この試合、柳澤に勝利のための戦略があったのかは疑問である。開始直後、無造作に中途半端なローキックを柳澤は放った。先手を取ったつもりかもしれないがそれ自体が墓穴となった以上、無策を指摘されても仕方あるまい。なんと言ってもそのあとの、タナーの反撃がすさまじい。万力で挟み込むような首相撲から、膝っ！膝っ！膝っ！膝の連打である。それが止んだらバックをゲット！あっと言う間に柳澤には『負け』ムードが漂う。

　バックを取られた柳澤は苦肉の策、アンクル狙いで足元に滑り込むも、タナー落ち着いて足を引く。柳澤はガードポジションも取れぬまま、サイドポジションを奪われる。間もなくタナーはマウントにも成功し、掌底をエサにして肩固めの体勢に。あっというまにタナーはマウントを解いて、締めの形が完成。柳澤・万事休す！かと思いきや、思いっきりポイントがずれている。巻き込まれた柳澤の左腕は頚動脈を圧迫する位置にはない！まだ大丈夫・・・しかし、よく考えたら極まってはいないが動けもしない状態である。柳澤にもすることがない。柳澤が『どうしようっかなぁ〜？』と呑気にもじもじしているうちに、タナーは『こうかな？あれ？こうかな？』と角度を少しずつ修正していく。そのうちに巻き込まれた柳澤の左腕は、すっかりポイントにはまってしまっていた。

　タナーが闘ったパンクラシストの中で『一番イージーな相手』と言われても仕方がない内容だった。

（誉田徹也）

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