特集:K-1大航海時代:WORLD GP 分析

「真の大航海時代はまだ始っていない!」

TEXT by 井田英登(本誌編集長)

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1. “K-1宣教師”アンディ・フグの死



の終わりに一つの凶報が届いた。
アンディ・フグの急死である。

各マスコミは速報でその死を伝え、ニュースやワイドショーがこぞってこの格闘家の死を伝えた。スポーツヒーローであるとはいえ、外国人選手の死がこれだけ一般マスコミをにぎわせたのは、F-1ドライバー、アイルトン・セナの事故死以来のことではないだろうか。

本誌でも当初から、「K-1大航海時代」を特集するつもりで準備を進めてきたのだが、アンディの死で、その企画内容、取材方法などを大幅に変更せざるを得なくなった。本来8月の月末に公開予定であったものが、一週間ずれ込んだのも、その背景を盛り込んだ非常に大規模な特集に企画が化けてしまったからに他ならない。実際、二号分の特集を一号に盛り込もうとしたために、非常に記事の分量が増え、(毎度のことだが)一部積み残しが出てしまった事を先におわびしておきたい。

ンディの選手としての功績、日本における交友関係、あるいは人柄については、アンディ追悼特集をご覧いただくとして、いまこの「大航海時代」特集の中で、あえてアンディの存在を引き合いに出したのには別の意味がある。彼がこの今年からはじまった「WORLD GP」という壮大な構想の中で果たした先駆的な役割を、指摘しておきたかったからである。

追悼特集の座談会でも指摘したことだが、アンディ・フグと言う人は、石井和義館長が打ち出したK-1のコンセプトを常にいちばん理解し、リングの内外でそれを忠実に実現していくしていく尖兵のような所があった。

まず、最初期に空手家が顔面パンチに対応できる事を証明する場としてK-1が立ち上げられると、第1回大会にこそ参加しなかったものの、途中離脱せざるを得なくなった佐竹雅昭の後をひきつぐようにして、空手家代表として、並み居る世界クラスのキックボクサー達に立ち向かっていった。実際、敗れても敗れても立ち上がり、REVENGEというキーワードを胸に空手家の不屈の精神を世に問うたのは、アンディであった。

次に、K-1コンセプトを、よりグローバルなキックのデファクトスタンダードにしたい、という石井館長の構想に対して素早く対応し、'95年には母国スイスでの「K-1 FIGHT NIGHT」を開催して見せた。すでに前年オランダでは「K-2プラス」と銘打たれた中量級大会が開催されており、海外大会の一番手とはいえない状況ではあったが、アンディのように長期的な視点で毎年開催を実行していった例は皆無である。'98年になってようやくアメリカでUSA-GPが開催されたが、これはパートナーになったプロモーター側の問題もあって昨年は行われずじまいで終わってしまっている。一方アンディの仕掛けた「FIGHT NIGHT」シリーズは順調に毎年6月の開催を恒例化し、今年も6回目の大会を成功させたばかりだった。

そして、石井館長が来るべき国際化に備え、日本人選手の実力強化を目指して「K-1 JAPAN」シリーズを立ち上げると、今度はリングの上で若手日本人選手の挑戦を一身に引き受け、高い壁となって見せたのもまたアンディその人であった。

さに「K-1思想の体現者」それがアンディだったのである。

アンディが95年以来ずっとスイスの地で育て上げてきた「K-1 FIGHT NIGHT」のシリーズは今や確実にヨーロッパのトップファイターの目標として、網の目上に選手開拓のネットワークを形成するようになった。ヨーロッパでばらばらに活動してきた選手達にとっての、それは一つの灯台のようなものとなったのだ。現に、今回話を聞くことが出来たシリル・アビディにしろフランク・オットーにせよ、K-1世界にアクセスする登竜門としてチューリヒの「K-1 FIGHT NIGHT」を中継点に目指して戦ってきたのである。その意味でも、アンディの“K-1宣教師”としての役割はもう一度、その視点から研究されてもいい素材なのかもしれない。

セナの死はそのままシーンの衰退を呼ぶ悲しい結果に終わってしまったが、アンディの死は全く逆のベクトルをK-1に与えるような気がしてならない。

その分析はひとまず置いて、次章では今回のWORLD GPの意義を探っていきたい。


NEXT □□□ 2.WORLD GP構想に日本のファンはどこまでついていけるか? →


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