鮮烈だった。

　ここのところ体格的なディスアドバンテージに逆らわぬが如く、ゆらゆらと、風になびく柳のような立ち振る舞いで若くしていぶし銀の雰囲気ばかりを漂わせていた國奥だったが、この日は恐くて強くて、そして華麗だった。

　まず、試合開始後すぐの打撃戦でも体の小さい國奥の方から圧力を掛けていく。テイクダウンを奪うが、グラウンドの展開には流れていかない。そのまま渡辺の脚をはたいて、立ったままサイドから掌底を振り下ろす。安易なサブミッション・レスリングには行かない。NHBのような緊張感と威圧感をもって攻撃を仕掛ける。が、闘う國奥の姿はもっとスマートな印象をこちらに投げかけてくる。その姿は、そう「ハイブリッド・レスリング」という造語が輝きを持っていた、あの頃のパンクラシストを彷彿とさせるようだった。

　昨年の１０月、國奥は「外道」（がいどう）に打って出る船木を破り、「本道」を守っていくためのバトンを引き継いだ。直後の石井戦では完封に近い判定勝利をみせたもののそ、今年に入ってのランキング戦ではデルーシアに敗北。加えて、同じく本道を守るべく指名された近藤は、メッツァーに敗れタイトルを奪えずに終り、１月の後楽園で長谷川を相手に秒殺勝利を飾った後、「ノー・ルールをやりたい」とコメントして”本道離脱”を示唆する始末。

　年明け早々パンクラス”本道”行く手には暗雲が垂れこめてきた。その危機的状況を見て、「もう、俺しか居ない」そういった思いが國奥の心に生まれてきたのではあるまいか。この日リングに上がった國奥からは何かを思い定めた人間が見せる独特のオーラが放たれていたように思う。この日の國奥が見せた闘いは、まさに”ハイブリッド・レスリング”としか呼びようのないものだった。

　しかし、対する渡辺大介も体格差と持ち前のパワーを生かして対抗していく。押されてばかりではない、不利な体勢を建て直し、國奥をロープ際に押し込んでリング下へ落としていく圧力を見せつける。ブレイク後の仕切直しでも、パワーだけでなく、國奥のお株を奪うように組み付いての引き込みから巴投げのような形で、上のポジションを奪おうとしていく。フロント・チョークに捉えられそうになるも、そのまま何度か回転を続けて極めさせない。

　ただ、やはり國奥の方が役者が上だ。サイドをとったり、フロントチョークを見せたりしながら終始上のポジションをキープし続ける。そして、再び離れて所謂“猪木・アリ”状態から渡辺の脚を激しくはらって、掌底を振り下ろしていく。そして隙を見ては立ったまま足首を捕らえ、アンクルホールドを狙っていく。そして、サイド・ポジションから腕を狙っていく。常に場面を考えて次の一手、次の一手をめまぐるしく変えていく。だが、それは安易にポジションをないがしろにしたサブミッション・レスリングではない。常に安全で優位な体勢を保ちながらのものだ。パンクラスのレスリングでありながら、いつでもNHBに打って出れる。そんな印象を与えてくる。

　最後は、サイドから上にまわって脚で首を捕らえ、上四方固めの様な体勢から腕を極めに掛かり、そのままがっちりとロック。意地でもタップしない渡辺だったが、レフリーが試合をストップ。最後まで強さと華麗さと見せつけた國奥が、一本勝ち。パンクラスの本道を預かる男が、きっちりとその形を見せてくれた。

（眞砂嘉明）

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