特集記事

'99 フリー世界選手権大特集
トルコ大遠足日記


第一弾・アンカラ到着の夜まで


■取材申し込み

8月末。「事前に申し込みをしないと、会場で入れてもらえないよ。」と昨年、イランでPRESSのIDカードをもらえなかった人のエピソードを耳にする。前々からフリーの世界選手権には「行きますからね」と方々で言いふらしている。これだけ行くぞ行くぞと大騒ぎをしておいて、いざ行ってみたらPRESSとして入れないなんて大間抜け。こりゃ大変、と慌ててレスリング協会へ電話。

「世界選手権の取材申請をしたいのですが。」
「うーん、みんな自分ところでやってるみたいだけどねえ。」

 え?スイスに直接国際電話をかけて聞けと?それともトルコへ?それじゃあサッパリわからないですよ。

「協会の方で窓口などまったくやっていないのですか?」
「明日とあさって、H君が来るから。知ってるでしょ?H君。彼に聞いておくから。」

 どうして協会で分からないんですかねえ。Hさん別に協会と仲がいいだけで協会の人じゃないはずだけど。そしたら、電話口のうしろから誰かが何かを言ったみたいで

「申し込み用紙があるから、直接こっちに来て。」

 はいはい。喜んでいきますよ。と岸記念体育会館にある日本レスリング協会へ行くことにする。

▼8月27日、午前10時過ぎに日本レスリング協会に到着。(10時過ぎないと開いてないのだ)慣れない取材申請用紙とにらめっこしながら記入。名前と住所、プレスルームで電話回線やFAXを使用するか否か、パソコンやタイプライターの使用は?そしてそのキーボードは英語それともフランス語?パソコンは持ち込みするのか?そしてトルコレスリング協会へ申し込みFAX。その日はインカレの日だったので、その足で会場の日体大健志台へ。会場で会ったナショナルチームの選手に「プレス申請しましたからね。行きますよ。」と取材申請用紙を見せてプレッシャー(?)を与える。「ホントにくるんすか?」と呆れる石嶋。「ええ、行きます。前から言ってたでしょ。」と言い返せば「地震で(世界選手権)ないらしいですよ。」と不吉なことを更に言う。

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■最終合宿

▼世界選手権の直前、自衛隊の朝霞駐屯地にある自衛隊体育学校での最終合宿。9月28日に尋ねたところ、8階級すべてで入賞を逃したグレコの結果を見ながら「くじ運も悪いよね。予選リーグで同じブロックに1位がいたりするからねえ。」と自衛隊の大久保コーチ。選手もあまりそのことには触れたくないみたい。

▼一人ずつ5月と7月の合宿のときに聞いた目標と課題について尋ねる。驚いたのは川合達夫。流暢に次から次へと言葉が出てくる。まさに立て板に水。どうしたんだ?川合といえば、何を聞いても「はい。はい。そうです。はい。」がやっとの受け答えしか帰ってこないのだが。

「腰痛くて2ヶ月練習してないんですよ。腰が痛くてローリングできないから、アンクル狙ってきますよ。外人、ローリングかからないですからね。日本人は返りますけどひっくりかえらないですから。アンクルです、アンクル狙いですよ。85kg級はもう、みんな強くて誰が優勝してもおかしくないし、今度の新しいルールだとどんなくじ引きでも全部勝って行くつもりじゃないと上に行けないですよ。優勝狙っていきますよ、優勝。日本人だと思うから勝てないんですよ。俺はロシア人なんですよ。
 川合のアンクルなんて記憶に無い、と後日、人から言われるが、そんなこと思い浮かぶ間も無い驚愕の時間。次から次へと出てくる主語と述語のある言葉に驚いたまま、川合のコメントとり終了。

▼「5日の夜中に到着します。アンカラではよろしくお願いします。」とみなに挨拶。選手はいつ出発するのかと問えば10月2日だとか。計量などの日時に合わせて体重調整をやっているのかと思ってみれば、自分の計量日を知らない人が数名。(^-^;「プログラム持ってますよ。」と取材申請のときにもらった資料を選手に見せる。「俺の計量、6日なんだ。」と初めて気づいたかのような小柴。呑気というか大物というか。その勢いで世界選手権でも傍若無人ぶりを発揮してもらいましょ。

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■成田〜イスタンブール〜アンカラ

▼成田13時10分発イスタンブール行き。私が乗るのはトルコ航空。そして、なぜか同じ時刻に便名がJALで行き先が同じものが。そちらには安達コーチ、ビデオ撮影などのデータ収集のために協会スポーツ医科学委員会から太田章氏、そして事実上チームドクターの中島先生。航空券を見ると私と三人の便名は別なのだが、搭乗口は同じ。いざ乗り込んでみるとその飛行機は四人とも同じTurkish Airline。安達コーチは「JALだと思ってたのに。騙されたあ!」と残念そう。

▼成田からイスタンブールへは、乗って食事を摂るなりお酒を飲んで熟睡。映画が一本終わったところで目が覚めると二本目の映画はAustin Powers Deluxe。コレは見なくちゃとバカ映画を鑑賞。当然、日本語の字幕も吹き替えもないわけだが、バカに国境はない。Groovy Baby!

▼イスタンブールでアンカラ行きに乗り換え。トランクなどの預け荷物無し、リュックとカメラバッグの手荷物のみで移動のため(そのために着替えを殆ど持ってきていないが)荷物確認も無しにイスタンブール空港で乗り換えの飛行機を待つ。イスタンブールからアンカラ行きのトルコ航空国内線。隣に乗り合わせたのは、アンカラ大学ハンドボール部のおにーちゃん。ドイツへの遠征の帰りなのだそうだ。盛んに話しかけてくる。どこかで「箸」のことを聞いたらしく、どうやって使うのか見せてくれと興味津々。ボールペン二本で実演。世にも不思議なものを見せられたような顔をされる。「日本人でも、子供のころにちゃんと教わらないと使えないんだよ。」と解説して練習すれば何人であろうが箸を使えると強調。そんなところへ機内食が。サンドイッチとケーキが入っているが、お腹がいっぱいで食べられそうにない。隣のハンドボール選手も同じようにお腹がいっぱいだそうで、通路を挟んでそのまた隣の席に座っているチームメイトに渡している。渡したあとにこそこそと耳打ちをしてきた。「あいつはロシア人なんだよ。渡せば何でも食べる。で、すぐに怒る。気が短いんだよ。」そんなことを囁かれているとはつゆ知らず、大食漢と評判のロシア人選手はもくもくと機内食二つ目を平らげ、後ろの席のチームメイトからさらに機内食の入った箱を受け取っていた。ほんとによく食べるねえ。

▼夜10時過ぎにアンカラ空港へ到着。入国審査を終えてロビーに出る頃にはもう11時くらい。頼んでおいたホテルへの送迎車のドライバーおじさんが名前を書いた紙を持ってお出迎え。車に乗り込んで、空港から20分から30分はかかると言われるアンカラ市内へ。ひたすらまっすぐな道を走り続ける。真っ暗なものだから、ガソリンスタンドがやたらあることしか目に付かない。それと、もう夜中なのに女性でも平気で外を歩いているのが目に付く。へえ、治安いいんだ、ここ。なんだか一安心。運転手のおじさんに「トルコは初めてかい?イスタンブールへ行かないのか?」と聞かれる。「アンカラだけで、イスタンブールに行く時間が無い。仕事だから。」と言うと「トルコへ来るのならイスタンブールへこそ行かなきゃ。きれいだよ。アンカラは何にも無いよ。」といわれる。それから「トルコ人はみんな親切だからね。安心していていいよ。」とも。対日感情がよいから日本人は親切にしてもらえるとは聞いていたけれど、そんなこととは関係無しに人のよい国民性なのかな?なんといっても紀元前から文化と経済の交差点に位置する国。外国人とのつきあいはお手の物?

▼なんだか手間取ってしまい、ホテルには夜12時を回った頃に到着。イスタンブール行きの飛行機の中であれほど寝続けたのになんだか眠くてたまらない。フロントでチェックインをしてポーターのお兄さんに荷物を持ってもらって4階の部屋へ。肩掛け鞄につけていたピカチュウのキーホルダーを見て「面白いものつけてるね。」と言われる。「これは日本のテレビゲームのキャラクターでピカチュウというんだよ。ピカチュウ!(例の口調で)」と答えると「面白い名前だね。ピカチュウ(例の口調をまねる)」と言われる。どうやら、任天堂の威力はトルコまでは及んでいないらしい。

▼明日はプレスルームがオープンする。着替えもないからかいに行かないといけないし、それからPRESSのIDカードも発行してもらわなくちゃいけない。ドルを両替もしてないし。やらなくちゃいけないことがいっぱいあるけど、もう眠くてしょうがないよ。シャワーだけ浴びてとりあえず眠りこける。


 

日本チームも到着、そして計量へ...go

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レポート:横森綾