98・10・23
WORLD MEGA-BATTLE TOUNAMENT'98

第1回FNRカップ Aブロック 1st ROUND

愛知県体育館
 

第2試合 国別対抗戦Aブロック1回戦(10分1本勝負勝抜き戦)

オランダ(先鋒/ナイマン・中堅/フライ・大将/カステル)

×ロシアA(先鋒/スーセロフ・中堅/ミーシャ・大将/ハン)

(3−2)

 
 
ハンス・ナイマン
187cm , 115.5kg
2分57秒
TKO
×
 
セルゲイ・スーセロフ
184cm , 105.6kg

 念すべきリングス団体戦ルールのしょっぱなを飾ったのは、優勝候補という声も高いロシアAチームとオランダ・チームの対戦。「短期決戦ならばオランダ側にあるいは勝機も」という声もあったが、大方の見方としては、ロシアAチームの勝ちは動かないところだったろう。何せ、オランダ・チームは、田村キラーのヴァレンタイン・オーフレイムを欠いている上に、「関節を極められそうになるとすぐロープに逃げる」印象が強い。2エスケープで負けとなるルールではロシア側の秒殺も考えられた。


 うした風評を感じていたかどうかはわからないが、オランダは、いきなり先鋒に実力No.1のハンス・ナイマンを持ってきた。ポイント・ゲッター戦略。一番勝ちを見込めそうな選手を先鋒に出し、勝てるところまで勝とうという発想だ。

 対するロシアAは実績的に一番下のスーセロフを「素直に」先鋒に持ってきた。かつて後楽園実験リーグで大活躍をしたスーセロフ。しかし、今では、体にも幾分たるみが目立ち、ばたばたとした動き方にも安定性がない。いわばロシアAチームのアキレス腱である。


 合は予想通りの展開になった。スーセロフはともかく突進し、一本背負いなどで派手に投げるのだが、そのあと的確に押さえ込んで関節にいくことができない。それどころか、ナイマンの方がバックに回ってスリーパーで最初にエスケープを奪ってしまう。グラウンドですら遅れをとってしまってはもう勝ち目がない。強引にフロントスープレックにいくなど気迫だけはみせるものの、ナイマンの掌底や蹴りでダメージがたまり、最後はミドルキックでナイマンのTKO勝ち。

 ずは順当な結果。インターバルが二分置かれる。

 

×
 
ハンス・ナイマン
187cm , 115.5kg
2分54秒
アキレス腱固め
 
イリューヒン・ミーシャ
176cm , 91.6kg

 対3の勝ち抜き戦で、2人勝ち抜いてしまえば、ほぼ勝利が決定する。

 一試合終えて、疲れたというよりも、むしろエンジンがかかってきた気配のナイマンは、開始早々から鋭いキックを見せる。ミドル、ハイ、そしてナイマン蹴り。回りをぐるぐると動き回るミーシャの鼻先を凶器がかすめて通っていく。

 だが、ここで先手を取られては、ロシアとしても後がない。


 ーシャは、隙をつき、ナイマンを思いきりタックルで持ち上げ、倒し、腕十字に。だが、これはナイマンがかわしブレイク。しかしすぐにまたミーシャがしがみつき、アキレス腱固めでナイマンからエスケープを奪取。普段の試合では見られない強引な動きだ。ともかくさっさとポイントを取ってしまおうという意識がはっきり表に出ている。

 ナイマンとしても簡単に負けてしまっては一人抜いた意味がない。打撃のラッシュから押し込んで膝蹴りでダウンを奪うナイマン。これでポイント的には互角。しかしダメージとしてはダウンを喫したミーシャの方が大きいだろう。


 はいっても、ミーシャとナイマンでは、まだまだグラウンドの実力に懸隔がある。倒してしまえば勝ち、という方程式は揺るがない。最後は、再びミーシャがタックルに入ってアキレス腱固めを決め、勝利を収めた。

 これでイーブン。まだ先はわからない。

 

 
ディック・フライ
187cm , 110.9kg
2分50秒
TKO
×
 
イリューヒン・ミーシャ
176cm , 91.6kg

 ングス旗揚げから参加し、前田日明、ヴォルク・ハンとの間に数々の名勝負を残してきたディック・フライ。だが、残念ながら、現在のフライには、過去の輝きはない。残酷なようだが、スーセロフがロシアAのアキレス腱だとしたら、フライはオランダ・チームのアキレス腱である。

 しかし、アキレス腱が頑張ってこそ、チーム・ファイトが輝くこともまた確かだ。


 イマン戦でのダウンのダメージが残ったままのミーシャは、短期決戦を狙い、フライを開始早々からコーナーに押し込み、足を掴んで強引に倒す。2ポイント制では場所など殆ど関係がない。ともかく関節を極めてしまえばいい。

 フライも淡泊にすぐエスケープする。これで後一つ。

 ロシア側にとっては一気に形勢を逆転するチャンスだ。


 が、ここからフライはかつての輝きを取り戻したかのようなラッシュに入る。突進し、膝の連打。あっという間に二つのダウンを奪ってTKO勝ち。

 実質的な勝敗はここで決まったといっても過言ではない。

 シアAチームはハンとミーシャのダブル・エースである。その片方を、チーム内で実力的に一段落ちると思われていたフライが下したのだ。この結果は重い。


 

×
 
ディック・フライ
187cm , 110.9kg
2分01秒
TKO
 
ヴォルク・ハン
190cm , 109kg

 ンは殺気だっていた。

 優勝候補と言われ、本人も自負していた。にもかかわらず1対2の劣勢に追い込まれてしまった。しかも試合前には国歌を斉唱してもいる。国の名前もかかっているのだ。

 何としても負けられない。

 潰さなければならない。

 タート直後、フライの手首を掴んだハンは、そのままロープに押し付けながら左腕をアームバーで締め上げ、エスケープを奪取。レフェリーがエスケープを宣告した後も、そのままねじり続ける。明らかにいつものハンとは違う。

 相手を壊してでも勝ちを取ろうとしている。


 が、そんなことがリングスで許されるはずもない。

 レフェリーが二人を分ける。殺気が乗り移ったフライがラッシュ。あからさまに喧嘩を売られ、負傷に追い込まれたのだ。順当に負けてやるわけにはいかない。ハンの弱点であるボディにミドルキックを連打し、ダウンを奪う。かなりのダメージだ。

 それでも、8カウントで立ち上がったハンは、冷静にフライを倒し、アキレス腱固めからギブアップを奪う。


 れで双方とも後一人。

 だが、無傷のカステルを擁するオランダに対し、ロシアのハンは手負いである。

 フライがもう一つ殊勲を挙げたのだ。

 

 
ヨープ・カステル
190cm , 123.2kg
2分21秒
TKO
×
 
ヴォルク・ハン
190cm , 109kg

 ライに食らわされたダメージが後を引くハン。インターバル時も後頭部を冷やしている。

 しかし殺気は消えていない。


 期決戦を狙ってゴングと同時にタックル、アキレス腱固めでエスケープを奪う。またもやなかなか手を放さない。負傷させてのレフェリー・ストップ勝ちを狙っているとしか思えないしつこさ。

 立ち上がったカステルはかなり足を気にしている。


 かしその後カステルが膝の裏に蹴りを入れ、ダウンを奪うと、ハンはもうフラフラの状態。タックルを狙うが、逃げられてしまう。膝蹴りを食らいふっとぶが、ハンはダウンであることを否定。スリップが宣言される。


 が、その後もさらに掌底を食らっては吹っ飛び、ミドルを受けては吹っ飛ぶ。

 飛ばされて転倒したのか。ダメージを受けて倒れたのか。その境は必ずしも明瞭なものではない。しかしここまで連続してしまえば、もはやダウンを取らざるを得ない。


 勝候補、ロシアA。まさかの敗退。

 リングス団体戦は、いきなり波乱のスタートを切った。


 ってみればオランダの戦略勝ちということになるだろう。

 エースは大将で、次に強いのが中堅で・・・という漫然とした戦略ではなく、ポイント・ゲッターを定め、それで先手を取る。ミーシャを倒し、ハンにダメージを負わせたフライの殊勲も、ナイマンが先鋒をつとめてミーシャにダメージを残していなければ、生まれてはこなかった奇跡である。

 IFは禁句ではあろうが、敢えていうなら、これが3対3のシングル戦だったら、おそらく、2−1か3−0でロシアAの勝利は動かないところだった。あるいはロシア側が先鋒にミーシャをもって来ていたら、展開は全く逆になっていたかもしれない。

 勝ち抜きであるが故の妙。試合出場順が隠されているが故の意外性。

 からは、各選手の能力だけではなく、その組み合わせの戦略を、各チームとも、徹底研究してくるだろう。

 ポイント・ゲッターを先鋒に置くことが常に正解であるとは限らない。もし、エースを先鋒に据えることを見抜かれ、そのエースがたまたま苦手にしているタイプの選手をぶつけられたとしたら・・・。考えようによってはリスクは非常に大きい。

 博打に出るか。守りに入るか。

 そして、そんな戦略をも吹っ飛ばす土壇場のがんばりが見られるのかどうか。


 リングスは新しい喜びを発明した。

 

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レポート:山名尚志  カメラ:井田英登