1999・3・14
浪速フリーファイト5
尼崎記念公園体育館・柔道場

第24試合(ウェルター級3分2ラウンド)

× 尾藤広光
2R 2:36
腕ひしぎ十字固め
植野伸介
京都東山レスリング ライルーツ・コナン
[175cm, 69kg] [170cm 67kg]
 

植野伸介「僕はシュートレスラーですから」

 昨年の11月に開催された浪速フリー・ファイト4 の試合後、'98のウェルター級西日本選手権者・沖津智也(総合格闘技夢想戦術)を下した植野はそう言った。判定勝利だったその試合、勝負を決めたビッグ・ポイントは、バックマウントに対するものだった。しかし、それはポジショニングとは一番遠い処にあるムーブメント、背後からの飛びつき腕十字での組み伏せによるものであり、ポイントを狙って取ったものではなかった。事実、勝者である植野は試合終了時にこのポイントに気付いておらず、完全に負けを覚悟した表情で判定を待っていた。そしてある意味、結果オーライの感があったこのポイント差判定勝利に、「なぜそんな闘い方をするのか」との質問を投げかけられ、出てきたのが冒頭のコメントだ。最近では、アマチュア修斗のゲーム性を逆手にとり、はなからポイント勝負を目論む選手も少なくない中、ポジショニングのためのポジショニングを拒否し、極めに拘るこの男は 「極めきる事が出来なかった」 と、その金星とも言える勝利にも 100% の納得を見せなかった。


尾藤広光 する尾藤はレスリングをそのバック・ボーンの支柱に据える、アマチュア格闘技界では名の知れたベテラン選手。'97年の全日本コンバットレスリング 63kg級 3位 を始め、'98全日本SAW 体重別 3位 と、安定した実力を物語る実績もある。今年に入っては、'99全日本社会人アマレス段別フリースタイル 69kg級 で優勝を飾るなど、31歳という年齢を感じさせない格闘家としての充実ぶりだ。この試合には、万全の体勢で臨んできた。


植野ガードの体勢 場の真ん中で対峙する二人。いきなりタックルに行こうはしない尾藤、その動きを警戒する様に間合いを保ちながら打撃を加えていく植野という構図で試合はスタート。前回のNFF4では打撃の得意な沖津相手に、距離を保つようなローを入れていっていた植野だが、今回は圧力をかけるためにストライクしていく。そして、レスラー相手に臆することなく先に胴タックルを仕掛ける。受ける尾藤は簡単にそれをがぶるも、なかなか有利とまでいえる体勢に持ち込めない。そして、素早い動きの中で脚を払われ横になる。だが、すぐに立ち上がり首を捕らえていく。積極的にレスリングを仕掛け、スタンドの勝負を仕掛けていた植野だったが、ここは相手の土俵から下りて、引き込んでガードに取る。下になった時には脚関節を狙っていたととのことだが、尾藤はレスラーならではのバランスのよさで隙を与えず、スウィープも許さず上のポジションを取り続ける。ただ、脚を越える事はならず、極めを狙えるような有利なポジションを奪うまでには行かない。両者細かい動きはあるものの、大きな展開は見せずにそのまま1R終了のゴングを聞く。


インターバルにピースサインを見せる植野

尾藤の首投げ 1Rの攻防で、警戒していた尾藤のレスリングを 「思ったより大丈夫だった」 と感じた植野は、2Rに入るや、捕らえられ易く使う事を敬遠されるミドルキックをも頻繁に混ぜながら、先にも増してどんどん打撃のスタンド勝負を仕掛けていく。だが、この展開で押されぎみになる尾藤にも、レスラーとしての意地とプライドがある。正面から首を捕まえる事に成功すると、がっちりとホールドしていき、やや強引な感じで首投げを仕掛け、ぶん投げていく。力強く、きれいに決まった投げだったが、グラウンドではすぐさま植野のガードに捕らえられる。先述したように、バランスは素晴らしい。だが、どうしても脚を越える事がままならない。再び前のラウンドと同じような展開になりながらも、なんとかインサイド・ガードから極めに行こうとする。


フィニッシュの腕十字 の時、植野は脚関節を狙えるチャンスを窺っていた。腰高にならないか、バランスを崩さないか。下になりながらいたずらに過ぎていく時間に焦ることなく、冷静に時機を窺っていた。そして、残り時間30秒を切ろうというその時、それは訪れた。優位な体勢を取ってるとはいえ、やはり一本勝ちの欲しい尾藤がガードに捕らえられながらも、強引に V1アームロックを狙ってきたその瞬間を植野は逃さなかった。隙の出来た左腕を捕らえるや、正に 「一瞬の動き」 で 腕十字にキャッチ。待ちに待ちを重ねた末の、この一発勝負はがっちりと決まり、尾藤はやむなくタップ・アウト。


記念撮影 合後、植野のもとへ行き 「鮮やかな一本勝ちでしたね」 と語り掛けると、今度は 100% の納得をしたものだけが見せる笑顔で、再び彼はこう言った。 「僕はシュートレスラーですから」 。

(眞砂嘉明)
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取材:眞砂嘉明 カメラ:井原芳徳
HTML編集:井原芳徳