特集記事

フリー選手団の体力測定と練習を取材!
多摩遠足日記
(後半)


1.メディシンボール投げ

 お昼休みの後の測定ひとつめは外へ出て、メディシンボール(バスケットボールより一回り大きいくらいのボール)を前からと後ろから投げて飛距離の測定。ちょうどその広場の隅っこにバスケットゴールがあって、それに向かって投げ入れる小柴選手。そういえば、中学時代はバスケットボール部だと言ってましたっけ。見事ゴールするのだが、実際のバスケットボールより微妙に大きなメディシンボールが、引っかかって落ちてこない。(^-^;石嶋選手が下から別のボールを投げて、小柴選手のひっかかりボールを救出!
川合のボール投げ さて、測定。メディシンボールの重さと大きさに慣れないせいか、嘉戸さんが「この間オレが測ったら**メートルだった。」との数値をなかなか超えられず、ちょっと悔しい選手たち。ムキになって投げ続ける。が、カエルが立ち上がったような妙な格好でボールを投げる川合選手[写真]。
 全日本メンバーの中でも負けず嫌い度は一、二を争う和田選手、後ろ向きに投げるとき、勢いあまって転ぶ。「写真は?」と矢山選手に言われるが、すみません、取り損ねました。コケた写真。やっぱり、カメラマン欲しいなあ。
 全日本のメンバーではないため、測定をしなくてもかまわない浜上稔選手。ボールをやたら投げたそうにしているため「浜ちゃん、測ってあげるから。」と嘉戸さんの計らいで特別測定。張り切って最後に登場するが、以外に数値が伸びない。あれ〜?

2.垂直跳び

 今度は、道場のある建物に入った入り口の壁を使っての測定。壁に貼った白い紙に印を付ける形で測定。まず、自分の指先にチョークで色を付けてから壁に寄り添って腕を真上に。指先で紙に印を付けると、それがその選手の測定の起点。もう一度指先にチョークを塗り直して、ぴょんと跳んで腕を振り上げ、指先で印を付けてから着地。炎天下のメディシンボール投げでかなり消耗したのか、なんだか元気がなくなってきてます。大丈夫?まだ今日の測定、あとふたつ残ってるよ。

3.自転車ペダリングテスト

 道場まで戻り、測定は道場と違って空調のきいた更衣室の中に自転車を持ち込んで測定。最初はヘクサゴンドリルテストと同じ場所でやろうとしたのだけど、一番キツイから、測定中に選手がバテてしまわないように、嘉戸さんの配慮から涼しい場所へ自転車を移動。どのくらいキツイかと言えば、自転車を全力で5秒間こいだあと15秒間の休憩、を10セットというもの。細切れで2分半、全力で自転車をこぐんですね。
 テストが終わると、みな太股がパンパンに張ってしまってマトモに歩けない。いきなり自転車をこぐんじゃなくて、ちゃんと測定の前に軽くアップしてるんだけどね。小幡選手なんて、部屋を出ていくときに小さな段差に躓いて転んでるし。

4.人形のバック投げ

小幡のダミー投げ 丸太状の人に見立てたダミーをレスリングの投げの練習で使います。それを30秒間で何回バック投げできるかを測定。肩のラインより人形が上に浮くように。後ろに投げなくてはならない。「オレ苦手なんだよ。」と言う選手多数。フリースタイルの選手は、あまりダミーを使った練習しないですからねえ。
 慣れないものだから、思うようになかなか投げられず。何人か終わったところで「誰が今のところ最高?」と高田委員長が質問。「いまのところ矢山さんだっけ?」「1回おまけですよ。時間になってから投げきってるから。」と控えめ。控えている川合選手に「川合さん、何回くらい行けそう?」と聞けば「自分は、小柴先輩と同じくらいだと思います。」と正座して返答。近くにいた小柴選手、「川合にしちゃ控えめじゃん。」とチャチャを入れる。ふーん、と思いながら寝っころがって休んでいる和田選手の方を見て同じ質問をしようとすると、「期待しないで下さいよ。」と先手を打たれる。そんなこと言っておきながら、負けず嫌いの和田選手、トリでムキになる。8人中最高値。そういえば、投げ技は得意だと自分でプロフィールに書き込んでいたっけ。拍手で終了。
 もっとみんな、いい数値を出せよと言いたげな強化部首脳陣を前に「慣れないからだよなあ。」と佐川コーチが助け船。フリーの人はダミー投げ、普段はやらないもんね。
[写真は小幡弘之(フリー130キロ)]

 この日の測定はコレで終了。午前中の測定後にやったように、3回に分けて乳酸を測定。その合間に、嘉戸さんに「修論のこと聞いていいですか?」と質問。「いいですよ。」と口では言うものの、明らかに憂鬱そう。先週の社会人選手権のときの受け答えはもっとパキパキしてたのに。「思ったようなデータとれてますか?」ときけば「うーん、なかなかねえ。でも、全日本のデータをとらせてもらえることなんて滅多にないから。」

 この修士論文は、来年の体育学会で発表の予定。でも、嘉戸さんの興味は学会発表することよりも、とったデータの分析結果をどう活用するかの方に興味があるらしい。「選手にフィードバックしたいですよ。ナショナルチームなんて、グレコとフリーあわせても16人しかいないんですから。どういった体重の落とし方が効果的なのかとか、いろいろと選手個々に戻してあげたいですね。一般的にレスリング選手がどうなのか、ということより、もっと個人的なものを戻してあげたいです。」競技を科学的に分析するという意味では日本のレスリングはかなり世界に後れをとっているのが現状。嘉戸さんのような志の人が、レスリングの強化に携わっていってくれると嬉しいなあ。

【7月31日】

 今日は合宿最終日。一週間ほどの短期強化合宿、どんな感じに仕上がっているのかな〜?と様子を見に朝9時半に国士舘大学多摩校舎へ。集合してきた選手を見て呆気にとられる。殆ど全員が怪我をしている。(^-^;ナショナルチームとしては今までにないほど年齢も高いから、怪我の治りも悪い。練習が始まるまで、トレーナーの伊藤さんは大忙し。次から次へとテーピングをする。練習が始まってみれば、怪我がひどくて最初からトレーニングルームへ直行してウェイトトレーニングのみ、という選手も。

 今回の強化合宿、総評としてどんな感じだったのか高田祐司強化委員長に「一週間終わってどうでした?」と問うと、浮かない顔。そして続けて出て来た言葉が「あまりひどいからね、怒ったんですよ。自覚がないですね。」うわお。全日本チーム相手に中学の全校朝礼で生活指導の体育教師がやるような説教ですか。選手もコーチ陣もいい大人なのに、どっちもなにをしているのやら。(^-^;でも、前々から疑問だったんだけど、そんなに昔のスポ根マンガみたいな気合いの入れ方ばかり要求しなくてもいいんじゃないのかな。個人競技なんだから、集中力を高める方法はいろいろあって当然だと思うけど。

 続けて高田委員長、「怪我も多いし。年齢が行ってるから、治りにくくて。悪循環ですね。」やっぱりずーっと浮かない顔。コーチ陣も不安そう。どん底の状態、と強化部みずからが言う現在の日本のレスリング事情。昨年の世界選手権では、グレコとフリー、両方見渡しても8位入賞がゼロ。来年はオリンピックイヤーで、今年の世界選手権はその出場権がかかった最初の大会。それなのに、確実に五輪出場だろうと言い切れる階級が一つもないと言っても過言ではない状態。選手も焦り、コーチも焦る。焦っている当事者どうしがお互いの焦りに気づいて思いやっている余裕などない。相手に自分の状態が理解されないことから、ますます焦燥感を募らせていく。それでも、勝ちたいという思いは共通のはず。目的は選手が勝つこと、これひとつなのだというプリミティブな事実に忠実であって下さい。


 さてさて、各選手8月31日に長野・菅平で再開されるナショナルチーム(フリー)の強化合宿までの予定と計画を聞いてきました。

 

石嶋勇次【54kg級 田南部力】
 8月10日から富山で宮越工芸の合宿に参加、その後14日から新潟・十日町での日大の合宿に参加。
 
「怪我を治します。日本だとそんなに小さくないですけど、世界だと小さい方に入るので、体を大きくして、パワー、体力、ウェイト、筋力のアップを図ります。」

 

【58kg級 石嶋勇次】[左写真]
 8月7日から茨城・霞ヶ浦高校での山学大の合宿に合流。
 
「怪我を治します。ウェイトトレーニングに専念します。怪物になって帰ってきます。」

 

和田貴広【63kg級 矢山裕明】
 8月8日から、草津での日体大の合宿に参加。
「怪我をしないようにします。」

 

【69kg級 和田貴広】[右写真]
 和歌山県が7月28日から8月8日までセルゲイ・ベログラゾフを招聘。全日本合宿終了後に和歌山に戻ってセルゲイの指導を受ける予定。その後、国士舘の合宿に参加。
「体を大きくしてきます。」

 

小柴健二【76kg級 小柴健二】[左写真]
 8月10日から、草津での日体大の合宿に参加。
「アジア選手権の後、ウェイトトレーニングを続けているのですが、それを引き続きやって、目標体重に近づけてきます。」

 

【85kg級 川合達夫】
 8月8日から、草津での日体大の合宿に参加。
「自分のペースで練習してきます。」

 

【97kg級 小菅裕司】
「体力、スタミナを付けてきます。」

 

【130kg級 小幡弘之】
 8月10日から富山で宮越工芸の合宿に参加、その後14日から新潟・十日町での日大の合宿に参加。
「一週間に酒を2日に押さえる。(そのまま出しますよと警告しましたが、撤回しなかったので本当に載せます:-p)怪我を早く治して世界8位を目指します。」

 


次回、合宿の取材には9月の埼玉・朝霞自衛隊での予定です。さーて、みなさん予告通り変身できているか?乞うご期待!
 

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取材・撮影:横森綾  HTML編集:井原芳徳