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「燃え尽きるために帰ってきた男」前田憲作インタビュー

TEXT:薮本直美
INTERVIEW:井田英登・薮本直美
CAMERA:井田英登


maeda  1999年8月。前田憲作が再びK−1のリングに上がった。

 惨敗を喫した村浜武洋戦以来、ブランクは2年近く。
 チームドラゴンという看板を得ての復活であった。

 WKAのベルトも既に腰にはない。全日本キックでフェザー級のトップを争っていた時代を知る者にとっては、復活の嬉しさよりも不安が強かったのではないか?。アスリートにとってブランクは、たとえ半年であっても、如実に影響を及ぼす。まして前田は全日本キックボクシング連盟から引退を勧告されたと言う、屈辱的な経緯を経た身だからだ。

 対戦相手カリム・ナシャーは「マエダはキックが出来る芸能人なのか、芸能活動もやっているキックボクサーなのか?」と言い、前田の存在を誹謗した。
 しかし、この苛烈な問い掛けの答えは、あっさりリングの上で出される。前田の猛攻の前にナシャーのセコンドがタオルを投げたからだ。
 だが前田も1Rには1回ダウンを奪われている。やはりブランクの影響があったとしか言い様がない。そんな不安をおくびにも見せず「K-1の中軽量級をどんどん盛り上げていきたいですね」と語る前田の視線は既に前へと向けられていた。


 全日本キック時代から前田憲作のイメージは変わらない。
 彼のファイトは常に明るい。
 ムエタイのリズムに乗って多彩な攻撃が繰り出される華やかなファイトスタイル。
本来なら2メートル近い巨漢の居並ぶK-1戦線にあっても、体格的なハンデで客席を退屈させることはない。サイクロンと自ら名付けた派手な跳び蹴りを始め、前田の試合は華麗で見栄えがする。

「早い回のKOで終わってしまったら、お客さんはちょっとしか試合を見られないでしょう?5Rフルに試合を見て、楽しんでほしいんですよ」

 「チーム・ドラゴン」という名は、そんな彼が憧れた、武道家にしてアクターの、ブルース・リーの役名を冠したものだ。俳優というもう一つの顔を持つに至ったのもブルース・リーに憧れたからにほかならない。全日本キック時代には成し遂げられなかった、役者とキックボクサーの両立という大いなる野望を今度こそ現実のものにしたいという思いが、中途半端に終わりかけたキャリアに再び火をともした。この名前に込められた、前田の夢に掛けるこだわりの強さを体現している。

 そして、彼の再始動は思わぬ副産物も産んだ。
 「一人でやるつもりだった」と語るそのチームは、一度はタイに帰国したはずの信頼するチャーンコーチや、小比類巻やその他の若い才能が竜の旗の下に終結し、真の意味チームが出来上がってしまった。集めようとして集めた人間ではない。ただ転がり始めた前田の車輪に、運命の糸が巻き取られるように、彼らは前田の前に現れたのだ。

 戦いの舞台はK−1、各キック団体、そしてムエタイの本場、タイへと広がった。
 前田自身この2年間身を置いた芸能界での活動を含め、選手として、コーチとしてここからあらゆる舞台に関わっていくことになる。
 確かに31歳を迎えたの前田は、既にキックボクサーとしての全盛期を過ぎているのかもしれない。だがここにきて新たなムーブを作り出した彼の姿には、一選手であった時代よりも多くの展望があふれている。

 今日もジムでは「帰ってきた男」が激しくミットを打ち続ける。

 その姿は「キックが出来る芸能人」でも「芸能活動もやっているキックボクサー」でもない。チーム・ドラゴンという新しいコンセプトのもと、その全てを包括し、人々を魅了するという、かつてブルース・リーが歩んだ道を前田は目指している。単にスポーツ選手という枠組みに捕らわれず、自分の肉体を銀幕に、そしてリングに躍動させ、人々に夢を与える存在になりたい。確かに、格闘技サイドからみれば”邪道”とさえいえるような大いなる野望だが、今彼にはその不可能を可能にする為の「運気」のようなものが集まり始めているのは事実だ。

 このチャンスをモノにできるかどうか。
 それはこれからの限られた現役生活に、結果を出せるか否かにかかっている。
 
 彼の野心をあざ笑うのはたやすい。
 しかし、かつて単身ハリウッドに乗り込んだ徒手空拳の中国人武術家もまた、長い下積みを経て、世界を巻き込む大きなうねりを起こして見せたではないか。

 今、最後の挑戦に乗りだそうとしている前田憲作の、龍の咆哮に耳を傾けてほしい。


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TABLE OF CONTENTS
チーム・ドラゴンが“チーム”になるまで
「ブランクの間も身体は鍛えつづけてました」
「今までのキャリアは武器になっている」
「これから良くなっていけばいい」
チーム・ドラゴン これらからの広がり
 
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