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(レポ&写真) [UFC 51] 2.5 ラスベガス:ティト、ベウフォートに辛勝

Zuffa "Ultimate Fighting Championship 51 - Super Saturday -"
2005年2月5日(土) 米国ネバダ州ラスベガス:マンダレイ・ベイ

  Text by Fernando Avila (BoutReview USA) 原文記事はこちら
   Photography by Dave Mandel (www.mma-fighter.com)

  【→カード紹介記事】 【→掲示板スレッド】

 闘いに勝つのと、判定で試合に勝つのとでは大きな違いがある。
 この視点で考えると、ジャッジの主観的な判断に委ねられたのが全9試合中2試合だったUFC 51は、間違いなく成功した大会と言えるだろう
 この日行われた選手権試合2試合の勝者たちは、紛れもなく試合に勝ち、闘いにもしっかりと終止符をつけた。エヴァン・タナーは、ハートと粘り強さと技術ですべてを証明した。アンドレイ・アルロフスキーは、驚異的なパワーと機敏な動き、そして自身のルーツであるサンボに遡る知力を駆使し勝利を収めた。彼は完全にノックダウンを奪い、メーン州からきた大木を、根っこからもぎとるかのように勝利をもぎとった。
 そしてその間に、ピート・“ドラゴ”・セルという若い新参者は、オクタゴンの中のタフ・ガイのひとりであるフィル・バローニから逆転勝利を収めた。彼らの試合で起きたことに関して、議論の余地はまったく無い。
 

第9試合 メインイベント ライトヘビー級 5分3R
○ティト・オーティズ(アメリカ/チーム・パニッシュメント)
×ビクトー・ベウフォート(ブラジル/ブラジリアン・トップチーム)
判定2-1 (49-48/48-49/49-48)


 3年近く待たされた今大会のメイン・イベントは、シーソーゲームとも言えるエキサイティングな試合内容だったが、私の視点からすると明確な勝者はいなかった。実際のところ、ベウフォートはオーティズをノックアウト寸前まで二度も追い込んだが、その勢いを有効に使うことができなかった。オーティズはテイクダウンに固執し、ラウンドが進むに連れ彼のその戦法は功を奏してきた。
 1ラウンドでは、ベウフォートも心得た技術と早さでオーティズのタックルを切っていたが、スタミナがどんどんとなくなり、ベウフォート自身にとってはこの「スタミナの無さ」が最大最悪の敵となってしまったのだ。そして柔術の男なのに、関節技に入る動作もほとんど見せなかった。
 ただ皮肉なのは、ティトが試合後、この「勝利」を「アフガニスタンで自由のために闘っている戦士たちに捧げた」という事だ。今回の判定勝ちも、ブッシュのイラク侵攻の理由と同じぐらい不明瞭だったからだ。我々は本当に戦いに勝っているのだろうか?

彼はこれ以外に、何か他の戦法があるのだろうか?

 フェンス際でのテイクダウン、横四方、顔のあたりに肘攻撃、そして流血によるTKO狙い。けどそんなハッタリみたいな攻撃は、ロープで囲まれたPRIDEルールでは通用しないし、もしかしたら、それが理由でティトはPRIDEで戦うことを考えるのすら拒んでいるのかもしれない。日本円というのは、大抵の人を、特に格闘家を奮い立たせるのには充分な理由の筈なのに。この国の真の総合格闘家たちはみんな、いや、少なくとも私が話した格闘家たちにはみんな日本で闘うことを夢みている。だからティトを日本に連れていくには金網に入れて連れてくるしかない、テイクダウンと肘攻撃というお決まりの手順が使えるから。
 彼は本物なのか、それともただの威張りん坊なのだろうか?
 彼を真のオール・ラウンド・ファイターと呼べるのだろうか?

色んな所にいってきた

 それとは対照的に、ビクトー・ベウフォートは様々な舞台でその強さを立証してきた選手であり、今や伝説とも言える桜庭和志に、生涯初めて圧倒的にやられたあのPRIDEでも闘ってきたのだ。
 世界トップのステージでトップの選手たち相手に、勝ったり負けたりしつつも勝率66%を保ってきたのだ。私は、打撃という点でもオールラウンドな技術という点でもベウフォートの方が優っていると思う。今回の試合でも、ティトのプリティな鼻を砕き二度も打撃でオーティズを追い込んだのだ。1ラウンドも2ラウンドもティトは、ベウフォートという名の地獄の中にいた。ティトが上になり肘を使ってきた場面もあったが、全体的には、ベウフォートはちゃんと柔術のデェフェンスで凌いでいたと言える。関節技を仕掛けられなかったという点に批難が集中するかもしれないが、ベウフォートはひとつ、戦略的なミスも犯していた。ベウフォートがグラウンドで上になった時、すぐに立ち上がりティトの足に蹴りをぶち込み試合をスタンディングに戻せばよかったのだが、あの時ベウフォートはグラウンドでティトと意地になってレスリングをして無駄なエネルギーを消耗してしまったのだ。

テイクダウン?トップ・ポジション?

 柔術というスポーツは、オクタゴンのジャッジたち、少なくとも今大会に限っては二人のジャッジが持っている「トップ・ポジションを取る方が強い」という偏見、そして先入観に、またまた不意打ちを喰らうかのように破れてしまったのだ。ジャッジたちは、明らかにアメリカに昔からあるスポーツ、レスリングのテイクダウン技術が好きなのだろう。あの汚い肘攻撃以外、相手をフィニッシュすることはできないのに、だ!
 二通りの状況が考えられ、それは両方とも同等であると見なすべきなのだ。レスラーはテイクダウンを奪い、そこからトップ、またはマウントポジションを取り、肘打ちやパウンド攻撃に出る。柔術の選手は、テイクダウンを奪うか相手に絡みつきグラウンドに引き込み、そこからサブミッションを狙う。ということは、テイクダウンの後、実質的にフィニッシュへ繋がる攻撃が無い限り、テイクダウンを奪うこと自体にどれだけの価値があるんだい? 私はここで宣言したいのは「闘いの勝者」というのは、相手により多くのダメージを与えたファイターだ、という事なのだ。ティト・オーティズの鼻は東側を向いてしまったのだ。二回もレフェリーが割って入る寸前までやられたのだ。オクタゴンのすぐ近くで観た限りでは、時折エルボーをもらいカットもあったが、ベウフォートはしっかりとディフェンスしており、本当の意味で危険に曝された場面は無かった。

◆ティト「この壇上に立ち、自分自身に誇りを感じるのは今日が初めだね。1ラウンド序盤でビクトーのパンチを貰って完璧に鼻の骨がやられたからね。みんなも俺がどれだけのウォリアーか初めて見られたんじゃないか。初めはボコボコにやられながらも、それを乗り切ったからな。2ラウンド、数発ビクトーのエルボーが後頭部に入って、(レフェリーの)マッカーシーが奴に注意をしていた時、俺の頭の中の停電状態だったよ。そして、その後あた後頭部に当たられて、どもそれで何だか目が覚めたんだ。おし、あきらめねぇぞ、と思ったら、ファンの叫び声が聞こえて、ちょっとくぐもっていたけど、それで、よし、今日は俺が勝つ夜だ、とハートで感じたんだ。」
 

第8試合 スイングバウト ミドル級 5分3R
○ピート“ドラゴ”・セル(アメリカ/セラ柔術アカデミー)
×フィル・バローニ(アメリカ/ラスベガス・コンバットクラブ)
3R 4'19" ギロチンチョーク


 「コーマ・ベイビー!」
 全てが終わり、この一言にその気持ちを凝縮した男は、乗り越えなくてはいけない相手が大きかったが、文句無しの一本勝ちをもぎとったのだ。ほとんどのMMA専門誌やTV解説の方々は彼の負けを予想し、それをTVで流していたが、リングサイド、いやオクタゴンサイドで観た限り、ピート・セルはフィル・バローニを「MMAの闘い方」という名の学校に連れて行ってあげているようなものだった。
 彼は完璧な戦法を練ってきたのだ。ぐるぐると回りながらジャブ、そして動いてまたジャブ。彼はバローニの、体をフルに使った重いパンチをうまく避けたのだ。打撃をいれて動く。スピードを使う、そして常に右に回る、という二つの戦法で巧く合わせ最初のテイクダウンを奪ったのだ。試合が進むに連れて、バローニは明らかに肩で息をしガス欠状態になっていくが、ドラゴは常にリラックスしていた。
 「何かスパーリング、練習みたいだったよ!」。バローニは十八番のコンクリートのような拳を二発だけクリーンヒットさせたが、ドラゴはそれを振り切った。バローニにとっては驚きだったと思うが、ドラゴはバローニと対等に打ち合ったのだ。ただ今回は、バローニもマーク・コールマンと練習を積んできただけあり、グラウンドでの技術は明らかに上達していた。しかしグラウンドでの展開はドラゴのもう一つの戦略だったのだ。2ラウンドが終わり最終ラウンドでしっかりと締めくくったのだ。
 みんなは信じられない光景を見ているようだった。でも彼のチームメイトとコーチたち、ピート・セルの技術とハートの強さを知っているものたちは、この結末を信じて疑わなかったの。ドラゴは、闘いというのはどうやって決着をつけるのかを示してみせただけでなく、UFCの基盤を揺らがせたとも言える。彼の勝ちはクーデターのようなもの。それはこの試合で、バローニはイージーにドラゴを踏み潰す予定だったからだ。と、TVの解説者やこの業界の専門家たちは言っていた。だから、私はごく普通のライターで良かった、と思うんだ。

◆ドラゴ「コーマ・ベイビーと同じさ。人生というのは、何かをしたらまた何かに巡り合えるからね。俺はグッド・ピープルだから。上の人(神様)にも感謝しないと。それから俺のトレーニング・パートナーたち、マット・セラ、ニック・セラ、俺に激しい練習を課してくれたトレーナーのレイ・ロンゴ。あとは数年前に亡くなった俺の親友のフセイン。今日は、緊張していたので試合前に彼に敬意を表するのを忘れちゃったけど、俺のこの友人はとても酷い事故に遭ってしまったんだ。そういった現実に直面すると、人生を送れるといったことに感謝しないと。俺のハートはゴールドで頭の中は根性でいっぱい。誰とでもやるよ。まだ22歳。戦績もこれで6勝0敗。まだまだこれからだし、長い間やる気だし、もうやる気満々だよ。これからも色々な技術を学んでいく。サンキュー」
 

第7試合 ヘビー級暫定王者決定戦 5分5R
×ティム・シルビア(アメリカ/チーム・エクストリーム)
○アンドレイ・アルロフスキー(ベラルーシ/フリー)
1R 0'47" アンクルホールド

※アルロフスキーが暫定王者に
(本誌ではこれまで「オロフスキー」と表記していましたが、アルロフスキーという呼び方が一般的になったため、今後はこちらに統一します)

 両雄が向き合った時、でかい筈のアルロフスキーが、やや太くなったティム・シルビアよりも小さくみえた。
 シルビアの背後にはコーナーマンがフェンスにかけた星条旗。ひょっとしたら、シルビアのはいている迷彩色柄のトランクスとのコントラストを狙っているのかもしれない。
 しかしドストエフスキーの小説から出てきたような、長髪で髭だらけのアルロフスキーは、この夜、充分以上に準備を整えてきていた。それこそ、怪僧ラスプーチンと同じで、このロシアの熊を止めることは誰もできなかったのだ。溺れさせても刃物で刺しても銃で撃ってもラスプーチンを倒すことはできなかった、と同じで、アルロフスキーはロシアみたいにでかいシルビアを制圧した。
 知って驚くなかれ、アルロフスキーはサンボ世界チャンピオンであると同時に世界クラスのキック・ボクサーだったのだ。素晴らしい運動神経に、スピード、サイズ、パワーを兼ね備えたアスリート。ティム・シルビアよりも体格でひと回り劣っているが、彼の前にシルビアと闘ったフランク・ミアのように、この巨大な戦士をスピードと正確無比なサブミッションで撃破したのだ。
 右にまわりながら、内股へのローキック三発でセットアップすると、狙いすました右のパンチをティムの左の頬骨に命中させた。シルビアは舞うようにゆっくりと倒れ、次ぎの瞬間、遠心力場の毛だらけの腕はUFCではここからよく見られるグラウンド・アンド・パウンドにはいかず、真のサンボのサブミッション・ファイターのように、足首、つまりアンクルを脇下に抱え込み、捻って回して捻って回してシルバに「アンクル!(伯父さん!)」とタップさせたのだ。
 アルロフスキーは、リコ・ロドリゲスとぺドロ・「ザ・ロック」・ヒーゾに破れて以来、驚くべきスピードで進化してきた選手。試合後、彼は私に、少し休みそれから気を取り戻し「真剣に練習した」ことが、彼が進化した重要なポイントであると説明してくれた。

◆アルロフスキー
ーー自分よりも背丈のある選手相手に対して、ローキックから入って右のパンチというのは驚きました。
「俺は右の拳が好きなんだよ(笑)」
ーー今回のフィニッシュはアキレス腱固めでしたが、これはサンボから学んだものですよね?
「警察学校にいた時にサンボをやり、それからほとんど同じ時期にすぐにキックボクシングを始めたんだ。けど足関節は好きだ。サンボ世界選手権ではよく使う技だし。おれはサンボ世界王者になって、アメリカで何かやりたいと思ったからUFCに来たんだ」
ーーリコ・ロドリゲス戦以来の試合でしたが、その間は少し休んでいたのですか?
「そんな事ないさ。真剣にハードな練習を積んでいただけだよ。」
ーー次の目標は?
「多分フランク・ミアだろう」
ーーミアについてはどんな印象を持っていますか?
「彼はグレートな選手だよ、でも足の方はもういいのかな? サブミッションのスペシャリストという印象が強いかな」
ーーミア相手に一本取れると思う?
「もちろん。しっかりと準備し調整してきた者が勝つのさ」
ーーヒョードルやノゲイラなどは意識しますか?
「彼らもグレートなファイターさ。ヒョードルはソビエト出身だしね」
ーーもしもPRIDEからノゲイラ戦をオファーされたら?
「今はいい時期じゃないな。UFCに集中したいし。でもPRIDEは好きだよ、だっていい選手がいっぱいいるじゃないか」
 

第6試合 ミドル級王者決定戦 5分5R
○エヴァン・タナー(アメリカ/チーム・クエスト)
×デビッド・テレル(アメリカ/シーザー・グレイシー柔術アカデミー)
1R 4'35" TKO (レフェリーストップ:グラウンドパンチ)

※タナーが新王者に

 デビッド・テレルは、金網に入った当初は、オクタゴン・ファンたちの間では比較的無名だったが、最近のUFCでは稀なミドル級のタイトルマッチという檜舞台を手中に収めた。定評通り見事な攻撃で前に出るテレル。飛び込むようなパンチ(アメリカの総合ファンの間では「スーパーマン・パンチ」と呼ばれている)とハイ・キックで追い込み、フロント・チョークですぐに試合を終わらせるかのような勢いだった。
 が、見たところによると、サブミッション・スペシャリストはこの攻撃で腕の血液の循環が急激に衰え、下になるとエヴァン・タナーのオクタゴン経験の前に成す術がなかったのだ。しかしタナーも、フロント・チョークを立ち上がったままで持ちこたえ、「魂のアサシン」のニックネームを持つテレルをフェンスにおしつけ何とか窒息死を免れたのだ。テレルを振り落とし、拳とエルボーを落とすタナー。この日は、オクタゴンでの経験の無さがテレルを裏切った。レフェリーが試合をストップした時点では1R残り30秒だったので、私としては、それぐらいテレルは持ちこたえられたのでは?と思わせるフィニッシュだったが。でもテレルは何の抗議しなかったし、ただ単に自分自身にがっくりしているようにうなだれているだけだった。
 タナーは試合後、フロント・チョークがいかに危険な状態だったか、ただ、どんな事にも対処し長く闘える準備をしてきたと、私に語ってくれた。彼の闘いから得た経験が、タナーにフェンスを使う余地を与え猛烈な疾風のように魂のこもったエルボーを落とさせTKO勝ちに導いたのだ。タナーはもう4年近くこのチャンスを待っていたのであり、テレルがひとつ忘れていたのは、タナーもテレルのように、昔はパンクラスでも期待の新星だったのだ。そしてUFCでは、タナーの「サムライ・スピリッツ」がテレルのそれに優ったのだ。

◆タナー
ーーこれだけ短い時間で決着がつくとは思っていなかったのでは?
「いや、そんな事はないよ。こうなると思っていた。もちろん長くてハードな闘いをする準備はちゃんとしてきたけどね。まぁ、1ラウンドで終わって良かったよ。いつでもクイックな勝利というのはグレートなことだし、とてもハッピーだね」
ーーテレルのフロントチョークに捕まりそうな場面がありましたが、その時の心境はどうでしたか?
「あの形に入られた時はとても危なかったよ。グラウンドであれだけのスキルを持っている選手には、どんなチャンスも与えたくないからね。うまく相手をフェンスに押し付けることができたし、(相手から)プレッシャーもかけられる事もなかったから。(フロントチョークが)もう少し深くタイトに入っていたらと思うと、間違いなく恐い局面だったよ」
ーー(UFCでは)長い間(UFCミドル級の)タイトル・ベルトに向けての闘いを続けていた訳ですが、やっとそれを手中に収めた今の気持ちは?
「最高だよ。でもまだ実感が湧かないかな。もうこの世界に入って長いからね。(格闘技キャリアは)本当に長いんだから!ほとんどの選手よりも俺は長くやってきたから、満足感を感じるね。なんとかここまで長く続けてきて、さぁ、どうだ!ていう感じだね」
ーーいまはもうダン・ヘンダーソンらとは練習してませんよね?
「もう彼とは練習していないよ。この試合の二ヶ月ぐらい前にチーム・クエスト
から離れたんだ」
ーー3年ほど前にパンクラスで試合したじゃないですか?パンクラスの尾崎社長は、タナーという選手を初めて見た時に「凄く強い選手だ」と思ったらしいですが、日本で試合することなど考えますか?
「うん、もしもまた日本で試合をできたら最高だね。日本のファンはファイティング・スピリッツを評価してくれるから、また日本のファンの前で試合ができるのならそれは光栄なことだよ。俺はただここで闘い、競っているだけ、でも、すべての可能性は検討するから」
 

第5試合 ヘビー級 5分3R
×ジェームス・アーヴィン[Irvin](アメリカ/キャピタル・シティ・ファイティング・アライアンス)
○マイク・カイル(アメリカ/アメリカン・キックボクシング・アカデミー)
1R 1'55" KO (右ストレート)

第4試合 ヘビー級 5分3R
×ジャスティン・エイラーズ(アメリカ/チーム・エクストリーム)
○ポール・ブエンテロ(アメリカ/アメリカン・キックボクシング・アカデミー)
1R 3'34" KO (スタンドパンチ)


 この日UFCデビューを飾った「MMAに賭ける男」ポール・ブエンテロは、力のこもったボクシング技術でタフなジャスティン・エイラーズをハードな右のストレートで1ラウンド2分34秒ノックアウト勝ち。地元ファンたちの期待に応えてみせた。今後、ブエンテロがボクシング以外にどんな技術をみせてくれるのか楽しみではある。

◆ブエンテロ「ワォー、クレイジーだよ(我を忘れて大喜びの様子)。いま自分が何をしたのかやっと気がついた。もう総合を始めて7年。ここで試合ができることをずっと望んでいたんですから。もうずっと『こいつをノックアウトすればUFCに出られる』と言われて何度も試合をするのにも疲れてきた時だったから。それで、いま、実際にここにいる訳だから、夢みたいなもんだよ。僕はひとりでテキサスのアマリロでトレーニングしていたから。でも動くしかなかったんだよ。娘と妻をテキサスに残して、サン・ホンゼに3年前に引っ越してきて総合に専念して、もう今年で4年目。今の時間は私の時間だし、今晩は僕が輝くことができた訳だから。ずっと待ち続けていたんだから、この流れに乗るだけさ。とにかく楽しんでね。でも僕に変な目をむけないでくれ。(私が勝ったという)この結末に浮かれている私を、ちょっとぐらい辛抱して見ていて下さい」
 

第3試合 ミドル級 5分3R
○デビッド・ロワゾー(カナダ/TKOマネージメント)
×ギデオン・レイ(アメリカ)※ジョセフ・リッグスから変更
1R 終了時 TKO (ドクターストップ)


 デビッド・ロワゾーは、三日しか準備期間がなかったギデオン・レイを相手に、目の覚めるような素晴らしい試合をした。彼は、UFC3と4で活躍した、あの古き時代の喧嘩野郎たちのひとり、キース・ハックニーの元で練習している選手だ。しかし「ザ・クロウ」というニックネームを持つロワゾーは、軽くしなやかな動きで空に舞い、ハイ・キックをヒットさせ、首相撲からの膝蹴り、そして結局、重い肘打ちを顔面にヒットさせレイの大きなハート切って落としてみせたのだ。
 終始両者打ち合うとてもエキサイティングな試合だったが、レイの頭部から流れ出る血の量は、2ラウンドに突入するにはあまりにも多すぎた。ロワゾーという選手の肘打ちは彼の最高の武器であり、そしてロワゾー自身も見ていて気品を感じさせるとてもエキサイティングな選手だ。

◆ロワゾー「まず今日の勝利は神様に感謝したいです。それから友人のアンジェロ・ペラズとジョルジュ・サンピエール。本当の兄弟みたいに助けてくれたから。本当に有難う。あとは試合4日前のオファーを受けて闘ってくれたギデオン・レイにも感謝します。彼は真の戦士ですし、本当に彼には敬意を感じます。」
 

第2試合 ウェルター級 5分3R
○カロ・パリシャン(アメリカ/フリー)
×クリス・ライトル(アメリカ/インテグレイテッド・ファイティング・アカデミー)
判定3-0


 この夜行われた第2試合、同じくウェルター級の闘いで、カロ・パリジャンは、熟練した職人ともいえるクリス・ライトルに3-0で判定勝ちした。3R終了まで続き判定決着となったが、試合終盤には、カロの柔道で培った技術だけでもライトルを圧倒し、逆に「ライト・アウト!(=ライトルの愛称)」と彼の光りを消しちゃうほどの一方的な展開、そうライトルにとっては、何をやってもなかなか上手くいかない、そんな日となってしまった。
 両選手ともリラックスした表情で、映画「コナン」シリーズの監督としても知られているジョン・ミリアスが発案した金網の中に足を踏み入れる。
 まずカロがテイクダウンを奪うが、ライトルも下から反射的に自分の両足をカロの足の付け根あたりにあてる「バタフライ・ガード」の体勢に入り、すかさず相手の足首をとりにいった所で、カロも同じく足首を狙う。両者ヒールロックを仕掛けながら一回転すると、次の瞬間、二人とも足首を諦めもつれるようにカロが上になるが、ライトルもここでクローズガード。ようやくカロは数発エルボーを落とすが、両者ほとんど攻撃なしとみなしたレフェリーはブレイクを命じ、スタンディングに戻される。ここでライトルは右の膝をカロの顔面にクリーンヒットさせ、グラウンドに持ち込むと関節技を狙うがカロは体勢を入れ替え、上になるとエルボー被弾で何とか試合をコントロールする。
 2ラウンド入っても、ライトルの積極的な動きはカロの技術の前に頓挫。オクタゴンでの常套手段ともいえる、テイクダウン、そして上からのエルボーという戦法に、ライトルは下からデェフェンスしかできない状態が続く。このラウンドに入ったあたりから、ライトルの額の上の部分に瘤が見え始めたが、これが明らかに悪化していく。スタンディングに戻されると、ライトルは得意の打撃に持ち込み、再び膝蹴りをクリーンヒットさせるが、すぐにカロに組み付かれ鮮やかな背負い投げでグラウンドに持ち込まれてしまう。毎回打撃で突進してくるライトルだが、その勢いを逆に利用しカロはライトルをグラウンドに持ち込んでしまう。上になったカロだが、ここでレフェリーはやや早いタイミングでブレイク。(これはこの夜行われたほとんど試合で見られた傾向だった)
 最終ラウンド、ライトルがいつもよりも疲れ切っているのは、動きすぎ、そしてこのよく働く消防士にとっては、ちょっと熱くなり過ぎ、トゥー・マッチ「ザ・ヒート」だったようだ。ただ、そうは言ってもライトルは試合開始からリラックスしていたし集中力も失わず、下になっても何度かリバースを成功させ、彼のガードとグラップリングの技術の素晴らしさは魅せてくれた。だから、英語で「ケツを蹴飛ばされた」と言うような、一方的に完膚なきまでに叩きのめされたという訳では決してなく、不幸なことに、カロが自分の戦法でプレッシャーを掛け続け、プロ・ボクサーでもあるライトルの打撃に付き合わなかったという事でもあるのだ。
 両者ともに相手をフィニッシュまでに追い込めなかったが「ザ・ヒート」カロ・パリジャンが、始めから最後まで試合をコントロールし相手を圧倒し、申し分ない判定勝ちとなった。カロがオクタゴンから降りたところで、まさに放熱状態の彼の父親が、そしてバス・ルッテンがカロを祝福していた。しかしまたこの二人が再び雌雄を決する時がきたら、または先に二勝した方が勝つ三試合シリーズで対決したら、果たして同じ結果になるのだろうか?

◆パリジャン「何回か(相手を)投げたけど、同時にテイクダウンしなくては、と思ったりして、それとまた同時にこの試合負けるんじゃないか、と思ったりもした。試合前はよ夢を見たよ。おれは迷信とか、気にするから。ちょっとチクッとくるような感覚とか、自分でも良く判らないけど。けど勝ててよかった。もしもチャンスをくれるのならタイトルに挑戦したいね。UFCでの戦績は3勝1敗なんだし。」
 

第1試合 ウェルター級 5分3R
○ニック・ディアス(アメリカ/シーザー・グレイシー柔術アカデミー)
×ドリュー・フィケット[Drew Fickett](アメリカ/アリゾナ・コンバット・スポーツ)
1R 4'40" TKO (レフェリーストップ:グラウンドパンチ)


 ベガス時間の午後5時。会場が4分の1ほど埋まった頃、第1試合が始まった。
「ザ・マスター」ことドゥリュー・フィケット、総合24勝2敗というめざましい戦
績をもつオールラウンドな選手のUFCデビュー戦だ。
 フィケットは、ニック・ディアズの驚異的なパワーとスタミナに耐えられると思っ
たのかもしれないが、一番好きな映画が「ミッドナイト・ラン」だという男をナメちゃいけなかった。「ザ・マスター」にはあいにくだが、彼はマフィアの金を横領し逃げ回っている公認会計士となり、ディアズがそれを追い掛ける賞金稼ぎ、そう権力となってしまったのだ。
 ディアズは試合開始と同時にすぐにフィケットをテイクダウン。しかしフィケットもクローズガードでディフェンスし、すぐに下からスィープを狙う。更には右パンチを数発放ち三角絞めを仕掛けるが、ディアズはこれを相手から離れることで上手く防御。フィケットは、下から踵落とし気味のキックを数発放ち、体を起こし強引にフロント・チョークに持ち込もうとするが、ディアズは体重をのせ上からパウンドの連発。この後、ディアズはフィケットのフルガードに捕まり膠着状態になりブレイク。
 スタンディングに戻るとすぐにタックルを仕掛けるディアズ。これをまたフィケットはフロント・チョークに持ち込もうとするが、ここでディアズが再び上になり今度は完璧なマウントポジションを奪う。ビデオの早送りをみているかのようなパンチの嵐に「ザ・マスター」が圧倒されたところでレフェリーが試合をストップし、4分40秒でTKO。
 負けたとはいえ、なかなかの技術をみせたフィケット。こういった才能のあるファイターたちが次々と上陸してくるので、これからのUFCウェルター級戦線がどうなるのか、非常に興味深い。

◆ディアス「まず、レストランでめちゃくちゃ働いて、私をサポートしてくれる母と父に感謝したいです。両親のお陰で、自分のやりたい事ができている訳ですから。それから、この前のクリスマスにプレゼントをくれてダナ・ホワイトにも感謝します。あとはコーナーについてくれたデニス・ホールマンとシーザー・グレイシー。とにかくまたこの大会に呼んでくれて感謝しています。それからこのスポーツを観ている人たち。こういった全ての人が私のサポートになっているんです。UFCファンのみなさん、また戻ってきて試合することを私は望んでいます。」
 

Last Update : 03/06 15:22

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