BouttReview XX

BoutReviewXX 9号 公開にあたって

BoutReview編集長 井田英登(ida@boutreview.com)

年ぶりのBoutReviewXXをお届けします。
多くのトラブルが重なり、当事者である僕らも何度かもう駄目だろうと感じる事が多かった半年間でした。しかし、この期間いろいろな形で僕らをサポートし、温かい目で見守ってくださった読者の皆さまのおかげでようやく再起の時を迎えることが出来ました。まずそのことに心からの感謝を捧げたい思います。


ず刊行停止前後の事情からお話しします。
昨年末、第8号を刊行した時点では、次の号の企画も既に進んでおり、XXの刊行がストップするような状況は全くありませんでした。逆に僕らとしては、今年はネット媒体として勝負の年と位置づけていましたので、XXには特に力を入れていく予定でした。

今年3月〜4月にかけては会員管理、サーバー運営のパートナーである未来編集側がおこなったシステムのバージョンアップが上手く進まず、一時的に新規入会の会員管理がスムーズに運びませんでした。XXの有料会員管理は全てこのシステムに依拠しており、システムが安定稼動するまでの間、新規コンテンツを有料領域に投入することができませんでした。

また、XX用の素材は取材し続けていたのですが、悪いことは続くもので、この間にXXのエースライターであった矢作祐輔くんが体調を崩し戦線離脱。そうするうちにBoutReviewの基幹の一つであった、ニュース配信のシステムまでが不調を来すようになり、4月以降のコンテンツ準備が大幅に遅れました。

一方で格闘技界の方の興行ラッシュは待ってはくれません。逆に増大する一方の興行をフォローするだけでスタッフは忙殺され、ショップの新規商品の追加にまで支障を来すような状況になってきていたのです。予定していたi-modeページのスタートや活字化といったプロジェクトも、こうした状況の悪化に伴い足踏み状態へ。運営会社であるMuscleBrain'sの経済的負担だけはどんどん大きくなる一方。報道媒体としてはそれでも現場取材を最優先に進めていかねばなりません。いわば無料ページを維持し経費を吐き出すばかりで、新しい収入がないという最悪の事態を迎えてしまったわけです。

今回、ようやくシステムの復旧に伴い、ようやくXXの再開にまでこぎ着けることが出来ました。まずはこの半年間発表する事の出来なかったプレミアインタビュウの「大蔵ざらえ」的なイシューからスタートします。休止期間の半年間にも僕らが遊んでいたわけではなかった事を、まずこの誌面で証明したいと思います。


うした苦境を読者の皆さまの目に触れさせる事は、僕の信条として絶対避けたい事態でしたが、日々は容赦なく過ぎていくばかりです。今回、こうした告白をあえてみなさんの目に晒したのには、二つの理由があります。一つは僕らの置かれている尋常ならざる苦境を理解していただきたいという事。そしてもう一つは、その状況を越えて僕らが何をやっていきたいかを判っていただきたいということにあります。

この半年間の沈黙を踏まえ、我々はBoutReview本誌、そしてXXの誌面は徐々にスタイルを含めていくつかの変革を考えています。基本的にこれまでのプレミアインタビュウや本格レビュウを中心にしたXXの構成は変わりませんが、より早い更新を目指して、これまでの○○号という区切りは無しに、新しい素材が入り次第更新されていくスタイルへシフトする予定です。それにしたがい、本誌で無料提供していた素材も徐々にこの有料誌面へシフトすることになると思います。無料誌面のコンテンツが薄くならないように、情報的なものは残しますが、これまでのような密度で無料情報をお届けすることは出来なくなると思います。その分、無料誌面は、読者の意見をオンデマンドで表現できる、リーダーズポールや掲示板に比重を移したものになると思います。

僕らとしても苦汁の選択ですが、より内容の高いレポートや写真をお届けするために、情報=無料=ただし内容の保障はない、という現在のネット文化の在り方から一歩踏みだしたスタイルを確立していきたいと思います。
これは冒険ですし、これまで支持してくださった読者を失うことになるかも知れません。それでも僕らはまずサバイバルしていかねばなりません。先ほども少し述べましたが、BoutReviewの現在の台所事情は非常に苦しいものです。正直いってこの半年が、勝負どころになるかもしれません。もし僕らの決断が、読者の支持を得られないもので終わるのならば、BoutReviewは姿を消すかも知れないということです。

それでも僕らにはこの世界に残って表現していきたい内容があり、他の格闘技媒体にはない切り口でこの世界を読者に届けたい主張があります。ただ誤解していただきたくないのですが、僕らは決して現状を悲観しているわけではないのです。もし僕らの主張が理に適ったものであり、ファンのニーズに答えうるものであれば、必ずチャンスは開けるはずだ、と信じているからです。


しいXXは、より色濃く僕らの主張を打ちだした物になるはずです。
限られた時間の中で、BoutReviewが本当に主張したかった事をどんどん書いていこうと思います。

一言で言えば、プロレスの延長線上ではない、リアルスポーツとしての格闘技ジャーナリズムの確立を本気で目指していきます。もちろんそれは「格闘技の純粋性」にこだわってリーダービリティを犠牲にするストイックな格闘技雑誌でもなく、またプロレス伝来のキャラクター主義で選手をおもちゃにするアイドル雑誌でもありません。野球やサッカーといったメジャースポーツ同様、真摯にスポーツに向かい合う姿勢をドキュメントする、全く新しい誌面作りを目指します。日常社会に生きる普通のスポーツファンが、共鳴できる真のスポーツジャーナリズムの確立が目的です。格闘技は嫌いではないけれど、わざわざプロレス村の特殊な空気に馴染みたくはないという、ある意味“まっとうな”、しかし今の格闘技ジャーナリズムの現状ではターゲット外にいると思われているファンを対象にしたいと思っています。

例えばK-1やPRIDEのテレビ中継を見て興味を引かれたファンはいくらでも居ると思いますが、そうした人々が素直に共感できる格闘技雑誌がどこにあるでしょう? オリンピックでマラソンや柔道を観て心動かされた人たちが、その選手の素顔に触れたくなる気持ちは誰もが理解できるのではないでしょうか? かといって、一般紙のような突っ込みの浅い表面的な記事もゴメンです。素直に人間としての格闘技選手達を“尊敬できるアスリート”として理解できるような記事やインタビュウをどんどん載せていきたいと思っています。

必要なのは、一般社会に生きるゴク普通の人間の心にまで届く、格闘技選手の“人間力”に注目した普遍的なスポーツドキュメントなのです。もちろん、それが気の遠くなるほど難しい事であることは理解しています。しかし、それだからこそ資本力も年期もない僕らがあえてチャレンジする値打ちのある行為だと思うのです。いわば、ロック音楽雑誌の「rockin' on」や、同じスポーツ雑誌の世界で言えば「Number」が切り拓いてきた道を、僕らもこの世界で歩みたいと思っているわけです。そしていつか“江夏の28球”に匹敵するような、格闘技ドキュメントがこの誌面を満たすように願っています。

もし気に入ってもらえるなら、僕らのイズムを支持してください。
これからは一つ一つの記事が勝負になるとおもっています。

ただそんな空念仏の心意気を支持して欲しいわけではありません。現実的にその内容を理解して貰えるように、新規会員にはキャンペーン期間中購読料無料のサービス開始しました(追記:6月30日をもって終了しました)。即、有料会員になっていただけなくてもかまいません。僕らの作る記事のどこかに心に響いたら、木戸銭かわりにバナー広告をワンクリックしてもらうだけでも結構です。

これは一つの審判です。僕らの最後の、そして最大の闘いを応援してくださる読者になっていただけるなら、僕らはこの闘いを命続くかぎり続けていきたいと願っています。熱いエールと、深い理解を求めます。是非、この思いを記事の一つ一つから感じ取ってください。


に、新しいBoutReviewXXは動き始めています。

リングスを離脱した田村、山本、成瀬の三人にインタビュウを敢行しました。他誌でも既にいくつかのインタビュウが掲載されましたが、本誌では彼らがどうして慣れ親しんだRINGSマットを捨てたか、その内面の真実に迫ったインタビュウを取りました。
全く新しい“事実”はありません。
ノースキャンダル、ノースクープ、その上全ての活字媒体より遅いドンジリ公開です。
しかし、彼らが今この時にRINGS離脱という緊急手段を使ってまで守らなければならなかった、“内面の真実”に最も肉薄した内容だと自負しています。そして一見、全く違う道を選んだように見える三人の心の奥底に通底する、ファイターとしてのポリシー、いわば“Uという運動体に賭けた男達”の最後の真実を掘り起こせたのではないかと思います。

そして、もう一つの柱は、大山峻護インタビュウ“AFTER DEBUT”編です。今回9号掲載の大山“利幸”インタビューのいわば後編になります。
あれだけ希望に満ちてプロデビューをむかえたはずの大山が、KOTCでの惨敗、PRIDE.14での痛恨のレフェリーストップを経て、マスコミの嵐のような“ペンの攻撃”にさらされたその直後の心理を語りました。エリート柔道家と呼ばれてきた彼が、これまでずっと心に秘めつづけてきた、少年時代の内面の挫折体験と葛藤を初めて語ってくれました。
素っ裸の大山がここにいます。彼の経歴や外見だけではなく、この魂に惚れてください。リングに立つ選手の内面にはこれだけの複雑な風景があることを、ばうれび流にお目に掛けるつもりです。XX7号の山本喧一インタビュウに続く、入魂の一本です。

また僕らとしては今後絶対にプッシュしていきたい男、高田道場の松井大二郎がXX初登場します。朴訥で頑固、しかし、絶対憎めないその実直でストレートな人柄を紹介します。

こうしたラインナップを通して僕らの新しいチャレンジを感じ取っていただければ幸いです。◆◆◆


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