BoutReview Logo menu shop   Fighting Forum
Report

CLUB FIGHT Round 1 東京・渋谷WOMB(ウーム)
主催:バーサスエンターテイメント
2000/11/12(SUN) OPEN 21:30 FIGHT GONG 23:00

「ヤマケン、真夜中の渋谷に復活。UFCベルト挑戦を宣言」

レポート&写真:井原芳徳

「今、格闘とHipHopが一つになる」と銘打たれたイベント・クラブファイトが12日深夜、東京・渋谷のクラブ・WOMB(ウーム)で開催された。UFC-Jチャンピオン山本喧一が1年ぶりの試合をマウントパンチTKOで飾り、12月16日開催されるUFC-JでのUFCライト級タイトルマッチに挑むことを発表した。


 夜9時半開場、11時試合開始。おそらく日本の格闘技興行の歴史上、プロレス等を含めても初めてのケースだろう。道玄坂のラブホテル街を抜け、薄暗いクラブの階段を登ると、DJが流すヒップホップがフロアに響き渡る。同じ日後楽園ホールで開催されたプロフェッショナル修斗の取材を終えたスタッフが会場に付いた頃には、この日の主役の登場を待ちわびるファンで既に満員。フロアに設置された古ぼけたUWFインターナショナルのリングを、音楽に合わせて動きまわるライトが色とりどりの光線を照らし続ける。リングの向こうにはDJブース、プロジェクタの大画面が据えられている。
 DJ.KOYAによるDJプレイが終わると、3人のダンサーユニット、STRUTが登場。かつて高田延彦や田村潔司らが激闘を繰り広げたリング上で、ヒップホップに合わせダンスを披露。「リングの上で踊るのは初めてですね」と話し、独特のクッションのせいで少し踊りにくい様子だったが、このイベントのオリジナリティを観客に印象づけるには絶好の演出といえよう。

 ダンサーが退場するとクラブファイトのテーマ曲が流れ出し、大画面には市川直人(ヤマケン率いるパワーオブドリームの代表的選手:クラブファイト準優勝)の写真とプロフィールが映し出される。対戦相手の山本尚史も同様に流され、続いて二人の写真が一緒に画面に写る。そしてインカムマイクを付けたレフェリー(PRIDEやコロシアム2000でもレフェリングを務める塩崎啓二氏)が入場。リングアナウンス、選手のコールは一切ない。試合はUFCのようにレフェリーのコールと同時に始まり、ゴングは鳴らない。ジャッジもいない。つまり舞台を仕切るのはリング上の3人だけだ。

 試合ルールはフリーウェイト制で10分1ラウンド。勝敗は一本、TKO(レフェリーまたはドクターのストップ、反則による怪我)、試合放棄、失格、ノーコンテストで決まる。時間切れの場合はノーコンテスト扱いとなり判定は行わない。マウスピース、ファウルカップの着用は義務づけられ、反則は噛み付きや急所攻撃などの他、脊柱・止血点への打撃、グラウンド状態での顔面への踏み付ける・蹴り上げる等の行為、頭部・顔面への頭突き・肘打ち、掌による打撃、リング外に落とす行為等となっている。つまりグローブ無しでのパンチ、首から下へのサポーター無しでの肘・膝による攻撃が認められていることとなる。(但し女子は肘・膝による打撃、グラウンドでの全ての打撃が禁止されている)

 市川と山本がコンタクトする。試合内容自体はルールが示すとおり、多少過激ではあるが従来のバーリ・トゥードと大差ない。だが、薄暗く照らし出されたリング、アクションがあるたびに放たれるカメラマンのフラッシュ、そのすぐ周りにぎっしりと立ち並ぶ観客の熱気、それら全てが独特のライブ感を演出しているのだ。時間経過を伝えるリングアナの声はない。インカムマイクを通しレフェリーが叫ぶ「ストップ!ドントムーブ!」「アクション!」という声がフロアに響き渡る。まるでレフェリーが闇の儀式の司祭のようにさえ見えてくる。膠着状態での沈黙でさえも、退屈ではなく緊張感を生み出す舞台装置であるかのようだ。

 第1試合はグラップラー市川が難なく一本勝ち、するとすかさずテーマ曲が流れ、大画面には勝者の写真と決着タイム、決まり手が表示される。アナウンス無しの演出がここでも徹底されている。電車や町中であらゆる種類のアナウンスを浴びる日常と対照的な、非日常を感じさせる空間作りというと大げさか。

第1試合 10分1本勝負 
市川直人
(パワーオブドリーム:第1回タイタンファイト準優勝)
9'03"

チョークスリーパー
山本尚史
×

 選手とレフェリーが退場すると、ジャパニーズR&Bの男性ボーカルグループとして人気上昇中の3人組、F.O.H.が登場。さきほどのダンサー同様パフォーマンスを繰り広げた。彼らの固定ファンもちらほら見受けられたが、さっきまでファイトに歓声を上げていた格闘技ファンをもうまく乗せ、今では音楽に合わせ手を振らせ唄わせている。コールアンドレスポンスもうまく行き、「格闘とHipHopが一つになる」のコンセプトが、観客の肉体にも浸透してきている様子だ。

 次の試合はJ'd所属の女子プロレスラーながら格闘技戦の経験豊富な高橋洋子と、99年の全日本アマチュア修斗選手権・女子フライ級で優勝し今年は準優勝だった金子真理(長野/禅道会)の一戦。高橋は元々9月にヤマケンらが主催したタイタンファイトに出場希望していたが、今回クラブファイトのリングでその希望が叶った。試合は残念ながら20キロ近い体重差がネックとなり高橋が圧倒したが、両選手とも技術的には確実な物を持っていることをはっきりと示した。次回以降は同クラスの選手との対戦を期待したいところだ。

第2試合 10分1本勝負 
高橋洋子
(J'd:プロレスラー)
4'01"

アキレス腱固め
金子真理
(長野/禅道会:99年全日本アマチュア修斗選手権・女子フライ級優勝)
×

 続いてラップユニット、SUIKENが登場。主役の登場に向け、徐々に観客を煽っていく。もうすっかり全ての観客がイベントの雰囲気に馴染んでいる様子だ。
 そしてメインイベント、ヤマケンの登場。観客の歓声はピークに達する。

 ここで対戦相手の倉橋達也について紹介。1965年10月28日生の35歳。1998年3月3日のリングスのバトルジェネシスの第一試合で郷野聡寛(現・プロ修斗ライトヘビー級3位)に7分7秒・ヒールホールドで敗れている以外、総合での戦績は不明。1998年当時で177センチ・95キロ。大学時代は4年間アメフト部所属。その後も社会人チームに4年所属。東海社会人チーム選抜に選ばれている。その傍らボクシングを始め1992年にプロライセンス取得。翌年5月にプロデビュー。本戦4戦エキシビジョン2試合を経験。スパーリングパートナーがなかったため、単身カナダに渡り、西山洋介山とスパーを経験する。97年より総合格闘家転向を目指して「山田サンボ道場」へ入門。バトジェネ参戦を経て今に至る。

 1年ぶりに闘いの場に帰ってきたヤマケン、その表情はここのところプロデューサーとして見せていた表情とは異なるのだが、決してファイターらしく殺気や緊張感に満ちているというわけではなく、むしろ落ち着いている感さえある。

 距離を取るヤマケン。前蹴りも出し牽制する。テイクダウンしハーフを取るが、一回り大きく筋肉質の倉橋のパワーに阻まれる。倉橋がガードから起き上がり、一瞬スタンドに戻るが、すかさずヤマケンがタックル。減量の成果もあるだろうが、実にスピーディ。倉橋は首をキャッチしたまま倒れる。

 ヤマケンがサイドになり首をつかまれたままの状態が数分続く。倉橋はヤマケンにマウントを取られないようにするため背中を付けたままマット上をズルズルと回るが、この防御で体力を徐々に消耗していく。無理をせずチャンスを待ち続けたヤマケンがようやくマウント。倉橋はヤマケンの胴に腕を回し密着するが、がら空きの頭部をヤマケンは殴る。腕が外れ顔面に右ストレートを連打すると、倉橋の目尻から出血。倉橋はもう為す術がなく、背中を向けてしまうとあとはヤマケンが右ストレートを全く防御できず、最後はレフェリーが試合を止めた。

第3試合 10分1本勝負 
山本喧一
(パワーオブドリーム:99年UFCジャパンチャンピオン)
8'00"

KO(マウントパンチ)
倉橋達也
(山田サンボ道場)
×

 ヤマケンが体重差に苦しみ膠着が続いたが、スタミナの切れた倉橋をマウントパンチで葬り去った。ヤマケン、完全復活である。するとマイクを持ち、12月16日開催されるUFC-Jでパット・ミレティッチの保持するUFCライト級ベルトへの挑戦を発表した。頂上作戦が歩みを進める瞬間を、深夜0時に渋谷のこの空間に集まった全員が一体となって感じている。

 そしてヤマケンは、UWFインターナショナルのロゴの描かれたマット上に大の字となって寝転ぶ。イベントの成功と勝利と、観客への重大発表。これら任された仕事をやり遂げた安堵の落ち着く先は、かつて己を格闘の世界へと導いたUインターであることは、キングダム→リングス→パワーオブドリームと流浪してたどり着いたこの地でも変わらない。


<山本喧一の試合後のコメント>

「バンバン聞いて下さい。さぁ、勝ったでぇ(笑)そうじゃないか(笑)」

−−決着をつけるのに8分かかりましたが、それについては?

「いま、体重を落としているので。パワーが体になれていないので。相手が100キロくらいありますからね。上体を取れなくて。下を狙えば早くできたかもしれない。でも、上体をとりたかったから。関節で勝ちたかったですけどね。滑ったし、体が浮いちゃって。」

−−今、体重はどのくらいまで落ちてるんですか?

「82キロくらいまでですね。ライトは77キロやったっけ?あと5キロを当日までに落とします」

−−ミレティッチとUFC-Jでタイトルマッチですね。

「そうですね。ミドル級(のタイトル挑戦)は(近藤有己に)とられちゃったんで、ライト級で。明後日(11月14日)記者会見があるんだけど、フライングしちゃいました。ごめんなさい(笑)」

−−クラブを使っての今回の試合は、どうでしたか?

「逆にみなさんに、クラブイベントとしてどうだったか聞きたいです。どうでしたか?」

−−普段、見かけないような女の子がきゃあきゃあ言ってましたよ

「うれしいなあ。そうでしたか。ルールとかわかりやすくね。KOするか、ギブアップするか。小アリーナで、安い金額で見てもらいたいですね」

−−今回のように、リング際にべったり客が張りつかれた中で試合をすることは珍しいと思うのですが、それについては?

「お客さんも真剣に見てますからね。手を抜けないですよ。」

−−KO勝ちした瞬間が、ちょうど夜中の12時だったのですが、真夜中にKOしたことについては?

「30歳までに、こういうことは辞めたいですね(笑)」

−−23時試合開始、と普段よりかなり遅い時間だったのですが、調整は難しくありませんでしたか?

「逆にやりやすかったですよ。以前だったら違いますが、今は道場をやっているので。道場をやっていると、夜10時くらいまで動いてるからやりやすかったですね」

−−UFCのタイトルマッチが12月16日ですが、その前に名古屋でのクラブファイトがありますが、そちらにも出場するのですか?

「出ろと言われれば両方出ます。クラブファイトも手を抜きたくないですからね。クラブファイトは、今後、ホームグラウンドとしてやっていきますから。賞金も、次からはプラス25万円積まれて行くし。

 今日みたいに、世にあまり出てないけどコツコツやっているファイターをどんどんあげていきたいですね。逆に、そういう選手の方がモチベーションが上がりますよ。もっとそういう選手と、良い試合を、スリリングな試合をやっていきたいですね。メジャー的にはUFCのタイトルを狙いますが、ホームグラウンドはクラブファイトですから。
 それからも一つ。1月21日にアールンホールで賞金1,000万円でタイタン・ファイトやりますんで。それと、対戦相手募集中です。よろしく」

−−今日の相手については、どのような基準で選ばれたのでしょうか?

「総合系の試合を一回やっている、ということと、そういった練習をしていることが第一の理由ですね。鍛えられてますから。」

−−最後に、イベントのまとめを

「ノールールが競技として確立されている時代ですから、格闘をイベントとしてみられる時代になってきていることを証明したということですね」(上写真:観戦していたエンセン井上も控室を訪問し握手。後ろはセコンドに付いていた安生洋二)


<高橋洋子の試合後のコメント>

−−L-1(11月22日)の二週間前を切ったこの時期に、試合をするというのは非常に驚きました。なぜ、試合を受けたのでしょうか?

「躊躇しました。ケガしたら困るな、と思ったし。でも、自分で対戦相手募集したり、今まで、何でも試合をしますと言ってきたのに、試合の話が来たのに断るというのは、考えていたことと違うことをしてしまうと思ったので。言ったことはやる、て決めてるので。自分、嘘つきは大嫌いなので。これからもいろんな大会に出ていきます。
この間、空手の大会に出たんです。決勝で全女の前川さん(全日本女子プロレス・前川久美子)と試合して、勝ったんです。リングの上でなくても、どんな大会でも出ます。
その空手の大会も、やる人が少ないけど、自分が出ることによって少しでも何かに出て、いろんな人に知って欲しいと思ったので。そうしたら、女子で試合する人が増えて、自分の対戦相手も増えると思って。試合したいんです。Remixも出たいくらいです」

−−今度のL-1に向けては、どのような準備をしているのでしょうか?

「ルールがほとんどないので、反則負けがないのが嬉しいです。よく反則やっちゃうので。今日も、肘が入らないように気をつけてました」

−−今日の対戦相手は、ずいぶん体格差のある選手でしたが?

「はい。でも、修斗で優勝されてるので。空手も8年やっていて、黒帯で。私は何もないので」

−−L-1については?

「2年ぶりの総合格闘技の試合なんです。思いっきりやりたいな、と思っています」

−−今日の賞金(20万円)は何に使うのですか?

「私、北海道の小樽の出身で、親が北海道にいるんですけど、L-1に招待します。今日、賞金もらえなかったら呼べませんでした」


<市川直人の試合後のコメント>

−−対戦相手はいかがでしたか?
「自分よりも体重があったんで強かったです。なかなか強い選手だと思いました。強かったです。」

−−腕を取ろうとしていたんですか? 上になってからしばらく動けなかったのも相手が重たかったからですか?
「しっかり捕まれていて動けなかったんです。重たいですし」

−−クラブファイトの感想は?
「タイタンファイトの時も場の盛り上がりを感じましたけど、今回のクラブファイトはそれ以上に見られていると感じて、場のグァッとしたムードに押されました」

−−タイタンファイトは準優勝ですよね?
「ええ(笑)」

−−今後の予定は?
「自分は体重が軽いんで、パンクラスの国奥選手とかライト級で戦っていきたい。ライト級のベルトを目指していきたいと思います」

レポート&写真:井原芳徳

TOP | REPORT | NEWS | CALENDAR | REVIEW | BACKNUMBER | STAFF | SHOP | FORUM


Copyright(c) MuscleBrain's All right reserved
BoutReviewに掲載の記事・写真・図表などの無断転載を禁止します。
著作権はマッスルブレインズに属します。