特集記事

フリー選手団の体力測定と練習を取材!
多摩遠足日記


【7月25日】

 朝9時半に多摩市にある国士舘大学永山校舎に集合!本日はナショナルチーム(フリー)7月最後の強化合宿初日。で、なにがはじまるのかというと、体力測定。アトランタ五輪グレコ58kg7位の嘉戸洋(現在筑波大学大学院)さんが修士論文を書くためのデータを採取するため。
 9時半。集まった全日本チームのメンバーを前に、嘉戸さんからA4の紙に印刷された測定のスケジュールをみながら説明が始まる。嘉戸さんの修士論文の題目は『日本におけるレスリング競技者の専門的運動能力の発達に関する研究』。高校生、大学生、全日本チームと3種のデータを採取して比較検討、分析するのだとか。すでに高校生のデータは採取済み。このナショナル合宿初日で全日本のデータ、翌日、翌々日で練習相手も兼ねて合宿に参加している大学生からさらにデータを採取する。

小幡と石嶋 まず、道場で立位体前屈と伏臥上体反らし。ぐーんと立位体前屈で柔軟性を見せる和田選手に向かって「手の長い人はいいよなあ。」と柔らかいことを理由にしようとしない他の選手数名。それでも和田選手本人は「前はもっと(数値が)いったのになあ。」と不服そう。伏臥上体反らしでは、予想外の数値の低さに納得が行かない田南部選手。「伊藤さん(トレーナー)の測り方が悪いんだよ。」と今度は嘉戸さんに計測してもらう。すると、本当に数値が伸びる。伊藤さん「だって、この測定用具、下の支えのネジが無くて壊れてるよ。慣れてないと巧く測れないよ。」と苦笑い。
[写真は小幡弘之(フリー130キロ級)、左でのぞき込んでいるのが石嶋勇次(フリー58キロ)]

1.ヘクサゴンドリルテスト

 道場から出て、広めの階段前の踊り場でヘクサゴンドリルテスト。「ヘクサ」という接頭語がついているとおり、床にはビニールテープで大きな六角形が書かれている。その六角形の中にはさらに中心点付近に小さい六角形のビニールテープ。この測定では、中心点から外に出ては元に戻る、という動作を六角形の一辺づつ繰り返す。まず右回りで3回まわって測定。しばらくしてから左回りで3回まわる。3回まわるのにかかる時間でバランスと敏捷性を測る。中学生くらいまでの体力測定でよくやる反復横跳びの六角形版。

 どうにもリズムがつかめず途中で辺から中心に戻るのを忘れてやり直しの小菅選手。「どうしても外まわっちゃうよ。」そして、とっても速く回れるのだけれど、反時計回りの時に調子が狂う小柴選手。どうやら、右利きの選手は右回りの方がやりやすいようだ。まだまだ測定は序の口。のため、元気いっぱい。

2.ロープ昇降

石嶋と田南部 1階の体育館にあるロープを使って綱登り。レスリングのトレーニングに綱登りは付き物。ひく力を強くするためにたいていのレスリング選手が必ずやること。今回の測定では、下から5メートルの高さに目印。そこまで登っておりる動作を30秒間繰り返し、その反復距離を測る。通常、この綱登りは「腕の力だけ」で上り下りするのだが、今回の測定の場合、85kg級以上は足を使ってもOK。
 まずは軽快に軽量級から。腕だけでするすると登り、降りる。コレ、いつ見ても見惚れますねえ。ナショナルチームクラスになると、体の重心がまったくぶれずに姿勢を保ちつつ、上り下りする。が、それも途中まで。予想通り130kg級の小幡さん、途中までなんとか登るものの、上にも上れず、下にも降りられなくなって宙づりのままに。130kgなんて、自分の体重を持ち上げるだけでも大変なことだからね。宙づりになっていられることだけでも凄いことだな。
[写真左が石嶋勇次(フリー58キロ) 右が田南部力(フリー54キロ)]

3.体幹捻り持ち上げ

 おもりのついた棒を30秒間右、左へ動かす。おもりの重さはそれぞれの階級の50%の重量。棒そのものも結構重くて、なんと20kg。さすがにそれの重さはすでに重量として計算されていて、あとの残りの重さは、階級ごとにおもりをぶら下げる。
 「腰が悪いからダメだよぉ」と真っ先に声をあげる石嶋選手。それでも測定してたけどね。どの測定でも、「怪我してるから」とかいろいろ言ってるけど、みんな結局、測定してるんだよね。しかも、みんな負けず嫌いなものだからムキになって。(^-^;
 測定は田南部選手の測定の後、小幡選手が。重りを入れ替えるのだが、とつぜんバーに取り付ける円形の重りの直径が10センチくらいおおきくなる。これ、本当に同じ条件なの?なんだかきびしいなあ。

4.Wingate test

 ヘクサゴンドリルテストをやった踊り場に戻って、今度は自転車こぎ。30秒間全力でこぎつづける。体重(階級)の7.5%の負荷がかけられている。30秒間の平均のパワーと最大のパワーを測定。この測定後、3分、5分、7分刻みで乳酸の測定をする。
 この自転車こぎがけっこうキツイみたい。気温もじりじり上がってきて、なにもしていなくても汗がだくだく流れる。嘉戸さんたちが用意してくれたスポーツドリンクやお茶もすっかりからっぽに。
 乳酸の測定のため、一人一人の測定は時間を置いてゆっくり進行。それでも、蒸し暑さには変わりなく、そばで見ているだけでも手持ちのハンドタオルがぐっしょり。でも、たぶんこの建物で一番涼しいのは、道場の入り口で風通しがよいこの踊り場近辺なんだよねえ。そのいちばん風の通る入り口に寝そべる小幡選手。「そこが一番涼しいんですよね。」と声をかければ「デブは一番涼しいところへすぐに行くんです。」としあわせそうな顔。
 合間に体脂肪率の測定。かちんと挟む形の測定器で、背中のお肉をつまんで測定。軽量級から測定をしていたのですが、自分の体脂肪率を考えると憂鬱になる数値ばかり。選手たち、こんな体脂肪率でさらに減量なんてよくできるよなあ。


練習中の田南部 乳酸測定のためにちょっとのんびり目の雰囲気だったので、持ってきたパソコンにFILAのデータベースCD−ROMを入れてたちあげ、選手たちに見てもらう。初めて見るひとばかり。選手別の検索が人気。持ってきたのは97年版のため、昨年の世界選手権のビデオ画像はない。「日本人のは少ないんですよ。」と97年の世界選手権の画像の中で、唯一?日本人データから検索できるビデオ画像にとぶ。と、和田選手がケアリ・コラット(アメリカ・63kg級97年1位)に両足タックルされて転がされている画像が…(^-^;「うわ〜」と声があがる。さすがに気の毒なので、別のビデオ画像へ。「イランのやつは?」と54kg級のGhol am Reza Mohammadi(イラン)へ。「こいつ強い。」と田南部選手。「北朝鮮は?」「北朝鮮て、英語でなんていうの?」「Pではじまる、Pだよ。」と国別検索で北朝鮮の選手リストへ。そしてやっぱりカレリンは大人気。
[写真右側は練習中の田南部]

 後ろからのぞき込んでいた伊藤トレーナー「これ、どこで買ったんですか?」「FILAのホームページから通販で。銀行振込で買ったんですよ。外国の銀行への振込み手数料、高いからまとめて買う方がいいですよ。」「世界選手権に行けば売ってますよね。その時買おう。」


 お昼ご飯前にビデオ『スポーツとアンチ・ドーピング』(98年制作)を見て、レスリング協会医・科学委員会の委員長、増島先生(東芝病院)からドーピングについての説明。JOCが作成したアンチドーピングの黄色いパンフレットをみなさんに配布。
 「みなさん、何度もドーピング検査を受けていて慣れているからご存知でしょうけど。」との前置きから、最近の事例から軽く注意事項。競輪の神山がこの間ドーピングに引っかかったのは、アメリカ製のサプリメント『スパーク』というのを服用していたからだそうで。日本製のはまずドーピングに引っかかる物質は入っていないが、輸入のビタミン剤、サプリメントは入っていることがあるので要注意。そして、去年のアジア大会で、ビリヤードの代表選手がドーピングに引っかかったのは、向こうで飲んだ『精力剤』が原因だったらしい。
 さらに、リポビタンDを10本一気に飲むとドーピングに引っかかるという話も開陳される。そんなバカなヤツいないだろう、と思っていたら「前、そういう人いましたよ。」とトレーナーの伊藤さん。「その人、いつもそうやって気分を高揚させていたらしいです。」そ、それは完璧にドーピング目的ですね。(^-^;


 お昼ご飯は近くの食堂で選手と一緒にネギトロ丼。特に何か運動したわけでもないのだが、暑くてバテてきちゃってて、とてもじゃないけど食べられない。食堂の人も、気を効かせて増島先生と私のぶんだけは選手に比べると量を減らしてくれているらしいのだが、それでも並みより多いよ〜。
 85kgの川合選手にご飯を分けている協会の人を見て、「川合さん、もっと食べない?」と自分のぶんを減らそうとするが「いや、もういいです。」え〜〜、ど〜しよ〜、ぜったいに食べきらないよ〜。誰か食べそうな人〜、と見回してみれば…いるじゃないですか、130kgの小幡選手が。「小幡さん、食べませんか?」「いただきます。」「どのくらい入れてもいいですか?」と丼を傾けながらたずねれば「いくらでも食べますよ。」とのことだったので、丼に入っている量の半分強をどっかんと入れる。本当にこんなに食べるのかなあ?とちらっとあとでのぞいてみれば、涼しい顔して平らげてました。


 

… 午後も体力測定は続く
そして各選手の今後の計画は?
go


 

取材・撮影:横森綾  HTML編集:井原芳徳