wresling


シドニー五輪フリー最終予選&アジア選手権

中国桂林遠足日記−3


■薄暗い体育館と泣き疲れる4月26日(水)

会場全景

▼昨夜、盛大な開会式が開かれたステージの裏には体育館。裏口のような入り口を入ると、長方形の体育館にマットが二面。長方形の長い辺に沿って客席が用意されている。客席のない壁には窓があるのだが、ずいぶん高い位置に窓ガラスがはまっているだけ。天井の照明もかなり弱い。暗くて写真が撮りづらい。シャッタースピードが遅くなるだろうなあ。被写界深度をあきらめて、絞り優先で撮るしかない。

▼ヨーロッパなどの体育館は総じて明るい。シャッタースピードを1/500秒にしても全然平気。去年の世界選手権の体育館もそう。楽々とハイスピードをクリアしてくれた。それに比べて日本の体育館はとーっても暗い。レスリングを撮るとき、1/250秒はキープしたいのだけれどなかなか実現しない。その日本の体育館に負けない暗さが今日の桂林スポーツスタジアム。これは1/125秒も危ないかもしれない。

▼中国は入国手続きが厄介だ。査証がいるし、業務用の査証となるとさらに手間 取る。そのためか中国以外の取材者をまったく見かけない。地元のカメラマンと テレビ局だけ。さらにプレスセンターは無し。中国はきちんとしたリザルトが出ない国だという噂を日本で耳にしていたが、やはりそうなるのか?どうやら、英語はなじみの薄い外国語らしく、片言でも理解する人は少ない。世界中どこへ行っても中国人は必ずいるから、中国語だけで不自由しないからな。

▼シドニー五輪最終予選トーナメントが始まった。日本からは6階級に出場。97,76が一回戦で消えちゃってしょんぼり。小菅(97kg級)は試合の途中まで勝てると思ったのになあ。タックルに入ったとたん、元気なくなるんだもん。小幡邦(76kg級)はすぐにフォール。テクニカルなタイプは苦手みたい。外人の技、日本人選手の猿まねの域を出ない形だけの技と違うから。残る4階級は決勝まで勝ち上がる。さあ、一人でもたくさんシドニーへ行こう!

▼58kg級、関川。相手は北朝鮮のリ・ヨンサム。すっげ〜、むっちゃ強い〜>北朝鮮。何よりもまずその雰囲気が異様。よく、プロレスとか格闘技の試合を掲揚するときに殺気があるとかいう言い方をするけど、北朝鮮を見たらそんなの子供騙しだね。人を殺しそうな目つき、ていうのはこれだよ。圧倒される。その腰の重い力強さ、技の正確さに驚いたまま関川は試合終了間際にテクニカルフォールで敗れる。負けて悔しいんだけれど、それより驚いた気持ちの方が強くて試合が終わったときにはぼーっとするしかなかった。

▼63kg級、宮田の決勝戦はご当地、中国と。当然会場の声援は中国へのものばかり。イランやトルコでの試合と違って、びっしり満員の会場でないのが敵方としてはすこし楽かな。それでも独特のプレッシャー。宮田はプレッシャーをパワーに変えて、無事、五輪出場資格を獲得。

宮田、五輪確定の瞬間和田、五輪確定直後

▼69kg級、和田。階級アップというハンデがあったとはいえ、最終予選に賭けな ければならなくなるとは正直、想像していなかった。だって和田のレスリング、外人の試合と同じように面白いもん。決勝戦の相手は韓国。相手の腹を探り合いながら攻め時を伺う。闘うのに一番大事なことは、焦らないこと。2ピリオド目 に7ポイントを取ったところでほぼ勝利は確定的。決まった瞬間、皆がおめでと うと駆け寄る。取材があるのに自分も握手しちゃう。よかった。本当によかった。

▼85kg級の試合が始まって、ハデムの写真を撮らなくちゃ、と思うんだけど涙が出てしょうがない。いろんな顔を、嬉しかったり悲しかったり、リラックスしたり緊張したり、安心したり不安になったり。そのときどきに見た、和田のいろんな顔を思い出す。あんまりぐしゃぐしゃ泣いて鼻をかんだりしているものだからすっかり私はマットサイドで浮き上がる。(^-^;目の前では五輪最終予選決勝が進行中なのに。隣でビデオを撮っていたモンゴルの選手が「 Congratulation!」と親指を立てて言ってくれた。ありがとう。

タイマゾフにローリングされる小幡弘之(これはワダスペシャルじゃありません)▼なんとか平常に戻り、130kg級決勝。小幡弘之の相手はタイマゾフ(ウズベキスタン)。アジアの130にはないスピードで動く。この間までウズベキスタンの選手としては見たことがない選手。本当はどこに住んでいた人なんだろう?(^-^;ありゃ、ワダスペシャルしてるよ。こんなの卑怯だよ〜。アジアで出てくるなよ〜。ずるいなあ、と思いながらも試合が面白くて見とれていたり。(^-^;小幡弘之は最後のチャンスに五輪出場を逃す。

▼試合がすべて終了しても、五輪枠を日本が二つ追加した感傷に浸っている暇は ない。そう、取材をする人はここからが勝負。大会事務局からリザルトをもらう闘いが始まる。タイムが入った正式な結果表を欲しいと事務局に言えば「出ない」と言い張る記録係の下っ端にーちゃん。しつこく「どこの国へ行ってもタイムが入ったリザルトは出る。どうして中国だけでないんだ。通信社にも配信して世界中にニュースをとばすのに、困るじゃないか。」と脅すが効果なし。手に持って いる手書きの記録紙のコピーでよいからよこせというのだが、下っ端あんちゃん の返事は「コピー機がない。」このままでは引き下がれない。もらうまでは帰らねーぞと決意する。

▼手書きの記録用紙を持ったにーちゃんがPCのある記録整理のための部屋へ行 くのでしつこくくっついていく。おいおい、コピー機が1台、リソグラフが1台 あるじゃないか。やっぱり嘘をついていたか>あんちゃん。PCではリザルトを 打っているところ。PCにドットプリンタが接続されているのを確認し、じーっ としぶとく待ってリザルトのコピーをもらう。粘り勝ちだ!

▼部屋に戻ると、日本チームのコーチがリザルトを見せてくれと伝言が。今日の 結果をすぐに協会へファックスするためだとか。PCで速報のためのメールを打つ前に、チョコチップ井原の携帯へ国際電話。63の宮田、69の和田がオリンピッ ク決まったと一報を出してくれと頼む。むふふふふ。インターネット接続の人し か得られないとはいえ、通信社や新聞より早い第一報だぞ。(^-^)

▼速報の電話をしてからまたまた中華バイキングのレストランへ。小幡邦彦と和田が食べているテーブルに邪魔すると「東京の部屋、まだ引き払わなくていいんだあ。」と和田が漏らす。自分は何を食べても味がしない。嬉しくて、気持ちが浮ついちゃって。はやく全試合結果のメールを打たなくちゃ。空腹が満たされたかどうかもよく分からないまま食事を切り上げて部屋へ戻る。

▼リザルトを打ってメール送信し、続けて全選手のリザルトうちをしていると日本のHさんから電話。「おめでとう〜。セルゲイさん(・ベログラゾフ。元全日本コーチ。現ロシアコーチ)にすぐ電話したんだよ。『すぐに電話してきなさい』て言ってるから、和田くんに言っといて。」とな。じゃあ、と思って斜め向かいの部屋に行ってみるとラーメン作って食べ終わったところ。もうお腹空いたの?ときけば「一度にたくさん食べられないから、お腹空いちゃって。」セルゲイが電話してくるように、て言ってるよ、と伝えると「え〜〜、今すぐですかぁ?明日でいいでしょ。」と片手に鍋を持ったまま言う。はいはい、疲れたんでしょ。明日でもだいじょうぶだよ、たぶん。


→4 「カメラが壊れて青ざめる4月27日(木)」

【最終予選&アジア選手権特集目次に戻る】


レポート&写真:横森綾