99.4.25 K-1 REVENGE '99 横浜アリ−ナ

第５試合　K-1ル−ル３分５Ｒ　

　一方のベルナルド。つい先頃結婚し私生活に於いてはますます順風満帆。彼に残されたのは「K-1制覇」という未だ果たせざる夢だけだ。新妻のためにも自身のためにも99年度K-1シリーズ開幕戦でもある今日の試合は、幸先の良いスッキリとした勝利で飾りたいところ。

　ここ半年余り米国シアトルでの科学的トレーニングで肉体改造に取り組んできた佐竹、その成果でボディが一回り引き締まり筋肉の密度が上がっている。しかしパワーで対抗できる相手でないことは佐竹も十分承知しており、戦前の予想通りステップを使って距離を保とうとする。「前半は我慢するように指示してましたから（湊谷コーチ）。」試合が長丁場になると徐々にラッシュ力を低下させるベルナルドの悪い癖を突こうというわけだ。

　だが無論のことベルナルドの破壊力の凄まじさはそう簡単に「我慢」出来るような代物ではない。重くて速くて回転力のあるパンチのラッシュが佐竹の顔面をボディを狙い打つ。嵐のような連打にもみくちゃにされながらどうにか決定打を許さない佐竹だが、押し込まれてリング上に転がるシーンもあった。何しろ圧倒的なパワーを持つベルナルドは、剛腕一振りで佐竹のクリンチを振りほどいてしまう。

　ラウンド終了のゴングが鳴ったとき客席からは「佐竹がどうにか生き延びた」というふうに写ってしまったのはやむを得ないところだろう。

（ベルナルド-佐竹で10-9、10-9、10-9）

（ベルナルド-佐竹で10-10、10-10、10-10）

　ベルナルドの左ボディが佐竹のレバーに綺麗にヒットし、その後しばしばベルナルドがボディを狙っている様子が観察できたが、佐竹は常に足を使って動き回りベルナルドに標的を絞らせない。ベルナルドの表情にも明らかに焦れている様子が表れ始めた。

（ベルナルド-佐竹で10-10、10-10、10-10）

　しかし踏み込んだベルナルドが伸び上がりながら返しの右のフックを放った際に一瞬ベルナルドの頭部が佐竹の顎にバッティング、その後に飛んできたフックも顔面を捉えて佐竹がダウンする。バッティングだったと主張する佐竹だが時既に遅し、レフェリーのカウントは始まっていた。この時に口の中を切った佐竹は血を滴らせながら、それでもこの後も終始テンポを見失わずリズムをキープし続けた。

（ベルナルド-佐竹で10-8、10-8、10-8）

　佐竹のローがベルナルドの下腹部に入って1分の中断。両者共にかなりスタミナを消耗していたのでこのインターバルは共に助かったのではないか。
　ラスト10秒の拍子木が鳴ったところから両者が激しい打ち合いを展開する。そして最終ラウンド終了のゴングが鳴り響くとほぼ同時に、ベルナルドの左フックで佐竹がリングに大の字に倒れる。結局このダウンはゴング終了直後だったためダウンとはならなかったが、まさに佐竹の完全燃焼を象徴するシーンであった。

（ベルナルド-佐竹で10-10、10-10、10-10）

　内容的には率直に言ってベルナルドの完勝と言って良いかも知れない。少なくとも佐竹には危機的なシーンが何度かあったが、ベルナルドにダウンに繋がるようなダメージが見えたことは無かった。しかしそれでも敢えて、この試合で印象に残ったのは日本人ファイター佐竹の闘いぶりだったと言いたい。今大会のパンフレットで「台頭する若手日本選手に欠けているものは」という問いに佐竹は冗談めかして「天性のキャラクター」と答えている。だがこの試合を見ると佐竹のこの言葉があながち冗談とばかり思えない。自力ではおそらく確実に上回るベルナルドを相手に佐竹が見せた闘いぶりは、彼がこの10年間日本人選手の筆頭に立ち続けてきたことの意味を再認識させるものだった。武蔵や中迫は今日の佐竹の闘いをどのように見たのだろう。

　「また記憶が飛んじゃいました。僕、どんな試合したんですか。」

　試合後のインタビューにおいても、やはり佐竹は飄々として屈託がなかった。それは大仕事を終えた後の開放感というより、いつもどおり、自然体の佐竹がそこにいたような感じであった。負けた選手にしてはあまりにスッキリしすぎていると思えるほどだが、今の佐竹を見ているとそういう次元で判断すること自体が失礼なようにも思えてくる。

　99年、この「世紀末覇王」が世紀末のK-1戦線にどんな闘い様を見せるのか。今年の佐竹には例年以上に注目したい。

（高田敏洋）