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「龍の魂を受け継ぐ男」小比類巻貴之インタビュー

TEXT:薮本直美
INTERVIEW:井田英登・薮本直美
CAMERA:井田英登

(J-NETWORK,MA試合写真:大場和正)


199912.MA後楽園

 選手というのはこれほどまでに表情が変わるのか?
 MAのリングにフリー選手として登場した小比類巻貴之の入場時、ちょっと驚いたものだ。セコンドに前田憲作、コーチのチャーンを従え、リングに上った彼の顔は、睨んでいるわけでもないのに強い意志をあらわにしている。半年前とは別人のようだ。

 東金シャノンF16を相手にKO勝利を飾った小比類巻は、自らマイクを取る。

「もっと大物とやります!」

 大物とは、オランダ中量級のラモン・デッカーであった。引退を表明しているが、彼に勝った日本人選手はいない。『地獄の風車』というキャッチコピー通り、絶え間なく繰り出されるハードパンチに、何人の選手が今までマットに沈んできたことか。また、デッカーは異様に打たれ強い選手でもある。彼がキャンバスに倒れる図は、容易には想像できない。全盛期を過ぎたとはいえ、そのデッカーに挑む小比類巻の勝率は、決して高くないと思われた。

 2000年1月、K-1JAPAN長崎大会。1Rから果敢に攻めた小比類巻は2R、デッカーのローキックを膝で迎え撃ち、 TKO勝利を奪った。 「キックをはじめたきっかけ」の選手に見事打ち勝った小比類巻の「内的な変化」はいよいよ確信すべきものとなった。

 技術や体力という要素は問題なくとも、最後の一つ、”ハート”がかつての彼の課題であったからだ。これは彼の置かれた環境や、ちょっとした運不運も影響している。だが、最終的にファイターは一人だ。もしかしたら、その”ハート”は先天性の才能なのかもしれない。そう思わせるほど、小比類巻のポテンシャルと、リング上の姿はアンバランスであった。特に、1年前からフリーになるまでの間、決定打を取れそうで取れない小比類巻の焦燥は、リングの上にも色濃く現れていた。

 小比類巻貴之といえば、J-NETWORK旗揚げ時からのエース的存在。団体分裂前は全日本キックでも強豪を次々と破り、高い将来性を評価されていた。当時まだ二十歳そこそこ。将来はどんな大器となるのか・・期待は大きかったが、エースという立場に立たされてからの小比類巻は、徐々に失速していく。

1999.6.J-NETWORK後楽園大会

 J-NETWORK興行最後の出場となった1999年6月の後楽園大会、メインイベントでキム・フン(韓国)に判定負けを喫した。この日、小比類巻のふくらはぎにがっちりとテーピングが施されていたことからも、負傷を押しての出場であったことは客席からも見てとれた。実際、まるで「蹴れない」状態であった。接近距離からの膝を繰り出していくも、パンチの有効打を多く放ったキム・フンの勝利は動かないものであった。
 腹が立つほどであった。負傷しながらも出場しなければならないという彼の不運に。そして、不運を呑みこみきれず、 一方的に押しまくられた団体のエースに。

 その後、彼がフリーになったという噂を聞いた。だがどこで試合をするのか、という最大の関心への答えはなかった。フリーランサーと簡単に言っても、マッチメークを含めたマネージメント、練習場所の確保、コーチ・トレーナーの存在、どれもプロ選手にとっては不可欠なものだ。それを小比類巻が持ち得るのか?日本人中量級選手のトップ争いに、参加しつづけることはできるのか・・・。

 そんな折、チーム・ドラゴンが発生する。8月のK−1JAPAN有明大会に登場した前田憲作は、カリム・ナシャーを相手に2RTKO勝利。しばしの間キックシーンから離れていたフェザー級世界王者は健在であった。勝利者撮影の場には、前田が長年連れ添ったチャーンと、小比類巻の姿があった。

 翌9月、K-1GP大阪大会の特別試合として小比類巻は出場、正道会館の朴英樹と対戦した。この試合は三者ドローという結果であったが、ファイターの朴とガツガツにぶつかり合った。
  K−1デビュー戦の自己採点は「動きが固くて、30点」。
 しかし、 この30点からたった4ヶ月後にラモン・デッカーを破ろうとは、誰が考えただろう。

 彼のハートが弱いなどと、もう誰も言わない。
 劇的に彼を変化させたチーム・ドラゴンとの関わり、そして再びたぐり寄せた”強さへの道”を現在の彼の言葉で語ってもらった。



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TABLE OF CONTENTS
決まる前からデッカー戦の練習
チーム・ドラゴンへの序章
チーム・ドラゴン的日常
「玄米いいっすよおー」
いまはまだ40パーセント
 
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