
「これからは世界の強豪とどれだけ戦えるか、自分の力を試したい」
そう言って修斗ウェルター王座を返上してから三カ月、沈黙を破ってついに宇野がオクタゴンに姿を現した。今回の相手は、これまで対戦を熱望してきたジェンズ・パルヴァー。まさに世界に向けて再デビューを飾る相手として不足はない。それだけではなく、宇野の実績を認めたUFCは、新設されるUFCバンタム級王座の初代王者認定を掛けた。
まさに立場は一昨年の6月佐藤ルミナとの初戦の条件に近い。「特にUFCだからということは意識しないで楽しんで戦いたい」と語った宇野。だが、これまでUFC戦線で破竹の勢いを見せ4戦3勝1分、そのハードパンチで「破砕機(パルヴァライザー)」と呼ばれる男はあまりに手ごわい相手だ。
その強力な右のフックを警戒してか、とにかく宇野はフットワークを使って広いオクタゴンを動き回る。パルヴァーのパンチの制空圏に入らない為の作戦だ。距離を詰めたいパルヴァーとの鬼ごっこが続く。宇野は時折速いローを出しながら、距離を開け、素早い低空タックルでテイクダウンを狙う。しかし、パルヴァーも少年時代からレスリングのトレーニングを積んでおり、宇野のタックルへの反応は早い。抱きついてくる宇野のボディに強力なパンチを連続でぶち込んでいく。粘る宇野は二度目のチャレンジでパルヴァーの腰を折るようにして引き倒し、なおも逃げようとするパルヴァーのバックを制して一気にスリーパーに持ち込む。だが、パルヴァーはカメになりながらも片腕を脇でとり、背中の宇野のポジションを安定させまいとして動く。胴締めに持ち込めず不安定に背中にぶら下がった宇野のパンチに耐えながら、パルヴァーは立ち上がり、最大のピンチをしのいだ。

その後も距離を稼ぎながらタックルを繰り返す宇野と、それを受け止めてつぶし離れ際の素早いパンチで撃退しようとするパルヴァーの、一瞬も気の抜け無い緊迫した攻防が続く。だが、パルヴァーは少ないチャンスに着実に宇野の顔面をパンチで捕らえポイントを稼いでいく。分かりやすい攻防を望むアメリカの観客にはこの神経戦がなかなか伝わりにくいようで、ファンはブーイングを漏らすが、宇野もパルヴァーもこの緊迫した戦いを5ラウンド戦い抜き、最終ラウンド判定に持ち込む。
3人のジャッジのうち2者が、スタンドに勝りアグレッシブな攻めを見せたパルヴァーに票を入れ、1者が決定的なポイント差を認めず引き分けを示唆。したがって2VS1で、新王座はパルヴァーの頭上に輝いた。宇野は破れたものの世界最高峰の実力に見合う攻防を見せ、その潜在能力と抜群の運動能力とスタミナを世界の舞台で証明したといえるだろう。