第 二回戦のフィリョ戦に比べると、非常にリラックスした表情で会場入りしてきたベルナルド。プレッシャーの掛かった試合を最高の形でクリアーして、悲願の初優勝に
向けてステップを一つ上がったという思いもあっただろう。アーツは決して楽観できる対戦相手ではないが、これまで2度に渡って完全KOで葬った経験のある相手だ。手
の内も知り尽くしている。試合開始前のリング上では、ベルナルドには笑顔さえ見ることが出来た。
僅か数分後にその表情が落胆に暮れることになるとは...。
ベ ルナルドはいつも通りの剛碗を振るう。アーツは佐竹を沈めた膝を狙っている。しかしそれにしてもこの日のアーツの攻めは多彩だ。真っ直ぐに相手の顎を狙うワン・
ツー、左右のロー、ミドル、ハイキック、更に組んでは膝と、正にオールマイティ。 かといって決してベルナルドが一方的に受けに回っていたわけでは無い。昔に比べる
とフォームによりシャープさを増したパンチはしばしばアーツの頭部を脅かし、また スピードと重さを兼ね備えたタイミングの良いローキックも飛び出した。課題とされ
ていたディフェンス面でも明らかに成長している。
し かしアーツの絶好調ぶりはベルナルドのそうした進歩をすら大きく凌駕していた。 ワン・ツーのタイミングがうまく合っていてベルナルドの頭部にヒットする場面が何
度か見受けられたが、結果的にはそういったシーンが最初のダウンへの伏線になっていた。ショートレンジからコンパクトに打ち抜かれたワン・ツーの二打目の右ストレ
ートがベルナルドのガードをすり抜けてヒット。一瞬動きの止まったベルナルドの顎 を返しの左アッパーが襲った。
立ち上がり、大声を挙げて自らを鼓舞するベルナルドだったが、このパンチで平衡感 覚にダメージを残していたのだろう。畳みかけるアーツのラッシュに耐えきれず、再
び右ストレートをテンプルにまともに貰ってリング上大の字になって天井を仰いだ。
敗 戦後のインタビューでも、一番意気消沈していたのはやはりベルナルドだった。周 囲の下馬評もさることながら、選手本人としても最も「優勝したい」という願望が強
かったのはおそらく彼だったろう。
「トーナメントには自分自身ではコントロールし ようのない部分(対戦カードや前の試合でのダメージ等)がありますが、それはそれ
として自分に出来る範囲でベストを尽くすことが大事だと思っています。それが足り なかったからここで私は神に幸運を授かれなかったということでしょう。」
「キック
ボクシングという学校の生徒として自分自身を考えると、k-1参戦当時のローキッ クのディフェンスさえ満足に出来なかった頃からはかなり成長したと思いますが、そ
れでも私にはまだまだ学ばなければならないものが一杯あります。そういった準備が 全て揃った時、結果(優勝)が見えてくるのではないかと思います。」
ベ ルナルドは以前から「同じ対戦相手と何度も拳を交えることはあまり好きではない 」と口にしている。
「アーツとはもう何度も闘って、まるでスパーリングパートナー
かと思うくらいになっています。トーナメントでは誰と当たるか判らないので仕方あ りませんが、彼には二度KOで勝ってますし率直に言ってアーツと再戦するより私はよ
り新しい相手と新鮮な闘いがしたい。」
アーツに対してスパーリングパートナーとい う表現を用いるあたりに、ベルナルドのキャラクターが伺えるかも知れない。彼にと
ってアーツは色んな意味で「旧知の仲」の間柄なのであろう。このあたりにファイタ ーとしてのベルナルドとアーツの違いを垣間見ることも出来る。アーツは対戦相手に
関して尋ねられると常に一貫してこう答えるのだ。「誰が相手だろうと私は全然構わない。」
佐竹、ベルナルド、対戦した二人が異口同音にこの日のアーツを「とにかく強かった 」と認めた。ベルナルドは「おそらく今日優勝するのは彼でしょう」とまで言ってい
る(そして実際そのとおりになった。)
ファンに対して一言、と乞われたベルナルドは、心底すまなそうに日本語で「ごめんなさい」と答えた。
「今よりもっと強くなって、将来絶対K−1のチャンピオンになります。皆さんに神 のご加護がありますように。」
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