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全日本チームのトンデモ自衛隊特訓をレポート!
習志野遠足日記

 全日本フリーチームが自衛隊の第一空挺団に体験入隊するというニュースが流れた。5月の半ばに耳にしたときは、半信半疑だったが、どうやら本当らしい。レスリングの取材はいつも現地受付なのだが、場所が場所だけに事前に申し込みをしないと入れてもらえないという。こりゃまずいと、慌てて協会に申しこんで資料を取り寄せる。

 
日時
平成11年6月18日(金)午前10時から午後3時までの間
場所
千葉県船橋市薬円台3丁目20−1 陸上自衛隊第一空挺団
訓練目的
 シドニーオリンピック強化対策の一環として、主に今回は精神面の強化を図ることを目的とする。
 第一空挺団は、各自衛隊の中でも一番厳しい訓練を実施している部隊であり、特に精神面強化に適していることで今回の訓練目的とした。
 

 精神面強化に「自衛隊」ねえ。しかも落下傘。なんだか思いっきりプロレスしてないか?この訓練実施を聞かされたとき、おそらく途方に暮れていたであろう選手たちの様子が目に浮かぶよ。とりあえず、第一空挺団の演習場なんて滅多に入れないし、面白そうだから取材に行こ、と深く考えずに決定。

 午前10時までに第一空挺団の習志野演習場正面入り口で受付を済ませてくれと言われたので、10時5分前くらいに入り口に到着。歩哨に立っている人に尋ねると、警備の受付の所(すぐ後ろに見える)まで行ってくれと言われる。この建物、あとで注意されるのだが、第一空挺団の警備の状態が知られると困るという理由で、撮影を一切許されていない。その撮影禁止の建物へ行けば、取材の人たちはもう奥に集まっているから、広報の建物の右隣の方へいってくれと言われる。実は、新聞社が作っている記者クラブの人たちは、協会が用意したバスに乗ってまとまってきているんですね。で、当然、私はそこに入っていないので自力でたどり着いたわけです。

 着いてみたらバスで来た人たちはかなり早くについてしまったらしく、取材者控え室は満杯で用意されている机もイスも満席。第一空挺団の人に、所属と名前を聞かれ、名刺交換をする。自衛隊の広報の人がくれた名刺が変わっている。角が円い名刺で珍しいな、と思って手に取ってみると、コレ、どう考えても紙じゃない。コーティングでもないし、弾くとぽよんぽよん音がする。プラスチックか?こんな名刺もらったことないぞ。特殊部隊の空挺団らしく、全天候対応型名刺か?10時20分頃、ナショナルチーム到着。テレビ用に正門からジャージ姿のままタテ一列に入ってくる。そのまま広報室のある入り口から真正面の建物に。

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■空挺団ビデオ

▼第一空挺団の説明とビデオ、スライドなどを見るために部屋へ。ナショナルチームと、数人のマスコミが入れるくらいのスペースしか用意されていなかったため、カメラは交代で入るように言われる。でも、私は一人だし〜、カメラが入らない位置に行っちゃえ〜、と、窓側の席の後ろに陣取る。ちょうど58キロ級代表、石嶋選手の後ろ。肋軟骨を骨折してアジア選手権代表を辞退していたので「肋軟骨もういいんですか?」と尋ねれば「もう大丈夫です。」と即答。菅平の時も痛そうにしていた肘はと問うと、「まだちょっと痛い。」そうで。

▼第一空挺団の訓練内容を示すビデオ上映開始。11メートルの高さの跳出塔から落下傘の訓練のために飛び出す訓練。落下傘をつける要領で空中に張ってあるワイヤーからつり下がったロープに体を縛り付け、塔から飛び出す。飛び出したあとに、ガクン、と揺れる様が上映されると石嶋選手は「うわお!」と叫ぶ。で、続けて80メートル吊り下げられて落下傘で降りるところが流れると、皆さん、顔を見合わせて苦笑。向かいに見えた76キロ級代表、小柴選手の顔はみるみる青ざめていく。本当の落下傘訓練やスカイダイビングになったら、パンフレットを握りしめて、画面を食い入るように見つめていたよ。

▼ビデオを見終わり、第一空挺団についてOHPを使って口頭で説明。説明が終わったので、今度は空挺館という落下傘部隊の歴史を展示している建物へ。その移動時、石嶋選手が「横森さん、今日最後までいる?」「いますよ。」と答えると、ジャージのポケットから使い捨てカメラを取り出し、「写真撮って。買っておいたんだ。こんなにいっぱい人が来ることないから。」あんたも遠足気分かい!(^-^;

▼空挺館へ行く道すがら、「メール出したんだけど。」と石嶋選手から言われる。「オレどこに載ってんだよぉ。て出しだんだよ。」とさらに言われる。「メールもらってませんよ。わかりにくいところに行っちゃってますけど、石嶋さん、写真付きで載ってますよ。得意技とかちゃんと書いてあるし。」すると、横にいた69キロ級代表、和田選手から「おまえ、得意技なんてあるのかよ。」(^-^;

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■空挺館

▼空挺館では太平洋戦争時の遺書やら銃の歴史やら歴代空挺団長やら天皇のお立ち台やら見学。説明のビデオ上映とかもあったけど、みんなおっきくて見えない

▼ちょうど近くにきた小柴選手に「顔色悪いですよ。ビデオを見ている間、だんだん下を向いていってましたね。」と言えば、「高い所全然だめなんですよ。」と不安らしい。

▼協会専任コーチだから、という理由で飛ぶことになった赤石さん(ロス五輪銀メダル、バルセロナ五輪銅メダル)は「知り合いの女性全員に電話してきました。」と逆ハイテンション。となりで、飛ばずにすんだコーチの佐川さんは呑気そうに笑っている。「あ、実家に電話するの忘れた。」とは赤石さんの言葉。

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■公開着替え(^-^;

着替え
▼その後、今度は作業服に選手が着替えるため控え室へ。服の着方が独特のため、説明する自衛隊員のもと一斉に着替えることに。カメラがいーっぱい並んでいるところで「ジャージを脱いで下さい」と言われて戸惑う選手たち。「そりゃ、慣れてるけどさあ。」と諦めたように声をあげる石嶋選手。レスリング選手は、更衣室が足りない(もしくはない)と、そこら辺で着替えてるからねえ。

▼観念して着替え始める選手たち。自衛隊体育学校所属の選手は、自分の名前が入った作業服と帽子、編み上げ靴を持っているのでそれを着用。でも、滅多に着ないらしくて97キロ級の小菅選手は「忘れた」と教えてもらっている。小柴選手は誰よりも早く完了。「着るの1年ぶり。」などと言ってたが、あの履きにくそうな靴をするする履いていた。で、「それ石嶋のカメラでしょ。写真撮って撮って。」と要請。あんたら、本当にそんなんでいいのか?(^-^;

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■スペシャルランチ?

▼全員着替えたあとに、入り口の階段で整列、自衛官でもある小柴選手の説明の後、号令がかかって敬礼。おいおい、そんなにあからさまに戸惑った顔していいのか?>和田選手(冒頭の写真をご覧下さい...)

▼時間はもう12時過ぎ。ということで、選手の皆さんは空挺団員の食堂へ。本日のメニューにはなんと赤飯が。空挺団の広報の人の話によれば、1ヶ月に一度、その月の誕生日の人をお祝いする意味で「誕生食」というものが出されるそうなのだが、ちょうど今日が6月の誕生食の日。だから、お赤飯。

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■地上11メートル・跳出塔からの飛び出し訓練

跳出塔
▼まず、落下傘を装着するときに着る、ごつごつしたジャケットのようなものを着る。全体重を預けるものがはずれないようになっているから頑丈な上に、胸のあたりの金具を中心にぐいぐいきつく着るらしい。「苦しい〜」と石嶋選手。でも、カメラ(もちろん石嶋選手持参の使い捨てカメラ)を向けるとピースサイン。

▼「あとでCCDカメラつけるから」と和田選手は宣告を受け、参ったなあといった顔。とりあえずジャケットを装着。カメラは、1回目をとんだあと、2回目のときに。ジャケットがやっぱり苦しいらしく、「着物着るとこんな感じですかね。」「うん、そんな感じ。」と答えたものの、そんなにぐるぐる巻かれるのは振り袖着るときくらいだって。振り袖着ることないでしょ>和田選手。

▼ヘルメットを頭に被るのだけれど、コレのせいでよく聞こえないらしい。あんまり神妙な顔つきをしているから「試合の時より緊張する?」と聞くとさすがに苦笑い。

▼滅多にやってこない取材陣に「普段も来て下さいよ。」と和田選手アピール。が、社交辞令でも「見に行きますよ。」という人がいない(;_;)

▼まず、塔に登る前に飛び出しの手順を練習。本職の見本を見せてもらう。勢いのよい号令と高らかな足音。おいおい、えーらいところに来ちゃったよ。一挙手一投足が本当に軍隊じゃないか。ありゃあ。まいったなあ。地上で一通り手順を練習した後、塔の上へ。

一組目
▼一組目がまず上へ。トップバッターはどうしても取材の集中砲火を浴びる和田選手から。出身地と名前と、「決意」を言うように指示されている。「根性見せるぞ!」と叫んで飛び出そうとするも、最初の合図で飛び出せず。跳出塔の踊り場部分で控えている二組目の選手たちが「たかひろ〜」と冷やかす。二度目でなんとか飛び出す。あとで「合図が聞こえなかったの?」と聞けば「もう1個なにかやることあったのかな?と思って」だそうで。レスリング以外は本当に憶える気もちが薄いですね。(^-^;

▼二組目のトップバッターは高所恐怖症の小柴選手。「群馬県出身、小柴健二、決意、恐い!!」と叫んで飛び出す。飛び出しても叫ぶのが止まらず「うわ〜〜!!」(^-^;降りてきたところを聞いてみれば「ダメなんですよぉ。ジェットコースターもまるっきりダメだし。まだ震えてますよぉ。」ほんとうにまだガクガク震えてるよ。

▼最終組に、やはり高所恐怖症だという97キロ級の小菅選手。お尻を叩かれてから飛び出さねばならないのだが、下が見えてしまったらしく、顔面蒼白のまま二度合図があっても飛び出せない。なんとか三度目で飛び出す。声も出ない状態。


 

ロープ渡りに80メートル吊り下げ
トンデモ特訓はまだまだ続く...
go


 

取材・撮影:横森綾  HTML編集:井原芳徳