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野武士VS闘牛士、武蔵正道の牙城を死守

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　宮本、中迫と看板選手をなぎ倒して決勝まで上がってきたノブ・ハヤシ。武蔵は日本一の称号とともに正道日本勢最後の砦としての重責をも担うことになった。

　武蔵は試合後ハヤシのパワーを「思ったほどではなかった」と語っているが、対宮本戦のハヤシとこの試合のハヤシを、同列で論じることは出来ないだろう。準決勝中迫戦の途中から突進力は失われていた上、トム・ハーリックが「今日の出来は75点。最後の試合は集中力を欠いていたから」と語るように、既にK-1本戦への出場を決めていたことで、ハヤシに気の緩みがあったとも思えるからだ。

　しかしその分を割り引いたとしても、武蔵の闘いぶりには危なげが無かった。準決勝の天田戦で両脚にダメージを抱えてしまった武蔵の方もベストの状態ではなかったのだが、「まあ、試合中そういうことは起こるものなので、」それなりのパンチを多用する戦法を選択したと試合後こともなげに語るその口調は、やはり役者が一枚違うという印象を抱かせた。

　この武蔵のシャープな左ジャブが再三ハヤシの顔面に伸びて、ハヤシは鼻血を流し始める。しかしあの宮本の右ストレートを立て続けに喰らってもビクともしなかったハヤシであるから、ポイント的に劣勢になることはあってもダウンの心配を抱かせるような「効いた」という表情は全く見られない。

（武蔵-ハヤシ：10-9、10-9、10-9）

　「一日４試合という初めてのハードスケジュールで、最後は疲れてしまった」というハヤシは、これまでのような突進力を見せることが出来ない。しかしハヤシが前に出られない理由はそれだけでなく、武蔵の巧みな距離の取り方があったことも指摘しておかなければならないだろう。スピードと手数で勝る武蔵は、自分の攻撃が先にハヤシにヒットし、逆にハヤシからの攻撃は紙一重で見切れる距離に常に身を置いていた。距離がそれより詰まりそうになると、両腕をがっちりハヤシのボディに巻き付けて密着クリンチ、絶対に相手に有利な展開にさせない。相手に試合をさせない技術は、特に「小良く大を制す」為には不可欠である。K-1というとどうしても派手な攻撃に目が行きがちだが、ホーストやフグといった軽量の部類に入る選手がベルナルドやアーツらと渡り合えるのは、こうした距離の取り方に長けているからだということを忘れてはならない。

（武蔵-ハヤシ：10-10、10-10、10-10）

　ここまで来ると既に武蔵は間合いを掴んでしまった印象があった。脚を痛めていることもあって遠間から出すのはスピード重視の速い蹴りと伸びのあるストレートが主体。ハヤシが身体を揺すりながら前に出ればステップワークでヒラリとかわし、それでも距離が詰まってしまえばしっかりとクリンチ。

　元々80kg台の頃からK-1トップ陣と渡り合ってきた武蔵にしてみれば、ハヤシのようなタイプの料理方法にはある程度心得アリといったところだろうか。

　先手先手とヒットする武蔵の攻撃に対し、ハヤシのパンチは殆ど武蔵にヒットしない。さすがのハヤシも連打でパンチを受けた瞬間には僅かに身体が揺らいだ。

（武蔵-ハヤシ：10-9、10-9、10-9）

　

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　終わってみれば本命武蔵、危なげない優勝だったと言っていいだろう。対戦カードの点で武蔵のブロックは有利だったという面もあるが、それ以上に武蔵が死に物狂いにならなければならないほど、彼を追い込める対戦相手が（ノブ・ハヤシを含めて）いなかったのも確かだ。ちょうど昨年のJapan GPを佐竹が圧勝して見せたのと同様。その佐竹と５Ｒフルに闘ってドローという戦歴を持つ武蔵は、やはり日本勢の中では頭一つ抜け出た存在であることを証明する大会となった。

　一方デビューしていきなりK-1出場権獲得という大器ぶりを見せつけたノブ・ハヤシは、気負いやビッグ・マウスでなく、思わず口をついて本音が出たといった様子で「もっと練習すればもっと楽に勝てるようになるかも」と語ってのけた。「佐竹さんを見てK-1を目指したので、大阪では是非とも佐竹さんとやりたい。」

　トム・ハーリックが、「あと２〜３年すれば、ハヤシはK-1を征する初めての日本人ファイターになるだろう」と太鼓判を押す若干21歳。その成長ぶりに期待が集まる。

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