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98・12・13
K1グランプリ'98 決勝戦
東京ドーム

第4試合(3分3RK1ルール)K1 GP2回戦

アンディ・フグ
1R2:28
TKO
× レイ・セフォー
180センチ/96.0キロ

180センチ/99.9キロ

スイス・正道会館 ニュージーランド・バルモラル・リ・ガー・プロモーションズ

 

「“本物” アンディ・フグ」Text by 高田敏洋

 

  二回戦4試合中、最も白熱した好試合が期待されていたのはこのカードだった。体格的には全く互角。スタイルも単に両者ともトリッキーな動きを得意とするという以 上の意味で似通っている。

 大阪でのステファン・レコ戦でセフォーが見せた運動能力とテクニックは、彼がK- 1トップで活躍するに足る資質と実力を備えていることを証明していた。フグに一発 に対する弱さという拭いようのない弱点(おそらくそれはかなりの部分が先天的な資 質に関わっている。「顎の脆さ」というのは、必ずしも体格や筋肉の量とは直結しな い)がある以上、セフォーのアッパーを初めとするショートレンジでのキレのあるパ ンチが、フグの顎を打ち抜く瞬間も予想できないものでは無かった。

 しかしいざ蓋が開いてみると、(少なくともこの試合に限っては)驚いたことに両者の間には予想外の開きがあったのである。


  合開始時点での両者の動きは互角。フグのここ数試合で目立つ奥足への左のアウト ローキック、セフォーの左アッパーから右ローとどちらも得意技を出し合い動きは軽 い。この「軽い動き」を試合開始と同時に出来るようになったこと自体が、フグの実 力アップの大きな要因の一つである。意外に思われるかも知れないが体に力が入って いる状態というのは実は打たれ弱い状態だ。緊張状態で顎に貰ってしまうと脱力状態 から瞬間的に首を固めてダメージに耐えることが出来ないので余計に効いてしまう。 こうしてかつてのフグには不本意なKO負けが重なった時期があったが、最近の彼はリ ラックスしながら同時に集中した理想的な状態で試合に臨むことが出来るようになっ た。セフォーともつれ合って倒れたとき、後ろに回転してすくっと立ち上がったその 動きは、彼が極真時代に最も油が載っていた頃に見せた動きと同じだった。この動き 一つでも、フグが「乗っている」ことをアピールしている。


  方のセフォーの方は、元々相手が誰だろうとまるで臆するということがない。六万 人超の観衆の中でファイトするなどという経験はおそらく初めての筈であるが、その プレッシャーで萎縮するような様子は、少なくともリング上の彼からは見受けられな かった。本国ニュージーランドではファッション・モデルの副業を持つというセフォ ーには、観衆の存在が圧迫感に繋がるようなことは無いのだろう。

 ところが試合後のセフォーは、しきりと「うまくfire(着火)しなかった」という表 現を繰り返していた。何となく試合に入り、何となく闘ってしまった、というのであ る。セフォーの試合では、彼がラウンドを追うに連れ徐々に自分のモチベーションを 高め、相手の動きを盗み取りそれに対応していく様子を見ることが出来る。3ラウン ドという短い試合を優勝戦まで繰り返すトーナメントスタイルは、まだ彼の体には馴 染んでいなかったのかも知れない。


(フグ-セフォー:10-10、10-10、10-10)

  近のフグが無敵の快進撃を続けるようになったもうひとつの要因として、彼がかつ てはどちらかというと苦手にしていたショートレンジでの闘いを最近は寧ろ得意にするようになった点を挙げることが出来るように思う。顎の脆さを抱えるフグにとって 顔面に直接打撃を受けるK-1ルールに対応することは非常に大変なことだった筈だ 。それだけ時間も掛かり、不本意な時期を長期に渡って耐えなければならなかったが 、最近では、攻撃面ではコンパクトなパンチを的確に相手に当てる技術を身につけ、 防御でも顔面に飛んでくるパンチをしっかり目を開けて見ることが出来るほどに馴れ てきた。この試合でも何度となくショートでのパンチの交錯があったが、その間一度 たりともフグがひるんだ様子を見せたシーンは無かった。


  実上のフィニッシュ・ブロー、最初にセフォーをよろめかせた「返しのワン・ツー 」のツーにあたる右ストレートも、こうしたフグの「得意技」の一つとして数えるこ とが出来る。これでセフォーは足に来てしまい、それ以後は決してクリーンヒットを 貰ったわけでは無いのだが、フグのラッシュに耐えてバランスを保って立っているこ とが出来なかった。



  膝をやや引きずるようにしてインタビューブースに現れたセフォー。

「いいローキ ックを貰ったよ。」

 試合内容に関して、不完全燃焼だったと述べた点は既に書いたとおり。

「けど、負けて何を言っても言い訳がましいから、つべこべ言うつもりは無いよ。次の機会にはもっとうまくやろうと思うだけさ。」

 いやなかなかに格好良い男である。

 方勝者であるフグの実力に対して、正直これまで筆者は比較的辛めな点を付けてき た。K-1参戦当初の彼の客受けするダイナミックな大技と打ち合いに対する脆さの バランスに、どうにも不安感が払拭出来なかったからである。しかしこの試合を通じ て、彼は同体格の純正キックボクサーであるセフォーと真っ向勝負を挑んで圧倒した のだ。

 もう決してアンディ・フグをトリッキーな大技やストイックなキャラクターで観客を沸かす人気ファイターという位置付けのみで語ることは出来まい。その実力は疑いよ うもなく本物だ。

 

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取材:高田敏洋・薮本直美 カメラ:大場和正


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