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Report

キングダム・エルガイツ "ライト級チャンピオントーナメント"
平成13年5月2日(水) 東京・北沢タウンホール 観衆:300人(満員)

「西良典、負傷欠場で入江戦中止。ライト級新王者、突然の引退宣言」

レポート&写真・井原芳徳

▼5月2日(水)開催されたキングダム・エルガイツ北沢タウンホール大会は、団体のエース兼代表・入江秀忠にとって頭の痛いアクシデント続きの興行となった。

 メインイベントは「入江対ヒクソンと戦った男Vo1.1」と銘打たれ、94年のバーリ・トゥード・ジャパンでヒクソン・グレイシーと日本人として初めて闘い敗れた西良典(和術慧舟會総本部西道場・左写真)が入江と対戦するカードが組まれていた。だが西が直前の腰痛症でドクターストップがかかり欠場。入江が自信を持って用意したカードが中止となってしまった。西は同大会のライト級トーナメント一回戦の途中に来場し主催者席でキングダムの試合を観戦。準決勝終了後にリングに登り挨拶した。「10日前に腰を痛めてしまいました。三日ほど様子を見たのですが、1週間前にキングダムに連絡したんですけど、会場に来て挨拶してくれと言われて、やってきました。ようやく普通に歩けるようになったのですが、ちょっと試合のほうは、ご迷惑をおかけしました。また別の形で別の会場でお会いできれば幸いだと思っています」と欠場の事情を説明した。

 西の欠場を受け、入江は急遽'00全日本アマチュアキングダムヘビー級準優勝の栗原強と対戦。だが西戦に向け体調を整えてきた入江と突然の出場となった栗原の差は歴然。栗原をあっさりテイクダウンしサイドポジションでがっちり押さえ込み、パンチ、アームロックで次々エスケープポイントを奪い、最後はニーインザベリーの状態でパンチを連打し栗原がルールで許される最後のエスケープ。入江が危なげなく完勝した。

 勝った入江はマイクを持つが、いつもに増して顔から悲壮感がにじみ出ている。主催者席の西良典を見据え、叫ぶ。「西先生、今日は長崎から腰痛の中来ていただき、ありがとうございました!。僕はいつでも闘う用意はできてますので、西先生、腰が治ったら、ぜひ対戦をすることを、これまでのファンの前で、言って下さい!。お願いします!」。それに対し西は何か一言つぶやく。だが音響設備の悪さと西の低い声という条件が相まって、観衆には何を言ったのかがはっきり伝わらず、しばし当惑した雰囲気となる。だが入江はこの時、西が『うるさい』と言ったと解釈したといい、沈黙の後、話し始める。「みなさん、木村(浩一郎)戦、山本(喧一)戦に続き、期待を裏切ることになるかもしれません。だけど、最後の...どうもすみませんでした(涙声)。今日はどうもありがとうございました!」。BGMが流れ始めると、入江の絶叫マイクアピールに火がつく。「総合格闘技は、野球とか、サッカーとかに比べて割に合わない職業かもしれないけど、だけど、今だからこそ、こんな時代だからこそ、そんな損得勘定抜きで、生きてる若者が、このリングで闘ってもいいと思います。このリングは絶対メジャーなリングにします。よろしくお願いします。何があっても、あきらめないことだ!。そうすれば必ず名前は残る!今日はどうもありがとうございました」。西は入江のアピールを微動だにせず聞いた後、そのまま何も言わず会場を去った。そのため西が入江に対して言った一言、欠場の経緯や今後の対戦予定について詳しく確認ができなかった。過剰に熱くなる入江に対し、激戦を闘い抜いてきた45歳・西のベテラン格闘家としてのプライド、昔ながらのガンコ親父的気質の感じられる一幕だった。入江はこの日のマイクアピールのように一方的に熱くなることはなるべく慎んで、あせらず、再戦の交渉を進めて欲しい。入江はこれ以上遺恨を積み重ねてはいけないと思う。

 なおこの大会は新設のライト級王座を賭けて争う8人トーナメントがもう一つの目玉だった。中でも本命はキングダムに入団したばかりの小見川和隆(上写真)。柔道19年3段の実績を誇り、2000年東日本アマチュア修斗準優勝、今年2月開催されたキングダム主催の第1回オールジャパンリアルファイティングトーナメント優勝の実績を持つ。小見川の素質については入江も絶賛しており、まさにライト級のベルトは小見川のために用意されたような物だったのだが、準決勝で烏合会の町田生五月(おさみ:右写真右)に敗戦。減量ミスがたたって5分すぎからスタミナ切れし、最後はスリーパーに沈んだ。「バック取られた時に、スリーパーが来るってわかってたんですけど...。(試合時間の)10分は長いですね。スタミナ付けないと。入江さんに期待されてますけど、まだまだ自分は弱いです」とガックリした様子だった。

 
 反対のブロックではキングダム・ライト級の重鎮・和知正仁(右写真右)が奮闘。準決勝で引き込む瞬間に片腕を絡めて肘を極める「コムロック」で勝利した。現役トップ柔道家でコンテンダーズの出場も決まっている小室宏二の柔術技を、烏合会との練習の中で習得したという。かけられた館智行によると忍法体術の「武者捕り」にあたると説明。テクニシャンぶりを見せ付けた和知と、ひょうひょうとした動きにインパクトのある町田の決勝に期待が集まったが、和知が町田の腰に足を絡めて抱きつき、コーナー付近で膠着する展開が繰り返されてしまう。結局和知がサイドポジションによるヒットポイント、フロントチョークによるロックポイントで計2ポイントを獲得し判定勝ちし、ベルトを手にした。だが和知の顔に喜びは見えない。マイクを持つと、またも衝撃の発言が聞かれる。「自分ですね、プロに上がっても面白い試合ができないんで、今日で引退したいと思うんですよ。このベルトを返還してですね、またトーナメントやってもらいたいと思います。悪いですけど、ありがとうございました」。和知、突然の引退宣言。観衆が唖然とする中ベルトを返上し、リングを去ってしまった。これには入江もバックステージで「プロなんだからちゃんと挨拶しろ!」と怒っていたが、和知の事情を知るためか、厳しさはあまり感じられない。和知が記者に囲まれ話し始める。

「勝ったともあんまり思ってないんで。この団体にいたから勝てた感じなんで。ほんとは12月30日に入江さんに引退するって話をしてたんですね。その理由はうちの親父が死んでしまったんですよ。だからあんまり格闘技とかも練習できないんですよ。今アルバイトで生計立てているような状態なんで。ほんと、オフクロだけなんでね。自分がしっかりしなきゃなんないってことで。今回もこれで(引退)ってことも(入江に)言っといたんですけどね、ベルト取れると思ってなかったんで。小見川さんが取ると思ってたんですよ。それが正直な感想なんで。それと試合内容もいつもやって思うんですけど、あんまりもう、アマチュアみたいな試合が多いんで、考えた末、引退させてもらいたいと。今日も(引退を)言わないつもりだったんですけどね、今日の試合内容もあんまりパッとしないし、ここらで区切りつけようと言ったんですけどね。(お父さんが亡くなられたのはいつ?)3月17日なんですよね。12月30日に急に倒れて、いったん持ち直したんですけどね、院内感染で肺炎になっちゃって、それで急にだったんですよね。本当なら今年1年やって引退ってことだったんですけどね。色々家庭の事情がありまして。オフクロも70で、今までも色々我がまま言ってきたんで、潮時じゃないかと。体力的にもキツいんでね。(コムロックは?)小室さんが柔術で使ってた技で。烏合会で練習してていろいろ聞いて覚えて。運良くかかっただけだと思うんです。まあアレがかからなかったら、また判定だったと思うんですね。そんな感じっすかねえ。」

 あまりに切ない「優勝コメント」だった。西の負傷欠場によるメインイベントの中止、トーナメント優勝本命と見られていた小見川の準決勝敗退。真剣勝負の舞台なのだから、どちらも起こりうるアクシデントだったとはいえ、これらが重なったことも和知のコメントの悲壮感を増幅させていたようだった。



<ライト級トーナメント>

第1試合 一回戦:5分+延長3分
○小見川和隆(キングダム・エルガイツ)
×松藤裕晴(和術慧舟会本部西道場)
エキストラポイント1:0

第2試合 一回戦:5分+延長3分
○町田生五月(烏合会)
×広瀬和哉(IMN)※アマチュアバウト出場選手の中から選抜された選手
エキストラポイント1:0

第3試合 一回戦:5分+延長3分
○館 智行(フリー)
×八島建一(真武館)
延長エキストラポイント2:0(本戦エキストラポイント1:1)

第4試合 一回戦:5分+延長3分
○和知正仁(キングダム・エルガイツ)
×佐藤 力(EVOLUTION)
延長ジャッジ裁定

第5試合 U系柔術青帯取得マッチ
○岩村篤(入江部屋)
×藤井徹(湘南格闘クラブ)
ポイント3:0

<準決勝:10分+延長3分>

第6試合 準決勝:10分+延長3分
○町田生五月(烏合会)
×小見川和隆(キングダム・エルガイツ)
8分38秒 チョークスリーパー

第7試合 準決勝:10分+延長3分
○和知正仁(キングダム・エルガイツ)
×館 智行(フリー)
25秒 コムロック

第8試合 準決勝:10分+延長3分
○入江秀忠(キングダム・エルガイツ)
×栗原 強(非公開)
4分58秒 TKO(3エスケープ)

<決勝:15分+延長3分>

第9試合 決勝:15分+延長3分
○和知正仁(キングダム・エルガイツ)
×町田生五月(烏合会)
エキストラポイント2:0
※和知が優勝しライト級王者になるも即返上。

<トーナメント参加選手経歴>

■松藤裕晴
S53年4月6日生 22歳 165om65kg 和術慧舟会本部西道場
アマ修斗、アマ・コンテンターズ、バーリートゥードオブJ広島参戦8戦4勝2敗2分け(11秒チョークスリーパ含む)
■小見川和隆
S52年5月29日生 身長172cm 体重64kg キングダム・エルガイツ
第1回オールジャパンリアルファイティングトーナメント優勝、2000年東日本アマチュア修斗準優勝、柔道19年3段
■町田生五月
S45年5月5日生 170cm65kg 烏合会
00年アマチュアキングダム選手権ライト級優勝。
■八島建一
170cm 65kg 真武館所属
99、全九州空手道選手権 総合格闘空手軽量級優勝
00、全日本格闘技選手権軽量級3位。
■館智行
166cm65kg フリー
00、スポーツ柔術ライト級優勝、柔道2段
■佐藤力
S48年生28歳 168cm65kg EVOLUTION
00年全国社会人オープンレスリング58kg級優勝、アマチュアリングス軽量級優勝
レスリング10年3段、柔道9年初段
■和知正仁
S45年1月17日 164cm 65kg キングダム・エルガイツ
第4回コンプリートファイトライト級優勝。第9回コンプリートファイトマイナートーナメント優勝。レスリング3段柔道2段

レポート&写真:井原芳徳

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