試 合終了のゴングが鳴り響いた瞬間、全身が鳥肌立つのを感じた。
KO必至と言われたこの試合、眼前に展開されるシーンは決して予想できないものでは 無かった筈だ。しかし予想は予想、それが本当になった時の衝撃はやはり尋常では無
かった。
試 合全体を総じて、会場の全てが浮き足立っていた感はある。K-1シリーズ最大にし
て年に一回のGP本戦、そしてその第一試合。ファンの興奮は試合開始と同時に一気に ピークに達し、そしてその中で対峙する選手二人にも普段の試合とは全く次元の違う
緊張が走っているように見えた。「確かにナーバスになってた。試合前どちらかというと『フィリョの方が有利』みたいな評価が多かったから、なにくそっていう気持ち
が強かったし。」ベルナルドは試合後そうコメントしている。
大 阪のK-1一回戦ではモーションの大きさを老獪なモーリス・スミスに見切られて剛
腕が空転を強いられたベルナルドだが、今回は真直ぐに距離をつめショートレンジで のパンチの打ち合いを仕掛けようとする。戦法そのものはフィリョにとっても予想の
範囲だろうが、そのプレッシャーとパンチ力は初めて身を持って知った脅威だったろ う。まるで丸太が突っ込まれるような重い左ジャブが再三フィリョの顎を上向かせる。
大阪では、同様に入ってこようとするリック・ルーファスの入り端を狙う重いローキ ックで完璧な勝利を納めたフィリョだったが、ベルナルドはこのローキックに対し多
少ぐらついてもそのままもう一歩踏み込み、一発喰えば終わってしまう物凄いパンチ を振るってくる。フィリョは明らかにプレッシャーを受けていた。ベルナルドのパン
チに対応する戦略としてフィリョが用意していたクリンチワークはそれなりの効果を あげていたが、フィリョ自身も「頭ではわかってるんだけど、体に正しい動きを染み
込ませるところまでまだ出来上がっていない」と試合後語っていたように、クリンチ の際に頭を下げ過ぎてしまい、ベルナルドの膝がしばしばその下がった頭部を脅かし
ていた。
(ベルナルド-フィリョ:10-10、10-9、10-10)
ラウンド開始20秒に放たれたベルナルドの右。ダウンこそ免れたが、この一発でフィ
リョの目の焦点は合わなくなっていた。「測定不能の強さ」「潜在能力の底無し沼」 ...そうしたフィリョ神話が終局を告げる瞬間が、こうしてやってきた。
試合後スローVTRを観た感じでは、ベルナルドの最後の一撃はフィリョの(反則であ る)後頭部に当っているようにも見える。しかし一連の流れから言って、このパンチ
はダメージのためふらつくフィリョとテンプルを狙ったベルナルドの偶然の位置関係 で生じたものだし、もしあれをダウンと認めなかったとしても、その後試合の勝敗が
動くことは無かっただろう。
「Bad...」
試合後「今の気分は」と問われたフィリョが返した声は、今までに無い程小さかった。
「どんなファイターでも一度は通らなければならない道ですけどね...。」
「ローキックで入ってくるのを止めるつもりでいたが、ベルナルドもK-1に入った当 初のようにローキック対策が出来てない選手ではもうありませんから...」
来 年は極真の世界大会も控えており、彼には二足のわらじを履かねばならないジレンマもある。「両者は別のものです」と彼は終始一貫して語っており、その言葉は今回
の試合後でも変わらなかったが、この敗戦がそのニュアンスを微妙に変化させたのも 確かだろう。「極真は永年続けているし、技術的にも既に私の体に染み付いたもので
す。しかし、キックのスキルはまだまだです。得にパンチの技術は、もっともっと練 習して磨かなければ...」
神話は終わった。しかし無論のことそれはフィリョという選手が終わったことを意味 するわけでは無い。それどころかひょっとするとベルナルドはフィリョの中に眠って
いた新たな闘志、可能性の扉をその剛腕でこじ開けてしまったのかもしれない。新生 フランシスコ・フィリョが再びその強烈なカリスマ性とともにK-1の舞台に再登場するシーンを楽しみに待ちたい。
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