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K-1 JAPAN'98 神風

10. 28 代々木第2体育館

第7試合 日本対世界大将戦3分5回戦

スタン・ザ・マン
4R0'30"
T.K.O.(ドクターストップ)
× 中迫剛

[176cm,97.3kg]

[190cm,94.8kg]

オーストラリア  日本
新たな試練 Text by 高田敏洋 

 

 よいよ大将戦。ここまで日本チームは1勝3敗という予想通りの厳しい内容となった。

 先のK-1 BUSHIDOで佐竹には敗れて準優勝に留まったものの、その試合内容によって一躍名を挙げ今回大将戦に抜擢された中迫。デビュー五戦目にして早くもK-1古参 、百戦錬磨のスタン・ザ・マンとの対戦となった。

 こうしたデビュー間もない新人がいきなり世界のトップランクとぶつかるKのシステムについては、一部から批判を受ける場合もある。だがそうした「飛び級進学」を 許されるのは抜きんでた強さを持つ者だけであり、殆どの場合彼らは与えられた巨大な課題から驚異的なスピードで学習し、力を付けていく。かつて佐竹が正道会館の名 前を背負ってドン・中谷・ニールセンと闘ったあの伝説の試合といい、空手出身のアンディがグローブとパンチの間合いに苦しみ、敗戦を重ねながら今日の鉄人ぶりを再 び取り戻した経緯といい、「力のある者はどんどん上に行けばよい」というある種脱日本的な構造がKの舞台での逸材の輩出を支えている。

 、中迫はそのKの試練に立ち向かわされているのだ。しかしその試練が許されること自体、彼が「またもう一人の逸材」として周囲からどれほどの期待を集めているか の証明でもあろう。

 迫190cm、スタン176cm。今日の試合で唯一、日本人の方があからさまに長身な試合だ。だが体重はスタンの方が中迫を上回る。体力的にはほぼ互角と思ってよいだろう。

 スタンは「相手がどんな選手か全く知らなかった」ので、最初はとにかく見ていこうと思っていたそうだ。中迫はそうした待ちの相手に対して積極的に左右のローを飛 ばしていく。このローがなかなか的確だ。しかしローキックといえばスタンもムエタイばりのシャープで重いローを得意とする。そして何より彼はそのローや飛び込むよ うなステップインを足がかりに、怒濤のようなパンチラッシュで知られる選手だ。中迫は一瞬たりとも気を抜くことは出来ない。


 が先のK-1 BUSHIDO以来、中迫のハートの強さは既に実証済み。今日も全く臆し たところも緊張で固くなっている様子も見えない。ぐっと顎を引き、両手のガードを 高く構え、左右のパンチからローへのコンビネーションなど基本的な技術が非常にし っかりしている感じ。彼のキャリアを考えれば、これだけきっちりした体の使い方が 出来ることだけでも既に驚異的と言っていいだろう。 (ジャッジ:スタン vs 中迫で、10-10、10-10、10-10)


 ーチの点からも、また中迫が蹴り技スタンがパンチを得意とする選手であること からしても、離れて中迫、ショートでスタンという展開になっていく。一つ一つの技 のスケールは体の大きさもあって中迫の方がスタンを上回っている。中間距離でのミドルを中心にした組立は間違いなくスタンにとってプレッシャーになっていた。

 だがその距離をスタンが乗り越えてインサイドに入ってくると、今度はさすがに彼の回転の速いコンビネーション・ブローが中迫の顎を脅かす。中迫は気の強さを反映 してこの距離になっても怯まずパンチの打ち合いにすら応じる気配を見せる。見ているこちらはハラハラすることになるが、動きに悪い癖のない中迫は接近戦でもかなり しっかりしたガードが出来ていて、カウンターにでもならない限り不用意なパンチを貰うことは殆ど無かった。だが... (ジャッジ:スタン vs 中迫で、10-10、10-10、10-10)


 ウンド開始間もなく、スタンが飛び込んで中迫にパンチのラッシュを放つ。中迫はあのスタンのラッシュに怯むことなく立ち向かい、決して一方的に打ち負けている 様子ではない。だがこの時受けたパンチで、中迫の鼻から大量の血が滴り始めた。試 合後の中迫のコメントによると、既にR2の攻防の際に鼻に異変を感じていたそうだが 、これで完全に鼻の奥の血管が切れた。あれだけ大量の血が流れると、鼻からの呼吸 は出来なくなりスタミナを奪われると同時に口が開いて顎も脆くなる。  

 ころがここでも中迫はハートの強さを見せつけた。流れる血を気にもとめず、左右のローでスタンの下半身を痛めつけ続けたのだ。この中迫のローで脚にダメージが 蓄積していたことはスタン自身も認めている。80戦のキャリアを持つ自分相手に僅か 5戦目であれだけの闘いをした中迫を、スタンも非常に高く評価していた。

 しかしここで相手を倒すハードなパンチからダメージを負った鼻を狙ったスナッピ ーなパンチに切り換えるあたりがスタンの老獪さである。(ジャッジ:スタン vs 中迫で、10-10、10-9、10-10)


 迫の鼻血が止まらない。ラウンド開始30秒でレフェリーストップが入り、ドクタ ーが中迫を診察する。「鼻が折れてます。」会場から悲鳴のような嘆声が挙がる。だ が試合中止の宣告に会場からさほど不満の声が挙がらなかったのは、それまでの中迫 の試合内容が納得できるだけ見事だった為だろう。



 も納まらなかったのは、闘っていた中迫本人だった。「R3くらいまでプレッシャ ーかけて徐々に試合作っていって、R4〜5で勝負のつもりでした。だいたい思惑通り に進んでいて、さあこれからって時に...」彼の言葉は決して敗者の言い訳には聞こえなかった。事実彼の言ったとおりに試合は展開し、スタンは両脚にダメージを蓄積 させて「試合ストップになったのは良かったよ」と述べているのだ。しかし中迫の骨折がスタンのパンチによるダメージの結果である以上、この試合は文句の付けような くスタンのTKO勝ち。リング上にifは無く、そして勝った者だけが、結果だけがもの を言うのが格闘技なのだ。それが判っているからこそ、中迫の悔しさもひとしおだっ たのだろう。

 「内容ある善戦」、結局今回中迫に送られるのはこうした賞賛とも慰めとも付かない言葉になってしまうことだろう。しかし、実に多くの日本人選手が幾度となくこの言 葉を受け、そしてその繰り返しが彼らの中に大きなフラストレーションを貯め込ませる様を、これまで我々は何度となく目にしてきたのではなかったか。逸材中迫にこの 言葉は一度だけでいい。彼が次の試合でこの鬱憤を木っ端微塵に粉砕してくれることを期待しよう。

 

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取材:高田敏洋 岩田貴宏 カメラ:井田英登


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