出だしこそ鈴木はあの両手を前にかざす構えで、渋谷の打撃をさばき、この日は積極的に組んでも行った。やる気は見えた。渋谷をコーナーに詰めて、膝を互いに出し合う。しかし、ここでは膠着ブレイク。

　事件は再開してもう一度同じ展開になった、そのときである。渋谷が組んだ鈴木を振り回す動きの中で、鈴木の右足を引っかけて倒そうとした。その動き自体は特別なものではなかったが、鈴木はそれで右股関節を傷めてしまう。すぐに倒れたわけではない。しばらくは苦痛を顔に浮かべながらも組み合っていた。やがてロープ際に鈴木が下で倒れ込み、サイドから渋谷がアームロックを狙う。じりじりとアウトサイドに逃げる鈴木。ようやく迎えたアウトサイドブレイク。しかし、鈴木はすぐには立てずにダウンを取られる。カウントの進む中、ファイティング・ポーズは取るものの、ちゃんとは立ち上がれない。

　結局はレフェリー・ストップで渋谷の勝利。正式な診断内容はその時点では不明だったが、このところの怪我続きに不穏な物を感じているファンは少なくあるまい。格闘家という職業を選んだ以上、五体満足でリングに上がるというのは実際問題難しいのだろうが、ファンはそうしたハンデを折り込んでまで試合を見にくるのではない。コンディション調整もプロの仕事の大切な部分のはず。今の鈴木には体調を万全に戻すことで、ファンにプロの凄みを感じさせる義務がある。出来ないのであれば、そこでリタイアもやむなし、その覚悟を見せてほしい。

（誉田徹也）

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