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(レポ&写真) [UFC 47] 4.2 ラスベガス:須藤元気、鮮烈一本勝ち

Zuffa "Ultimate Fighting Championship 47 -It's On-"
2004年4月2日(金) 米国ネバダ州ラスベガス:マンダレイ・ベイ

  レポート:井原芳徳 写真:Nick McDonell   【→大会前のカード紹介記事】 [→掲示板スレッド]

第1試合 ライト級 5分3R
○須藤元気(日本/ビバリーヒルズ柔術クラブ)
×マイク・トーマス・ブラウン(米国/チーム・エリート)
1R 3'31" 腕ひしぎ三角固め


 1年ぶりにUFCに登場となった須藤に用意されたのは第1試合。いわゆる前座ということもあり、まだ客席はガラガラだ。須藤は金色のチャイナ服を着込みお面をかぶり、ロボットダンスで入場するが、豪華な花道からではなく、関係者のうろつく通路の奥から登場したので、いつもような派手さが半減してしまう。
 UFCの場合、アメリカのDVD販売を睨んで意図的に人気選手を前座に置き、PPVで放送しないことがあるという噂もある(結局この日は短時間決着が多かったため、須藤の試合は最後に放送された)。だが須藤の試合は入場もワンセット。できれば主催者は須藤を花道から豪華に登場させてあげて欲しかった。

 相手のブラウンは典型的なレスラーで、組力が強い。タックルで相手を金網に押し込み、突然クラッチを外したと思いきや、フェイントの右フックを叩き込んでみせるなど、MMA対応もちゃんとできている。
 先にテイクダウンに成功したのは須藤だった。だがブラウンは須藤の股に足を引っ掛け押さえ込みを許さず、回り込んで足関を狙いにいく。一個一個の動きがなかなか慣れている。須藤は足を引き抜いて脱出。ブラウンのタックルで倒され、三角絞めを狙う。だがこれもブラウンは素早く反応して外しインサイドガードをキープ。序々に手強い相手であることがわかってくる。

 だが須藤はとっくにその水準を越えた選手。仕掛けに数度失敗しても、さらにその先の技がある。ブラウンは当然のようにパウンドを狙うが、須藤は下から細かく動いてクリーンヒットをもらわない。そして序々に両足をブラウンの背中の上を登らせて、ブラウンがパンチを落として隙ができたところで一気に三角絞めへ。今度は完全にハマった。
 ブラウンは必死で引き抜こうとし、須藤の顔にパンチを数発落とす。須藤は一瞬苦しそうな表情を見せるが、それに耐えきると逆にブラウンの体勢がますます不利に。そこで須藤は肘を一気に絞り上げ、ブラウンはタップした。

 フィニッシュ時間と極まり手だけを見れば、須藤の圧勝だ。UFCデビューだったレメディオス戦よりもタイムは短い。だがブラウンが意外にも曲者だったため、そこに至るまでの課程でレメディオス戦のような遊びの動きがなく、今の須藤の素の技術がいろいろ垣間見ることができた。そしてラドウィック戦の黒星のマイナスを吹き消すような一本勝ち。須藤にとって実りの多い試合だったといえるだろう。

 試合後は世界の沢山の国の国旗と「We are all one」の文字の描かれた手製の旗をオクタゴンの中で広げる。世界情勢はレメディオス戦で国連旗を広げた頃より、確実に混沌の度を深めている。世界覇権国アメリカで、須藤の平和のメッセージがどれほどちゃんと伝わるかはわからない。だが日本には尻尾を振ってついてくる犬ばかりじゃなく、こういうクセのある若者もいるんだぞ、ということが伝われば、それだけでも十分意義はあるのではないか? 須藤のパフォーマンスは、着実に世界を数ミリずつ動かしているはずである。


メインイベント ライトヘビー級 5分3R
×ティト・オーティス(米国/チーム・パニッシュメント)
○チャック・リデル(米国/ピット・ファイトチーム)
2R 0'38" KO (右ストレート)


 因縁の決着を迎えた両者は、対象的な様子で入場。リデルは待ち焦がれた対決が実現した喜びからか、時おり笑顔を見せリラックスした様子。逆にティトはやや神妙な面持ちで、金網に入ると体を小刻みに動かし、いつもに増してテンションが高い様子だ。
 試合が始まると、ティトは低めの構えからストレートを振る。そしてタックルで突っ込むが距離が遠く、リデルはあっさりとかわす。リデルもストレートを放つが、今一つ当り具合が浅い。かつての練習仲間同士であるせいか、やはり互いに警戒してしまうようだ。

 ようやく試合が動いたのは1R残り10秒。リデルが左右の連打をヒット。さらに右ストレートからの連打でティトを金網まで追い詰め、残り1秒で右ハイをティトの首筋に叩き込む。ティトはかろうじて腕でブロックし威力を半減させダウンはせず。同時にラウンド終了のブザーが鳴ると、ティトはKO負けの宣告と勘違いした様子で、レフェリーに怒って突っ掛かろうとする一幕も。

 仕切り直しの2R。開始まもなく、両者の右ストレートがクロスする。だがここでアクシデントが発生。リデルのストレートがオープンハンド状態で繰り出されていたため、親指がティトの右目の下を切り裂いてしまう。ティトが一瞬右目を気にした隙を見逃さなかったリデルは、ストレートのラッシュでティトを金網に一気に追い詰め、マシンガンのようにパンチを連打。ティトも必死に両腕でブロックするが、リデルのパンチはその隙間を貫き続け、最後は右ストレート。ティトは腰から崩れ落ちた。

 アクシデントがきっかけで負けに引きずり落とされてしまった格好のティト。右目の下から出血した姿が痛々しい。だが負けは負けと素直に認めた様子で、かつての盟友・リデルと抱擁。「目の下を切られるアクシデントはあったけど、リデルは素晴らしかったよ」。試合に至るまで激しく罵り合い、結末もやや悔いが残るものだったが、これまでの遺恨は全て洗い流してしまったようだ。

 かつてケン・シャムロックと対決した時もティトは同じように遺恨を精算した。だが、続いてティトの口から出てきた言葉は「次の6月大会も試合はできるよ。リー・マーレイの野郎をぶっ潰してやる!」。02年のロンドン大会の直後の酒場のケンカでノックアウトされ、1月大会でも遺恨の再燃したマーレイに、さっそく次の鉾先が向いた。一遺恨去ってまた一遺恨。勝っても負けても新たな物語を作って目立ってしまうのが、リデルに無くてティトにある最大の魅力といえよう。
 

第6試合 ライト級 5分3R
○イーブス・エドワーズ(米国/サード・コラム)
×エルメス・フランカ(米国/アメリカン・トップチーム)
判定2-1 (29-28/28-29/29-28)


 須藤と同じライト級戦線で着実に成果を上げている両者の激突は、立っても寝ても現在の世界最高水準の攻防が繰り広げられる好勝負となった。
 エドワーズがサウスポーで軽いステップを踏みながらフランカの足に右ローを叩き込めば、リーチで劣るフランカも、タックルと見せ掛けて子安キックのようなハイキックを繰り出し真っ向勝負。寝技になっても、柔術の猛者であるフランカがハーフガードから一気にマウントに行こうとした隙を突いて、エドワーズがリバースに成功。それでもフランカは下から腕狙いに移行し、失敗すると今度はしつこく足関狙い。次から次へと両者の技が繰り出され、観客を飽きさせない。
 それ以降も立ち技と寝技で素早い攻防が繰り広げられる局面があったが、これらの攻防に共通して言えることは、両者ともオールラウンドに高い水準の技術を持っているからこそできる攻防であったこと。打撃か寝技のどちらかだけが極端にうまい選手同士ではここまでできないだろう。そして大技や極めっこ中心ではなく、細かいながらも理にかなった技の積み重ねの上で大技や極めが繰り出されており、大味な感じが全くしない。
 最終的には3Rにフランカのタックルを切り、何度も猪木アリ状態に持ち込み優位を見せつけたエドワーズに軍配が上がった。だが結果的に敗れたフランカも、この試合内容なら評価を下げることはないだろう。次もきっといい試合を見せてくれるはずだ。
 

第5試合 ヘビー級 5分3R
○アンドレイ・オロフスキー(ベラルーシ/フリー)
×キャベージ・コレイラ(米国/グラップリング・アンリミテッド)
2R 1'15" TKO (レフェリーストップ:パンチ連打)


 オロフスキーはシルビアとのタイトル戦に備えてかなり肉体をシェイプアップしてきた様子。細かい動きでプレッシャーをかけ、着実にワンツーを当てる。キャベージも序盤はローをカットするなど、太った体に似合わぬ巧い動きを今回も見せてくれるのだが、序々にオロフスキーの速射砲のようなパンチに押される展開に。それでも倒れず打ち合いに応じるのだが、オロフスキーの動きが素晴らしく、クリーンヒットを打たせてもらえない。
 2R、立ち上がりはやや静かだったが、オロフスキーが左右のラッシュでキャベージを一気に金網際まで追い詰め、倒しにかかる。キャベージは打たれ強さを発揮し、なんとか倒れずに突き離すことに成功したが、オロフスキーの猛威は止まらず、最後は左アッパー。アゴにもらったキャベージは真後ろに一回転して倒れ。レフェリーストップとなった。
 キャベージも決して悪い選手じゃないのだが、絶好調のオロフスキーにはかなわない。シルビアとのタイトルマッチが流れてしまったことがつくづく悔やまれる。
 

第4試合 ウェルター級 5分3R
×ロビー・ローラー(米国/ミレティッチ・ファイティングシステム)
○ニック・ディアス(米国/シーザー・グレイシー・アカデミー)
2R 1'31" KO (右フック)


 ディアスは02年12月の修斗NK大会に来日し、弘中邦佳に敗れたものの、判定は1-2のスプリットだった。その後もパンクラスに参戦するシーザー・グレイシー勢のセコンドとして度々来日している。まだ弱冠20歳の伸び盛りで、去年9月のUFCデビュー戦で一本勝ちを果たしたことが評価され、UFC4勝1敗でこれまた勢いのあるローラーの相手に抜てきされた。
 試合は両者の勢いが相乗効果を生むような熱い打撃戦に。右のパンチがクロスすると、両者揃ってニヤリ。ディアスは手を広げてアピールしふてぶてしい態度を取る。だが単なるアピールに終らず、ディアスはすかさずノーガードからの右ストレート。ローラーは思わずふらついてしまう。一旦ディアスがローラーを金網に押し込み小休止するが、またも両者が離れるとパンチの相討ち。今度はローラーがディアスを金網際に追い詰め、右フックをディアスのアゴに叩き込む。
 両者ともクリーンヒットも手数も互角のまま2Rに突入。1R同様互いに一歩も譲らぬ打撃戦が続く。だが1分過ぎにローラーが左右のパンチの連打で前進してきたところで、ディアスが下がりながら放った右フックがローラーのアゴに炸裂。ローラーは前のめりに倒れ、試合終了となった。
 キャリアに勝る同じストライカータイプのローラーを粉砕したことで、ディアスの株価はまたも上昇。前回は腕十字、今回はKO勝ちで、立ってよし寝てよしの選手であることもアピールできた。BJペン、ヒューズ、ニュートン、ベヒーシモ。今度の獲物は上位陣か? 次戦が楽しみだ。
 

第3試合 ヘビー級 5分3R
×ウェス・シムズ(米国/ハンマーハウス)
○マイク・カイル(米国/アメリカン・キックボクシング・アカデミー)
1R 4'59" KO (右ストレート)


 カイルがシムズを金網に押し込むと、シムズは力任せにギロチンチョークの形に。だが引き込むというよりも勢いが余るという感じで真後ろに倒れ、ガードポジションに。
 シムズは下から肩固めを狙ったり、クロスガードの足のフックを深くして胴絞めを仕掛ける。だが相変わらず一個一個の攻めが雑な感は否めない。逆にカイルはシムズの師匠・コールマンがするような、首を抱えてのネックロックを仕掛けたり、口を押さえる嫌がらせをしつつ、パンチでじわじわとシムズを痛めつけていく。だがこの体勢は遠目に見ると膠着状態に映ったようで、1R残り30秒でレフェリーがブレイクをかけ、スタンドで再開することに。
 シムズは何かレフェリーに不平をぶつけながらゆっくりと立ち上がり、金網の方にトボトボと歩いていく。レフェリーが試合をリスタートしたにも関わらず、シムズはカイルに背中を向けたままだ。この隙を見逃さなかったカイルはパンチで突進。背後に動きを感じたシムズはようやく正面を向くが、時すでに遅し。カイルの首相撲につかまり、強烈な膝蹴りの連打をアゴに浴びる。シムズはフラフラと金網に向かって後ずさりし、最後はカイルの右ストレート。頭をカイルの拳と金網でサンドイッチされたシムズの巨体は、無惨にマットに崩れ落ちた。

 実にシムズらしいお間抜けなフィニッシュ。しかも残り時間わずか1秒での終了というオマケまで付いた。だが序盤にシムズがギロチンを狙った際、カイルがシムズの左胸を噛んでいたらしく、シムズの左胸に赤い傷ができている。セコンドのコールマンもそれを指差し、レフェリーかドクターかと話し合っている。
 大会後のプレスコンファレンスでは、コールマンらと練習しているらしいリコ・ロドリゲスが、カイルに対して罵声を浴びせ復讐を宣言したという。ケビン・ランデルマンもカイルに怒り心頭だったようだ。シムズが動けば何かが起こる。フランク・ミア戦に続き、またもヘビー級戦線に新たな遺恨物語が発生してしまった。

第2試合 ヘビー級 5分3R
○ジョナサン・ウィゾレック(米国/バルドスタ・マーシャルアーツ・アカデミー)
×ウェイド・シップ(米国/サンディエゴ・ファイトクラブ)
1R 4'40" TKO (レフェリーストップ:バックマウントパンチ)


 ウィゾレック(右)は全く打撃のできない選手らしく、バンザイ状態でシップに近付き、パンチと膝をもらいまくる。だが4分経過直前、首を抱えてテイクダウンに成功すると、押しつぶすような形でバックマウント。逆にシップはグラウンドがほとんどできない様子で、あっさりと体が伸びてしまい、そのままパンチをもらい続けレフェリーストップとなった。

第7試合 スイングバウト ウェルター級 5分3R
○クリス・ライトル(米国/インテグレイテッド・ファイティング・アカデミー)
×ティキ・ゴーセン(米国/チーム・オーヤマ)
2R 1'55" チョークスリーパー


 バックを取ったライトルが、プロレス技のブルドッキングヘッドロックのような格好でチョークを極めタップアウト勝ち。念願のUFC初勝利をあげた。

Last Update : 04/20

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