「オレね、高校ん時、レスリングやってましたよ。」

 インターネットを通じて知り合った友人が言ったこの言葉で、私はレスリングに関 わっていく運命に決定づけられた。
 正直言ってレスリングの「レ」の字さえ知らなかった私は、彼に誘われていった試 合を見るまでは、なんの知識もないという状態だったのだ。ところが試合が始まり、お互いの攻防や、そのしなやかな技のかけ方、コーナーにいるときの緊張感、そのすべてに目は釘付けになり、一気にレスリングにはまっていっ た。

 後日、知りたいことがたくさんあって、レスリングに関する文献を探してみた。と ころが、大きい書店を何軒回っても、「レスリング」という文字は見あたらない。

 取り寄せるにしてもかなりかかりますよ、という店員の冷たい言葉。
 私の住んでいる町にはレスリングスクールもなく、中学や高校や大学でレスリング 部があるという場所まではかなり遠い。全日本や世界の試合なら、きっと何らかの形 でみたり聞いたりできるはず。

 競技種目は違うが、自分の高校時代を思い出した。世界に向けての華やかな舞 台に出るわけではないけれど、賢明に打ち込んだ頃。地道な練習や大会でがんば っている高校生という立場。過酷な練習を乗り越えて、今日本のトップに君臨し ている選手と、勧められるがままにレスリングを始めた小中学生たちとの狭間の時期。

 当たり前だが、高校は義務教育ではない。成績が悪ければ留年さえしてしまう。勉強とも両立させなければならない上にとてもハードなトレーニングを積んで いる高校生たち。厳しい練習のあとに見せる、普通の高校生と変わらない笑顔。

 10代にして身につけている、その強い精神力とのアンバランスな部分はいったいど こからくるのか。これから大学や社会にでて、さらに飛躍していく彼らの素顔とはいっ たいどんなものなのか。部活動での彼ら、全国大会での彼ら、そして日常の彼らの姿 を通して、「レスリング」競技に対する視点を探ってみたいのである。

 将来の格闘家やオリンピック選手は、必ずこの中にいるはずである。

(佐々木大輔)


[PreFighters 表紙に戻る]