1)キングダムを背負って“しまった”男の使命感

−−入江選手がキングダムの主導権を握って以来の大会について、本誌では結果をいただいてニュース欄に掲載はしていますが、現在のところ大会会場での取材はずっとしていないという状況にあります。まあこれは人員の問題もありますし記事バリューのという部分もあるので致し方なかったのですが、今回、読者からも『キングダムをどう扱うつもりなのか?』という質問をいただきまして、僕としてもいろいろ考えました。ただ、大会を観ていないのでどうにも判断がつきません。新生キングダム・エルガイツとして活動も軌道に乗りつつあると聞いていますし、いろいろ疑問に感じる部分もある。ならば、入江選手にお会いして、今のキングダムとはどういう団体なんだ?ということを聞いてから判断しようと思い今回インタビューさせていただくことになったのです。

 具体的にまずずばりお聞きしたいのは、今のキングダムは格闘技の範疇でやっているのか?それともいわゆるプロレスの範疇でやっているのか?ということなんですね。まぁ本来こういう質問というのは非常に失礼に当たると思うのですが、これからキングダムがメジャーになるためにはそのあたりの姿勢を明確にすべきだと思ったので、思いきって聞かせてください。

「そうですね。基本的に、例えばパンクラスさんやリングスさんといったU系のプロレスから出てきた団体というのはどういう範疇になるんでしょう?逆にBoutReviewさんそれらに関して扱っておられる方針を聞きたいんですけども」

−−はい。うちは基本的に格闘技というのは『Fixed Fightがあってはならない』と考えています。一般に興行的な要請から試合の結果があらかじめ決まっている団体もあると言われていますが、そういうものは格闘技として考えるのはどうかと思います。うちとしてはいわゆる申し合わせのない、リング上で起ることの全てを選手個人が責任を持って戦っている団体は全て格闘技の範疇だと考えています。

 仮にプロレス技と言われるものが使われたり、試合の中で観客に受けたいなどといった考えを選手が持ったとしてもそれは構わないと思います。そういった行為をやるリスクは結局選手本人の勝敗に跳ね返って来ますし、それを含みながらあえて美学としてそういう技術をリングで実現することは構わないと思うからです。

 確かに例えばPRIDEの桜庭×ホイス戦でも、桜庭選手には多分に遊びのある動きがあったと思います。でもあれは観客を味方に付ける一種の戦法であり、実際勝負の中で心理戦の要素を持っていました。もちろん勝敗までも観客論に巻き込まれているような戦いではないわけです。だから、ウチではそれを報道するようにしています。

「例えば、最近相撲でも話題になってますが、ガチガチと言われている格闘技の中でさえもそういう怪しい試合が無きにしもあらず、という状況については、どういう考え方なんですか」

−−ジャーナリズムの観点からすれば、具体的な金銭の授受等の証拠が明確にならなければ『疑わしきは罰せず』だと思うんですよ。『うちは真剣勝負です』と謳っている団体を、明確な根拠もなく誹謗中傷したり想像で物を言ったりするのは良くないと。

 ですから、ここで話に戻しますが、キングダムさんがプロレスと格闘技の境界線が曖昧なままに思われてしまうのは、なぜですかね?

「キングダムのスタンスというのは、プロレスラーでも格闘家でもいいから、いくら無名であっても『強い奴をリングに上げよう』ということなんですね。確かに、プロレスラーを上げているので、グレーに見る人も多いと思います。今の時代、正直UWF自体が真剣勝負としての見られ方が薄らいでいるというのもありますし。でもあえてうちはUWFの継承というのを前面に打ち出し、なおかつ元UWFの藤原組長や中野さんをリングに上げていることが、そう思われる原因じゃないでしょうか」

−−プロレスラーを起用するのは、まあある種の興行政策もあるんでしょうが、あくまでリング上できっちりと真剣勝負が行われているかが大事だと思います。ただ、元々の桜庭選手や金原選手の活躍していた時代のキングダムっていうのは、逆にUWFの影を切り落として成立してきた物じゃないですか?

「それはまあ確かに言われるんですけども、僕が入ったころというのは、かつてキングダムの道場に、田村さん(写真)や山崎さんのロッカーがまだ残っていたんですね。倉庫にもUインターのグッズが山積みにあるわけです。で、感じたんですけど『この団体はUWFから格闘技になりきれなかった団体じゃないか?』という事を思ったんです」

−−格闘技になりきれなかった?

「格闘技“だけ”になれなかった。キングダムというのは格闘技プラスアルファなにかがどうしても必要な団体だったと思うんですよ。やはりどこかにUWFの影がありましたし、UWFなしでは成立しなかった団体なんです。だから僕もそれを引き継いで行くときに全くUWFを否定するのはできないんじゃないかと思うんです。確かにこの頃はバーリ・トゥード全盛ですが、ああいう試合だけではいつまでも第一線でやってられないだろうと一年半ぐらい前に思ったんですよ。プラスアルファがないとこれからの団体は生き残っていけないなと。結局それはかつてのUWFのようなお客さんに”魅せる”要素のことです。もしそれを持ってても、強い人間が真剣に勝ち負けを争うなら格闘技として成り立つんじゃないかという考え方で団体運営を進めてるんです」

−−でも当時UWFが支持されたのは、お客さんに媚びない試合をしていたからじゃないですか? その意味で、今のキングダムのありかたというのはある種退歩しているのかなと思うんですが。キングダムエルガイツでは、お客さんに格闘技としての新しさを提供するのか、UWFの懐かしさを提供するのかどっちなんでしょう。

「まあ、それは両方です。懐かしさはある。でもお客さんの見たいのは強さなんで。当時のUWFスタイルをそのまま続けていて、今でも勝てるかといえば、ファンは勝てないということをわかってると思うんで」

−−強さというのは結局グレイシーとかVTに対してですか。

「はい。まあ桜庭さん達が勝ってますけど、それは昔のスタイル、プラスポジショニングとかをある程度学んだ上でのスタイルなんで。だから僕としてはそれをUWFの今の形としてお客さんに見せたいんです」

−−なるほど。ただまだ判らないのは、なぜUWFにそこまでこだわるか、ですね。入江選手は、キングダムに入団したのじゃなく公認格闘家という形で、いわゆる新弟子では無いでしょ。UWFというスタイルはほとんどない段階で、最後に船に乗り込んだわけじゃないですか。それもその船に乗り込んだらみんな降りた後だったという状態で。どうしてそこまでUWFにこだわられるんでしょう?

「当時はまだヤマケンさん(山本喧一・写真)も金原さんもいたんですよ。僕も一緒に練習させてもらいましたし。ただ最後の興行が終わってからいろんな団体から誘いがあったんですけど、結局僕は残るほうを選んだんです。なぜ残ろうと思ったかというと、選手がいなくなっても、まだキングダムはなくなったわけじゃないんですよね。フロント陣も残ってて、まあだんだん少なくなっていくんですが、その中で無念さというのが伝わるんですよ。

 前社長の鈴木健さんが言うんですよ。『昔は良かった。神宮球場が満杯で、アタッシュケースにお金が入りきらなかった』とか(笑)。『入江〜、なんとかしてくれ』とか。確かに最後の一人になって『なぜここにいなきゃいけない?』と思ったこともあったんですけど、僕はどうしてもキングダムでありスタッフの思い入れというのを引き継いでいこうと思ったんで。僕があそこでいなくなればUWF直系のキングダムは無くなっていたわけですから。今はキングダムをある程度のレベルまで持っていくことが僕の人生の課題、使命だと思ってるんですよ。

 ならばUWFという名前にすれば?という話もあるんですよ。でもなぜ今すぐそうしないかというと、まずキングダムを代々木第二体育館に戻した後でもいいじゃないかと。あそこはキングダムの聖地じゃないですか。僕はUWFというよりもキングダムに思い入れがあるんで。あそこまで大きくなった団体がここまで小さくなった例も無いですからね。でもそれを元の位置まで戻せたら凄いことじゃないかと。それもたった一人のスタートで。今はフロントや選手も集まってきましたけど、それを成し遂げた時に僕が人生に充実感を持てるんじゃないかと思ってやってきたんです」


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