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スミス、キックラストマッチ?!

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　モーリス・スミス37歳。既に「無敵のキックボクサー」と言われた頃の力はない。しかしその豊富な経験とクレバーな戦略は、対戦相手の長所をことごとく封殺し、「相手の火を消す」と言われる。また同時に人望厚いその周囲には、打撃系関節系を問わず多くの選手が師事を仰いで集まってくる。

　ここ２〜３年K-1頂点付近に君臨する実力者達の中で、彼をKO出来たのは今年6月のピーター・アーツのみ。かつてK-1第１回大会（93年）で、当時世界一と言われていたスミスをハイキック一撃でKOに沈めたアーネスト・ホーストさえ、98年の対戦では仕留めることが出来なかった。マイク・ベルナルドに至っては、昨年K-1大阪でスミスが示した「対ベルナルド・シフト」ともいうべきインサイド・ワークが、その後対戦相手の教科書にされているような面すらある。

　このスミスを、残った最後の大物アンディ・フグが仕留められるかどうかが最大のポイントと言えた。

　フグはいつものように小刻みな変則的ステップ。経験豊富なスミスであるから、このトリッキーな動きに翻弄されるようなことは無いが、どこから何が出てくるか判らないフグだけに注意は怠れない。

　フグが踵落としを繰り出し場内が沸く。日テレ「２４時間テレビ」企画で、左手の不自由な空手少年と「踵落としで勝つ」と約束していたフグ、そのことをかなり意識していたのか、この日は普段以上にトリッキーな大技が多かった。

　しかしこのラウンドはスミスの方の動きも良く、ともにまだまだ余力を残した序盤スタートの印象。

（フグ-スミス：10-10、10-10、10-10）

　フグがショートレンジでのパンチラッシュ。実はこの重くて回転力の速いフグの連打は彼の大技以上に対戦相手にとって怖いのだが、スミスは両腕を高く上げ逆に頭はその両腕にすっぽり包み込むように低く下げてガードを堅め、ダメージを喰わない。更に攻め込もうとすればクリンチしてフグの流れを分断する。そろそろ曲者のモーリス・マジックが見え始めた。

（フグ-スミス：10-9、10-9、10-9）

　

　さすがのスミスもフグの攻撃の多彩さでディフェンスが絞りきれなくなってきたらしい。両腕で頭部を抱え込み身体を折り曲げ左膝を内側に持ち上げる、まさに「打撃版完全ガードポジション」の構えを再三見せる。しかしここまで守りを固めてしまうと自分の方から勝ちに行く、攻めるということは出来なくなってしまう。「スミスは自分の方から攻めようとしない」とは、２度目の対戦ではぐらかされてしまったアーネスト・ホーストの談話だが、こういう今のスミスのスタイルは対戦相手にとって非常にフラストレーションの溜まるものだろう。

　しかし突然スミスが左脇腹を押さえてファイティング・ポーズを解いた。猪狩レフェリーがダウンの宣告。実はＲ１からフグはまたまた新技の跳び後ろ蹴り（あるいはローリング・ソバットという名前の方が通りが良いか）を繰り出していたのだが、この新技がドンぴしゃ、スミスは左肋骨下の部分をかなり痛めていたのだ。

　それにしてもフグの方ももうあと１ヶ月で35歳を迎える大ベテラン。にもかかわらず毎試合新技を繰り出し、しかも対宮本戦のバックハンド、ステファン・レコ戦の膝蹴り、そしてこの日の跳び後ろ蹴りと、ことごとくその試合の決め技にしてしまうのだから恐れ入ってしまう。

（フグ-スミス：10-8、10-8、10-8）

　ラウンド開始30秒で、再びスミスが左脇を押さえて試合を中断、ダウンの宣告を受ける。最早自分から攻めることもなく、しかしかといって決して決定打は受けないスミスに、フグが苛立っている様子が見える。挑発としか思えないほどの大きな後ろ回し蹴りを見せたかと思えば、両腕をダラリと下げてリング内を歩き回る。こんなフグを見るのは初めてのことだ。驚異的な精神力で肉体を操るのを身上とするフグが、試合に対する集中力を失いかけている。相手の長所を吹き消すインサイド・ワークがスミスの武器だとすると、ベルナルドのパンチ力、ホーストのコンビネーション同様フグのスピリットもまたスミスにかき消されてしまったと言うのだろうか。しかしいくらなんでも、それではプロ選手同士のぶつかり合う試合としての魅力まで半減してしまうことになる。

（フグ-スミス：10-8、10-8、10-8）

　スミスには無論、フグにも決め手のないまま試合は最終ラウンドまで持ち越した。何とか綺麗な決着を目指してスミスを追いかけ回すフグだが、低く構えたスミスのガードとクリンチワークに阻まれて殆ど有効な攻撃を加えることが出来ない。そのままズルズルと時間は過ぎ、試合終了のゴングの直後、フグが浮かべたやるせない表情がこの試合の全てを物語っていた。

（フグ-スミス：10-10、10-10、10-10）

　

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　試合後、スミスはバーリトゥードとキックルールの二足の草鞋を辞め、打撃の試合からは引退すると表明した。「俺も年取ったよ。」再三に渡ってスミスの口から漏れたのは、そんな自嘲の言葉だった。

　意外なことに両者はこれが初対決。しかし考えてみるとスミスが勢いを失って緩やかに頂点から下り始めた頃には、まだ鉄人はグローブを付けた顔面パンチのキック・K-1ルールに自らのスタイルを見つけることが出来ず、ジレンマに苦しんでいた。つまり両者がベストの状態でぶつかる可能性は初めから無かったのだと考えると、この２人はK-1の歴史の中ですれ違う事を運命づけられていたのかも知れない。

　

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