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Report
 
リングス 99.9.15 "BATTLE GENESIS Vol.5" 後楽園ホール
 

世界最強、再び

- オープントーナメントの可能性について -

山名尚志

 
前田日明 金総額50万ドルのオープン・トーナメント。
 リングスが、「前田以降」という難しい問いに対して示した一つの回答である。ルールは、エスケープなし、ダウンカウントなしの一本勝負。オープン・フィンガー・グローブを着用してのスタンドでのパンチ攻撃も認められている。
 グラウンドでの顔面打撃の禁止とロープブレイクの存続という点では、従来のリングス・ルールがそのまま残っている。だが、全体としては、相当に「総合格闘技のデファクト・スタンダード」寄りになった、ということができるだろう。特に、一本勝負の規定は、今まで他流派の選手がリングス・ルールに対して抱いていた最大の違和感をなくすものであり、ルール面でのオープン性を代表するものである。
 
 この「賞金マッチ」に、リングスは、「King of Kings」という副題を付けた。加えて、最近、一時使われなくなっていた「世界最強の男はリングスが決める」というスローガンを復活させている。
 様々な国の、様々な格闘技のリング、という意味の名称を選び、オランダ、旧ソ連と、今まであまり日本の「プロレス界」が接触していなかった国々から、キック、サンボ、レスリングなど、様々な分野の格闘家達を招聘してスタートしたリングス。国内では正道会館とも提携し、「格闘家が集う場」として大いにアピールした。
 「世界最強の男はリングスが決める」。これは、まさにその時代の混沌とした雰囲気を映し出したスローガンだった。
 
 しかし、正道会館との提携の解消、UWFインターナショナル及びパンクラスに対する呼びかけの不発と、その後のリングスは、一気に外への拡大の芽を失ってしまった。そこにもってきて、新たな総合格闘技のデファクト・スタンダードとしてのバーリ・トゥードの来襲。
 リングスが「内にこもった」感があったことは否めない。
 勿論、進化がなかったわけではない。選手の粒が揃ったし、試合のクオリティも上がっていった。「競技としての進化」は着実に行われていったといっていいだろう。
 だが、様々な強豪がひしめき合うびっくり箱のような「混沌」は失われてしまった。それと共に「世界最強の男はリングスが決める」というスローガンもまた使われなくなっていった。
 
 代は変わった。
 U系という概念も、また、それを実体として支えていた「複数エスケープとダウンの取り合い」を中核としたルール体系も、共に、一般性をなくしつつある。リングスにおいても、パンクラスにおいても、ポイント制の縮小、廃止が、何の疑問もなく、受け入れられている。かつて、打撃系の選手からの要望により、15もエスケープが許されていたことを考えると、まさに隔世の感が強い。
 代わりに登場したのが、バーリ・トゥードという世界観であり、それを噛み砕き、消化して生まれつつある「スポーツとしての総合格闘技」の共通ルールである。そして、これを土台に、UFC、バーリ・トゥード・ジャパン・オープン、そしてPRIDEと「世界最強の男を決める」舞台が様々に登場してきた。
 今回のオープン・トーナメントは、この世の中の流れへのリングスとしての本格参入宣言と受け取っていいだろう。内向きの競技の時代から、再び、オープン且つ混沌とした「世界最強の男はリングスが決める」路線への舵取りである。
 
前田日明 問題がないわけではない。
 グラウンドでの顔面打撃なし、という「ヨーロピアン・スタイル」は、果たして、今受け入れられるものなのか。ストップ・ドント・ムーブを採用せずとも構わないのか。
 そして、何より、本当にリングス・ネットワーク外の「強豪」が参戦してくるのか。
 前田日明代表取締役は、近頃、土壇場でのキャンセルの事例が多いことを理由に一切具体的な名前は出さなかったが、既に6〜7名の有力選手に内諾を得ていると語った。「近々、大物の発表ができると思いますので、期待して待っていて下さい」。
 リングスが、団体ではなく、世界最強の男を決める「場」となりうるかどうかは、最終的には、その外交手腕にかかっている。


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カメラ:井田英登