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Report

UFC 33 "Victory in Vegas"
2001年9月28日(金)
米国・ネバダ州ラスベガス マンダレイベイ・イベントセンター

メイン・イベント / UFC世界ライト・ヘビー級選手権試合
ティト・オーティズ対ウラジミール・マティシェンコ

「メインイベント、素人の喧嘩に負ける」

モークとレーザー光線が交錯する中、精神統一をはかっているかのように下を向きながら花道を歩くチャンピオンのティト・オーティズ。背丈があり体重もあるが、どうしても身体の線が細いように見える。オクタゴンに初めて登場した時のオーティズは手足の長いミドル級の選手だったが、今は上半身が見事にビルドアップされた立派なライト・ヘビー級の選手だ。しかし、身体の線が細く見えるのは何故だろうか? 
 
「オーティズは『チキン・レッグ』だからだよ」。一緒にメインイベントを観ていた友人が指摘した。つまり、足が細くて長いという事だ。「グレイシーたちもそうだろ。ホイスもヘンゾもホイラ−もハイアンも、みんな『チキン・レッグ』だ」。オハイオ州での高校時代はフリースタイルのレスラーとしても活躍したこの友人は、私の影響もあってか総合格闘技やK-1の大ファンだ。オーティズの下半身はレスラーの下半身ではない。関節技がなく試合時間も比較的短いアマレスで一番重要なのはテイクダウンのスピードとテクニック、タックルを切れる瞬発力、そしてグラウンドで相手をコントロールできるバランス感とパワーだ。ただ、アメリカの高校のアマレス・ルールは3カウント・フォール・ルールなので、相手を力ずくで押さえる為に上半身の強化に力を入れる選手は多いそうだ。しかし、タックルのスピードで一番大切なのは身体の土台となっている下半身だ。「だからこそ、アマレス時代はよく走った。下半身を鍛えない選手はいないよ。コールマンだってフライだってシャムロックだって太ももは異常なほどに発達しているじゃないか。オーティズの下半身はどちらかと言うと関節技が決めてとなる柔術の選手に似ている。それにオーティズはカリフォルニアの高校でアマレスをやっていたんだろ? 多くのオリンピック選手を輩出してきたアイオワ州やオハイオ州のアマレスとはレベルが違うんじゃないの?」と友人はしたり顔で説明してくれた。でも、オリンピックでは活躍したがオクタゴンではいい所なく敗れ去ったケビン・ジャクソンやロイス・アルジャーを見てもわかる通り、レスリングだけでは総合格闘技を制することはできない。ティト・オーティズのように文字通り「総合」的バランスのとれた選手が有利なスポーツ、それが総合格闘技。アメリカン・レスリングの底力を信じているファンには耳の痛い話だが、これは紛れも無い事実だ。

合開始と同時にいきなりパンチのラッシュにでるマティシェンコ。左右のコンビネーションを繰り出すが、オーティズはこの先制攻撃を冷静にかわすとマティシェンコをがっちりと受け止め、物凄いスピードでフェンスまで押しつける。これには観客も大喜びだ。爆発的な瞬発力とパワーこそがオーティズの真骨頂。いかにもストリート・ファイトっぽい荒っぽさが魅力なのだ。しかし、その後が続かない。クリンチ状態から腰をしっかりと落として何度かテイクダウンを試みるが、レスリング出身のマティシェンコは巧みにディフェンス。オーティズはすぐに戦法を変え、ひざ蹴りを何発か繰り出すがマティシェンコの太ももを数回とれえた程度で有効打にはならない。

一分過ぎ、フェンス脇から離れたオーティズは、素早く両足タックルを仕掛ける。マティシェンコはステップ・バックしてタックルを切ったが、ここで両者がもつれてグラウンドへ。この時、巧くオーティズが上になりマティシェンコはガード・ポジションを強いられる。ここからのオーティズの攻撃が早かった。パンチ、肘打ちを次々とマティシェンコの顔面と頭部に叩き込む。戦前の予想では、レスリング技術はマティシェンコが一枚も二枚も上、今回はオーティズがガード・ポジションからの闘いを強いられるという事だったが、上になったオーティズはパワーと手数でマティシェンコを圧倒。マティシェンコは何とかガード・ポジションを保ち、ここで1ラウンド終了のサイレン。
コーナーに戻るマティシェンコのアップがブラウン管に映し出された。鼻の付け根はすでにぱっくりと切れている。肘打ちだったのかパンチだったのか定かではないが、マティシェンコの表情から、すでにかなりのダメージを負っているのが分かる。

ラウンド開始と同時に左からのハイキックを放つマティシェンコ。1ラウンドと同じように先手を取ろうとアグレシップに仕掛けてくるが、これもオーティズに見切られ再びパワーでフェンスまで運ばれる。このままの状態で1分ほど経過したあたりから場内からはブーイングが起こった。キック、パンチ、投げなど派手なアクションを好むのアメリカの観客にとって、こういったフェンス脇での手探り合い状態は苦手なのだろう。
ブーイングをかき消したのは、オーティズが放った左のひざ蹴りの連続だった。まるで極真空手の試合でよく見る胴体への連続パンチのような、そう、嵐のようなひざ蹴りのラッシュだ。これを腹にもともに食らい、一瞬動きが止まったマティシェンコ。そこで、すかざずオーティズはテイクダウンを狙うが、マティシェンコはフェンスをつかみこれを阻止。ここでレフリーのジョン・マッカーシーが試合をとめ、フェンスをつかんだマティシェンコに1ポイントの減点を告げる。マティシェンコの表情には、もはや覇気が感じられない。

試合再開と同時にまたも仕掛けるマティシェンコ。大振りのフックを放つと、オーティズもこれに右、左のパワフルなフックで応戦。そして、再び両足タックル。マティシェンコはこれも見切り、今度はオーティズをフェンスに押し付ける。バランスを崩すオーティズ。この一瞬をマティシェンコは見逃さなかった。オーティズの足を巧く取りテイクダウンに成功。遂に王者が下になった。打撃に行くのか、関節技に移行するのか。しかし、完璧なフル・ガード・ポジションに入ったオーティズにマティシェンコは何も仕掛けられない。まだまだスタミナの残っているオーティズは下からもアグシッブに脱出を試みる。それを何とか食い止めるのに精一杯のマティシェンコ。そのままの状態で2ラウンドが終わった。場内はブーイングの嵐となった。フェンス脇でのクリンチかグラウンドでのガード・ポジション。こういった地味な攻防には飽きた。今日はこんな試合ばっかりかよ? そんな観客の素直な叫びがブーイングとなったのだ。

3ラウンドのスタートも、マティシェンコが仕掛けた。渾身の力を込めての左フック。オーティズはこれに完璧な左のジャブをカウンターで合わせる。モロに顔面にジャブを貰ったマティシェンコはダメージをかき消すかのようにがむしゃらにひざ蹴りを放つ。が、オーティズに蹴り足を掴まれて再びキャンバスに叩きつけられる。ここでオーティズは、ハーフ・ガードになったマティシェンコの頭部に容赦なくパンチ、肘打ちの連続。これを15発ほどくらいながらもマティシェンコはフル・ガードへ逃れる。オーティズは攻撃の手を緩めずに脇腹へ拳を何度か落とすが、スタミナが切れてきたのか打撃に威力がなくなり、そのままの状態でラウンドが終了。疲れ切ったファイター二人にまたもや観衆は容赦のないブーイングを浴びせた。

ラウンドは打撃ではなく、いきなり組み技で幕を開けた。マティシェンコは素早くオーティズの脇の下に滑り込み、がっぷり四つの状態からパワーでグラウンドへ持っていこうとする。オーティズは、腰を落としてこれをディフェンスすると足を引っ掛け反対にマティシェンコを倒し、またもやグラウンドで上のポジションを奪取。ここから、また肘打ちとパンチ。マティシェンコの左目の上が大きく切れている。ここでオーティズはパスガードに成功しマウント・ポジション。しかし、オーティズを下からベアハッグのように抱えて相手との距離をなくし打撃を殺すマティシェンコ。結局、オーティズは決定打を出せずにラウンドが終了。マニアにとっては高度なテクニックの応酬で見ごたえがあったが、普通の観客の目には、グラウンドでチョコチョコと打撃を出している程度にしか写らなかったようだ。ブーイングのボルテージが一気に上がった。

最終ラウンド。今度はオーティズが先手を打つ番だ。ワン・ツーのコンビネーションを繰り出し、その後の右のストレートが綺麗にマティシェンコの顔面を捕えた。思わず背中からキャンパスに落ちるマティシェンコ。しかし、ダメージはあまり無かったのか、すぐに立ち上がりオーティズの雪崩のような連続攻撃をかわし、再びフェンス脇でのクリンチ状態となる。この時、観客席で殴り合いの喧嘩が始まったのか、ほとんどの観客が一斉に立ち上がり、オクタゴンとは全く違った方向を見始めた。フェンス脇でごちょごちょしているオーティズとマティシェンコよりも、酔った勢いで暴れている酔っぱらいとそれを取り押さえる警備員を見ている方が面白いのだろうか? オクタゴンへのブーイングよりも、ド素人の喧嘩への声援が多いようだ。

最終ラウンドが3分を過ぎたところで、かなりの数の観客が席を立ち通路の方へ向かっていくのがテレビで観ていても充分すぎるほど分かった。もちろん、実況や解説者は何もその事に対して触れないが、「また判定か、それならオーティズの勝ちでしょ」と多くの観客はこの時点で既に読み取ったのだろう。しかし、残り2分もあれば鮮やかなノックアウトで勝負の決着がつく可能性も無きにしも在らず、だと思うのだが。

オーティズもマティシェンコも確かに優れたアスリートだが、スタミナが切れており肩で大きく息をしているのが判る。画面からも両者の息遣いが漏れてくるようだ。両選手とも決定打を出せる状態ではないと観客は感じたのかもしれない。最後の1分を切り、あと45秒というところで大振りのパンチを放つオーティズとマティシェンコだが、パワー不足だしパンチそのものに体重が乗っていないのが素人目にも明らかだ。ここで試合終了を告げるサイレンが鳴った。場内は僅かな拍手とブーイングが入り交じっているようだ。判定は3- 0でオーティズの勝利。全ての力を出し切った両者は充実感に満ちた表情をしているが、観客は果たして満足したのだろうか?

ティト・オーティズは、フランク・シャムロックに完敗を喫しているしガイ・メッツァーとは1勝1敗だ。でも、それはあくまでのルーキー時代の話。今は試合経験も豊富だしパワーもテクニックも進歩した文句無しのトップ・ファイターだ。判定ながらヴァンダレイ・シウバにも勝ったし元キング・オブ・パンクラシストの近藤有己も秒殺した。あとはビクトー・ベウフォートに勝てば、残すは桜庭かヒクソンしかいない。UFCファンはそんなシナリオを頭の中に描いていたのだろう。だからこそ、ベウフォートの代打・マティシェンコに判定まで持ち込まれてしまったという事実はかなりショッキングだったと言える。やっぱりUFCは所詮アメリカのローカル・タイトルなのか? 今やケーブルTVはデジタル放送でPRIDEも観れる時代。アメリカのファンでさえも今や総合格闘技の世界最高峰はPRIDEであると認識している。そのPRIDEへの対抗馬がヘビー級王者のランディー・クートゥアと、このティト・オーティズだった。「やっぱり世界で一番の選手はアメリカを主戦場としているんだよ!」そう信じたかった。いくら世界中から移民が集まっている国とはいえ、トップの選手がアメリカ人でないと他のスポーツに対抗するのはまだまだ難しい。世界で一番人気のあるサッカーが、アメリカでなかなか受け入れられない理由はここにある。そんなアメリカ人の気質を理解しているこの国の総合格闘技ファンにとっては、うやむやとした気分の残るメイン・イベントだったように思われる。

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