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(レポ&写真) [K-1] 12.7 東京ドーム:「肉を切らせて骨を断つ」? ホースト、前人未到の4タイムス・チャンピオンに!

K-1 "アルゼ K-1 WORLD GP 2002 決勝戦" 12月7日(土) 東京ドーム

  試合レポート:井原芳徳  写真:井田英登  観衆:74,500人(超満員札止め)

  【→大会前のカード紹介記事】 [→掲示板・K-1ヘビー級スレッド]

<大会総評>「過ぎ越しの祭り」  井田英登

純K-1か、非K-1か。
K-1という一つの純粋競技の世界を、突出したスポーツエリート個人が破壊してしまえるのか? この問いの答えは10月のサップVSホースト戦で出るはずだった。

だが、さいたまでの両者の対戦は、その解とはなりえなかった。確かにサップの攻撃は圧倒的ではあったが、あまりにも一方的であったがゆえにそれを競技の内側に収めてしまうことができなかったのである。レフェリーの制止を突き飛ばしての攻撃が決定打になったというホーストの主張により、競技的整合性にほころびを残したままで最初の対決は終わった。結局、サップはK-1世界の価値観が完全に塗り変えるまではできなかった。

だが、シュルト欠場というアクシデントによって、この問いはたった一カ月の間をおいただけで再提示されることになってしまった。

一方、一般テレビマスコミでは、“あのホーストを破った男”として、空前のサップブームが巻き起った。東京ドームのチケットはまたたく間に完売。ドーム興業史に残る7万人動員という数字は、10月のあの日ホースト陥落という事件がフロックだったのか、それとも歴史の必然なのかを、確認せんとするファンの関心の現れにほかならない。

奇しくもK-1興業は今回が十周年。
十回積み重ねられたK-1の歴史が、ここで書き換えらるかもしれない予兆。

「1999年7の月に恐怖の大王が降ってくる」
そんなヒステリックな風説が、世紀末に流行したことを覚えておられる方も多いだろう。物事の節目には、大衆の集団的無意識は既成の概念の崩壊を期待する傾向が強い。
三年遅れの世紀末。
K-1十年という歴史の節目に、その十年を支えてきた技術至上主義の神話が崩れ去るカタルシスを、ファンは求めたのではないだろうか。

サップの超ヘビー級の攻撃と、純K-1の終焉を期待する日本中の観衆。
既成の歴史を支える立場のホーストからすれば、これは強力なアゲインストの風である。
その中で戦ったホーストの心境はいかなものであっただろうか。

大会前日会見では、紳士として知られるホーストが、ルーキーであるサップを見下した態度を見せたことで、あわや席上で乱闘かというシーンが勃発した。このところ、プロレス型のプロモーションが目立つK-1の“いつもの茶番”かと見る向きも多かっただろう。しかし、僕には、サップを神経戦レベルでかく乱して、意地でも勝利をもぎ取ろうとする、ホーストの“作戦”にみえた。サップとサップに代表される“技術無用の体力ファイト”に負けるわけにはいかないという、ホーストの切実さの現れだったのではないだろうか。

だが、結果として、またもやホーストは沈められた。
さいたま以上のハイレベルの攻勢を仕掛けながら、ホーストはサップに勝つことが出来なかったののだ。
天才と呼ばれた男が、なりふり構わず繰り出す、嵐のようなローとボディーブローをすべて耐え抜いたサップは、やはり不沈艦だった。
さいたまの悪夢が再演され、すべての観衆は純K-1という価値観の崩壊の瞬間を見たと信じただろう。

しかし、またもや神は奇妙ないたずらを仕掛けた。
サップ、右中指負傷によってドクターストップ。かくして、ホーストの敗者復活という意外な展開となったのである。なんと、ホーストはリベンジに失敗しながらも、結局サップを二回戦に進めない状況に追い込んだことで、「一糸を報いた」のであった。

手前みそで言わせていただくなら、僕にはこの段階でホーストがこのまま優勝してしまうのではないかという、淡い予感があった。自分の足でリングを降りたホーストと、勝ったにも関らず宮本らセコンドの肩に背負われてリングを去ったサップの後ろ姿を見た瞬間、勝負は試合結果とは逆だったのではないかという気がしてならなかったからだ。

果たして、ホーストは純K-1の価値観を背負った馴染みのメンツの中を、スイスイと勝ち上がっていくではないか。ホーストはさいたまの失地をイーブンまで戻すことに成功したのである。

またもや純K-1は生き残った。
圧倒的な破壊者サップも、トーナメントというK-1最大の祭典にあっては、まだまだその頂に立つことが出来ないという事が証明されたからだ。

敗者復活後のホーストの戦いを見てみれば、その意味がわかる。たとえば、セフォー戦にしろ、バンナ戦にしろ、すっきりしたKO決着ではない。いずれも、試合中の故障によって戦闘不可能。サップも含めて、ミスターパーフェクトの今回の優勝は、すべて相手が故障したことによって成立したのである。要するに一日3戦のサバイバルを、故障せずに勝ち抜く力がある者だけがトーナメントを制することができるということなのである。4度それを制したホーストは「無事これ名馬なり」を地で行ったK-1的世界の象徴である。技術が及ばないサップが、自らのパンチのパワー故に自爆してしまった事件もその文脈で読み解ける。

結局終わってみれば、恐怖の大王は降らず、すべてこれまで9年間と同じ、K-1グランプリの世界のロジックで完結した。かくて世紀を越える“過ぎ越しの祭り”は、ひとまず次の局面まで持ち越されたわけだ。

サップの故障によって、数カ月はふたたび純K-1世界が帰ってくることになるだろう。だがその期間こそ、ホーストら純K-1陣営の選手達が、再度、競技性を揺るがす恐怖の大王にどう立ち向かうかを考える期間とせねばならない。

その答えを出さないかぎり、何度でもK-1世界は終焉に瀕しつづけるのだから。



第1試合 リザーブファイト 3分3R
×マイケル・マクドナルド(カナダ/フリー)
○マーティン・ホルム(スウェーデン/ヴァレンテュナ・ボクシング・キャンプ)
判定0-2 (29-30,29-29,29-30)

 両者決め手に欠く試合となったが、ホルムが左ミドルや膝蹴りで2、3Rとやや手数で上回り、3Rに左ハイをクリーンヒットさせ僅差の判定勝ち。

第2試合 一回戦(1) 3分3R
○レイ・セフォー(ニュージーランド/アメリカン・プレゼント・ボクシングジム)
×ピーター・アーツ(オランダ/メジロジム)
判定2-1 (29-30,30-28,30-29)

 フックで突進するセフォーに対し、アーツが右ローを着実に効かせる。2R途中からセフォーがノーガード戦法に切り替えると、満員の観客は待ってましたとばかり大歓声。中盤に左右のフックを当てアーツの動きを止めるが、アーツも右ローでセフォーの動きを止め、どっちが倒れてもおかしくない消耗戦に突入。3R、アーツがセフォーのノーガードの顔面にパンチをクリーンヒットさせるものの、セフォーは倒れない。判定は御座岡氏がアーツを評価したものの、黒住・大成の両氏はセフォーを評価し、セフォーが勝利。だが退場する時の表情には消耗の色がにじみ出ており、準決勝に不安を残した。

第3試合 一回戦(2) 3分3R
○ボブ・サップ(米国/チーム・ビースト)
×アーネスト・ホースト(オランダ/ボスジム)
2R 2'53" KO (2ダウン:パンチ)

 因縁のリマッチは予想以上の激戦に。サップの大振りのフックをホーストはがっちりブロックし、下がりながら右ローを着実に当てる。そして1分29秒、秘策の左ボディをサップのレバーに効かせ先にダウンを奪う。超満員の観衆の大歓声に押されるように、さらに右ローと左ボディで攻め立てるが、サップはなんとか1R終了まで持ちこたえる。
 2Rもホーストは左ボディ狙いで攻める。だが、サップはひるまずひたすら前に出て、ホーストの頭を片手で抱え、フック、アッパーで反撃。そして1分30秒、豪快な右フックでホーストをマットに吹き飛ばしダウンを奪う。ホーストも必死で顔面パンチで応戦するが、サップは驚異的な粘り強さを発揮し、さらに突進。最後はホーストをコーナーに詰めてパンチを連打したところで、角田信朗レフェリーがスタンディングダウンを宣告。サップがラウンド終了ぎりぎりでホーストを返討ちにした。ホーストと陣営は「ダウンではない」と言わんばかりの無念の表情。サップ陣営は大喜びだが、サップの顔に野獣の面影は残っておらず、宮本正明らに肩をかつがれて退場していった。

第4試合 一回戦(3) 3分3R
×ステファン・“ブリッツ”・レコ(ドイツ/ゴールデン・グローリー)
○マーク・ハント(ニュージーランド/リバプール・キックボクシングジム)
3R 1'16" KO (左フック)

 新たに付いたブリッツ(稲妻)の異名どおり素早い攻撃を仕掛けるレコに対し、体重を絞ってグランプリに臨んだハントもスピードアップ。両者とも決定打が出ないものの、リズムのいい攻防で見る側を飽きさせない。だが3R、レコが右を放ったところにハントのカウンターの左フックがクリーンヒットし一撃決着。体力的に余裕を残しハントが準決勝進出を果たした。

第5試合 一回戦(4) 3分3R
○ジェロム・レ・バンナ(フランス/ボーアボエル&トサジム)
×武蔵(日本/正道会館)
2R 0'51" TKO (タオル投入)

 パンチで前に出るバンナに対し、武蔵は下がりながらかわして逆にパンチで応戦し、バンナに鼻血を出させる。だが1ラウンド残り3秒、体勢を崩して横を向いた所でバンナのフックの連打を浴びダウン。ゴングが鳴った後もカウントが数えられるが、武蔵は足下がふらついており、9カウントぎりぎりでなんとかファイティングポーズを取る。
 それでも果敢に打ち合いに応じバンナを苦しめる武蔵。そして右ハイを命中させるが、油断したのかガードが甘くなり、あまり効いていなかったバンナの突進を許す。武蔵はロープを背に横を向いたところでパンチをもらいダウン。大きなダメージは無い様子だったが、セコンドからタオルが投入され試合終了。武蔵は無念の様子で、退場しながら「まだやれるよ!」と絶叫していた。

第6試合 準決勝(1) 3分3R
×レイ・セフォー(ニュージーランド/アメリカン・プレゼント・ボクシングジム)
○アーネスト・ホースト(オランダ/ボスジム)
1R 1'49" KO (右ローのブロック)

 なんとサップがホースト戦で右拳中指骨を骨折した疑いがあるとしてドクターストップ。実はサップは大会2週間前に右拳を痛め、ホースト戦で悪化させてしまったのだ。バンナ×武蔵の後の休憩時間中にドクターストップが発表され、規定によりホーストが準決勝を戦うこととなった。
 サップ戦で左目尻の上をカットし、出血をワセリンで隠しているあたりからも、ホーストも肉体的にかなり厳しい状態で準決勝に臨んでいることがわかる。セフォーにしても一回戦でのアーツの右ローで足元のダメージの蓄積が大きい。そんな両者の疲労困ぱいを表すかのように、静かな展開から始まったが、試合は意外な形で決着がつく。なんとセフォーが放った右ローを、ホーストがカットしたところで、セフォーが2週間前に痛めていた右足の状態を悪化。苦痛の表情でマットに倒れ込み、足を棒にしたまま立ち上がれず、ホーストの勝ちとなった。セフォーは肩をかつがれ退場。ホーストはラッキーにも無傷で決勝進出を遂げた。

第7試合 準決勝(2) 3分3R
×マーク・ハント(ニュージーランド/リバプール・キックボクシングジム)
○ジェロム・レ・バンナ(フランス/ボーアボエル&トサジム)
判定0-3 (26-29,26-29,26-29)

 3度目の対決も、序盤から互いにパンチで突進し好勝負の予感。バンナが左ローを着実に効かせハントの動きを止めると、その後も落ち着いてローを狙い続け、2R1分過ぎに右ローでダウンを奪う。その後もバンナはローの連打をはじめ、パンチ、ハイ等でラッシュをかける。
 だが、バンナは時々ロープにもたれることがあるものの、なかなか倒れず、超人的な打たれ強さを発揮。3Rもバンナは落ち着いて、距離を取りながらパンチとローで攻勢を続ける。ハントは打たれながらも時々アッパー等を当てバンナを苦しめる。試合終了残り4秒、カウンターの右フックをクリーンヒットさせダウンを奪い返し、ハントがミラクルを見せるが、それまでのポイント差が大きく、バンナが勝利。本命の下馬評どおり決勝進出を果たした。

第8試合 決勝 3分3R(3ノックダウン制)
○アーネスト・ホースト(オランダ/ボスジム)
×ジェロム・レ・バンナ(フランス/ボーアボエル&トサジム)
3R 1'25" KO (3ノックダウン)

 10年間のGPのダイジェスト映像が流れた後、クィーンの「We are the Champion」のシンフォニックバージョンをBGMに両者がゴンドラに乗って登場。
 試合は序盤からバンナのフックでホーストが後ろに吹き飛びそうになるなど、ホーストが押され気味。さらにサップ戦でカットした左目の上の出血が激しくなり、2R序盤にドクターチェックを受ける。だがバンナの疲労も激しく、互いに決定打に欠きクリンチが増え、角田レフェリーが両者にイエローカードを出す。
 そして最後の3R、両者の静かな攻防がこのまま続くかに思われたが、またもホーストに奇跡が起こった。実は2R中盤、ホーストの右ミドルを左腕でブロックしたバンナは、その左腕を脱きゅう。その後も左肘を少し気にする素振りを見せていたが、3R序盤に再度ホーストの右ミドルを左肘で受けると、突然バンナは痛そうな表情を見せ後ずさりする。レフェリーにスタンディングダウンを宣告されると、その後もホーストの右ミドルで立て続けに2度スタンディングダウンとなり、試合終了。奇跡の優勝をとげたホーストはリング上でダンスを踊り、涙を流した。
 サップの返討ちで一度は地獄を見たホースト。己の目の上をカットしながらも、サップの右拳、セフォーの右足、バンナの左肘を破壊。本来の意味とは少し異なるのだが、「肉を切らせて骨を断つ」という言葉を連想させる戦いぶりで、前人未到のフォー・タイムス・チャンピオンに君臨した。

Last Update : 12/08

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