4)『プロレスラーを出さないとプロレス雑誌に載らなくなるんですよ』


(97年UFC-Jにて。元祖キングダム時代、安生もヤマケンも金原も一緒だった)

−−キングダムという会社自体は今はどうなんですか。

「会社に借金が大量にあって。僕は格闘技側から来た人間だから、お金のもめ事、例えばファイトマネーの不払いとかがあってはならないという考えを持ってやってますんで。今のキングダムは会場の使用料やファイトマネーの不払いや滞りも一度もないので、そういったスタンスを守って、クリーンな団体づくりをやっていこうと思ってます」

−−結局鈴木さんから会社を買い取ったと。

「いえ。昔のキングダムは鈴木さんの登記のままなんで。株式会社キングダムというのと、今の僕のユナイテッド・ワールド・ファイトというのは全く違うと」

−−じゃあキングダムという名前は?

「だからキングダムというのはある程度経ったら変えようというのはあったんですけど、僕の中での思い入れもあったんで。もし代々木第二に戻ったらその後変えます」

−−まず恩返しをしたいと。

「そうです。人じゃないキングダムに恩返しです。僕の自己満足もあるし、旧キングダムのファンとかが」

−−旧キングダムのファンってそこにこだわってるのですかね。

「ある程度いますよ。フロントの人も残って手伝ってくれてる人もいるんで。その人がキングダムの看板とかも買ってるんですよ。『俺がキングダムの看板を買ったんだ』っていつも飲みながら話してるんですよ(笑)。『こんなになっちまって〜』って」

−−やっぱりみんなの夢を背負ってる部分もあるんだ。

「僕の夢、みんなの夢、プラス最強に対する夢。もう代々木第二に戻れせればね。あとは引退してもいいです。もう向いてないっすよ!これホント言います、僕向いてない!プロレス界に。ほんとね...、そういった、人をだますかだまされるか、本当に今回のJPWA(日本プロ・レスリング協会)とのことも含めて、だますかだまされるかというのが...。僕の考えは、心底人を助けたり、思いやりを持って接すれば必ず返してくれるって考えてたんだけど、そうでないってことを最近つくづくわかってしまって。凄く精神的にきついですよ。今は練習してる時だけが楽しいですよ。何も考えなくていいし、チケットが今日何枚売れたとか考えなくていいし(笑)」

−−あとキングダムがキングダム・エルガイツに名前が変わるまで少し時間があったんだけども、そこでプロレスとの対抗戦が結構あったじゃないですか。あれはどういう流れで?

「僕からはやりたいと言ってないんですけど、両方の選手が互いのリングに上がったら面白いんじゃないかということで色んな団体から提案があって。協力してもらえることが凄くうれしかったですし。あと女子の試合とか、既存のU系団体や格闘技団体ではありえない世界を作らないと生き残れないなと思って。人があっと驚くようなことをこれからもやろうと思ってるし」

−−一ホント入江選手にはプロレス界に全然ルートが無くて、最初が富山の。

「Uドリームですね」

−−そのあとキングダムの自主興行が始まってから、既存のプロレスの選手をリングに上げたことで、Uに対して思い入れがあるファンにとって『あれ?』と思う部分があったと思いますが。

「うーん。一つ言えるのがですね、プロレスラーを出さないとプロレス雑誌に全く載らなくなるんですよ。格闘家だけで全部揃えようと思えば揃えられるんですけど」

−−最初の興行がそうだったですよね。

「でもそれだと載らないんですよ」

−−うちも最初の興行には取材に行ったんですよ。その後プロレスラーが入ってきたことで、僕らの中にも疑念が発生したって部分があって。

「(サバイバル)飛田さんとバーリ・トゥード戦をやってしまった時でしょ。あれは8日前に決まったんですよ。ガチンコでやってくれるプロレスラーを探してて、やっと飛田さんが見つかって。」

−−ガチでやることを受けたわけですね。

「うちは今でもガチンコを受けるプロレスラーを探してる状態なんで」

−−じゃあ今後ネームバリューがあってプロレスを背負ってきた人間とやりたいという思いもあります?

「いや、先に客が入るか入らないか、まず主催者になって考えるんですよ。チケットの累計をやりながらね、毎週毎週考えるんですよ〜(笑)。」

−−どんな感じ?やっぱりそれは。

「イヤですよ〜!」

−−(笑)やっぱり続けていかなきゃいけない、廻していかなきゃいけないという面では、プロレスラーともやらなきゃいけないだろうというのが経営者・入江の思いであり、その中で格闘家・入江としてはガチンコであることを守りたいと。

「そうですね...ガチンコでいってくださいって僕が言っても、最後選手同士の試合で申し合わせがあったら止めようがないですけど、それはどこもおなじでしょう。だから僕は選手を信頼してやっていくしかないです」

−−マッチメークをした時点で、もう入江さんの手は離れてしまってると。

「逆に手を離れるという点ではこないだの村浜×鳥羽にしろ、僕はあそこまで面白くなるとは思ってなかった試合っていうのもありますよね」

−−村浜選手(写真)も、プロレス団体に上がり続けていることが経験として備蓄されてて、試合展開にも余裕を持たせて戦えるようなファイトスタイルになったんでしょうね。

「実力が自分より上であったり同等であったりすればまた変わってくるのかなと思いますけど。今回は実力差がありすぎて、鳥羽くんが頑張らないといけなかったし。僕はあれだけ殴られたら鳥羽くんヤバいなと思ってたし。でも結果としてはすごく面白い試合になって。ほんとに僕にとっては組んだ時点で選手にお任せになるわけで、うれしい誤算でしたね」

−−入江選手としては観客論を含んだ考えも多少はあるんですか?

「僕も前にイランのテコンドーの王者と戦った時も、打撃に余裕が持てなかったんで、組んでしまって、関節に行かないでマウントに行って殴ろうとか、そういうのを考えながらやってるし、ジャーマンに強引に持っていくのも全然取り決めとか無いものなんで。そういうのをやる必要ないところでやってることになるのかもしれないですけど」

−−それはUFCに出てる選手も言うんですよ。ここで普通にテイクダウンすればいい所なんだけど、思いっきりぶん投げてやる方が、相手の選手も驚くだろうし、観客も喜ぶし、自分としても気持ちいいと。だからそういう物もやりながら、ぜんぜん真剣勝負でやってるし、自分の戦いだから何をしようと自由だろう、と言うんですよ。だから観客に媚びないということを言い出せば、逆に試合を楽しんじゃいけないのか?ということになるんで。だけど、うっかりしたことをすると関節を取られるかもしれないという意味では、逆にそれこそ真剣勝負だと思うんですよ。

「そこでキングダムルールというのは、一本勝負だけじゃないと。例えば一本先にとられてもその先十分に勝てる要素があって、その後に5本取り返せばいいじゃないかと。そういったスポーツライクな部分があるから、今、格闘技関係の雑誌記者から、『格闘技界でキングダムルールが一番面白い』と聞いたことがあるんですね。それはやっぱり見せあうことができるからで」

−−確率で考えれば、5本勝負で3本取れる人間のほうが強いと判断してもほぼ間違いないわけですよね。

「だからそういうのがあれば余裕を持って戦えるし、番狂わせが少ないですよね。練習のつもりで試合をしてるって言ったら言い過ぎかもしれないですけど、そういうつもりじゃないと、うちはほんと体力勝負なんで。30分でもバーリ・トゥードみたいに寝てるだけじゃなく、うちの場合は立ったりロープブレイクしたりで。速攻勝負をかけようとしたら持たないですよ。僕もデビュー戦で8分戦っただけで死にそうになりましたから。それはやはり攻めてばかりで余裕が持てなかったからだと思うんですよ。今は全然きつくないですよ。10分ぐらい楽にできるし」

−−あとキングダムルールで、マウントしないと殴れないってのはちょっと疑問に思うんですけど。

「確かに賛否両論ありまして、あれをやめてしまうと一般のプロレスラーがこれ以上出てこれないんじゃないかという考え方があって」

−−逆に今はバーリ・トゥードに慣れた日本の観客にどれだけ説得力を持たせられるかというところですよね。

「まあ、今は無いよりもあったほうがいいぐらいの考え方ですよね。あと僕がよく使う浴びせ蹴りとかは、やったあとに横四方取られて殴られたらたまらないわけですよ(笑)。その代わり、ある程度ポジションができて、エビを使ってガードに戻せれば殴れるんですよ。だからそういう点のプラスアルファで、現行ルールでやってるんですけども。あともう一つエルガイツルールと言って、ほんとバーリ・トゥードみたいなルールで、今年の暮れぐらいからやろうと思ってるんですね」

−−それはキングダムルールと共存されると。

「そうです」

−−エルガイツルールはエスケープは?

「なしです。それもちょっと考えてるんですけど、そのままだとバーリ・トゥードと一緒なんで、3本勝負とかやる可能性もあるんですけどね。結局ダウン1回がエスケープ1回なんで、ダウン3回で終わりじゃないですか。基本的にエスケープは残すと思います」

−−エスケープの面白さを唯一残す団体となったのは逆に強みかもしれないですね。じゃあロープエスケープの妥当性についてどう思いますか?。リングの真ん中で技をかけられてて必死になってロープに歩んでいくのは違うだろうっていう考え方もあるんですけど。

「うーん」

−−逆にUの負の部分を背負いかねないですよね。3本というのなら、どこで3本取ってもいいじゃないかというのを少し感じますよね。

「そうですね。そうなると僕が考えるのは、わざわざリングじゃなくてもいいじゃないかと」

−−ただ現代性の中で、リングというのが一番見せやすいんで。要はエスケープ3回なのか、参った3回なのかで説得力が変わってくるかなと思いますけどね。もちろんゲームとしてエスケープの効用は認めますけどね。


NEXT □□□ 5. 僕、意外と堅実なんですよ(笑)代々木第二までの入江式経営術 →
入江秀忠インタビュー 目次


[第4号 目次に戻る][BoutReviewトップページに戻る]

 


 

Copyright(c) MuscleBrain's
BoutReviewに掲載の記事・写真・図表などの無断転載を禁止します。
著作権はマッスルブレインズに属します。