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Report
 
k1 99.10.3 K-1 GP'99 開幕戦 大阪ド−ム
 
第8試合 K1 ル−ル3分5R 
ピーター・アーツ
5R フルタイム
判定
(3-0)
ロイド・ヴァン・ダム
×

帝王、過去からの刺客を返り討ち


 
 の試合が初対決でありながら「遺恨試合」と言われる由縁については、もう語るまでもないだろう。「アーツの弱点は知り尽くしている。」と豪語するトム・ハーリック会長から秘策を授けられたヴァン・ダムが、果たしてその言葉どおりアーツ食いの大金星を上げるかどうか。誰がどうやっても勝てそうにない鉄壁の強さを誇る帝王アーツに、本当に噂されるようなローキックに対する弱点が存在するのかどうか。

round1
  々優れたローキックの使い手であるヴァン・ダムだが、やはりこの試合では普段以上にローを狙っている印象が強い。特にコンビネーションが交錯した際には、ヴァン・ダムは必ず最後に自分のローキックで一連の攻防をフィニッシュすることを意識しているようだ。だがアーツもこうしたヴァン・ダムの作戦に意地になって付き合うような行動は取らず、ステップインして攻撃を仕掛けた後は素早くステップアウトしてヴァン・ダムのローの距離から離脱する、ヒット・アンド・アウェーの動きを見せる。アーツが再三に渡って「行くぞ、行くぞ」というプレッシャーを掛けるのだが、ヴァン・ダムは全く下がる様子はなく、正面からの打ち合いを堂々と挑んでいく。
 アーツのパンチやハイキックはヴァン・ダムの堅いガードに阻まれたが、ミドルとローはいくつか効果的なものがヒットしていた。だが同様にヴァン・ダムのローもアーツの重心をぐらつかせるほど効果的なものがいくつかあり、展開的にはこのラウンドはほぼ互角だ。

(アーツ-ヴァン・ダム:10-9、10-10、10-10)


round2
  ラウンド開始と同時にアーツが仕掛けた。パンチの連打から得意の右ハイ。ヴァン・ダムは辛うじてこれを左腕一本でブロックするが、ブロックの上からでも頭蓋骨に響きそうな蹴りだ。続いて踏み込みながらの右膝がヴァン・ダムの顎を掠める。これに対してヴァン・ダムは右ローを返して応戦。とにかくヴァン・ダムの戦法はこの右ローによる反撃に絞られている。このヴァン・ダムの右ロー、上体を前に移動させながらその体重移動を脛に乗せて上から叩き落とすような、どちらかというと空手の下段蹴りに近い蹴り方だが、この蹴り方は骨にまで響くような重さがあって繰り返し貰うと脚が動かそうとしても動かなくなっていく。このローのプレッシャーは帝王アーツをも脅かす破壊力充分。徐々にアーツは前脚にダメージが溜まっていっている印象だ。
 アーツのハイキックとヴァン・ダムのローキック、双方それぞれに見所があって、筆者はこのラウンドもイーブンかと感じたが、ジャッジの内2人はアーツの攻勢を取った。

(アーツ-ヴァン・ダム:10-10、10-9、10-9)


round3
  ヴァン・ダムの徹底した前脚へのローキックを、アーツが嫌がっている様子が伺える。アーツの側からもコンビネーションで鋭いボディやパンチが幾度となくヴァン・ダムに食い込んでいるのだが、ヴァン・ダムは全く下がる様子がない。「サンドバックみたいな身体で、どれだけダメージ与えても倒れない。頑丈な奴だな」というアーツに対し「子供の頃から殴られたり鍛えられたりしてきたから、相手の攻撃を吸収するように身体が出来てるんだ」とヴァン・ダム。
 アーツのパンチにヴァン・ダム右ロー、膝蹴りにも右ロー、ローを蹴られればこれまた勿論ローで反撃。よく見れば前に出ているのはヴァン・ダムで、後退しているのはアーツの方だ。といっても決して押し込まれている訳ではなく、ある程度距離を保って闘おうとする戦略的後退ではあるのだが、なるべくダメージを負わずに東京に駒を進めたいアーツと、トーナメントを度外視してアーツ崩しに全精力を傾けるヴァン・ダムの、意識の差がこのあたりに出ていたということだろう。
 それにしてもここしばらくアーツとこんな風に互角に渡り合える選手というのは目にしなかった。やはりヴァン・ダムの実力は本物だ。

(アーツ-ヴァン・ダム:10-9、10-10、10-10)


round4
 軸足である左脚にやや力が入らなくなってきているのか、アーツの右の蹴りの破壊力が落ちてきているような気がする。アーツのヒット・アンド・アウェーの戦法がこのラウンドあたりからよりハッキリと際だってきた。リーチ差を利用して先に手を出して仕掛けるが、ヴァン・ダムが反撃する前に素早く下がって相手のローキックの圏外まで待避する。ここのところアーツは圧倒的な力量で相手をねじ伏せる闘いが多かったが、マット・スケルトンとの対戦の時にも試合中相手の動きを見て捌きながら闘う戦法に切り換えたり、戦略面でのクレバーさも併せ持っている臨機応変な選手だ。その強さはトータル・バランスの優秀さでもあることを忘れてはならないだろう。ヴァン・ダムはこのラウンドあたりから少しずつ疲れが動きや表情に顕れ始めていたから、R3までのようにアーツの身体をぐらつかせるようなシーンを引き出すことが出来なくなっていく。

(アーツ-ヴァン・ダム:10-10、10-10、10-10)


round5
  ヴァン・ダムの息が完全に上がった。対するアーツはR4からの距離を保つ闘い方が功を奏し、まだまだスタミナの切れは感じさせない。「ここまででポイントは取ってると思ってたからあまりリスキーな闘い方はせずに、前蹴りを使って突き放すような闘い方をしたんだ。」クリンチのたびにアーツにしがみつくようにして休もうとしているヴァン・ダム。むしろ筆者にはこのラウンドこそアーツにはっきりとポイントが与えられるのではないかと思ったが、ジャッジは3人ともイーブンに付けた。
 いずれにせよアーツがこれほど苦戦しフルラウンドを戦い抜くのも久々なら、同時にアーツの「強さ」だけでなく「巧さ」が顕れた試合というのも実に久しぶりという気がする。非常に内容のある良い試合だった。

(アーツ-ヴァン・ダム:10-10、10-10、10-10)


  敗れはしたものの試合前の公言を決して裏切らない結果を示したと言っていいヴァン・ダム=チャクリキ陣営は、「結果に関しては非常に満足している。」ヴァン・ダムは試合終了直後にトム・ハーリックに向かって「これから自分がやらなければならないことがよく判った」と語ったという。今日の試合内容を考えても、このコンビが再びアーツと対する日はいつかまた必ず来るのではないか、いや来て欲しい。そしてそれ以上に一人のK-1ファイターとしてのヴァン・ダムの素養にも期待が掛かる。あのアーツと5ラウンドをフルに戦い抜く実力の持ち主。他のK-1ファイターとの対戦も見てみたくなるのが当然のファン心理というものだ。

 そしてセコンドに付いていたノブ・ハヤシが当サイトのインタビューで何気なく口にした言葉も筆者は忘れることが出来ない。「K-1に上がりたがってる選手はチャクリキにはいくらでもいますよ。」第2第3のヴァン・ダムが、次々とKのリングに上がる可能性は充分だ。当のノブ・ハヤシ自身を含めて。

 僅差の判定で勝利を収めたアーツだが、試合後も落ち着いた様子で、リスクを犯さない闘い方を意識していたことを口にした。それでも左手の拳を若干痛めてしまったようだが、「まあ体にいいスポーツをやってるわけじゃないからね。」ハーリックとの確執について質問が出ても「自分はプロだから、リングに上がれば対戦相手に集中するし、闘いが終わればちゃんと相手セコンドとも挨拶するさ。」立場が人を作る、という言葉があるが、今のアーツはK-1の顔、チャンピオンとしての自覚でしっかりと地に足を付けている印象がする。「僕はいつも先のことを考えている。過去は見ない。」


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レポート:高田敏洋 カメラ:井田英登