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K-1 JAPAN'98 神風

10. 28 代々木第2体育館

第6試合 日本対世界副将戦3分5回戦

マイケル・トンプソン
5R時間切れ
判定(2-0)
× 武蔵

[181cm,88.1kg]

[185cm,98.3kg]

イギリス  日本
武蔵のジレンマ  Text by 高田敏洋

 

 の2年間武蔵は勝利に恵まれていない。結果だけを見ている限り、彼がある種のスランプ期に突入してしまったように見えても仕方ない。体はでかくなった。当然総 合力は以前より遙かに上がっている筈だ。なのに結果が付いてこない。彼の中に焦りがないと言えば嘘になるだろう。格闘技に限った話ではないが、こうした狂い始めた 歯車はきっかけ一つで回転が変わり出すものだが本人の焦りが更に歯車の狂いを大きくさせる場合も少なくない。


 レッシャーをかけていこうとする武蔵と、ステップで回る自分のスタイルで試合 を開始するトンプソン。共に動きは良いように見えた。

 パワーアップによってヘビー級でもぶつかり負けしない自信を身に付けた武蔵が身長体重共にトンプソンを上回り、かつての武蔵では考えられなかったパワーで押し潰 すような重量感を持って踏み込んでいく。

 しかし、そのことで彼の動きが軽量時代に比べて雑に感じられるのは穿ち過ぎた見方だろうか。かつての武蔵いやムサシの試合には、一発貰えば終わってしまうヘビー 級にライトヘビー並みの体重でエントリーしていることによる緊張感が満ち満ちていた。持ち味のスピードと天性のカウンター能力を武器に、常にギリギリのところで相 手をかいくぐり斬り付けるような闘い方が、ムサシと言う選手のスタイルだった。

 その武蔵が体力を武器に押し込むような闘い方でこの試合に臨んできた。これは今後の彼を考える上で吉兆なのか凶兆なのか... (ジャッジ:トンプソン vs 武蔵で、10-10、10-10、10-10)


 ンプソンはリズムとタイミングの選手である。かつてのムサシもまたそういう選手だった。今日の試合で一方はそのスタイルを保持し続け、一方はスタイル改造に取 り組んだ。軽やかなステップを刻むトンプソンに対して、擦り足で前に出ようとする 武蔵。しかしトンプソンは相手のリズムを盗むことによって試合の主導権を奪うこと に非常に長けた選手だ。踏み込んでくる武蔵の顔面を正面から突き上げるようなジャ ブがヒット。トンプソンは武蔵のリズムに少しずつ体で対応し始めていた。


 方武蔵は勝ちに拘るせいか、攻撃のリズムが単調になっていく。2週間前の公開 スパーリングで石井館長から指摘された手技と足技の分離の傾向が見え始める。公開 スパーの時期は疲労がピークであったため本来の動きが出来なかったのではないかと思っていたが、やはり石井館長の目は鋭かった。 (ジャッジ:トンプソン vs 武蔵で、10-10、10-10、10-10)


 

 竹雅昭はマット・スケルトン戦を契機に、パワーのある外人選手にひたすらパワーで対抗するスタイルには限界があると語った。一方外人選手に劣る体格を「モンス ターファクトリー」によって誰の目にも明らかなほど力強く改造してみせた武蔵。だが、今の彼は、そのパワーをどのようなスタイルの中に集約しようとしているのだろう。

 無骨な闘い方をする若い選手に、老練なテクニシャンがコーチング・マッチをやっている雰囲気が出てきた。先日のK-1大阪のベルナルド vs スミス戦と似ている。だ が、ベルナルドは試合のリズムの全てを一発でひっくり返すような武器を持っていた 。もし武蔵にそれに匹敵するような武器が与えられているとしたら、それはスピード であり、カウンターであり、コンビネーションであるはずだ。だが、勝利が欲しいと いう焦り、パワーで押せるという自信、それらが武蔵に狙い過ぎの展開を選ばせてし まう。 (ジャッジ:トンプソン vs 武蔵で、10-9、10-9、10-9)


 合後半トーンダウンすることをしばしば指摘される武蔵だが、ことによったらそれは肉体的なスタミナでなくリズムと集中力の問題なのかも知れない。この日は勝ち に貪欲な気持ちが集中力をキープさせることには役立ったが、一方攻撃のリズムは単調になりコンビネーションも少なかった。試合後トンプソンは今の武蔵に欠けている ものは、と問われ、彼らしい遠慮がちな口調で「試合中のリズムが常に一定」であると指摘した。トンプソンのような上手い選手にリズムを盗まれることは、対戦相手に とっては空回りを続けさせられることを意味している。このラウンドでロープに詰められパンチラッシュを受けたときにも、トンプソンはダメージを被ることなく、逆に 武蔵を「来い来い」と挑発してみせるだけの余裕を残していた。


 といって今のトンプソンに相手を仕留めるほどの破壊力も感じられない。無論その飛び込み際のパンチや伝家の宝刀後ろ回し蹴りは充分な切れ味を持っているが、武 蔵は軽量時代から見た目よりは顔面攻撃に対する耐久力があり、また相手との一瞬の距離感を測る感覚には独特の鋭さを持っている。これらのいわば天性の資質は、後天 的なトレーニングやタクティクスに基づくコンビネーションや手数の問題と異なり、 この日の武蔵にも健在だった。従って彼もトンプソンに決定的な攻撃を許すような隙 は見せない。


 内容的には白熱した一進一退、しかしはやる武蔵とリズムに乗るトンプソン、それ ぞれの心中はどのようであったか。 (ジャッジ:トンプソン vs 武蔵で、9-10、10-10、9-10)

 

 のラウンドが始まった時点で、トンプソンは武蔵という対戦相手の動きを「インプット」し終えていたように見えた。軽いステップから飛び込んでの左、そして後ろ 回し蹴りと立て続けに攻撃を放ち、生き生きとした動きを見せる。一方の武蔵、一つ 一つの攻撃、特に相手の攻撃にタイミングを合わせたカウンターの的確さは4R同様健 在だが、それが一連のコンビネーションとなって流れるように出てくる動きが今日は 感じられない。


 ンプソンの左ジャブが武蔵の顔面を捉えるシーンが一段と目に付く。一方武蔵の貯めのある左のボディも時折トンプソンのレバーを抉るが、今日のトンプソンはコン ディションが良かったのだろう、このボディ・ブローに対して殆ど効いた素振りを表さなかった。こうしたパンチの的確性の差が試合全体を通じてポイントに影響したよ うに思える。 (ジャッジ:トンプソン vs 武蔵で、10-9、10-9、10-9)



 果は2-0(49-48、50-48、49-49)でトンプソンの判定勝ち。武蔵はまたしても勝 ちを拾うことが出来なかった。

 この記事を書く前にデビュー時からの武蔵のいくつかの試合をビデオで確認してみ た。そうして、かつてのファイトに見られた彼なりの個性がここ数試合不明瞭になっ ているという印象を受けた。体重が10kg増えれば戦法が変わることは当然だろう。し かし今の武蔵には、新たな戦法を模索している過渡期の印象が強い。彼が再び「これが武蔵だ!」と対戦相手や観客に見せつけるような日が一日も早く来ることを望まず にはいられない。


 

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取材:高田敏洋 岩田貴宏 カメラ:井田英登


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