1999・3・14
浪速フリーファイト5
尼崎記念公園体育館・柔道場

第25試合(ミドル級3分2ラウンド)

池本誠知
1R 2:36
アンクルロック
樫本真也 ×
ライルーツ・コナン K.U.W.F
[189cm 78kg] [178cm 78kg]
 

池本誠知 本はここに戻ってきて、ちゃんと一本勝ちを見せておかなければならなかった。一年前、 喜多将士(龍生塾キャノンボールGYM)と同じ会場、同じ最終試合で対戦し、会場中を沸かせた。だが、とにかく極めだけに拘ったその試合は、結局極めに至れず判定で敗れた。一方の勝者喜多は、その実績と試合内容が認められ、一足先にプロ・デビューを果たしている。もう一度、一から実績と足がかりを作るためにエントリーした第一回目の西日本選手権では、自身の緒戦でまさかの延長判定負けを喫した。他ではきちんとアマチュア・リングスでも、SAWでも実績を残した。だが、どちらも最後に勝ち名乗りを挙げることが出来なかった。プロになりたい、でもそのための決定的な何かがない。なによりも 「なにわのプリンス」 の異名を取った自分が、地元関西のアマ修斗では一年の間負けたままでいた。もう一度あの時と同じ場所に戻ってきて、アマチュア修斗のフィールドで新しい自分を見せること。単なる実績以外に、この日の闘いにはそんな意義があった。そして、それを一番見たいのは自分だ。


 回の NFF4 において、鮮烈すぎるストライク・アウトがあった。それはたった一発のハイ・キックによるもので、試合終了までにかかった時間は僅か 6秒 。まさに、 "秒殺" という表現がぴったりと来る試合だった。その試合の主人公は 樫本真也。その時は組み合いの場面が見られなかったため、グラップリングの実力が伺えなかったが、実はこの樫本、'98・SAW -80kg級のファイナリストである。池本の代わりに、決勝でその勝ち名乗りをあげたのは、他でもないこの男だ。組んでも強いのである。今回のこの舞台、自らの名をアマチュア総合格闘技界に響かせるには、絶好のチャンスである。池本には悪いが、絶対に勝ちたい。

止まらない攻防 の試合での盛り上がりで、最終試合へのいい雰囲気が出来あがった中、この日の主役を招き入れるゴングが鳴る。勢いのいいストライクでスタートを滑り出したのは、池本だった。このあいだ秒殺劇があったかどうかなんて関係ない、プロになるためには勝たなくてはいけない。それも、きっちりと一本で。止まっている暇なんてないと言わんばかりの、素早くめまぐるしい攻めを見せて行く。樫本にしても前回の勝ちはフロックではない。きっちりそれについていき、先にシュートをしかける。がぶられて粘られるも、そのまま脚を掬って転がして行く。しかし池本もギロチン・チョークの形に捕らえながら、相手をボディ・コントロールしていく。しかし、それを逃れた樫本は主導権を握るべく、どんどん先手を打つように攻めていく。そして、めまぐるしい動きを続ける中、するりと腕十字の形に入った。


 れは、 がっちりと形に入っているように見えた。そのまま暫く体勢が止まり、腕が伸びきるのは時間の問題かとまで思った。だがピンチの局面を迎えていた様に見えた池本は、「きっちりクラッチしてましたから、全然大丈夫でした。あれは相手のかけ疲れでスタミナを奪うのを狙ってたんです」 と、冷静だった。暫くすると 「もういいだろう」 そう思ったのか、その腕十字の体勢から抜け出す。しかし、抜けられた樫本もすぐさまガードの体勢を取り、その先への展開を許さない。だが、回り続ける試合はここでは止まらない。その両の脚に挟まれた池本は、この日一番鮮やかなパス・ガードをきめる。先の試合の植野と同じく、そのシュート・レスリングに一方ならぬ思い入れがあるばかりに、最先端を行く 「総合格闘家」 達にポジショニングというスキルに於いて、いささか遅れを取っていた印象が彼にはあった。それは、まさかの緒戦敗退を喫した西日本選手権で 「もうこのスタイルとは反りが合わないんだろうか?」 と、こちらがいらぬ危惧を抱くに足るものだった。

フィニッシュのアンクルロック かし、その先の目標のある池本は止まらなかった。ここに戻ってくるまでに、しっかりとポジショニング技術の研究を進めていた。無論、それだけに拘泥した 「ポジショニングのためのポジショニング」 ではない、あくまでそれは、その先の極めの為のステップだ。ガードを抜ければ、ポイントを狙って止まる間もなく、先ほどのお返しとばかりに腕十字を極めに行く。寸での処でかわされるも、そのまま両者脚の取り合いへ。こうなれば試合は池本のもの、冷静に体勢を整え、膝を絞りがっちりと樫本の脚をホールド。後は、目の前に投げ出されたその足首を捻るだけだった。今でも目に焼き付いている、あまりにも完璧なロック。二人の役者によって回り続けたその試合は、そこで回転を止めた。


コナン勢大喜び
 「池本さん、すごいっすねぇ!!」
 「池本さん、感動しました!!」

三島とR.S.G. この日、大会ジャッジを勤めたプロ・シューター、 三島睦智(格闘サークルコブラ会)とレッド・スレイヤー・ガイ (総合格闘技夢想戦術) の二人は、全試合終了後の大会総評で、その一言ずつだけを語った。関西人らしい、ユーモアの効いたマイクだったが、それはただ狙っただけのものではなく、その勝利がプロ・シューターをして、他の言葉を何も必要無いほどの鮮やかな一本勝ちだったからに他ならない。一年前、負けたままにされた会場で、池本誠知がアマチュア修斗に帰ってきた。プリンスと謳われるにふさわしい立ち振る舞いで。

(眞砂嘉明)
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取材:眞砂嘉明 カメラ:井原芳徳
HTML編集:井原芳徳