98・11・20
WORLD MEGA-BATTLE TOUNAMENT'98

第1回FNRカップ Bブロック 1st ROUND

大阪府立体育館
 

第2試合 国別対抗戦Bブロック1回戦(10分1本勝負勝抜き戦)

グルジア(先鋒/タリエル・中堅/アミラン・大将/ザザ)

×オーストラリア(先鋒/ヒギンス・中堅/イッテンソン・大将/ヘイズマン)

(3−1)

 
グルジア
ビターゼ・タリエル
[200kg /145 cm]
0分22秒
フロントスリーパー
×
オーストラリア
ダニエル・ヒギンス
[178kg / 89cm]
 

「頭から攻めて3人抜きする」

 グルジアチームのタリエルは大会パンフレットにこうコメントを寄せている。現在ヘビー級チャンピオンで向かうところ敵なしの快進撃を続ける男の言葉であるだけに、奇妙に説得力がある。正直、軽量の選手が名を連ねるオーストラリア勢に死人が出るのではないか?と不安を起させるほどである。開会式で「先鋒・タリエル」と発表された時点で、客席からは大歓声。そのうちどれだけの人がパンフレットの言葉を知っていたのだろう?。だが、知ってる人にも知らない人にも、この時点で「3人抜き」の絵が何となく頭の中に浮かんできたであろう事は予想に難くない。

 いの赤のラガーシャツで入場したオーストラリア勢。片やバラバラの、まるでコンビニに買い物に行くかのようなリラックスした姿で入場したグルジア勢。国歌斉唱時にタリエルのアップし蒸気の上がる体が冷めないように、弟アミランが気づかう。レフェリーチェック時、ヒギンスは「対戦することを夢見ていた」(パンフレットより)タリエルの巨体を目の前に緊張した様子。ゴング前には手を合わせ祈りを捧げる。

 っきり言って、この試合でタリエルは何かをしたというわけではない。ヒギンスがローキックで攻めてもタリエルはまるで蚊が止まったかのような様子。タリエルが前進するとヒギンスが衛星のように周りを回りだす。回転しながら徐々にコーナー付近に近づくヒギンス。身の危険を感じたのか、何をすればいいのかわからない混乱状態からなのか、吸い込まれるように胴へのタックルに入るが、タリエルは余裕で首を掴む。そしてそのまま絞り上げて、ヒギンスはエスケープすらできずギブアップ。


 れだけの試合だった。まさしくヒギンスにとっては夢のような一瞬の出来事。驚きと何とも言えない笑いの混じった大歓声の中、タリエルは開場時のサイン会の時と同じ、あの涼しい顔に戻っていた。


 ギンスにとっては、いくら尊敬しているタリエルとはいえ、はっきり言って相手が悪すぎたとしか言いようがない。2週間前から来日し、滑川らとスパーリングを何度もしており、滑川もその技術を褒めていたほどである。過去空手を学びに来日した経験もあり、その時に日本語を学び、なかなか日本語も堪能であるという。タリエルも今回決してボコボコにするような戦い方はしなかった。まだ23歳と若い上、なかなか勉強熱心なようなので、しばらくは中量級で実力を付けていってほしいものである。


グルジア
ビターゼ・タリエル
[200kg / 145cm]
0分42秒
TKO
×
オーストラリア
トロイ・イッテンソン
[180kg / 89.5cm]
 前でヒギンスの公開処刑を見てしまったイッテンソンの顔には、かなりの緊張が感じられる。客席にもイッテンソンも同じ目に合うのではという不安と、片や秘かな秒殺への期待が入り交じる、奇妙な空気が漂っていた。

 ッテンソンはタリエルの足を掴みながら回転し、倒れる。上にのっかかったタリエルは、腕でイッテンソンの首を押さえ込む。それだけで技になってしまうのだから恐ろしい。イッテンソンは何とかエスケープ。もう後は無い。でも、何をすればいいというのだろう...。


 にかく、攻めるしかない。蹴りと掌底で有りったけの力を振り絞り、打開策を練ろうとする。しかし、一瞬だった。タリエルの掌底一発でイッテンソンは吹っ飛んでしまった。急いでドクターがリングに入る。「あと一人」、タリエルはまた例の涼しい顔に戻っていた。

 

×
グルジア
ビターゼ・タリエル
[200kg /145 cm]
1分25秒
TKO
オーストラリア
クリストファー・ヘイズマン
[187kg / 95cm]
 ンターバル中、どういうわけか中堅のアミランが花道を通って控室の方に戻っていってしまった。何か忘れ物をとりに行ったのか?。それなら大将でのザザに行かせればいいのに。タリエルの勝利を確信しての行動なのだろうか?

 すます「3人抜き」がリアリティを増して来たこともあり、客席のムードはさらに異様な雰囲気になってきた。ヘイズマンにはもう後がない。とにかく掌底から突入。タリエルもロー、掌底、膝で応戦。この時点で多くの観客はヒギンス、イッテンソンと同じような展開を予想しただろう。


 かし、ヘイズマンは耐えた。そしてなんと、タリエルの足元にさっと入り込み膝十字!。タリエルはエスケープ、場内は「大阪府立体育会館名物」フットスタンプで大盛り上がり。奇跡が起こるのか?


 リエルは掌底と膝蹴りで攻める。後がない、というよりは、さっさと片付けてしまおうという感じに映ってしまうのがタリエルの強さ。


 かし、また耐えた。そして、ヘイズマンは観客の声援に後押しされるかのように、タリエルの足を掴んで倒し、素早くバックに周りスリーパー。


 まった!。その途端この日最高の大歓声。ヘイズマンもまるでオーストラリアチームが優勝したかのような喜びようで、赤・青コーナーによじ登りガッツポーズ。控室から「何かあったの?」って感じでアミランが戻ってくる頃には、すっかり客席はオーストラリア勢、ヘイズマンの味方に変わっていた。


 

グルジア
ビターゼ・アミラン
[200kg / 132.5cm]
1分32秒
TKO
×
オーストラリア
クリストファー・ヘイズマン
[187kg / 95cm]
 ャンピオン・タリエルに勝ったとはいえ、これでヘイズマンの戦いは終わったわけではない。タリエルの攻めで既にかなりの消耗をしてしまったヘイズマンは、コーナーで入念に体力回復をしていた。相手はこれまたタリエルと変わらぬ巨体のアミランである。

 きなりアミランが喉への掌底で攻めると、ヘイズマンはダウン寸前のフラフラ状態。何とか立ったままの状態を維持するが、もうその時点でヘイズマンの体力は無くなっていたと言っても過言ではないだろう。アミランはヘイズマンの腕を掴んでコーナーへ軽々と押し込み、掌底のラッシュ。あわやKOかと思ったが、途中拳が入ったようで、レフェリーからイエローカードが渡され、1ロストポイント。ヘイズマンは判定に助けられたような形だが、既に猛烈な攻めを受けた後でグロッキー状態で、ここから何か打開できそうな雰囲気はもうない。


 合再開。ヘイズマンが倒れるようなタックルに入ると、アミランはそれを掴んで大車輪のような形で投げ、スリーパーに入り、エスケープポイントを奪取。もうヘイズマンに為す術はなかった。アミランの掌底が入ると、ヘイズマンはかなり重症のダウンでそのまま倒れこんでしまった。


 室に戻ってもずっと治療の続いたヘイズマン。しかし彼の頑張りは十分大阪の客に認められたようで、大きな歓声が送られていた。会場、テレビを含め、今回のヘイズマンのファイトを見た人は、ファンになってしまった人が多いのではないだろうか?。結局は圧勝に終わったグルジアチーム。何もしなかったザザの笑顔が、憎らしくもあり可愛らしくもあり...。


 

↑全試合結果に戻る  次の試合へ→

文章:井原芳徳  カメラ:井田英登
HTML編集:井原芳徳