Serialize Vol.7

ウクライナNHB大会における死亡事故
〜その波紋、そしてUFCはどこへ行くのか〜

上村 彰
kamimura@nicom.com

<PART2 死に至る可能性>  

起こるべくして起こったのか?

 まず大会そのものですが、前述の公式見解によれば実際の運営はスムースで会場も満員であったようです。ただしメールで格闘技ホームページの主催者に突然参加選手はいないかと打診してきたらしく(日本人の元にも来たそうです)、肝心の選手選考がいい加減だったのではないでしょうか。デッジ選手自身は格闘技のインストラクターであり、試合経験は明らかではありませんが、このような大会に出場することの危険性は十分に分かっていたはずです。気になるのは以前にも意識喪失したことがあったらしいということです。今後死因がどの程度明らかになるのか分かりませんが、すでに何らかの障害を脳に持っていたとしたら、通常問題のない衝撃でも死に至る可能性は考えられます。

どうすれば死亡事故は防げるのか?

 VTの危険性を指摘された支持派の反論に「ボクシングなんてもっと死人が出ているし、一般のスポーツでも自動車レースやフットボールは凄く危険だ」というものがあります。一理ありますが、VTはいかんせんまだまだ未成熟(少なくともブラジル以外では)な競技であり、数値を比べるにも母数(試合数、選手数)の桁が違います。大切なのは問題を見つめ、改善しようという努力です。そこで私は以下の点を挙げてみたいと思います。

1)試合前の健康診断の実施もしデッジ選手が事前の健康診断で異常を発見され、出場を取りやめていたとすれば今回の死亡事故は防げたはずです。逆に言えば、事前にそれ(意識喪失)を知っていながら出場した選手、セコンドに重大な過失があったと言わざるを得ません。UFCでは試合前後にドクターチェックを行っているそうですが、特に命に関る頭部、心臓部については十分なチェックが必要でしょう。キエフの大会について試合前の健康診断があったかどうかは不明です。

2)適正なレフリングの徹底ひとことで言ってしまえば、早く試合を止めることです。早すぎれば観客も満足しないし、なにより選手自身が納得しないでしょう。しかしストップが遅すぎたために人命を落とすようなことになっては元も子もありません。そういった意味でPRIDE-1でのグッドリッジ-タクタロフ戦のストップ(仰向けに倒れたタクタロフをグッドリッジが殴り続けていた)は明らかに遅すぎたし、UFCJのシルヴェイラ-桜庭戦(第1試合)のストップは明らかなミスジャッジ(桜庭選手のタックルをダウンと勘違い) だったとはいえ、選手の身を守るという意味で間違った姿勢ではなかったと言えるでしょう。

3)試合場の床を柔らかいマットにするマウントパンチが危険である最大の理由は床があるため上からの衝撃を逃がすことができないことにあります。床が固ければその危険性が一層高まることはいうまでもありません。先日のUFC XVIでのフランク・シャムロック-イゴール・ジノビエフ戦ではフランクに持ち上げられ下に叩きつけられたジノビエフは頭を打ったせいか意識がなくなり、鎖骨も折っていたそうです。グラウンド打撃とは関係ありませんが、こうした柔道やレスリングに見られる投げ技が実は恐ろしく実戦的であるというのも「固い地面に叩きつける」という側面があるからです。私はフランク戦のあと気になったので手を伸ばしてUFCのマットを触ってみたのですが、頑丈な板張りの上にやや厚みのある布を敷き詰めたといった印象でした。これを柔道の畳やレスリングのマットに準じた柔らかさの素材に替えてみてはどうでしょうか?マウントパンチの衝撃も少しは和らげられるし、投げ技に対しても怪我の防止に役立つと思われます。無論、これにより影響を受ける選手も出てくるでしょうから(打撃系選手がフットワークを使いにくい、投げ技を得意とする選手が不利、など)賛否両論が起きる可能性もありますが。少し話はそれますが、投げ技については相手を頭から下に落としてはいけないという項目もルールに明記した方がよいと思います。現状のままだとパイルドライバーのようなプロレス技を使う選手が現れた場合(使えるか否かは別問題ですが)、非常に危険でしょう。

Go on <PART3 死亡事故の波紋>