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Kick /K-1 News

K-1 2000年8月24日 公式情報/記者会見

「鉄人アンディ・フグ死去」

「彼は最後までヒーローでした」
 カメラの放列に囲まれた石井館長は、しっかりとした口調で、鉄人と呼ばれた男の最後の姿を伝えた。おりしも、病院の外では会見直前から突如振りだした雨が激しく地面を打つ。あたかも、若くして世を去ったフグを惜しむ天の涙雨のようでもあった。

最後のメッセージ

 本日、午後8時45分、日本医科大学付属病院で緊急記者会見が行われ、98K-1 GP 王者アンディ・フグの死亡が発表された。会見に出席した医師団によれば、死因は急性前骨髄球性白血病。アンディは8月の始め辺りから皮膚の感染症、発熱が続き異常を訴えており、14日にスイスを離れる直前に医師の診断を仰いだが特別な症状を認めなかったという。しかし、19日に日本医科大付属病院で再度検診を受け血液検査を行った結果、発病が判明した。この病気は全身からの出血や呼吸器官への異常を特徴としており、アンディも手足、あるいは右脇から胸部等に皮下出血があり、肺にもカビのような影が見られて呼吸が非常に苦しかったという。すでに診断時に白血球が通常の50倍近い状態になっていたといい、同病院に緊急入院した。一時は投薬治療によって小康状態であったアンディだが、昨日午前中から呼吸障害に陥り、昼からは右後頭葉出血による視力障害を併発。この出血により夕刻には呼吸困難から人工呼吸器の接続を余儀なくされ、8時ごろからは昏睡状態に陥っていた。
 これを受けて、K-1事務局では本日午後二時から正道会館東京本部で記者会見を開き、危篤状態にあるアンディの病状を発表。格闘技評論家の谷川貞治氏がアンディからのメッセージを読み上げた。

「ファンの皆さん、とつぜんこのような状態に私が陥ってしまったことで、大変ショックを与えたかと思います。私自身、ドクターから症状を聞いたときには非常にショックを受けました。しかし、私は今自分が今陥っている状況をファンの皆さんに告げることで、ファンの皆さんとともにこの病気と闘っていきたいと思います。今度の敵は私が闘った中でも一番の強敵です。しかし、私は勝ちます。ファンの皆さまの声援をパワーにして、リングと同じ時のように、最大の強敵に勝とうと思います。10月の大会は残念ながら出られませんが、日本でこの病気と闘い、いつの日にか必ず皆さんの前に現れたいと思います。頑張ります。押忍」

 ここにも語られるように、アンディは自分の病状を知った直後、目に涙を浮かべるほどのショックを受けたという。しかし、その翌日には笑顔を見せ、自らの病状を公開、全国で同じ病気と闘う人々に夢と希望を与えたいとの意志を示したと言う。

石井館長、盟友の死を語る

「本当に悲しいときは泣けないものだなと思います。昨晩から彼と一緒に闘ってきましたが、彼は最後まで本当に勇敢に闘いました。最後まで彼の心臓は闘いたいと望んでいましたが、6時21分ドクターストップで終わってしまいました」
 と語る石井館長の表情は、昨夜来ずっと病床に付き添って一睡もしていなかったせいで、疲労に満ちたものだったが、長年の盟友の死を伝える言葉は静かで乱れも無かった。「彼は最後までヒーローでした。K-1の創世記から今のK-1があるのは、彼の活躍があるからだと言っても言い過ぎではないほどに彼は頑張って来ました。また若いファイターが台頭する中、もう一回優勝するんだと、厳しいトレーニングを積んでいましたし、スイスではラストファイトをミルコ相手に勇敢な戦いをしまして、最後までスイスの国民の皆を感動させました。奇しくも仙台で行われました、K-1 JAPANの試合(対ノブハヤシ)が彼にとって最後の試合になったんですが、ま、彼は12月10日に行われる東京ドームでの優勝を信じて、10月9日には福岡で皆の前でトーナメント優勝するんだと頑張ってました。彼が何よりも一番気にかけていたのは、(発病で)トーナメントには出れないのかということで。もう一度リングに上がるんだと言うので。アンディ、一年でも二年でもいいじゃないか、もう一度リングに上がろうよと」
 と、語る石井館長の言葉には、これまでもっともK-1のコンセプトを理解し、身を粉にしてその発展に尽してきた盟友を失った深い悲しみが感じられた。

「彼の(石井館長に対する)最後の言葉は、彼が“I Love you 、館長”。で、僕が“I know、判ってるよ”って、それが最後の言葉になってしまいました。アンディは最後まで男らしく武道家として病気に正面から勇敢に闘いましたし、いつもファンの皆とか、あるいは弱い人達、恵まれない人達、あるいは子供たちのことを気にかけていました。自分はヒーローで居なければならないと思っていましたし、またヒーローで死んでいったと思います。まあ、僕は彼の死を無駄にしないためにも、世界中のみんなと協力して、また世界中のK-1ファイターと協力して、このK-1を立派に世界を代表するファイティングスポーツにしてみせます。それが彼の願いだろうし、彼の分まで倒れるまで頑張ろうと思います」

 最後のアンディの姿を館長はこう語る。
「容体が急変して私たちが駆け付けましたときは夕方だったんで、もう既に呼吸器をつけた状態でしたので、彼と話は出来ませんでした。本人の意識もなかったと思います。その後はそばでずっと励ましている状態でした。各機能の低下が始まりまして、血圧が低下しまして、そう言う状態で血液が循環しなくなって、脳が反応しなくなっても、彼の心臓だけはずっと動いてまして、昨日の夜中の三時ごろにも危ない状況があったんですけれども、それも彼は持ちこたえまして。2度心臓が停止してからも、僕らの呼び掛けで、また心臓が動いたんですよ。身体の全部が止まっても、彼の心臓だけは動いてました。皆が“アンディ頑張れ”“アンディ、ファイト!”と声を掛けますととまっていた心臓が動くと、そういう状態が何回もありました。だから彼はやっぱり生きたかったんだと思います。また、皆と一緒に闘いたかったんだと、僕は思います」

「僕は日本で死にたい」

「K-1の大会が終わりまして、翌日(21日)11時から記者会見があったんですけども、その前の朝の9時にお見舞いに来まして、本人は自分で歩いてましたし、僕に対しては笑顔で話してました。まあ最初にあったときには、目と目が合ったときには目にいっぱいの涙を溜めてたんですけども、その後は笑顔で“ガンバル。ガンバルから”って言ってまして。症状は徐々に好転しているように僕にも見えましたし、ここまでの心配は全然してなかったんですけど。病気に対する恐怖心は見えなかったです。自分のことよりも、大会は上手く行ったのか、とか奥さんのイローナが芸術の仕事をしてるんですけども、個展を開くんでよろしく頼む、とか、おいおい、自分のことを心配しろよと言うぐらいの感じだったんです。それと思い出したんで、重要なことなんで言っておきますけども、彼が亡くなってしまったんで言えるんですけども“館長、僕は死ぬときは日本で死にたい”と言ってたんです。死を意識してたというよりも、まあ病名を聞いた段階で、血液のガンなんで万が一という可能性はありますよね。僕らは非常に難しい病気ではありますが現在は治療が進んでいるので完治する可能性が高いと聞いていましたんで“何言うとんねん、頑張れよ。完全に治って社会に復帰している人もいるんだから、お前も完全に治ってリングに復帰してみ”というような話をしてました。まあ彼は自分は日本人だと思っていたと思いますし、何よりも日本を愛してました。もちろんスイスではヒーローでありますけども、僕の顔をみて、自分自身の気持ちが出たんだと思います。だから、自分は万が一のことがあったときに、自分の意志が答えられない事があったときに、今はっきり言っておこうと。奥さんだったイローナの方にも“自分は死ぬときには日本で死ぬんだ”という言葉を伝えて居たようです。本人は日本に骨をうずめるつもりで来てたんだとおもいます」

 フグが危篤状態に陥ってから約24時間。その病床には館長の他、アンディの前妻イローナさん、そしてボクシングのトレーナーを勤めた平仲氏、あるいはチームアンディの面々、そして正道会館の角田信朗らが必死のセコンドを務めた。館長の言葉にもあったように、彼等の必死の応援で、二度までも停止した心臓が息を吹き返すという奇跡の瞬間も見られたが、ついに最後まで意識が戻ることはなかった。三度目の心停止の後、医師は呼吸器の取り外しを指示。午後6時21分、鉄人と呼ばれた男は病魔という人生最大の敵との激闘を繰り広げ、志し半ばにして35年の短い生涯を終えた。横浜大会終了後、腰痛の治療のため日本に残っていたピーター・アーツもフグ危篤の知らせを聞き病院に駆け付けたが、一歩違いでその死亡に立ち会うことの出来なかった。好敵手の死顔を目にしたアーツは、ベッドの傍らで号泣したと伝えられる。

 現在、その遺体は日本での本拠地であった高田馬場、正道会館東京本部道場に収められた。突如の訃報に触れて、極真会館の後輩にあたるフランシスコ・フィリョ、ニコラス・ペタスの他、武蔵、宮本正明ら正道会館の選手、チームアンディ所属でもあった安生洋二らが次々に道場を訪ねた。現在、葬儀等の予定は立ってられていないが、一両日中には国内で通夜ならびに本葬が行われ、火葬の後、スイスに遺骨が戻される予定だという。

 各TV/マスコミは、この偉大なる鉄人の突然の死を悼み、当日夕刻からのニュース等でアンディ死去のニュースを報道した。なかでも、K-1中継のホスト局となったフジTVでは「プロ野球ニュース」の冒頭でこのニュースに大きく時間を割き、その業績と死去に関する関係者の衝撃を伝えた。またその直後の格闘技情報番組「SRS」でも、急遽予定を変更し、生番組としてアンディ追悼特番を30分に渡って放映した。なお25日夜8時から、フジテレビ系列でもフグの特別追悼番組が放映される予定。

(井田英登)


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