99･7･16 "III 修斗 the Renaxis 1999" 後楽園ホール大会 　 第7試合　ミドル級3R ○ 木口道場 桜井速人 　 1R 0'37" 腕ひしぎ十字固め × オーストラリア・AUS修斗ジン・ウー・クン ブラッド・エアズ 　 　 　またもや、秒殺だ。 　今年の一月にルミナが飛び付き逆十字で６秒という驚異の秒殺勝利を奪ったのに続いて、今度はマッハがやった。試合時間にして、３７秒。 　その間、カメラマンとしてリングサイドに貼り付いていた僕が撮った写真は６枚たらず。某格闘技雑誌で「修斗の取材の時は最初の一分はとにかくシャッタ-を切りまくってくれ」とカメラマンには指示が出ているという内幕を紹介した記事があったが、制作予算１００万分の１ぐらいの弱小媒体であるBoutReviewの場合、そんな贅沢は夢のまた夢。１試合で回すフィルムは３６枚撮りで最大２本程度だ。５分３Ｒの修斗の場合、正味１５分を見込んでペ−ス配分をしていかねばならないわけだ。いい写真を撮りたければ感じるままにフィルムを大量消費していくべきなのだが、とにかく少ない枚数で試合経過を伝えねばならない以上、試合の流れを読んで、勝負所に集中してシャッタ−を切るスタイルを取るしかない。BoutReviewのカメラマンをやろうと思ったら、写真の腕よりもまず記者並みに試合の流れが読めて、なおかつ節約の精神が備わっていなければ務まらない（笑）。 　今回にしても、カメラポジションが悪く、序盤の打撃の展開は全く撮れなかった。確か桜井のロ−に対してエアズがカウンタ−で一発パンチを放ったものの、打ち返されてロ−プに押し込まれる・・・という展開だったはずだが、僕のポジションからではエアズの背中ばかりが写ってしまい、桜井の動きはほとんどファインダ−に入ってこないという最悪の“縦位置”。そのうえエアズは桜井に押されて下がるだけなので、こっちはエアズの背中を撮るしかない。こう言うとき、BoutReviewのカメラマンはシャッタ−を押せない。 　桜井がエアズを突き倒すようにしてマウントを奪取してしまった瞬間、“あ、ヤバイ” という直感があった。マウントを奪った桜井の動きが余りに余裕たっぷりだったことも、直感の正しさを証明している。組み伏せて首に抱きつくやいなや、それを軸に腰を回してサイドに移動。もう十字狙い以外に無い。上がってきた写真を見てもこの瞬間のマッハの表情はまったく平静そのもの。まるで新人のジム生相手にスパ−リングをしているような余裕すら感じられる。この前後の位置関係は悪くない。直感にしたがってシャッタ−を切りまくる。レポ−ト担当も兼任していたので、メモ代わりにカセットレコ−ダ−も回しているのだが、それを聞き返してみると「サイドに回り込んで・・・あ、決まっちゃうよ」僕はそう叫んでいる。それぐらい桜井の動きは速く的確だった。 　しかし、エアズもすでにオ−ストラリアでアマ１戦、プロ公式戦１戦をこなしてきたラリパパの秘蔵っ子だけに、国際戦用にピックアップされていきなりＡクラスデビュ−する外人とは違う。逆らわずに捕られた腕の側へ押し込み、脱出を試みるだけのスキルは持っているようだ。しかし、桜井もそれぐらいの展開はお見通しで、捕った腕を放さない。うつむけになって、自分の体重を全部載せるようにして下から極め直す。昨年のＶＴＪでエンセンがク−トゥアを仕留めたのと同じ形だ。 　すかさず小方レフェリ−がストップを掛ける。立ち上がった桜井の表情は硬い。まだ戦闘モ−ドが解けていないのか。「なんだ終っちゃったのかよ」という気持ちが見え隠れした気もする。 （井田英登） 全試合結果に戻る→