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(レポ&写真) [パンクラス] 4.10 梅田:大石戦慄復帰。吉朗武士道向け快勝

パンクラス "SEGA SAMMY Presents PANCRASE 2005 SPIRAL TOUR"
2005年4月10日(日) 大阪・梅田ステラホール

  Photo & Text:井田英登 【→カード紹介記事】 【→掲示板スレッド】

 

第5試合 メインイベント フェザー級 5分3R
○前田吉朗(パンクラス稲垣組)
×村田卓実(和術慧舟會A-3)
1R 4'16” 腕ひしぎ十字固め


「すごい“賭けて”来てるのは感じましたね。ここで(一か八か)一発取ってやろうみたいな。僕はそういう発想(負けて元々)は好きじゃないんで…」と試合後語った前田。本来、村田はネオブラッド・トーナメントで一回戦負けを喫した選手であり、パンクラス内部では11連勝中、無冠とはいえ実質フェザー級のチャンピオンと言ってもおかしくない立場の前田とは、カードが組まれる事自体、あり得ないクラスの選手。

前田は、2月のDEEPにおける今成戦でのドロー決着で、「MMA13連勝」という“勲章”を落としたばかり。村田の起用は、5月に噂されるPRIDE武士道進出前に、その商品価値を落とさないための“調整試合”の意味あいと見ていいだろう。

となれば、この試合のキモは、前田が如何に相手を料理してみせるか、その一点に集中する。

また一方で前田は今回のパンクラス大阪大会を「稲垣組が仕切る大会」と位置づけた発言をしており、ここで“格”に寄りかかった手抜き試合を見せるわけにはいかない。事実ゲート戦を含めた15試合のうち7試合までがP's LAB 大阪と稲垣組構成員で占められ、メインまでに5勝1敗のスコアをマーク。昨今めっきりプロ意識が高くなってきている前田としては、メインイベンターとして、どう大会を締めくくるかが、大きなテーマとしてのしかかってくる。

試合開始早々、思い切りのいいストレートで村田をぐらつかせた突進も、いわばその“回答”として選び取られたものだろう。今成との煮え切らないフルタイムドロー劇への反省が、この速攻を生んだのではないかという気がした。

「あれで終わったかと思いましたけどね」とは試合後の弁。腰を落とした村田の顔面に止めのサッカーボールキックを飛ばし、もくろみ通りの瞬殺劇となるかと思わせたが、ここはなんとかアブダビ日本予選準優勝、コンバットレスリング優勝経験も持つグラップラー村田が、その片鱗を見せて組み付いて凌いだために不発で終わった。

コーナーを背負った前田は、フロントチョーク気味に村田を捉え、上手投げでテイクダウンを狙う。なんとか粘って倒れまいとこらえた村田だが、絡みあってグラウンド状態へ。素早くバックを取った前田はスリーパーを狙う。右へ左へ横転して逃げ回る村田だが、ロデオ状態のバックマウントからしぶとく首を狙い続ける前田。村田のディフェンスが堅いと見るや、サイドに回り込んで腕狙いに切り替えた前田。クラッチして粘る村田だったが、前田の強靭な膂力(りょりょく)に屈して腕を伸ばされてしまう。

それでも瞬間タップせずに粘ろうという動きを見せる村田。すかさず前田はここで「折るぞ、コラっ!」とケンカ腰で一喝。しかし、折るまでもなく、伸びきった腕を見てレフェリーが試合をストップした。

試合後のインタビューでは“団体内12連勝”を称揚するインタビュアーに「そういうのとは、これは違いますね。勝って“やりきった”っていう達成感はないです。終わってホッとした気持ちだけ。とりあえず終わった、っていうだけで」と応えた前田。

「関節技が出来ない訳じゃないけど、最後の武器として隠しておきたい」と語り、これまでは打撃での勝利を積み重ねて来た経緯を考えると、コンバットレスリングチャンピオンでもあるグラップラーに関節技で完勝、というこのフィニッシュは、“調整試合”を内容あるメインディッシュに仕立て上げようという“吉朗シェフ”の心意気の現れだったのかもしれない。

「前回の今成戦の反省で、自分で何をすると決めないで闘おうと思ったんで。なった所、なった所で闘おうと。自分の寝技力が低いとも思ってないんで、何でも出来る事をやればいいかと。それが昔の面白い自分だったなと…原点回帰、ですね」というコメントも、いわば咄嗟に出された素材を最高の料理に仕上げる“料理の鉄人”ならぬ“勝負の鉄人”と化した、前田のイズムの証左と受け取っていいだろう。

試合後、マイクを取った前田は「ちょっと大きな舞台で試合して来ようと思うんですよ。9月また大阪大会があるんですけど、そのとき生きて帰って来れたら、皆さんが見たくなるような試合をしたいと思います。9月また会いましょう。稲垣組、あがってこいやぁ」と宣言。さらに稲垣組メンバーを呼び上げ「今日ね、結果見てもらえばわかるけど、全勝ですわ。大阪から世界目指して闘っていきいます。皆さん一緒に夢見ましょう」と、“舌好調”ぶりも発揮。メインベンターとしての存在感をアピールしてみせた。

次回登場が予定されている武士道出撃へも「他所のリングに出るという事は、背負うのは稲垣組だけじゃないですからね。周りはパンクラスから来たって見るんで、パンクラスが舐められないように闘わなきゃダメっすよね」と、決意を表明してみせた。

“勝つパンクラス”宣言ですか?と畳み込んだ記者に対して、「いや、僕らは“楽しい稲垣組”で」と笑って切り返した前田だが、近藤、高橋と続いたPRIDE参戦が、いまのところ大きな成果につながっていないのは事実。軽量級の切り札として出陣する前田が、ここで結果を残せなければ、それこそ冒頭に紹介した前田自身の言葉「ここで(一か八か)一発取ってやろう」というだけの選手に、前田自身が堕してしまう事になる。

ここで一つ生臭い話をする事を許していただきたい。
今回の大阪大会のカード発表当初、アマチュア戦であるゲート戦10試合が組まれた事で興行を危ぶむ声もあった。しかし、蓋をあけてみれば1000人規模のステラホールはジム関係者を含めた観客で十分満員興行となっている。ギャラの発生しないアマチュア戦が大半で、この入りなら興行としては大成功と言っていいだろう。

だが本来プロ興行は、やはり選手の魅力で一般客を呼び込んでナンボの世界。悲しいかなデビューからまだ二年足らずの前田には、まだそこまでの力はない。パンクラスの尾崎社長は「大阪は稲垣組に任せておけば大丈夫という状態になって来ましたね。これで近藤や前田がPRIDEに出る事でお客さんを連れて帰って来てくれれば、僕はうれしいんですけどね」と、PRIDE効果による前田のバリューアップ期待するコメントを残して大阪を去った。

このところめっきり興行力の落ちたインディ格闘界。人気選手をPRIDEに出すことで“起死回生”を願うのは、多くのプロモーターの夢となりつつある。しかし、選手は勝ってもメジャーのリングに常駐、客も吸い上げられ、団体自体は二軍的存在になってしまうのが実際であり、結局、インディは興行力を落とす一方。現場へのリターンメリットが無い分、一般企業のM&Aよりさらに非情なのが、格闘技界の収奪構造であったりする。

もし前田がその言葉通り、9月に同会場で行われる大阪大会を“PRIDE凱旋興行”に変え、一般客にチケット争奪戦を引き起こしてみせるような事があれば、(1000人規模の会場とはいえ)それは「奇跡」と呼んでもいい。

「一緒に夢を見ましょう」とぶち上げた前田の言葉が、現実となるか、それとも一抹の夢と散ってしまうのか、業界の動向も含めて、僕は密かに注目したいと思う。



第4試合 ウェルター級 5分3R
○大石幸史(パンクラスism/4位)
×花澤大介13(総合格闘技道場コブラ会)
3R 0'31" KO (サッカーボールキック)


渋谷をやぶってウェルター戦線のベルト取りに名乗りを上げた花澤。2月のユーフォリアでの活躍を助走に、パンクラスでの頂上作戦を軌道に乗せたいところ。その花澤の野心の前に立ちふさがったのが、二年前のパンクラスでのプロデビュー戦を苦い洗礼で迎えた大石だった。大石にとって、昨年の長谷川戦以来となる半年ぶりのリング。リベンジを果たして上昇気流に乗りたい花澤と、返り討ちにして健在を印象づけたい大石の、それぞれの思惑が交錯する。

序盤の打撃戦では積極的に右のパンチを当てていき、新境地を見せた花澤。これまで中間距離での打撃と言えば、タックルへのつなぎとのフェイク的な使い方しかしなかった選手だけに興味深かった。

同じジムの先達である三島のスタイルも、煎じ詰めれば“捨ての打撃→組み付いてテイクダウン→押さえ込み”というものであり、花澤がその強い影響のもとにファイトスタイルを組立ているのは、致し方ないのかもしれない。ただ、三島の強靭な膂力や、相手を粉砕できるだけの破壊的なパウンド能力は、花澤にはない。KOは狙えないまでも、スタンドでイーブンに並走していけば、勝機はぐっと開ける。

しかし、迎え撃つ大石もボクシング戦は得意とするところ。ミドルレンジから飛び込んでくる花澤に、的確な左ストレートをカウンターで浴びせ、踏み込んでのアッパーをぶち込むなど、そう簡単に花澤にペースを握らせてはくれない。

2R両者の均衡が崩れた。
花澤のタックルを、膝で迎撃したのである。この一撃で、花澤の左眉上がぱっくり割れた。

ドクターチェックでは試合続行が認められたものの、流血の上に、試合中コンタクトレンズを落としたという花澤は、そこまで順調に作って来たペースを維持できず、単調なタックルを繰り返す事になる。なんとかグラウンド戦に早く持ち込みたいという心理だったのだろうが、大石は徹底してこれをガブって潰し、立ち際にはサッカーボールキックを浴びせる、この日の必勝パターンを組み上げてしまった。

タックル失敗で下にされながらも、ハーフに捉えた足をレッグスプリットにするなど、果敢に反撃を試みて見せ場を作り出した花澤だが、大石はその血だらけの顔面を膝で踏みつぶして脱出するというエグさを見せる。普段の無表情さが、この日はさらに非情な攻めっぷりと相まって“殺し屋”と呼びたくなるような凄みに転じていた。

「怖いというのはなかったですけど、これはヤバいかもしれないという想いが出てしまったかも。作戦では小突きあって、タックルで倒して判定で勝つというパターンを考えて来たんですけど、結局一回も上を取れないままだったので。自分のやって来た格闘技を完全に否定された感じでした。これまでやってきて、一番悔しい気持ちになりました」と、二年越しのリベンジに失敗した花澤は感想を語る。

中盤以降タックルに固執したのは、案外“焦り”の感情より、“俺のスタイルを否定されてたまるか”という意地だったのかもしれない。

こうした花澤の心理を知ってか、知らずか、大石は“タックルを潰しての顔面蹴り”というパターンに徹してきた。結局、他の攻め手を見いだせなかった花澤は最後までタックルを繰り返し、そして顔面蹴りに沈んだ。

「今日シューズ穿かなかったのも、自分の中の“らしさ”みたいな物から自由になったからでしょうね。当分ランキングとか、勝つパンクラスとかにこだわらず、組まれた試合を楽しみたいです」と語った大石の自然体ぶりが、事前の作戦に固執した花澤の執念を上回った訳だ。

結果として大石の冷酷なキラーぶりを光らせてしまった花澤。勝負に「三度目の正直」はないというが、恐らくその通りで、今後直接対決が実現する事はよほどの事が無い限りあるまい。二度同じ相手に敗れた選手がリベンジできる唯一の方法があるとしたら、敗北で“全否定された”そのスタイルを捨ててでも、大石より上のポジションを目指す事しかない。

第3試合 ライト級 5分2R
○武重賢司(パンクラス稲垣組)
×宮崎裕治(総合格闘技道場コブラ会)
1R 1'53" KO


的確なパンチで試合を優勢に進めていたはずの宮崎だが、武重のロープ際のショートフックを浴びて一発ダウン。へたり込んだ所に、サッカーボールキックを浴びて、絵に書いたような一発逆転劇となった。

第2試合 フェザー級 5分2R
○藤本直治(パンクラス稲垣組)
×島田賢二(パンクラスP'sLAB東京)
判定3-0 (梅木20-19/廣戸20-19/松宮20-18)

第1試合 ミドル級 5分2R
○ザ・グレート浪花(総合格闘技夢想戦術)
×山田護之(チームPOD)
2R 1'38” チョークスリーパー


◆ パンクラスゲート

第10試合 フェザー級プロ昇格1DAYトーナメント決勝戦 5分1R (延長3分)
×上畑哲夫(谷柔術)
○ 中村 健太(禅道会広島支部)
延長判定0-3 (梅木9-10/松宮9-10/廣戸9-10)
本戦判定1-0 (梅木10-9/松宮10-10/廣戸10-10)

メリハリの利いた試合ぶりで一回戦を短く切り抜けた上畑と、空手仕込みの打撃で持久戦を乗り切った中村。両者のコンディション的には上畑が有利かと見えた戦況だが、徹底したグラウンド狙いで中村の打撃を封じたはずの上畑が、延長ラウンドで失速。狙った足関節に、中村が意外なほど対応してきたのも失速の原因か? タックルを潰し、確実に上のポジションをキープした中村が勝ち抜けでプロ昇格を果たした。

第9試合 ネオブラッド・トーナメント・フェザー級予選トーナメント決勝戦 5分1R (延長3分)
×長谷川孝司(P'sLAB大阪)
○井上 学(U.W.F.スネークピットジャパン)
延長判定1-2 (梅木9-10/松宮9-10/廣戸10-9)
本戦判定0-0 (梅木10-10/松宮10-10/廣戸10-10)

第8試合 ライトヘビー級 5分2R
○鳥生将大(P'sLAB大阪)
×濱口憲彦(フリー)
1R 0'10” KO

第7試合 ミドル級 5分2R
×田村幸成(ライルーツコナン)
○ 前島行晴(CMA戦ジム)
1R 0'40” 反則 (膝蹴りローブローで試合続行不可能)

第6試合 ウェルター級 5分2R
○田中達憲(和術慧舟會兵庫支部)
×高田谷悟(格闘技吉田道場)
1R 1'01” 腕ひしぎ十字固め

第5試合 ライト級 5分2R
△尾崎大海(WATER)
△福永哲也(CMA京都成蹊館)
時間切れ

第4試合 フェザー級 5分2R
△上地雅彦(総合格闘技闇愚羅)
△山内延浩(総合格闘技道場コブラ会)
時間切れ

第3試合 パンクラスアテナ・ゲートルール 3分3R
○伊藤あすか(P'sLAB大阪)
×大山葉子(S! GFC)
2R 2'40" 腕ひしぎ十字固め

女子初のゲート戦は、ヒールとバスター禁止のアテナルール。地元大阪の女性選手二人が顔を合わしたご当地対決であり、大山が修斗大阪ジムのジム生であるという意味では“越境対決”の趣向もある、興味深い一戦となった。

女子には珍しいマッチョボディの伊藤が、そのパワーを活かして大山をロープに押しこんでいく。組みのテクニックでは大山の方が一枚上手の印象で、タックルを潰してのガブリから刺し上げてマウントを取る。しかし、TKシザースを駆使して上下を入れ替えるなど、伊藤もツボにはまったテクニックで切り返す。

フィニッシュの腕十字も、カメになった大山の腕を、サイドから足を差し込んで取ったもので、デビューの女子選手としては“出来すぎ”の展開。素材もあるのだろうが、P's LAB大阪を仕切る稲垣氏のコーチングの確かさを伺わせる一戦だった。


第2試合 フェザー級プロ昇格1DAYトーナメント一回戦 5分1R (延長3分)
×西川雄高(総合格闘技夢想戦術)
○ 中村健太(禅道会広島支部)
延長判定0-3 (小菅9-10/梅木9-10/松宮9-10)
本戦判定0-1 (小菅9-10/梅木10-10/松宮10-10)

第1試合 フェザー級プロ昇格1DAYトーナメント一回戦 5分1R (延長3分)
○上畑哲夫(谷柔術)
×川上力也(P'sLAB大阪)
1R 1'08" ヒールホールド

Last Update : 04/12 00:08

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