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Report

UFC 33 "Victory in Vegas"
2001年9月28日(金)
米国・ネバダ州ラスベガス マンダレイベイ・イベントセンター

セミ・ファイナル/UFC世界ライト級選手権試合
ジェンズ・パルヴァ−対デニス・ホールマン

「遺恨戦? 意外や一転クリーンファイトに」

の日のメインでティト・オーティズに挑戦する予定だったビクトー・ベウフォートが欠場となってから、アメリカのUFCファンの間で今大会事実上のメインイベントとなったのはこのパルヴァー対ホールマンだった。高校時代からのライバル。会見やマスコミを通してお互いに罵詈雑言を浴びせ続けてきた両雄の激突に、UFCファンの期待は膨らんだ。レスリング対サブミッションという対立構図も通のファンの興味をそそった。「ちょっと演技ぽいよ」と時折見ている方が恥ずかしくなることもあったが、これこそ遺恨試合、因縁の激突というオーラを醸し出していたのは間違いない。だが、試合開始と同時にそのオーラがなぜか魂が抜かれたようにスッと消えてしまったと思ったのは私だけだろうか?

ラウンドからホールマンは仕掛けた。いきなり前蹴りを放ちパルヴァーのバランスを崩すと、すぐに懐に滑り込み一気にフェンスまで運んでいった。瞬時にしてテイクダウンを奪うホールマン。素早く体をずらしてエスケープするパルヴァー。再びスタンディング・ポジションに戻るが、すぐにホールマンはフェンスまでパルヴァーを押し込む。次の瞬間、両者はもつれてグランドに倒れた。パルヴァーが上になったが、フル・ガードの状態からホールマンは物凄い勢いでパルヴァーの頭部にエルボーを叩き込んだ。左右に動きながらパルヴァーはこれを何とか阻止すると、ホールマンを抱えこみフル・ガード・ポジションに落ち着く。このままの状態で1分ほど過ぎた時、下から体を滑らして一気に腕ひしぎ逆十字に入るホールマン。完璧に決まった。

苦痛で顔が歪むパルヴァー。息を飲むほど華麗なスピードで決まったこの関節技に観客は湧いた。必死に体を回転させるように腕を引こうとするパルヴァー。体を反り返してパルヴァーの腕を曲げるホールマン。タップするぞ、そう思った時、パルヴァーの腕がするっと抜けた。すぐに右のフックを2発放ちスタンディング・ポジションに戻るパルヴァー。関節技では絶対に有利と言われているホールマンの顔色が変わった。少し冷静さを失ったかのように見える。すぐにタックルからテイクダウンを奪うホールマン。そして、強引に腕ひしぎ逆十字に入る。が、これは無謀だった。すぐにエスケープしたパルヴァーはスタンディングに戻ると、俗に言う「猪木・アリ状態」で下となったホールマンの足を蹴りはじめた。

文句無しにアクション満載の試合内容だ。しかし、あのドロドロとした遺恨試合のオーラはどこにもない。相手を倒すというよりも試合に勝つということに執着しているような匂いがする。プロなのだから試合に勝つための戦術をとるのは当たり前だ。でも、試合までの前振りを観てきたファンにとっては、もう少し感情移入のできるパルヴァーとホールマンを望んでいたのではないだろうか。究極の怒り、そう、アルティメットなフィーリングこそがファンを熱くさせる。それを期待していた人たちは多かった。選手たちには「観る側にとって都合のいい事ばかりを言うな」と怒られてしまうかもしれないが、これは総合格闘技という複雑怪奇なスポーツを選んだファイターたちの宿命なのだ。ボクシングやキックボクシングと違い、一見わかりにくいスポーツだからこそキャラクターが大切になってくる。それはパフォーマンスだけでなく、得意技からファイト・スタイル、相手に対する威嚇や自分自身への叱咤激励から始まるフィーリングの放出など、全ての要素を濃縮させた上でのキャラクター造形という意味である。

ラウンドに入ると、ホールマンの打撃をかわしてパルヴァーがテイクダウンを奪うという展開が続く。グラウンドで上になったパルヴァーは、下から関節技を仕掛けてくるホールマンに脇腹への肘打ちやパンチを放って止めるだけで、フル・ガード・ポジションからは何の攻撃もできない。そのままの状態で5分が過ぎ、ラウンド終了。観客席からはブーイングが漏れる。フル・ガード・ポジションのまま、これといったアクションのないラウンドだったので仕方がない。ファンとしての欲を言えば、パルヴァーは終始上にいたのだから、ラウンド終了間際で立ち上がりフット・スタンプぐらい出して欲しかったと思うのは、桜庭和志やアレクサンダー大塚を見慣れた日本人ファンのワガママだろうか。それぐらいのことをしないと総合格闘技の凄さが一般のスポーツ・ファンに伝わらない。もう少し「世間」という敵にも目を向けてほしいというファンの熱い思いがブーイングをつくり出しているようにも感じられる。

ラウンドに入ると、パルヴァーとホールマンは、ファンのブーイングをかき消すかのように、スタンディングでのパンチの応酬を繰り広げた。パワーで勝るパルヴァーの左フックがホールマンのテンプルに炸裂。この一発が試合を決めたと言っても過言ではない。ホールマンの試合後のコメントが全てを物語っている。「あの一発からずっと頭の中がスピンしていた」。

4ラウンドはホールマンが、パルヴァーをグラウンドに引き込みアンクル・ホールドなどを仕掛ける場面もあったが、大半はパルヴァーのパワーとレスリング技術が目立つ流れとなった。スタンディングの攻防は段違いのスキルを見せつけ、グラウンドでは上になりホールマンを完封。グラウンドに持ち込めがば30秒でパルヴァーをしとめると豪語していたホールマンに何もさせない。「ストップ・ウォッチは持ってきてくれ。30秒だろ?たった今、20分間、グランドで奴を完封したろ?」試合後のインタビューでジェンズ・パルヴァーは言っていた。5ラウンドも終始同じような展開のまま、試合終了となった。最終ラウンドではスタンディングの攻防を避けて組みついたまま何の攻撃もできなかったホールマンに対して痛烈なブーイングが浴びせられた。

定は3-0。ジェンズ・パルヴァーが見事に防衛に成功した。パルヴァーの強さは、自分から仕掛けずに相手の動きを待つという慎重さと、パワーのある打撃とグラウンド・コントロールだが、若干、アグレッシブさに欠ける。半年ほど前にアトランテック・シティーで行われたUFCライト級王者決定戦でも、常に攻撃を仕掛けていたのは宇野薫だった。あの時のブーイングは日本からきた宇野に向けられたものではない。私は会場にいたのでよく判るが、防御に徹したパルヴァーに対しての不満の声だった。パルヴァーの戦い方を見ていると、ケン・シャムロック対ダン・スバーンの再戦を思い出す。あの時、負けられないという気持ちが強かった両者は、慎重に慎重を重ねてのタックルを狙ったばかりに、始めの14分間マットをぐるぐると周り続けて一度も組み付かないという醜態を演じてしまったのだ。あれをやられたら、世間一般にはあっという間にそっぽを向かれてしまう。だからこそパルヴァーには、もう少し自分から仕掛ける攻撃パターンを身につけて欲しい。チャンピオンとして相手を完膚なきまで叩きのめす。そんな熱い意気込みに欠けるライト級世界選手権試合だった。

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