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[UFC 46] なぜか軽量級に注目。マット・セラ・インタビュー (BoutReveiw USA)

構成:シュウ・ヒラタ
インタビュー:フェルナンド・アヴィラ
(BoutReveiw USA)

「今度のUFCは画期的だ」
 突然そう言い出したのは、「バウレビUSA」のエディトリアル・ディレクター、フェルナンド・アヴィラくんだ。
 もちろん、彼の言っている「今度のUFC」とは、今月31日にラスベガスのマンダレイ・ベイ・イベント・センターで開催されるUFC 46: The Super Naturalの事である。
 UFC史上初のヘビー、ライト・ヘビーの二階級制覇を成し遂げ「ミスターUFC」の称号を手中に収めたランディおじさんと、打撃でのノックアウト決着を好む視聴者が圧倒的に多いこの国では根強い人気を保っているベウフォートくんのリマッチ。そして、宇野薫と名勝負を演じたB.J.ペンが、ワンランク階級を上げて、ウェルター級では今や無敵と呼んでもいいヒューズに挑む。更にカーロス・ニュートンもオクタゴンに戻ってくるのだから、確かに好カードが出揃ったと言ってもいい大会ではある。

 「でも一体何が画期的なんだい?」
 窓の外に流れる雪に埋もれたビクトリア式の住宅を眺めながら、フェルナンドくんはこう答えた。
 「ミラーライトとスーパーボウルだよ」

 我々は、グランドセントラル駅午前10時2分発のロングアイランド特急に乗り、ハンティングトンという街に向かっている。
 80年代、日本のおばさまたちの間で人気のあった映画「恋におちて」の中で、ロバート・デ・ニ−ロとメリル・ストリ−プが出逢うあの特急列車だ。
 確か大手旅行代理店のパンフレットでもそんな紹介の仕方をされていたような気がする。
 そのロングアイランド特急に、日曜日なのに早起きして飛び乗ったのは、今度のUFCで、UCCからの刺客アイヴァン・メンヒバーを迎え撃つライト級の強豪、マット・セラの取材のためだ。
 何でこんな大雪の日に、わざわざ一時間も列車に乗ってマット・セラの取材に行かなくてはいけないのかもフェルナンドくんに聞きたがったが、取り敢えずミラーライトだ。

 スーパーボウルは説明されなくても判っている。
 2月1日の日曜日はアメリカのプロ・フットボールのファイナル、スーパーボウルの日だ。
 アメリカのスポーツメディアにとっては一年で一番忙しい日。
 みんな外出しがちなので比較的にPPV放送の売れ行きが伸びにくいと言われている土曜日に敢えて開催日をぶつけた今回のUFCは、そんなアメリカン・スポーツ最大のお祭りの日に便乗したものだ。日時が発表された時点で一部のマスコミやファンの間でこう囁かれていた。
 UFC史上初の土曜日開催だぜ、大丈夫かよ?

 「今度の大会にはミラーライトの冠がついているんだよ」
 気がつかなかっただろ、と言いたげに顎を突き出すフェルナンドくん。でもそう言えばそうだった。UFC 46の予告を見た時に、アメリカの大手ビール・メーカーのミラーライトがメインスポンサーになっているので吃驚したのを思い出した。
 アメリカのメジャー・プロ・スポーツ、特にプレーオフやワールドシリーズなど、ポスト・シーズンの試合には必ずと言っていい程大企業の冠がつく。車、ビール、飛行機、家電、銀行。
 老若男女を問わず、誰でも一度は耳にした事のある超有名企業ばかりだ。
 それに比べ、今までこの国で放映された(もちろん、ボクシングを除く)格闘技番組に、そんな有名上場企業がスポンサーについた前例はない。(言うまでもないが、子供がテレビを見る時間帯に放映されていることの多いプロレスは、この国では格闘技番組というカテゴリーには絶対に入らない)
 ズッファ社長のダナ・ホワイトが、(UFCを)ボクシングのようにメジャースポーツとして世間に認知させる、としきりに言っていたが、なるほど、ミラーライトの冠がつけば、翌日、アメリカの半分ぐらいの人たちが見るフットボールの試合と遜色ないとまでは言えないが、近いレベル、つまりメジャースポーツと呼ばれるラインに肉迫してきた、という印象を視聴者に与えるだけのインパクトは充分にある。

「画期的だろ?でもズッファは何を考えているんだろうね。折角のチャンスなのにもっといいカードが組めないのかね。アメリカの格闘技ファンは二ヶ月ちょい前にあのPRIDEグランプリを見ちゃってるんだから」
 フェルナンドくんは、常日頃からUFCにはかなり手厳しい。
 大晦日にPPV放映された6時間のスペシャル番組「UFC: New Year's Eve Special」に関しても、オンエアされた試合の中で関節技が決め手となったのはUFC初期のホイスの試合ぐらいで、あとの6時間はぜーんぶ打撃で決着のついたもの、または激しい打撃戦の末に判定までもつれ込んだものばかり!言われなくても何を「売り物」にしたいのか判るよ!と新年早々会う度に、わたしの耳にタコができるほど同じ事をくり返し叫んでいるぐらいなのだ。
 フェルナンドくんにとって、わかり易い打撃ばかりを前面に押し出し、関節技や寝技、そしてその寝技に持っていくタックルや投げ技などの技術を視聴者にしっかりと教育する気がまったくみられないUFCの方針、ズッファの経営戦略に大きな疑問を感じているのだ。
 UFCが顔面への肘打ちを認めているのも、鋭角で皮膚を切っちゃう可能性が高いから、イコール打撃決着を多くするためなんじゃないの!?とまで言い出す始末だ。

 しかし、なぜ今、マット・セラなのか?
 ヘンゾ・グレイシーの一番弟子で、アメリカ人としては初めてグレイシー柔術の黒帯を取得した猛者ではあるが、オクタゴンでは負け越しているし、はっきり言って、31日のUFC 46でもPPV放送されない可能性が極めて高い前座試合での出場だ。
 こう言っては失礼だが、今度の大会ではスポットライトが当たりそうにないこのマット・セラという選手を取材するフェルナンドくんのテーマとは、一体?
 でも普段は取材からカメラマンから車から飛行機まで手配業務に関しては全てわたしにお預けのフェルナンドくんが、今回は珍しく自分から率先してセラ陣営に連絡をとり取材アポを取ったのだから、よく考えたらこちらの方がわたしにとっては「画期的」なのだ。
 それならわたしはカメラと録音と取材のフォローだけに集中して、フェルナンドくんが今回の取材で何をどんな答えを出そうとしているのか、黙って見届けてもいいだろう。
 結局、フェルナンドくんとは、かんたんな取材の段取りの打ち合わせだけで、セラにぶつける質問内容に関しては何の相談もしないまま、セラ柔術アカデミーのある静かな住宅街に到着した。



フェルナンド「月末のUFCに向けて、どんな所に重点をおいた練習をしていますか?」

セラ「レスリングの技術かな。色んなバリエーションのテイクダウンをしっかりと身につけているね。クートゥアの試合のテープを見たりしながら研究しているんだ。テイクダウンでも無駄な力を使わずに、タイミングとか。足でスイ−プするんでもタックルで膝をつかむにしても、力だけじゃなくて、スピードとかタイミングとかだよね。UFCの選手の中でもレスリング技術に長けた選手を見ると、ああ、あれはどうやってるんだろう?教えてくれ、という風になってしまうからね、わたしは。テイクダウンの技術はかなり向上したと思うよ。それからやはりスパーリングだね。柔術はもともとスパーリング重視だし。あとは打撃ももちろん。蹴りとクリンチワークは特にね。」

フェルナンド「一度はあなたの判定勝ちと正式にアナウンスされたにも拘わらず、試合後にジャッジのスコアカードにミスがあったとの理由で、対戦相手のディン・トーマスに勝利が転がるという、あの非常に不可解な試合以来のUFC参戦となりますが。」

セラ「あんな事はUFCの歴史の中でも初めてだよ。本当にアンハッピーだったね、あの時は。特にあの試合は、一本勝ちを狙ったわたしと判定勝ちを狙ったディンとの戦う姿勢の違いが全てだったと思うから、そうなるとね……。まぁ、ディンもわたしとグラウンドにいきたくなかったというのは理解できるんだけど、ね?(判るだろ?とばかりにフェルナンドくんを見る)あの試合は何とかディンが逃げ回ったと言えると思うよ。彼だって分かっている筈さ。もしも本当にわたしと正面からぶつかりあったら誰が強いかという事は。」

フェルナンド「そのディン・トーマスは年末のイノキボンバイエ2003で、かなりの体重差のあるスロエフと戦いノックアウト負けを喫しましたが、『今までからは考えられないぐらい高いギャラも貰えたし、ファンにも囲まれとてもいい経験になったからいい』とアメリカのマスコミに発言して話題になっていますが。」

セラ「いい経験ね。まぁ楽しい思いをしたんならそれはそれでグレートさ(笑)。でもね、いいギャラとはいえ、ノックアウトされてハッピーという事はないね。ディンはとてもいい奴だし。でもモンスターだ!という威圧感を醸し出すタイプじゃないから、そんなに体重差があるなら、相手もノックアウトしなくてもね。ちょっとわたしには、どうも……。(理解できないとばかりに黙り込む)」

フェルナンド「今回の対戦相手もこれで三回変更しました。ディン・トーマス戦の判定の件も含めて、最近のUFCは、ライト級という階級に対してやや片手間のような印象を受けるのですが?」

セラ「うーん。UFCのライト級はちょっと難しい状況だよね。ペン対宇野の決着がつかなかったから。ライト級そのものもどうなるか判らないけど、あんまり考えないようにしている、というか気にしてないね。ライト級がなくなったらウェルター級で戦うだけだよ。誰がどの階級のチャンピオンか、という事はあんまり考えないで、目の前にいる対戦相手に勝つだけだね。」

フェルナンド「今回、ウェルター級に体重を上げたB.J.ペンと対戦した時も、判定までもつれ込みましたよね?」

セラ「そう、あの試合も判定だったね。もうちょっと3ラウンドをプッシュできれば良かったと思うけど。今さら言い訳してもしょうがないよ。でもUFCのファンに、と言うより総合格闘技界に、まだわたしがどれだけ力があるのか、どんな事ができる選手なのか、充分に見せきれていないと思うんだ。」

フェルナンド「UFCにはエキストラ・ラウンドはないですよね。5分3ラウンドだと短すぎて明確な勝者を選ぶのが非常に難しい試合がありますよね?しかし判定はマストシステムなのでどちらかの選手が勝たなくてはいけない。そんなケースが最近のUFCでは、特に軽量級では多いとは思いませんか?」

セラ「エキストラ・ラウンドというコンセプトはいいと思うよ。決着をつけよう、という姿勢のある選手に対してのご褒美みたいなものだからね。このラウンドで仕止めないと次のラウンドがある、と思いながら戦う方が、何とかこのラウンドを乗り切って判定で、と考えながら戦うよりいいファイトにもなると思うし。」

フェルナンド「去年はミルコ・クロコップの活躍で、一流ストライカーが本格的に総合に取り組んだ時の強さが格闘技界に再認識された年でもあった訳ですが、柔術の選手にとって、一流ストライカーはやはり脅威ですか?」

セラ「うーん。ストライカーね。でも、例えばマット・ヒューズも脅威だよね。でもあんまり打撃はしない。グラウンドではもちろん殴るけどね(笑)。ミルコはとても怖そうな人間だね。けどミノタウロとの試合を見ても判るだろ? グランドに持ち込んで何分でタップさせたっけ?1分30秒ぐらいだったろ?柔術というのはそういうものだからね。どんな嵐の中でも、巧く切り抜けて常にチャンスを伺っているんだ。相手が間違った動きをひとつでもしたら決して見逃さない。そういう点では一流のストライカーも柔術の選手も同じなんじゃないかな。」

フェルナンド「しかしズッファは打撃の得意な選手を好んで起用しているようにも思うのですが?」

セラ「さぁ、それはどうかな。わたしには判らないけど、ファンに関節技の技術を教えようという感じはないかもしれないね。口にパンチを叩き込め!なんて叫んでいるファンばかりを相手にしないで、関節技の素晴らしさをもっと教えるべきだとは思うよ。」

フェルナンド「UFCとPRIDEそれぞれの方向性を比較すると、ズッファはボクシングを手本に、そしてDSEはプロレスを、と良く言われますが。」

セラ「プロの選手というのは、やはりエンターテイナーである事も大切だとわたしは思っているから。ファンが喜ぶ演出というのは大切だと思うよ。だから日本では是非試合がしたい、と前から(周りの人たちには)言ってるんだけどね。」

フェルナンド「UFCのライト級は、ペンがウェルターに上がってディンが戻ってくるのか判らない。それに宇野も契約が終わったので、修斗に戻るというのがもっぱらの噂ですが、そうなると、UFCライト級ではあなたがトップという事になりますよね?」

セラ「うーん。わたしのUFCでの戦績は2勝3敗でしょ。でも実際には負けた三試合も判定と、もう一試合はわたしよりも体重がかなりあるショニ−・カーターだからね。戦績だけでは一概には言えないから、選手の実力は。わたしは常にライト級ではトップのひとりだと自負しているけど。」

フェルナンド「リングとケージ、どちらの方が自分にとっては戦いやすい場だと思いますか?」

セラ「リングでもケージでもそれぞれの戦い方があるから、どっちでもいいかな。でもケージはちょっと大きすぎるよね。だから、ぐるぐると逃げ回る戦法の選手にとってはリングよりケージの方がいいと思うよ。」

フェルナンド「もし、あなたがUFCのル−ルを一つだけ変えられるとしたら、何を変えますか?」

セラ「イエローカードだね。PRIDEだとスピード違反のチケットを切るみたいな勢いでイエローカードを連発しているよね。UFCでも消極的な戦い方をする選手にはどんどんとイエローカードを出してアグレッシブに戦うと思うよ。あの広いケージの中で逃げ回るのは戦法なのかもしれないけど、プロのアスリートとしてはどうかと思うんだ。アマレスでもイエローカード出すぐらいだからね。」




 先週、K-1 MAXがアメリカでPPV放映され、スピードとスリルのある中量級や軽量級の試合は、選手によってはヘビー級よりも面白いという事実を、再びこの国の格闘技ファンの心の中に蘇らせたばかりだし、PRIDEも武士道という体重の軽い選手のための戦いの場を設けたばかりだ。これに加えK-1も独自の総合格闘技イベントを発足したし、イノキボンバイエやアルティメット・クラッシュもある。
 これだけ戦いの場が増えると、必然的にヘビーやミドルの選手だけではファンを惹き付ける事ができなくなる。となると、今年こそは日本人強豪選手の宝庫とも言える中量級、軽量級というカテゴリーにスポットライトが当たる筈だ。そしてその時キーとなるのは、UFCにいる中量級、そして軽量級の選手たち。そう考えると、マット・セラのようにUFCというアメリカのメジャーで実績のある選手は、必ずどこからかお声が掛かるに違いない、とフェルナンドくんは踏んでいるのかもしれない。

Last Update : 01/30

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