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Report
k1 99.12.5 K-1 GP'99 決勝 東京ド−ム
 
メインイベント トーナメント決勝 3分3R 
× ミルコ"クロコップ"フィリポビッチ
(クロアチア/ボクシング)
3R 1'09"
KO
(左ボディフック)
アーネスト・ホースト
(オランダ/キック)

ホースト、怒りとプライドの完全復活


  ず間違いなく立ち技格闘技において世界最高峰と思われる8名が1日で3試合を消化するK-1GP。潰し合いの果てに決勝に昇ってくる選手が無傷の方が稀であろう。
 フィリポビッチは武蔵戦で痛めた左肋骨をグレコ戦で完全に骨折していた。一方のホーストも右脛にダメージを負い、得意の右ハイが出せない状態に陥っていた。
 しかし試合場に入場する両者の表情からはそのことは伺えない。フィリポビッチは準決勝の退場の際に若干どこかを痛めたのかと思われる素振りがあったが、決勝の入場時にはいつもの鉄の面のようなポーカーフェースに戻っていた。ホーストに至っては準決勝のレ・バンナ戦の興奮をまだ引きずっているのか、リング上の表情にはいつも沈着冷静なホーストらしからぬ「勝ちに行くぞ」という気迫がみなぎっている。


Round 1
  開始早々にホーストが見せた右のハイキックには、殆どハイが使えない状態であることをカモフラージュするような意味もあったのかも知れない。

 このラウンド、先に仕掛けるのは常にフィリポビッチの方。左右のフックからハイに繋げる得意のコンビネーションで積極的に前に出る。ホーストは両腕で顔面を包み込むようにガードしながら後退するが、決して相手の攻撃を見切っているといった余裕のある動きではない。フィリポビッチのパンチが顔面を捉え、体勢を崩しかけるシーンもあった。

 しかし先の開幕戦での対マイク・ベルナルド戦以来、一気にメジャーシーンにその名を知らしめたフィリポビッチのパンチ、ハイの怖さは、対戦する各選手に充分な警戒を抱かせるものになっている。ホーストはこのラウンド中両腕は殆ど顔面のガードに専念させ、左右のローをカウンターに使ってフィリポビッチの動きを徐々に麻痺させることに注力した。

(フィリポビッチ-ホースト:10-10、10-10、10-10)


Round 2
  このラウンドも開始直後に一発だけ右ハイを放ったホースト。R1とは一転して、このラウンドはホーストがジリジリとプレッシャーをかけてフィリポビッチを後退させるような展開に切り替わった。卓越した精神力、集中力を見せるフィリポビッチといえど、さすがにここまでのスタミナ消費とダメージの蓄積には抗いがたかった様子で、R1同様両腕でガードを固めて踏み込んでくるホーストに対しR1の時のようなコンビネーションを見せることが出来ない。

 完全復活したMr.パーフェクトは既に戦法のシナリオを書き上げたか、徹底した右のローでサウスポーであるフィリポビッチの奥脚(左脚)を叩き続ける。ホーストがハイ・キックを殆ど使えない状態になっていることは、この時点で周囲には判っていない。そのため「ややローにこだわり過ぎているのでは」という印象を受けていたが、事情を知った今となっては、自身の体調まで織り込んで戦略を立てるホーストの戦略家ぶりには感嘆を覚えざるを得ない。

 一般に前脚へのローに比べて奥脚へのローはディフェンスやカットが難しいが、攻撃する方も奥を蹴るためには相手と密着する距離まで踏み込まなければならないため、リスクも大きく使用するには技術が要る。特に相手がサウスポーだと距離感の掴み方がオーソドックス・スタイルの相手とは異なるため、充分なタイミングのトレーニングが必要だ。
 K-1随一のテクニックを持つと言われるホーストなればこそ、とも思われた自在な右ローの使い方だったが、実はホーストはヨハン・ボス会長から「準決勝はバンナ、決勝はフィリポビッチになるだろう」と言われ、初戦のアンディ・フグと合わせて全てサウスポーとの対戦になることを予想して対策に取り組んできていた。
 この右ローの効果がラウンド後半にはっきりと顕れる。フォロスルーの効いた鉄棒を振り落とすようなホーストのローを受けるたびにガクリとフィリポビッチの身体が揺らぐ。

(フィリポビッチ-ホースト:9-10、10-10、9-10)


Round 3
  いよいよ最後のラウンドだ。単にこの試合の、ではなくこの1年間のK-1戦線の締めくくり。全てはこの最後のラウンドに向かって流れ続けてきた。そこにたどり着けるのはたった二人、そして試合後に残るのはその内の一人。

 ホーストが距離を詰める。既にフィリポビッチには反撃する力は残っていない。一度、二度とホーストがボディへの右ストレート。「(フィリポビッチが肋骨を痛めていたことは)知らなかった。考えていたより簡単に倒れたので、ちょっと驚いたくらいだ。」ポーカーフェースが初めて苦痛に歪む。
 肩で息をしながら立ち上がってファイティング・ポーズを取ったフィリポビッチにホーストが迫る。だがホーストは詰めを焦ってはいない。必死に前に出るフィリポビッチに対してはむしろ自分の方からステップバックして、自分の攻撃を有効に加えられるポイントを探っているような動き。
 そして再びホーストが出た。右フックから右ロー、フィリポビッチがガードを固めて亀になる。右からの攻撃に警戒を集中して左ボディが空くのをMr.パーフェクトは見逃さない。見事な左ボディがレバーにめり込みマウスピースを吐き出してリングにうつぶせるフィリポビッチ。「...8,9,10!」場内の観客が一体となってカウント・アウトを数える大合唱、それはこの1年余り体調不良から苦難の道を歩んできたホーストが、2年ぶりに王座に戻ってくることに対するファンの歓迎のもてなしに聞こえた。


 
  岡のK-1予選では、決勝進出は確実と言われながらMr.タフネス、ジャビット・バイラミにまさかの敗戦で大阪開幕戦への切符を逃しかけたフィリポビッチ。しかし石井館長推挙枠から戦列に復帰する幸運にも恵まれ、あのベルナルドを戦慄KOで沈めて今日の決勝大会に進出、あれよあれよという間に決勝戦まで進んであと一歩の所まで辿り着いた。そのことに対しては、フィリポビッチも「満足している。」
 96年にミルコ・タイガーとしてK-1に参戦した時には(この時もホーストに敗戦)、正直言ってそれほど印象に強く残る選手ではなかった。それから比較すれば、今年1年もっともK-1界で躍進を遂げたのはフィリポビッチだった。
 優勝まであと一歩だったわけだが、いつか優勝の栄冠を自分の頭に載せる日は来ると思いますか、という質問には、フィリポビッチらしい口数の少なさで、だがまるでお天気の挨拶でもしているような平然とした口調で一言。「そう思います。」
 なるほど、やっぱり自信も並々ならぬ選手ということ。やはりK-1のファイナリストはこうでなくてはいけない。

「昨年体調を崩してからは、復調は無理だとか、年齢的に限界だとか、色々言われて、私の試合はテレビでも殆ど放映すらして貰えなかった(おそらく大阪大会での対バイラミ戦のこと)。こうした一連の扱いに対して発憤したことが優勝の原動力になった。」

 優勝直後の晴れやかな気分であり、また紳士ホーストらしく、そこには「怒り」の表情は見られなかったが、この大会まで彼を支えたのがそうした怒りの感情であったことを、ホーストは何度か口にした。
 試合後のインタビューの際にどのファイターに対しても感じられるのが、彼らが自分の闘いに対して非常に高いプライドを持っているということだ。その誇りを傷つけられたホーストが、この1年間臥薪嘗胆の思いでトレーニングを続け、再び体調と技術を取り戻してこの日に臨んだことが、言葉の端々に滲み出す。
 来年も優勝しますか?「もちろんそのつもりだ。私は日本に勝つためにやってくる。一度だって負けても構わないなんて思ったことはない。来年もそのつもりだよ。」

(高田 敏洋)


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取材:高田敏洋、中村直子  写真:井田英登

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