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[UFC] 5.10 ルイジアナ (レポ&写真):宇野&高阪、日本勢の明暗分かれる

UFC "UFC37 - High Impact-" 2002年5月10日(金) 米国ルイジアナ州ボザーシティー・センチュリーセンター

レポート&写真:井田英登

【大会前のカード紹介記事・各種話題】

【メインイベント】 UFCミドル級タイトルマッチ5分5R
○ムリーロ・ブスタマンチ(ブラジリアントップチーム:ブラジル/王者)
×マット・リンドランド(チーム・クェスト:アメリカ/挑戦者)
3R 1:33 フロント・チョーク

「受難王ブスタマンチ、一試合で二度のタップ」

 1R開始早々、ブスタマンチはフェンス際で差し合いからのテイクダウンに成功。カメになったリンドランドのバックを奪い、素早く腕十字へ。リンドランドは堪らずタップ。秒殺王座防衛かと見られたが、ここで珍事発生。レフェリーのビッグジョンが、このタップを見のがした上に、なんとこれをブレイクで処理してしまったのだった。ブスタマンチの抗議は認められず、場内も再生映像でのタップを認めてブーイングに包まれる。

しかしビッグジョン裁定はあくまで覆らず。このアクシデントでブスタマンチが気落ちしたのか、九死に一生を得たリンドランドの粘りか、試合は3Rまでもつれこむ。オープンガードのインサイドから腰を立てたままパンチを打ち込むブスタマンチに、リンドランドは足の裏での顔面蹴りで対抗。スペースをつくって立ち上がろうとしたリンドランドの首をフロントギロチンに捉えたブスタマンチは、そのまま胴締めで締め上げ、この日二度目のタップを奪った。 

 桜庭の再試合勝利に続くUFC史上二度目の珍事ではあるが、35歳でようやく初戴冠した苦労人だけあって、ハッピーエンドに収まった後は、御機嫌でトップチーム勢との記念撮影に興じる余裕を見せた。


【第7試合】ヘビー級5分3R
○リコ・ロドリゲス(チーム・パニッシュメント:アメリカ)
×高阪剛(G-スクェア:日本)
2R 3'25 T.K.O.(レフェリー・ストップ:マウントパンチ)

「超重爆タックルvsTKシザース、ヘビー頂点へ壮絶な鍔競り合い」

 高阪の約一年半ぶりのオクタゴン復帰は、これで三度目になる王座奪取への挑戦でもある。奇しくも今回大会が開催されたルイジアナ州は、高阪が98年3月に怪人キモを相手にUFCデビューを果たし、また最初のUFCヘビー王座挑戦(正確にはバス・ルッテンとの挑戦者決定戦)のチャンスが巡って来た州でもある。
 このところすっかりラスベガスをホームタウンとしていたUFCだが、高阪が参戦していた98、99年のシーズンといえば、UFCバッシングが頂点に達していた頃であり、いわば「冬の時代」であった。世間の評価は「野蛮な暴力ショー」として全てのNHBに向けられた避難を一身に受けて、ケーブルTVのPPVのディールも失い経営的には満身創痍状態。一方、格闘技界の内部を見ればNHBプロモーションが増殖したことで、選手たちも拡散していき、すっかりオリジネーターであったUFCへの求心力が薄れ始めた時代でもあった。当時、UFCが南部に活路を求めたのは、厳しくなる一方の各地のスポーツコミッションによるNHB締め出し傾向に対して、この州のボクシングコミッションが、唯一理解を示したせいである。農園や農産物の輸送に関わる肉体労働者が多く、かつてナックルベアによる賭けボクシングが盛んだったという事情もあり、バイオレンスにも比較的寛容な南部の気風がそれを許したのだろう。ZUFFA体勢に移行してからは、すっかり南部にも御無沙汰になっていたUFC だが、ケーブルTVでの放映も再開され全米にクリーンなスポーツとしての認知が広がりつつある今、UFCに好意的な南部の地盤は今後の全米制覇の戦略拠点としての役割がますます高まるに違いない。(今回が初開催となったシャーベンポートでは、残念ながら観客動員が伸びなかったのだが。)


 さて、話しを戻そう。そんな当時の情勢下、高阪は99年1月のUFC18で王座挑戦権を賭けた大一番に挑むことになった。対戦相手のバス・ルッテンはPANCRASEからUFCに転戦してきたばかり。ルックスの冴えた白人選手と言うこともあって、エース不在に悩まされていた当時のUFCの救世主として鳴り物入りで迎えられたばかりであった。言い方は悪いが、噛ませ犬的な位置づけがあったのは否めないにせよ、この大会のメインを務めた高阪は関係者のい期待を他所に二度のテイクダウンを奪い、あわや判定勝ちというところまでルッテン追い込んだ。しかし、判定は勝ち取れず、逆に延長戦で力尽きKO負けに終わった。勝者に王座挑戦権が保証されていたこの戦いに敗れたことで、高阪の存在はUFCトップ戦線から一歩後退。しかし、その年11月東京ベイNKホールで行われたUFC-Jでメインのペドロ・ヒーゾ戦に起用され、前回同様、王座挑戦権を賭けるという大きなボーナスが準備される。しかし、ここでも総合格闘技界トップクラスのストライカーであるヒーゾの打撃に苦戦し、3R開始1分のパンチラッシュを浴びて、UFCでの戦いに一旦ピリオドを打っている。

 以来、一年半ぶりにオクタゴンへ戻る高阪に用意された条件は、前回まったく同じ”王座挑戦権”という条件だった。7月に予定されている初のロンドン大会では、ヘビー、ウェルター、ライトの三大タイトルマッチが予定されており、その挑戦者としてメインを務める権利を与えられることになっているのだ。
 まさに、高阪にとって「三度目の正直」であるという状況。今年、二月には母体であったRINGSが活動を停止し、次の進路を定めなければならないこのタイミングに舞い込んだ大チャンスに高阪が燃えた。「オクタゴンに置き忘れた物がある」と復帰のコメントにあった、“忘れ物”とはまさにヘビー級のベルトにほかならない。大会前の一カ月、再びアメリカに戻った高阪は、盟友モーリス・スミスらAMC陣営とキャンプに入ってじっくりと体調を整え、万全の状態でこの日を迎えることになった。

花道を先に入場してきた高阪は、集中力のみなぎった締まったいい表情を見せている。後ろを固めるモーリス、ジョシュらにも笑顔はない。一方、親分ティトらチームパニッシュメントの一団を引き連れたリコは、まるで喧嘩場にむかう不良少年たちのようでもある。

 序盤、先に仕掛けたのは高阪だった。
 パンチに見せた胴タックルで、素早くテイクダウンを奪うと、フェンス際に運び、得意の押さえ込みでリコの動きを封じる作戦にでたのだ。フェンスの隅で首を押し付け相手の気道を閉塞させるエグイ戦法は、テクニシャン高阪らしからぬ泥臭い攻めだが、それだけ王座取りへの野望がホンモノであることを伺わせる。だが地力に勝るリコは、背中に背負ったフェンスを逆に利用して高阪の押さえ込みを抜け出し、するすると立ち上がると、まるでわら人形を横抱きにするように軽々と高阪を抱え上げて、マットに叩き付ける。100キロを越える高阪だが、リコとの差は実に13キロ。前日の計量でもこの体重差を気にしていたのだが、そのパワーは体重差以上のものがある。まさに不吉な予感が的中してしまったようだ。

 とは言うものの、下になってからが高阪のテクニックの見せ所でもある。サイドから押さえ込みに来るリコの首にまるでシャチホコのようにはね上げた両足を絡み付け、“TKシザース”を仕掛けていく。しかし、高阪の誤算はここにも隠されていた。「リコは体重が多いときは、動きも遅くなるんですよね。付け込むとしたらそこ」と戦前語っていた目論見とは裏腹に、リコの反応が異様に早いのだ。シザースを素早く躱すと、逆にマウントを奪いべったりと押さえ込んでくる。リコの狙いは、肘で擦るようにして高阪の眉をカットすることだ。歴戦のツケでRINGS時代にも何回も流血でのドクターストップを食らっている高阪の弱点をよく研究している。

 ブリッジとTKシザースを使って何とかおしのけ第一のピンチを脱した高阪だが、リコの攻めは執拗だ。その勢いを逆利用して腕をとると、そのまま腕十字へと移行してくる。後転で抜け出す必死に抜け出す高阪だが、仕掛けているはずがいつのまにか全てカウンターに回ってしまう展開となり、形勢はけっしてよくない。
 2Rに入るといよいよこの傾向は顕著となる。高阪のタックルで倒れないどころか、より低く腰を折ったリコが押し返すために、逆にテイクダウンされてしまうのだ。シザースで切り返しても、リコの反射は早い。執拗に足を刈りに来るリコの粘りに、また転がされてしまうのである。こうなると115キロの体重は凶器そのものだ。この日三度目のマウントを奪ったリコは、高阪のシザースを計算にいれて腰の位置を深めに変えてブリッジを封じた上で、肘とパンチを降らせてくる。高阪の切れやすい眉が、この猛攻に堪らず血を吹く。
 2R3分27秒、ついにレフェリーが試合を止めた。
 UFC初の日本人レギュラーとして、“格闘技界の野茂”とも言える活躍を見せた高阪だが、またもや王座への道は閉ざされてしまった。


 しかし、高阪にとって“UFCに置き忘れたもの”とはほんとうにベルトの事だったのだろうか。試合が終わった今、僕のなかに、そんな疑問が沸き上がってきてならない状態にある。そんなに疑問ならばその場で聞けば良かったのだが、この際、正直に言ってしまおう。実は、試合後はそんなことはすっかり頭から消えてしまっていたのだ。残念だが、今回はカメラに専念していたこともあって、試合後のインタビュウの途中もほとんど試合の記憶が飛んでしまっていた。そのせいか、漠然とした物言いしか出来ず、試合後のインタビュウで十分な答えは引き出せなかった。実際、そうでなくても敗戦した選手にものを聞くのはただでさえ難しい物なのだが。しかし、結果論で言えば、謎のままでおいておいてよかったのかもしれないという気もする。

 アスリートというのは体で感じた結論を最優先する職業である。無論、試合に際しては漠然としたテーマや、予感というか、この当たりを狙っていけばいいだろうなという直感的な設計図はあるだろう。特に高阪のように緻密にモノを組み立てて考えられる人はそうだと思う。しかし、それはあくまでシミュレーションであって現実とは違う。彼のクレバーさは、それを体で実感してからでないと、結論にしてしまわないことだとおもうのだ。
「たかをくくるな」と彼の師匠である前田日明が言っていたのを思い出す。
 例えば、彼は以前、糸井重里氏の埋蔵金探しのTV番組で一緒に地面を掘っていたことがあるが、そこに金があると推測することは面白い。しかし、それは推論でしかない。本当にそれを掴むには、地面を掘るという肉体的行為が欠かせないということをよく知っている人なのだと思う。

 僕は今回の高阪の試合運びを見ていて、漠然とした言い方だが“サムシング”の無さを感じた。上手いし、良く考えられているのだが、頭で考えられていないものは何もなかったように感じたのである。全てが整然として理詰めなのだが、逆に驚きとか怖さはない。技術は当然理詰めであるのが望ましいが、格闘技の強さというのは対戦相手を飲み込むような人間的スケールやエネルギーにもあるものではないだろうか。それが意表をつく動きとして時に姿を現す。

 一方のリコには異常なまでのシブトさ、ハングリーさがあった。高阪の理性はその強烈なハングリーさ渦にいつのまにか飲まれてしまっていたのではないだろうか。リコの強さは、体格も含めて、“置き忘れたものを探しにいく”という観念的な発想がないことにある。
 欲しいものは目に見えるものであり、見えなければ欲しいとも思わない。あるから手に入れる。それが誰の庭であろうと、構わず掘る。あるかないか判らないというのではない。あるのだ。そう感じるから掘る。そんなかんじだろうか?

 海外に出ているといつも思うのだが、西欧の人というのは案外そういう強さストレートさがある人種だなとおもうことが多い。それが個の観念だとか、肉食人種だからだとかいろいろな理屈付けは出来ると思うが、それはあえてこじつけないでおこう。ただそういうスピリットというか、確信の強さを感じることがあるのだ。

 しかし、油田を掘り当てたり、ツタンカーメン王の墓を発見したりという行為というのは、一見でたらめな直感に見えて、それらがそこに埋まっているプロセスや歴史を肉体化する行為であるような、そんな気がする。いわば、そこに人の歴史があり、埋蔵金であれば、そこにそれを埋めるなんらかの必然性のようなものが埋める側にはあったわけなのだ。そのプロセスを理詰めで、詰めていくのが僕ら日本人は好きだ。

 一方、先にいった欧米人(とひとくくりにするのは乱暴かもしれないが)の感覚は、むしろそれを感覚にゆだねて、その直感が導きだしたプロセスにストレートに体を動かしているのではないかという気がする。もちろん下調べや、推理の材料は当然集めるのだろうが、最終的にいくつかある可能性の中から一つの道を選び出すときの感覚は、明らかに動物的なものだ。いわば目に見える理屈の流れを一旦チャラにして、「物の本質」を掴みだす感覚(これを哲学的に言うとフッサールが提唱した“現象学”の「本質的直観」という)がある気がする。

 高阪はアメリカにずっと暮らしていて、欧米人特有の実証主義的なものの存在は肌で感じていたはずである。彼がUFCにこだわり続けるのも、きっとそれゆえだろう。きちんとこの点について彼の口から聞いたわけでもないし、聞いたからと言ってたやすく答えて貰えるような質問でもない気がするが、僕の中にはそんな確信の様なものがある。それをもって“本質的直観でそう思う”と書いてしまうと三題話になってしまうのだが。

 ただ、オクタゴンを見つめ、この先も高阪の現役生活を追い続けることで、それが何なのかを知りたい気持ちは間違えなく僕のなかにある。何か言葉足らずになってしまったが、現段階での僕の結論はこんな感じなのである。あえて、メモ程度のこんな原稿を皆さんに見ていただいて居るのには、“その先の結論”こそ、僕にとっての「オクタゴンに忘れてきた何か」にあたるからなのだ。
 だから、安易に結論を聞こうとしなかったことは、よかったのかもしれない、そう感じているのである。

【第6試合】ライト級5分3R
○BJペン(ノバ・ウニオン:アメリカ)
×ポール・クレイトン(ヘンゾ・グレイシー・ファイト・チーム:アメリカ)
2R3'25 T.K.O.(レフェリー・ストップ:マウントパンチ)


  

【第5試合】ミドル級5分3R
○フィル・バローニ(ヘンゾ・グレイシー・ファイト・チーム:アメリカ)
×アマール・スロエフ(レッド・デビル・スポーツ・クラブ:ロシア)
1R 2:55 T.K.O.(レフェリー・ストップ:マウントパンチ)


【第4試合】ライト級5分3R
○宇野薫(和術慧舟会東京総本部:日本)
×イーブス・エドワース(サード・コラム・ファイト・チーム:アメリカ)
3R 判定3-0 (29-28,30-29,29-28)





 

  


【第3試合】(PRELIMINARY BOUT ) ミドル級5分3R
○アイバン・サラベリー(AMC:アメリカ)
×アンドレイ・シメノフ(レッド・デビル・スポーツ・クラブ:ロシア)
3R 2'27"T.K.O.(レフェリーストップ:サイドポジションからの顔面パンチ連打)

  

  

【第2試合(PRELIMINARY BOUT )】 ウェルター級5分3R
×スティーブ・バーガー(アメリカ)
○ベンジー・ラダッチ(ビクトリー・アスレチックス:アメリカ)
1R 0'27" T.K.O.レフェリーストップ(フェンス際でのスタンドからグラウンドへの顔面パンチ連打)

ラダッチ vs. バーガーは無効試合に

▼ (6/20 up) 米国ルイジアナ州のボクシング&レスリングコミッションは6月13日会議を開き、同州で5月10日開催されたUFC37の第2試合・ベンジー・ラダッチ vs. スティーブ・バーガーを無効試合扱いとする決議案を満場一致で採択した。ラダッチはわずか37秒でTKO勝ちをしたが、大会後バーガー陣営がラダッチの反則を指摘する抗議文書をコミッションに提出していた。コミッショナーは「試合のテープを見て評価したところ、ラダッチ選手が反則のパンチを使っていたことは明白だった」としており、バーガーのマネージャー(父親)はラダッチとの再戦を望んでいる。

  

【第1試合(PRELIMINARY BOUT )】 ウェルター級5分3R
×アーロン・ライリー(AMC:アメリカ)
○ロビー・ローラー(パット・ミレティッチ・ファイティング・システム:アメリカ)
3R 判定3-0 (29-27,29-26,29-27)

Last Update : 05/12

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