でも「藤松流」を貫き通し、捌き中心の組手で五十嵐の攻めを受け流すが、これを主審が消極的と注意する場面も見られた。本戦後半グラウンド状態での寝技攻防に入ると、五十嵐が藤松のサイドについて有利なポジションを得るが藤松は冷静に相手の首をロックして凌ぎきる。両者有効なポイントがなく試合は自動的に延長へ。

延長では藤松の方が変則的な掴みの状態から投げを狙うが、五十嵐は体重を落として踏ん張り不発。しかし残り時間が30秒となったあたりで再度放った藤松の投げが今度は五十嵐を豪快に畳に這わせ、そのままマウントパンチで効果1を奪取。このポイントが利いて判定は0-5で藤松が、前回の重量級につづいて二大会連続で世界の頂点を極めた。

試合後『自分はまだ白帯だと思っているので現状には満足していません。今日ラルサノフ(準決勝)とやってみて、普通にやっていたら負けたかもしれないですが、自分が組み手を変えてみて勝てたので、自信になりました。これまでは日本人とやって来て通用したんですが、今日外人ともやってみて同じような反応をするんで、これは行けるかなと思いました』と自らの組み手の有効性に、自信を強めた感のあるコメントを残した藤松。

同じく中量級を制した岩木も海外選手との正面激突より、技術を駆使した「藤松流」こそが勝因と語り(後述)、今後の“対世界に関する現場の視点”の一致を語ったのが印象的であった。

ただ、日本勢の総監督にあたる東塾長は『今回は通じたが、二回三回と通じる方法ではないと思うので、もう一度第三回(世界大会)やるためには少なくとも海外選手の七割、八割の力を蓄えた上での、“組み手の工夫”というものが必要になってくると思う」と、あくまでパワーに勝る海外選手対策の必要を改めて促している。

“柔よく剛を制す”で海外選手との体力差を埋めて行こうとする選手達と、極真空手をルーツに持つ空道に、あくまで“剛には剛の雄々しさ”の理想を求める東塾長の理想との間には、若干の温度差を生じているのかもしれない。この「理想と現実」のギャップを、選手たちが如何に埋めて行くのか? 四年後に再び巡ってくる世界大会に向けて、新たな課題が提出された。


■重量級
優勝  Reshetniikov Ivan(レシェトニコフ・イワン178cm78kg22歳 3年1級 ロシア・モスクワ)
準優勝 Gorbatyuk Ivan(ゴウバチョク・イワン179cm80.9kg26歳 6年2段 ロシア・モスクワ)
第3位 清水和磨(179cm80.9kg32歳 10年2段 総本部)
第4位 山崎 進(172cm84kg33歳 9年2段 総本部)


[決勝]
×ゴルバチョク・イワン
○レシェトニコフ・イワン
本戦引分 延長一本(腕ひしぎ十字)


大会前東塾長をして「この階級は取って貰わないと困る」と言わしめた日本にとって要の階級であったが、ロシア勢で下馬評の高かった「二人のイワン」は準決勝で日本のエース級二名、山崎進、清水和磨をそれぞれ旗判定、ポイント判定で下して勇躍決勝へと進出。打撃を中心とした両者の技術・スピード・体力は本大会で抜きん出ていた感もあり(優勝したレシェトニコフは最優秀選手賞を受賞)、この決勝対決でも息詰まる打撃戦が期待された。

しかし本戦開始まもなくレシェトニコフが膝蹴りで効果1を奪い予想外に早い決着を見せるかとも思われたが、その後ゴルバチョクも蹴り技を多用して、ボクシング経験から来るパンチ技術に定評あるレシェトニコフと互角に渡り合う。効果1では旗判定になる北斗旗のルールの結果、試合は延長へ。

だが延長に入ってスタミナを消費してくると両者の差がはっきりと現れた。近距離で押し合う展開になるとパワーに勝るレシェトニコフがゴルバチョクを振り回して膝蹴り、ゴルバチョクが転倒するシーンが増える。何度かそうした場面が続いた後、倒れたゴルバチョクにレシェトニコフがマウントを取って連打で効果ポイント、さらにそのまま腕ひしぎ十字を決めて決勝を一本勝ちで決めてみせた。



■軽重量級
優勝  Kerimov Shamhal(ケリモフ・シャンハル176cm73kg22歳 4年初段 ロシア・モスクワ)
準優勝 Sharapov Vasiliy(シャラポフ・ヴァシリー174cm72kg22歳 4年初段 ロシア・モスクワ)
第3位 笹沢一有(175.5cm74.4kg21歳 1.5年1級 早稲田準支部)
第4位 Mustafin Khalil(ムスタフィン・カハイル175cm72kg21歳 4年初段 ウズベキスタン)

■軽重量級決勝
○ケリモフ・シャンハル
×シャラポフ・バシリー
本戦一本(送り襟絞め)


シャンハルは2回戦においてアグレッシブなスタイルで知られる小野亮に本戦一本勝ち、その勢いをかって準決勝ではシャンハルと並んで優勝候補と目されたムスタフィン・カハイルにも勝利して勇躍決勝進出。バシリーは準決勝で日本の若手ホープ笹沢一有を延長4-0の判定で下し、03年ロシア国際大会の決勝カードを世界大会の舞台で再現させた。

試合は若干細身のバシリーをシャンハルがパワーで圧倒し、一気に持っていく展開となった。得意とする崩しからの投げで寝技に持ち込むとそのままマウント。パンチ連打で効果1を奪った後引き続き送り襟絞めに連携する攻撃で一本勝ちの圧勝。バシリーは03年05年のロシア大会同様、本大会でも優勝旗を手にすることが出来なかった。

ただ、この階級での日本人選手の活躍は、結果以上の物があったことをお伝えしておきたい。

二回戦シャンハル-小野戦の一本は、シャンハルの反則ヒールホールドによって小野の脚が破壊されるというアクシデントが発生。再開が危ぶまれたが、憤懣やるかたない表情の小野が「やりますよ!足折られたってやってやる!」と叫び、気迫で再開にこぎ着けたもの。それまで駆使していたステップワークをもがれ、寝技からの腕ひしぎ十字で敗れたとは言え、その気力充溢ぶりは賞賛に価する。シャンハルの反則を作為ありと断定できる状況ではなかったが、結果的には「やり逃げ」になってしまったのは残念だ。

図らずも大会前の質疑でも提示されていた負傷判定の問題が露呈した状況に。こうした危険行為等重大な反則を犯した選手には、例えばサッカーのイエローカード蓄積による出場停止勧告制度のような何らかのペナルティを課しても良いのではないだろうか。

また、三位入賞を成し遂げた、新鋭笹沢一有の活きのいい戦いも(活きが良過ぎてマウント奪取の時に“客席アピール”をやってのけて、逆に減点を食らうというおっちょこちょいぶりも含めて)、今後の空道を背負う逸材登場として特記したい。


■中量級
優勝  岩木秀之(171.5cm68kg34歳 13年3段 新潟支部)
準優勝 青木正樹(169cm90kg32歳 11年初段 浦和支部)
第3位 Statsenko Andrei(スタチェンコ・アンドレイ165cm63kg26歳 ロシア・ウラジオストック)
第4位 Zhiltsov Denis(ジルトソフ・デニス171cm68kg25歳 5年初段)

■中量級決勝
○岩木秀之
×青木正樹
本戦引分 延長判定(5-0)


岩木は地元新潟からやってきたバス2台100人超の応援団の声援に後押しされ、カポエイラから取り入れた変則的なステップワークとトリッキーな蹴り技、そして組んでからは豪快な投げを狙って、伸び伸びとした動きを見せる。しかし青木の方も攻防において岩木に遅れを取っているわけではなく、両者ポイントに繋がるような有効打はないまま本戦から延長へ。

延長終盤になって岩木が投げを決め、そのまま袈裟固めのような形で青木を押さえ込む。ただこれも有効打として効果ポイントが加算されるような攻撃ではなく、結局延長でも両者ポイントはなし。しかし本戦・延長と終始自分のリズムで攻勢をとり続けた岩木の積極性が判定に響き、5-0で勝利を収めた。

注目を集めたのが試合後の岩木の発言。『ご覧の通り、唇も切れていませんし、顔もきれいなままです。ノーダメージで勝つことが出来ました。これが答えだと思います』と若干挑発的な謎掛けで、自らの戦いを振り返る。確かに今大会での彼の戦いは、圧倒的なパワーを有する外国勢に対しこれまでの「正面からぶつかり合う大道塾の組手」とは方向性の異なる「打たせずに打つ」戦法を用いたものであった。

こうした自身の考え方が次の大会、次世代選手達への何らかのヒントになれば、と語った岩木の発想は、超重量級を制した“さばき重視”の「藤松流」スタイルとも一脈を通じる。

果たして彼らの生み出した「柔よく剛を制す」流れが空道変革の潮流へと連なっていくのか、あるいは剛のパワーに飲み込まれる徒花になってしまうのか、今後の大道塾・空道全体の趨勢にも繋がる重要な試みがこの試合には(あるいは本大会全体を通じて)示唆されていたといえよう。


■軽量級
優勝  Kolyan Edgar(コリャン・エドガー160cm64kg19歳 4年初段 アルメニア)
準優勝 Khalilov Anvar(カリロフ・アンヴァー161cm64kg23歳 4年1級 ウズベキスタン)
第3位 渡部和暁(167cm62.9kg26歳 5年初段 東北支部)
第4位 Leonovets Maxim(レオノベツ・マキシム167.9cm62kg22歳 6年初段 ロシア・ウラジオストック)

■軽量級決勝
×カリロフ・アンバー
○コリャン・エドガー
本戦引分 延長引分(2-1) 再延長判定(0-5)


優勝最右翼と目されたシニューチン・デニスが1回戦で渡部和暁に一本負けし、その渡部を準決勝においてパワーで圧倒したアンヴァーが、同じく優勝候補のエドガー(こちらは寺西登、高橋腕を連破)と「激突」、再三に渡って激しい打撃の応酬を繰り広げた。アンヴァーがパンチで押し込めばエドガーは寝技に引き込んで寝技を狙う展開が終始続く。ブン回すような豪快なパンチ攻防の中にあってもスリッピングやカウンターといった高度な技術の応酬で、両者ポイントが奪えず試合は本戦、延長から再延長までもつれ込む。

延長ではややアンヴァーのプレッシャーが上回っていた感もあったが、再延長に入って若干基礎体力の差が現れたか攻勢が逆転、打ち合いにおいてエドガーが力勝ちしている印象が現れ始めた。グラウンドで一瞬エドガーがマウントを奪いかけるシーンもあったが、これは決まらず。しかしこうしたエドガーの攻勢点が評価され、再延長0-5で決着が付いた。


■女子部
優勝  Bikova Irina(ビコワ・イリーナ160cm57kg19歳 4年初段 ロシア・モスクワ)
準優勝 Rodionova Lyudmila(ロディオノバ・リュドゥミラ150cm47kg 20歳 4年初段 ロシア・モスクワ)
第3位 寺嶋裕美(155cm56kg21歳 7年2段 名張支部)
第4位 堀篭亜紀(158cm56kg31歳 3年初段 佐久道場)

■女子部決勝
○ビコワ・イリーナ
×ロディオノバ・リュドゥミラ
本戦引分 延長判定(5-0)


両者決勝まで2戦の相手は全て日本人選手、まさに日本勢を総なめにして勝ち上がってきた。優勝候補筆頭にあげられていたイリーナが下馬評どおりの強さで危なげなく決勝に駒を進めたのに対し、リュドゥミラの方は押し込まれながらも凌いで凌いで勝ち上がってきたという印象。

イリーナも160cm57kgと小柄だが、リュドゥミラは150cm47kgと身体指数において20の開きがある。共にこの小さな体躯で前へ前へというよく似たスタイルの持ち主だが、それだけにパワーの差は如実に現れた。本戦でも明らかに押し勝っていたのはイリーナ。しかし決勝では最低効果ポイント1がないと本戦は自動的に延長に繋がるのが北斗旗ルール。

延長になるとイリーナのパワーに晒され続けたリュドゥミラはスタミナ切れ。腰に組み付いて凌ぐのが精一杯の状態になり、ついには場外への退出が多いという理由で反則1を宣告される。だがこのポイント差を考慮するまでもなく、延長判定は文句なしにイリーナの圧勝となった。

“世界王者一番乗り”を成し遂げたイリーナは、素面にあどけない笑顔を浮かべ、喜色満面のまま、ロシア国旗を翻して場内を一周するウィニングランを敢行。この大会における“ロシア旋風”を象徴するような光景を演出してみせた。(重量、軽重量でも優勝者がこれに倣って、三回の“国旗ウィニングラン”が見られた。)


最優秀選手賞 Reshetniikov Ivan(レシェトニコフ・イワン)
サブミッション賞 藤松泰通

Last Update : 11/22 21:20

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