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(レポ&写真) [UFC 49] 8.21 ベガス:クートゥア王座奪還。シウバを挑発

Zuffa "Ultimate Fighting Championship 49 : Unfinished Business"
2004年8月21日(土) 米国ネバダ州ラスベガス・MGMグランド  観衆:12,157人

  レポート:シュウ・ヒラタ (BoutReview USA)  Photos : Peter Lockley (MAXfighing.com)
  【→大会前のカード紹介記事】 【→掲示板スレッド】


第8試合 メインイベント UFCライトヘビー級タイトルマッチ 5分5R
×ビクトー・ベウフォート(ブラジル/ブラジル・ファイトクラブ/王者)
○ランディ・クートゥア(アメリカ/チーム・クエスト/挑戦者)
3R 終了時 TKO (レフェリーストップ:カットによる出血)
※クートゥアが王座奪還

 前回のビクトー・ベウフォート戦は、明らかに「アクシデントにより試合続行不可能」という状況だったのだから、本来ならばノーコンテストが妥当なところ。UFCに限らずどの格闘技でも眼球への攻撃が認められていない訳だし、PRIDEや修斗、パンクラスなど他の総合格闘技はもちろん、プロボクシングやK-1でも、特にタイトルマッチであの状況だったら、必ずと言っていい程ノーコンテストになっている筈。しかしUFCのルールブックには「ノーコンテスト」という裁定がどこにも記載されていないので、誰がどう見ても「アクシデント」なのに、クートゥアは不本意な黒星をつけられただけでなくチャンピオンベルトまで失ってしまったのだ。
 試合の前日行われた軽量の直後に、そのことも含めてクートゥアに色々と聞いてみたところ、返ってきた答えは「あれはノーコンテストになるべきだったと思うよ。だけど明日(ベウフォートと)やれるんだからいいさ」。相変わらず大人しいといか控え目というか、ベルトに対する執着心みたいなものは全く感じられなかった。が、ベウフォートとどのように戦うのかと聞いてみると「わたしの方から仕留めにいかないと。ベウフォートには自分のリズムに乗れる時間を与えずに、わたしの間合いで闘わないと駄目だ。チャック(・リデル)の時は、彼のリズムに合わせてあっちが突っ込んできたところを迎え撃つという戦法だったんだけど、今回は違うよ」とかなり詳しく「明日の戦法」について語ってくれ、その一言一言には、絶対に負けないという自信のようなものが滲みでていたのだ。

 何が41歳のクートゥアに、これだけの自信をもたらすのだろうか?

 それは試合開始後30秒ほどで明らかになった。
 ベウフォートのパンチをかわし懐に入り込んでからの接近戦で勝負。前回と全く同じ戦法で挑んだクートゥアは、パンチをかわすとベウフォートに組み付きフェンスに押し込む。試合開始早々、前回の対決でドクターチェックのためにブレイクがかかった時と全く同じ体勢になり、観衆は大喜びだ。ベウフォートの攻撃で警戒しなくてちゃいけないのはパンチだけ。組み付いてしまえば、フリースタイルで鍛えたバランスとグレコローマンで培った上半身の強さはベウフォートの比ではない。柔術黒帯とはいえ、リングスで対戦したヨーロッパのヘビー級選手たちの関節技と比べ、寝技の技術がずば抜けている訳ではなく、それほど心配することはない。クートゥアがそう思っていたのかどうかは定かではないが、どうも開始直後から、いや、前回の対決で、すでにベウフォートのことを見切っていたのではないだろうか。そう思わせるほど、試合は一方的にクートゥアのペースで進んでいった。
 パンチをかわす、組み付く、フェンスに押し込む、倒す、そこからパンチとエルボー。オクタゴンではよくみられる常套手段だが、UFCでクートゥアほどうまくこの戦い方ができるのは他にいない。一方ベウフォートは、倒されないように踏ん張るか、倒されたら何とかスタンディングに戻すか、この2つのことしかできず防戦一方。時折下から腕十字を狙うが、冷静なクートゥアはすぐに両手をロックし体重をずらし防御。完全にクートゥアの独壇場だ。

 2ラウンド、クートゥアのエルボーで左目をカットした時点から、ベウフォートの表情に明らかに焦りが見え始める。スタンディングで殴り合う攻防にもっていけないベウフォートは、何とか突破口を開くために得意の左ストレートを放つが、逆にこれはクートゥアに完璧に読まれ、すぐにフェンス際で組み付かれてしまう。
 3ラウンドに入っても全く同じ展開が繰り返された。クートゥアはベウフォートを倒すとパンチとエルボーの連打。クートゥアのフェンス際での押さえ込みの強さに何もできないベウフォートは、ただひたすら決定打をもらわないためするのが精一杯。結局このラウンドが終わった時点で、ドクターストップによるクートゥアのTKO勝ち。四度目のUFCベルトを腰に巻いた。
 試合後、クートゥアに呼び掛けに、リングサイドで観戦していたヴァンダレイ・シウバがオクタゴンの中に足を踏み入れた。「わたしのこのベルトと君のそのベルトを賭けて闘うというのはどうだい?」といつもの穏やかな口調で言うと、シウバも通訳を通じて「俺は誰とでも闘う」と答え、会場のボルテージは一気に最高潮に達した。

 試合後の記者会見でもUFC社長のダナ・ホワイト(写真右)が「PRIDEがアメリカ市場を侵略しUFCを吹き飛ばすみたいなことをこれまでに何度も耳にしたけど、まだこっちにやって来ないから我々の方から乗り込むことにしました」と12月12日に日本でUFC大会を開催することを発表。「こっちはチャック(リデル)を三回も出したし、リコ(ロドリゲス)も派遣したのに、PRIDE側は選手を送り込む送り込むと何度も言いながらまだ一人も来ていない。(シウバに向かって)お前ら憶病者たちの準備ができたらいつでもやろう。12月の日本でもいいし1月にこっちでやってもいい」。最後に「今日は来場してくれたことは本当に光栄に思っています」と付け足しシウバに敬意を表しながらも、ホワイト社長のコメントはかなり挑発的なものだった。ライトヘビー/ミドル級統一戦に向けて舌戦が開始された!と素直に喜んでいるファンもいるが、本当に実現するのだろうかと半信半疑のファンもかなり多い。このふたりの対決は、総合格闘技界にとってはプラスになる事なのだから、できれば実現して欲しいものだが、今回のようなワンパターンの攻撃になりがちな金網の中ではなく、リングでやってくれれば、クートゥアのという選手のもっといい部分が見れるに違いない。

◆ベウフォート「まず神に感謝しています。わたしの妻が妊娠していることをアメリカに来てから知ったんです。(クートゥアに向かって)ランディありがとう。いい闘いだった。ヘッドバットで目尻をカットしてしまい、わたしは続けられると言ったのですが、ドクターがもうストップした方が言ったんでしょうがないです。次の闘いに挑むだけです。今聞いたばかりですが、12月(のUFC日本大会で)、ティト・オーティズとやれるみたいですから、とても今からエキサイトしています。みんな望んでいるマッチアップですから。そしてその後、またこのタイトルに挑戦できたらいいと思っています」

◆クートゥア「まずベウフォート選手に感謝します。色々と家族が大変な時に、タイトルを賭けて試合に挑むのはとても難しかったと思います。それが真のチャンピオンの姿です。9月に撮影が始まり来年の一月にオンエアが始まるリアリティ番組も決定しましたし、これからこのスポーツはどんどん世間に認知されると思います。どうもここにいるほとんどの選手はヴァンダレイ・シウバとやりたいみたいですが。(シウバに向かって)ちょっと気持ちがいいでしょ?これだけみんなに言われると。(略)でもそれは彼が本当に凄い選手だからです。あっちのチャンピオンと我々のチャンピオンがやるのは、このスポーツにとってはとてもいい事です。PRIDEの方も今ここにいらしているみたいですが、何とかこの対決が実現するようにまとめてくれることを期待してます」



<特別コラム>
ランディおじさん、トッププロのパフォーマンスって、一体なに?

 目線の配らせ方、言葉と言葉の間に時折みせるうなずくような仕草、そして親指、人指し指、拳と所々ポイントを押さえるかのように様変わりしていく手。
 この国の政治家たちが、TVカメラや聴衆の前で演説する時にみせる、そんな計算され尽くされた細かい動作を見る度に痛感することがある。聞き手が咀嚼できるコミュニケーションというのは、言葉だけでなくスピーチ技術、パフォーマンスがいかに大切かということを。ランディ・クートゥアという選手は、そんなパフォーマンス全盛のアメリカではとても珍しい、試合とその結果だけで全てを語り立証してきた「無言実行」タイプの成功者だ。
 とにかく多くを語らない。このクートゥアという選手はまさにその典型で、ファンの前でもメディアの前でも、彼の口からは必要最小限の言葉しか出てこない。もちろん質問にはちゃんと答えてくれるのだが、大風呂敷を広げることもないし感情的になることもない。いつでもどこでも寡黙なランディおじさん。ようするに穏やかすぎるのだ。

 もう7年前になるビクトー・ベウフォートとの初対決の時もそうだった。

 首相撲でガッチリと相手を捕まえてからのアッパーカットの連打というランディ・クートゥアの、いや、今やチーム・クエストの専売特許ともいえる必勝パターンからグラウンドに押し倒してのパウンドで圧勝。トレ・テリグマン、スコット・フェローゾ、タンク・アボットら(当時の)UFCヘビー級の猛者たちに圧勝し、飛ぶ鳥どころか、飛行機も落とす勢いだった「超新星」ベウフォートを完膚なきまで叩きのめしたのだ。クートゥアは「この試合で総合格闘技の世界にその名を轟かせた」となる筈だったが、この日のメインで、ヘビー級のタイトルに挑戦したモーリス・スミスが、当時は「敵なし」と目されていたマーク・コールマンに逆転勝ち。大方の予想を覆す大番狂わせを演じてしまったので、ファンや関係者のクートゥアへの注目度は一気にトーンダウン。メインのふたりもアメリカ人だったこともあるのかもしれないが、クートゥアはアメリカ人選手なのに、この国のファンの間でも「あ、そういえばあの試合もよかったね」程度の印象しか残すことができなかったのだ。
 試合後の記者会見で「同じレスラーとしてコールマンの仇をとる!」みたいな威勢のいい一言でもかましていれば流れは変わっていたと思うが…。そこは礼儀正しいランディおじさん、「もっと練習して頂点にたてるように頑張ります」というアマチュアのエリート選手っぽいコメントしか発さなかったのだ。しかも後味の悪い事に、プロ競技生活中最高体重の225パウンドでこの試合に臨んだベウフォートにステロイド使用疑惑が浮上。そんなリング外でのゴタゴタのせいもあり、クートゥアが、次期ヘビー級チャンピオンと期待されていたベウフォートに何もさせず一方的に勝ったという事実が、ファンの頭の中から自然消滅してしまったのだ。

 ただ当時UFCを運営していたSEGだけは(主催者としては当然のことだが)ちゃんとクートゥアのことを忘れなかった。新チャンピオンになったスミスとのタイトルマッチを、横浜アリーナで開催された記念すべき日本での第一回UFC大会のメインとして組んでくれたのだが…。ランディおじさん、この試合では相手の打撃に一切付き合わず、テイクダウンとグラウンド・コントロールを駆使するという、レスリングの選手にとっては賢明かつ保守的な戦法で判定勝ち。UFC史上でも一、二を争うとてもとても退屈なタイトルマッチを演じてしまったのだ。モーリス・スミスは言わず知れたキックの王者、打撃のエキスパートだし、タイトルマッチの「まず勝つのが最優先」という通常のセオリーから考えると、この時のクートゥアの戦法は非難されるものではない。ただ「試合をした気がしない」という試合後のスミスのコメントが、プロの選手として「見せる試合」をするという姿勢に欠けたクートゥアに対しての辛辣な批判と捉えたファンが多かったのも紛れもない事実。言葉の裏を感じとることが苦手で「本音と建前」という概念がほとんど存在しないこの国にいるファンの反応としては、これはかなり稀なものだったと言える。
 更にクートゥアにとってはまたまた運の悪いことに、同じ日に行われたUFCミドル級初代王者決定戦で、フランク・シャムロックが「レスリング五輪金メダリスト」の称号を引っさげオクタゴンに乗り込んできたケビン・ジャクソンをたったの16秒で料理。両足タックルでテイクダウンされた後すぐに下から腕十字を決めてのタップ勝ちという、総合格闘家にとっては理想的なパターンで、レスリングの世界チャンピオンにいとも簡単に土をつけてしまったのだ。

 当時のUFCは、ダン・スバーン、ドン・フライ、コールマンなどレスリング選手の活躍により、タックル、ポジショニング、パウンド、そしてナチュラルパワーが、関節技や締め技などのテクニックを凌駕しているという視点が確立されつつあったので、元全米レスリング王者としてはここで一発、ほんの少しでいいから力強い発言を!と期待したファンも多かったと思うのだが…。ここでも大人しかったランディおじさん、試合後は「チャンピオンになれて嬉しい」のような在り来りの優等生的なコメントに終始。ファンの脳裏に「新王者」の強烈なイメージを焼きつけることはできなかったのだ。(同大会では、今や「世界で一番有名な総合格闘技の日本人選手」といえる桜庭和志がヘビー級のトーナメントに優勝。日本のメディアはもちろん、世界のメディアの視線もそちらに向いてしまい「新ヘビー級王者誕生」を報じるはずだった放送時間や誌面の多くは「桜庭の優勝」に切り替えられた為、尚更クートゥアの印象は薄くなったのだ)
 その後クートゥアは、リングスやヴァーリ・トゥード・ジャパンなど他大会に出場し一時期UFCを離れていたが、2000年にオクタゴンに戻り、ケビン・ランドルマンを下し2度目のUFCヘビー級王座を獲得。その時もあまり多くを語らなかったが、その後、ぺドロ・ヒーゾと二度に渡り名勝負を演じたときも、のちにジョッシュ・バーネット、リコ・ロドリゲスと2回続けてヘビー級タイトル戦に負けた時も多くを語らなかった。誰もが認める強豪たちを撃破してきた世界でも指折りの総合格闘家なのに、とにかく、いつ、何時でも、大して話題にならない選手だったのだ。

 しかし2003年、ライトヘビー級に転向しティト・オーティズとの対戦が決まったあたりから、ランディおじさん、この国のファン気質を理解し始めたのか、コメントに微妙な変化が見られてきた。「ティトが対戦を避けてきた相手ともちゃんと闘ってきた俺が真のチャンピオンだ」とか「わたしはもう20年以上も全米のトップレベルでレスリングをしてきたんだ。ティトはちょっとジュニア・カレッジとカレッジで(レスリングを)かじった程度だろう」など、挑発的なものが多くなってきたのだ。ただ、ビッグマウスでいるという事と、メディアを通じてのパフォーマンス効果を理解しているという事とでは全く別の次元の話である。そこら辺のところをランディおじさんは、どのように解釈しているだろうか?
 確かにメディアの前では饒舌になった。社会人として模範的ともいえる答えだけでなく、対戦相手の印象から自分が頭に描いている戦法などもっと詳しく自分の気持ちを語ってくれるようにはなったのだ。自分はプロスポーツの選手、つまり商品なのだということをしっかりと認識しているのは確かだが、それが試合内容にも反映されているかというと、そこのところはまだまだ明白ではない。
 言うまでもないが、プロとしてまず大切なのは試合に勝つことで、その次にくるのが観客を満足させること。80年代に爆発したNBA人気の立て役者、マジック・ジョンソンとラリー・バードは「プロなんだから勝たなくちゃいけない。どんなことをしても勝つことが最優先」と常に言っていたが、試合結果こそが全ての発起点であるべきで、観客が喜ぶ戦い方、コスチューム、ヘアスタイル、メディアへの言動などはあくまでも「お添え物」なのだ。
 しかしマジックやバードの場合は、100年以上も前からアメリカ社会に馴染んできたオリンピックの種目にもなっているバスケットボールというスポーツだからこそ、(もちろんそれだけではないのだが)勝つことへの執念だけでも多くの観客を感動させられたのだ、という見方もできない事はない。この国での歴史が浅く、初めて観る人には非常にわかりにくい部分もたくさんある総合格闘技と、基本的なルールは単純明快なバスケットボールとでは勝手が違う。チャンピオンとして、このスポーツの代表者として、総合格闘技をこの国でもっと普及させ社会に認知させるには、観客の目を意識するのは当然というよりも使命に近いもの。ここまで選手にプレッシャーをかけるのはちょっと酷ではるが、総合格闘技とういスポーツが将来プロサッカーやプロ野球と同じ土俵に立つことを望んでいるコアなファンの視点からすれば、それぐらいの心構えが選手側にも主催側にも必要であるという事なのだ。
 クートゥアはパンチと首相撲が得意なレスリング出身の選手なのだから、オクタゴンの中ではどうしも相手を捕まえグラウンドに持ち込みパンチとエルボーという戦法になってしまうのは仕方がないのだが、そればかりじゃちょっと飽きるな、という観客も多いはず。横浜でプロ生活初のベルトを獲得したあの日、モーリス・スミスが言ったあの一言を、ランディおじさんは今でも覚えているだろうか?

 



 

第6試合 ライトヘビー級 5分3R
○チャック・リデル(アメリカ/ピット・ファイトチーム)
×ヴァーノン・タイガー・ホワイト(アメリカ/ライオンズ・デン)
1R 4'05" KO (右ストレート)


 試合はリデルの上から振りおろすようなロシアンフック気味の右で幕が開けた。ヴァーノンも全く気後れせずに、パンチとキックの連打で応戦。潰れるまで打ち合うという両者の気合いがヒシヒシと伝わってくる。リデルのパンチを警戒しているヴァーノンは、ワン、ツーのあとダッキングという攻撃パターンで前に前に出ようとするがスリップしたリデルと、もつれるように下になってしまう。すかさずバタフライ・ガードに入るヴァーノンだが、グラウンドに付き合う気がないリデルはすぐにスタンディング。再び激しい打ち合いに戻るが、リデルの正確なワン、ツーが確実にヴァーノンを捉えはじめる。2分過ぎ、左のジャブと右のストレートがヴァーノンの顔面に入るとそのまま下になる。リデルはここで素早くサイドマウントの状態からパンチの連打。相手をボコボコにする。これこそがUFCスタイルだ。そんな試合展開に会場は総立ち。
 しかしヴァーノンは4点ポジションに入ると、リデルのパンチが入る右のガードを固め、頭部を蹴ることのできないリデルが少し躊躇した瞬間、下からカポエラ風ともいえるキックを放ちスタンディングに巧く戻す。

 再びパンチの打ち合いに入るがやはりスタンディングではリデルに一日の長がある。確実にヴァーノンの顔を突き刺す右ストレート。しかしヴァーノンも顔を腫らしながらも気合いで殴り返す。こうなってくるともう文句無しに面白い。もう2分過ぎあたりから誰ひとりとして席に座る気配ゼロ。MGMグランドがこれほど揺れたことが過去にあったのだろうか。
 3分30秒過ぎ、頭を下にして相手の懐に突っ込むように放ったヴァーノンの左のパンチがリデルの顎にヒット。効いたのか、一瞬ひるんだリデルは覚束ないステップで後方に下がりながら残り時間を確認するためにコーナーの方をチラッと見る。チャンスとみたヴァーノンがここで飛び込んで放ったパンチが命運を分けた。これを完全に見切ったリデルの後ろに下がりながらのカウンターの右ストレートがクリーンヒット。この一撃でリデルのKO勝ち。
 試合後の記者会見でリデルは「またライトヘビー級の王座にチャレンジできるところまできたんだから、いつでもやるぜ。とにかく早くマッチアップしてほしい」とベルト奪還への意欲を露にしたが、それと同時に「でもタイトルマッチの前に闘ってもいい相手がひとりだけいる。それはヴァンダレイ・シウバだ」と対PRIDEへのUFC切り込み隊長は俺だとばかりに、会見場にいたシウバを挑発。オーティズ、クートゥアと並ぶUFCの三大スターのもうひとりは間違いなくチャック・リデルであることを強く印象づけた。

第5試合 ミドル級 5分3R
×マット・リンドランド(アメリカ/チーム・クエスト)
○デビッド・テレル(アメリカ/シーザー・グレイシー柔術)
1R 0'25" KO (左ストレート→グラウンドパンチ)


 ADCCではヒカルド・アルメイダを華麗なテクニックで翻弄し、パンクラスの技巧派・渋谷修身にも快勝したデビット・テレル。そんな彼のオクタゴン初陣を待ち焦がれていたファンは意外に多い。UFCの常連マット・リンドランドに勝るとも劣らない会場のファンの声援が何よりもそれを物語っている。
 しかし試合開始早々左フック一発でテレルのKO勝ち。
 シーザー・グレイシー柔術の選手たちは他のグレイシー柔術の選手たちと比べてアグレッシブなことで有名だが、リンドランドも五輪レスリング銀メダリストなのだから、少なくともタックルぐらいは決めてほしかった。そこからテレルが三角絞めにいくようにみせかけてオモプラッタ、というような場面をイメージし、グラウンドでの「白熱の攻防」を期待していたファンにとっては拍子抜けともいえる試合内容。KO決着が大好きなアメリカのファンにとって、これ以上最高のフィニッシュはないのだが、今大会の観客からはちょっと変わった反応が見られた。大声援の中で、呆然と突っ立っているファンが結構多かったのだ。ノリだけはどこにも負けないUFCの会場で、これはかなり珍しい光景といえる。殴る蹴る倒すもいいが、グラウンドで行われる肉体を使ったチェスのような頭脳戦も、充分にスリルがありエキサイティングなもの。これをちゃんと認識している人がこんなにいる。この日、会場に足を運んだ総合格闘技ファンの中には、そんな観客のリアクションをみて、ちょっと嬉しくなっちゃった人もいたに違いない。

 アメリカのプロスポーツという観点から考えると、UFCはまだまだ文句無しのマイナー・スポーツ。それなのに、二ヶ月に一度12,000人規模の会場で興行が打て、安定したPPVのセールスを記録しているのは、11年間に渡り着実にこの国に総合格闘技を浸透させファンを増やしてきた結果以外のなにものでもない。あまりにも試合時間が短すぎたからかもしれないが、そんな事を考えながら、なぜか感傷的な気分にさせられるテレルのUFCデビュー戦だった。

第4試合 ヘビー級 5分3R
×マイク・カイル(アメリカ/アメリカン・キックボクシング・アカデミー)
○ジャスティン・エイラーズ(アメリカ/チーム・エクストリーム)
1R 1'14" KO (左フック)


 4月の試合でウェス・シムズを下したものの、試合後シムスの胸にくっきりと残った歯型が会場のモニターに写し出されたその瞬間から、ファンの罵声を浴びつづけているマイク・カイル。充分に予測されていたことだが、入場前から会場はブーイングの嵐だ。しかしこの試合、カイルにとっては「お兄ちゃん」と対戦するようなもの。高校、ジュニア・カレッジ、大学と同じフットボール部に所属し、ジュニア・カレッジではルームメイトでもあったジャスティン・エイラーズは、いわゆる同郷の先輩だ。「彼に憧れ、彼を目標として頑張ってきた」というカイルにとっては、センチメンタルになるなという方が無理だったのかもしれない。
 一方のエイラーズにとっては、2年前に総合格闘技の練習を本格的に始めて以来、最大の目標だった待望のUFCデビューなので「こんなに嬉しいことはない。UFCでやれるんだったら相手がお母さんだったとしてもやる」と、お世辞にもウィットに富んだものではない、ちょっと首を捻りたくなるジョークを言う程かなり興奮気味でやる気満々。2歳下の後輩に負ける訳にはいかない。そんなエイラーズの熱い気迫が、試合前からオクタゴンを支配していたように思えたのは筆者だけだろうか。

 試合開始早々、差し合いからのカイルの膝蹴り2連発がエイラーズの急所を直撃。ブーイングのボルテージ一気にマックスレベルに達した。しかし明らかに気持ちが前へ前と出ているエイラーズ、試合再開後もカイルにプレッシャーをかけ続ける。タックル気味に懐に飛び込んできたエイラーズに対して、カイルは後ろに下がりながら無防備に右のパンチを放つ。だが、がら空きになった顎にエイラーズの左フックがクリーンヒット。グラウンドに崩れ落ちたカイルにエイラーズが容赦ないパンチの追撃を加えたところで試合ストップ。エイラーズのKO勝ちとなった。
 判定負けしを喫したものの、2003年6月ハワイでキャベージ・コレイラとも互角の勝負を演じたこのエイラーズの突進力が、今後、あまり層が厚いとはいえないUFCヘビー級戦線にどのような影響を及ぼすか、注目に値することは間違い無い。
 一方のカイルは、試合後、目にいっぱいの涙を溜めながらスポンサーや協力してくれた人たちへ謝罪し「まだ戻ってくる」と宣言したが、会場はもちろんブーイング一色。気持ちはわかるが、オクタゴンから出る際も観客に向かって中指をたてるカイルの態度は、まるで幼くて我がままなティーンエイジャー。今後、プロの世界でやっていくのなら、まずメンタルな部分の改善が急務のように思われる。

第3試合 ウェルター級 5分3R
○クリス・ライトル(アメリカ/インテグレイテッド・ファイティング・アカデミー)
×ロナルド・ジューン(アメリカ/808ファイト・ファクトリー)
2R 1'17" ギロチンチョーク

◆ライトル「ジューンという選手はとてもタフでスタミナもあるしオールラウンドだというのは充分に分かっていた。今日はわたしの流れになってくれただけ。でもここにいるカロ(パリジャン)も同じ気持ちだと思うけど、俺たちのいる階級は多分UFCの中でも一番選手の層が厚いから。みんなベルトが欲しいんだ。これからどうなっていくのか判らない。これからも誰が相手でも闘う。とにかくまたUFCで試合がしたい」

第2試合 ウェルター級 5分3R
×ニック・ディアス(アメリカ/シーザー・グレイシー柔術)
○カロ・パリシャン(アメリカ/フリー)
判定1-2 (28-29/27-30/29-28)

◆パリシャン「とにかくUFCで戦えて嬉しいです。また戻ってきたいです。ベルトも欲しいですし。頂点がかなり近付いてきたような気がします」

第1試合 ライト級 5分3R
○イーブス・エドワーズ(アメリカ/サード・コラム)
×ジョシュ・トムソン(アメリカ/チーム・シャムロック)
1R 4'32" KO (右ハイキック→グラウンドパンチ)

◆エドワーズ「トムソンはスタートからフルスピードでくる選手だというのは知っていましたが、ここまでスピードがあるとは思いませんでした。本当はこの試合に(ライト級)にベルトを賭けてほしかったんですけど。ランディのベルトを見ているとジェラシーを感じます。わたしはここに長くいたいんです。UFCでベストになりたいんです。もうここまで結果を出して証明してきた訳ですから、ベルトが取れる試合に挑みたいです。またライト級がもっと全面に出れるようにして欲しいです。我々(ライト級の選手)もベルトを貰える権利があると思います。物凄い層が深い階級ですから、そのトップに立つというのは凄いことだと思いますから」

第7試合 スイングバウト ミドル級 5分3R
×ジョー・ドークセン(カナダ/チーム・エクストリーム)
○ジョセフ・リッグス(アメリカ/アリゾナ・コンバット・スポーツ)
2R 3'39" TKO (レフェリーストップ:グラウンドパンチ)

Last Update : 08/25

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