今やすっかり日本中にその顔を知られた有名人、角田信朗がK-1日本勢の先鋒として登場。この人くらいこうした役割が似合う人も居まい。テーマソングもサザンの「マンピーのGスポット」に一新し、ノリノリで客席を煽りながら花道を闊歩してくる。まるで、武蔵や中迫といった後輩達に“プロ意識とはこう言うもんだ”と見せ付けようとしているかのような、派手なアクションの連続。リングに飛び込んでからも、四方に向けて念入りにポーズを極めて見得の切るあたり、あまりのハマり振りに思わず苦笑いが出てしまいそうなほどだった(失礼!)。
この試合もまた前試合のベルナルド vs サダウ戦同様大変な体格差だ(ベイル191c m 114kg、角田174cm 93.1kg)。だがこの試合と前の試合で違いがあるとすると、そ
れは選手の側に明確なテーマが見えること。いかにもK-1的ではあるが、そういった 感情移入を誘う部分があるから「角田なら何かやってくれるのでは」という観客の期待を惹き起こす。対戦相手のベイルは試合に対する心理的な入れ込みはおそらく角田
ほどでは無かったであろう。そのことが試合結果に大きく影響したように思える。
空手時代から「闘将」の異名を持つ角田が、こうした「背負う物」を持ってリング に上がったときのオーラは久しぶりのこの試合でも存分に見ることが出来た。キャラ
クターが先行して最近のファンにはあまり知られていないかも知れないが、角田の技術レベルは正道会館の選手の中でも傑出した完成度を誇っており、彼が一度リズムに
乗ってしまうとよほどの相手でなければそのブロックやステップの隙を盗むことは難しい。二階から打ち下ろすようなベイルのパンチもしっかりと角田には見えていた。
やや大振りなベイルのパンチが流れる隙に飛び込んでのワン・ツー。この右ストレートがベイルのテンプルを擦るようにヒットする。一見効果の見えにくいパンチだが、
角度によっては瞬間的な平衡感覚の麻痺を起こさせる当たり方だ。ベイルはこれで大きくバランスを崩し、もんどり打って倒れた。
一瞬のバランス喪失はあったにせよ、このパンチそのものは尾を引くほどのダメージとは思えなかった。しかしこの最初のダウンの時ベイルは右肩を体の下敷きにする
ような格好でマットに倒れ込んでしまい、既に脱臼していたのだ。言ってみれば彼の体格がこの場合は災いしてしまった。ベイル自身立ち上がった時にはまだ体の異変に
気付いていなかったようである。しかしこうなってしまえば最早試合は終わっていた。角田がベイルをコーナーに詰めて仕上げに掛かる。正道会館が空手ルールにグロー
ブによる顔面攻撃を取り入れた頃から角田のパンチ技術、特にそのコンビネーションには定評があったが、今回もそのパンチラッシュは見事だった。
「まだまだ殴り足りないんですよー」と語る試合後の表情には、余裕さえ感じられた角田信朗。
何だか一人で美味しいところを独り占めです。
全試合結果に戻る 次の試合へ