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Report

MA日本キックボクシング連盟 「COMBAT-2000 王道 II」
2000年9月3日(日) 東京・後楽園ホール

第13試合 メインイベント 70kg契約/5回戦 
WMAF世界S・ウェルター級王者
伊藤隆
(山木)
4R 2分19秒

TKO
WAKOヨーロッパミドル級王者
イリン・ビタリ
(ロシア)
×

 当初伊藤と対戦予定だったタイのチャナペック・ガッティンディが「身内の不幸」の為に試合一週間前になって欠場。急遽代役としてロシア人キックボクサー、イリン・ビタリがリングに上がった。
 ビタリはWAKOヨーロッパミドル級王者の肩書きを持つ29歳。戦績は17戦して12勝4敗1分。12勝のうち10のKO勝ちがある。ちなみにトランクスには「掣圏道」の文字が。いかにも急なオファーだったのだろう、ビタリのボディはグッドシェイプからほど遠いものだった。

 1R、伊藤が左ストレートから左ミドル、そして右のインローと得意の攻撃パターンで様子を伺うと、ビタリはジャブを軽くのばしつつ後退気味にサークリング。時折、前蹴りやローに合わせてカウンターの右ストレートを放つ程度。ラウンド終盤、伊藤のミドルを掴むと残った足を刈り、派手な音をたてて倒してみせる(この辺の攻撃はいかにも掣圏道的)。さらにもう一度これを試みるが、伊藤ロープを掴んでこらえてみせる。

 2R。相変わらず前に出てこないビタリに対し伊藤はミドルの連打で圧力をかけるが、ロシア人はブロッキングやステップバックでこれをかわし決定的なダメージはもらわない。淡々とした雰囲気のままラウンド終了。

 3R、「このラウンドで決めようと思った」伊藤が攻勢に出る。ワンツーミドルで前進すると肘を飛ばし、さらに首相撲にとらえて膝蹴り。ビタリはミドルをとって倒すしか攻め手がない。たたみかける伊藤、左ハイキックをヒットさせるがこれは倒れず。ジャブを出しつつ下がるビタリを追い込んで首相撲、そして肘。ブレイク後ビタリ苦し紛れだが重そうな右ストレート、そしてテンカオで一瞬逆襲するが伊藤はフックの連打からミドル、肘とたたみかけて追撃を絶つ。このラウンドは明らかに伊藤のポイント。

 ここまで観客も、そして伊藤自身にも何とも言えないフラストレーションの溜まる展開だったが、4Rが1分ほどたった頃に異変が起こる。伊藤が押し込んでいったところビタリが転倒、そこに伊藤のローがモロに鳩尾めがけてヒットしビタリ悶絶、当然伊藤に減点一が課された。あまりにも強烈な一撃にリングサイドは「故意なのでは?!」と色めき立ったが伊藤は「アレは流れによるもの」と説明。ビタリにも謝罪しともかく回復を待って試合は再開された。
 そこからの伊藤はまるで人が変わったようだった。怒濤のパンチ連打でコーナーに押し込むとラッシュ、力任せに左フックを二発、三発と叩き付け強引な膝を入れるとビタリそのままずるずると崩れ落ちるようにダウン。このときの伊藤の形相は数分前の彼とは完全に別人、再開後もまだ伊藤の変貌にとまどったままのロシア人に殺気だったパンチと膝の攻撃でダウンを追加し、三度目のダウンと同時にセコンドがタオルを投入、TKOで試合は決着した。

 試合後、伊藤自身の口から愛媛大会で足を痛めたのが完治していないのに加え、練習中に背中の筋肉を痛め、炎症を起こしたため二週間満足に練習が出来なかったことが知らされた。KO勝ちにも「今日の出来は50点」と語り、11月に計画されているK-1の中量級大会の話題を振られても、「まずはチャナペックとやってから」とつれなかった。

 この試合の伊藤は明らかにいらだっていた。満足なコンディションで試合に臨めなかった自分自身に対して、試合直前に(理由があったとはいえ)キャンセルしたチャナペックに対して、代役出場とはいえ消極的な試合に終始したビタリに対して、そしてそんな相手に思い通りに運べなかった試合展開に対して。

 しかし、あえて言うがこの日の伊藤は魅力的だった。もちろん倒れた相手への攻撃という反則は誉められたものではないが、その直後の殺気だった表情とそこからの鬼気迫る攻撃にはゾクゾクさせられた。これまでは常にクールな試合運びを見せていた伊藤の新しい一面を見た気がする。
 しかし出来ることならば、この日本中量級のエースに、今後もふさわしい舞台と対戦相手が与えられることを強く願う。

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レポート新小田哲

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